第42話 朝食
ジュエルシードの力で、一時的に実体霊として現れたアリシア。
プレシアさんやフェイト達と話すことが出来たけど、それは短い時間だった。
また、僕は何も出来なかったんだよね……。
プレシアさんとフェイトは未だに抱き合って泣いてるし、リニスはその側で2人を見て泣いている。
どうも、僕とアルフが場違いな感じかな?
そんな空気に耐えられず、アルフが僕の方を向き心配そうな顔をする。
「タロー、凄く眠そうだけど大丈夫かい?」
「結局昨日から寝てないから……」
そう言えば前日は夜遅くまでリニスとの話し合いに、家族会議。
今日は学校行って、昼休みにアリサとのトラブルがあって、放課後にジュエルシード探索で2つゲット。
夜にはなのはとフェイトの戦いに混ざりジュエルシードをさらに1つ封印。
そのままフェイトの家で御飯作って、時の庭園でこの時間まで寝てない。
あれ、体が随分と酷使されてるぞ……。
眠いけどプレシアさんとリニスがフェイトに色々説明しているから我慢しよう。
アリシアのことからフェイトが産まれた経緯。
本当に隠し事なく全てを語る。
その間フェイトは黙って聞いていおり、アルフは僕の腕を掴んで怒りを我慢している。
いや、結構痛いんだけど……逆にこれが眠気覚ましかな?
話が終わると、フェイトは僕の方を向く。
「タローの前でしっかりと話しをしたい。タローも聞いてくれる?」
「当然だろ」
「ありがとう……。タローに出会ってから色々あったから。二度と会えないと思ったリニスにも会えたし、母さんも笑ってくれたから……」
「フェイト……」
「母さんが、私を見る度に一瞬悲しそうな顔をしていたのを、ずっとなんでだろうって思ってた。その理由も分かったから……」
その言葉に口を挟もうとするリニスをプレシアが止める。
ちゃんとフェイトの口から聞きたいんだろうな。
「私は普通の人間じゃない、アリシアのクローンで代用品だって。すごいショックだったけど、それも全部受け入れる」
「フェイトはフェイトだろ。僕はフェイトだから友達になったんだよ」
「タロー……」
「まぁ、クローンだろうが幽霊だろうが、デバイスだろうが差別はしないよ。ちゃんと自分の意志を持ってるなら、それは個人さ」
「タロー……。アンタらしいな」
「そう言うアルフだって僕の友達だろ。当然バルディッシュもね」
『Thank you. My best friend.』
その言葉を聞いてか、フェイトがプレシアさんに正面から向きあう。
少しの沈黙の後、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私は、タローの友達でアリシアの妹……」
みんなが無言で頷く。
「私、フェイト・テスタロッサは、貴女に生み出して貰って育てて貰った。……貴女の、娘です!」
その答えを聞き、プレシアさんはゆっくりと頷く。
「……そうよ、そうなのよ。貴女は私の娘なの。もう二度と手放さないわ!」
また抱きあう2人に、涙するリニス。
アルフはまだ複雑そうな顔をしている。
でも、フェイトから嬉しい感情が流れてくるようで、その後は素直に喜んでいる。
僕の腕を掴む力も随分と弱くなったしね。
痛みがないとどんどん眠気が来るな……。
そんな僕を見てアルフは苦笑いしている。
「まだフェイト達はあのままだから、疲れているなら今のうちに寝ちゃったらどうだい?」
「んー、そうだね。それじゃその辺で寝てるね」
そう言って部屋の端っこ、壁に寄りかかってそのまま寝る。
こんな時のためのユンケルだったんだけど、使っちゃったんだったな。
あー、睡魔が襲ってくる……。
「タロー? ちょっとそんなとこで寝るんじゃないよ! ……タロー?」
アルフの声が聞こえてるけど、おやすみなさい……。
う〜ん、何だかモフモフする布団だな〜。
この毛は気持ちがいい……毛?
目を開けて僕が寄りかかっているものを見ると、アルフが狼モードでソファーのようになっていた。
「おや、タロー。起きたんだね」
「アルフ?もしかしてずっとこうしていてくれたのかい」
「あ、え、まぁ、ねぇ。それより起きたならどいとくれよ。このままじゃ元に戻れないよ」
「あ、うん。ありがとね」
僕が離れると、アルフが人間モードに戻る。
乗られていて苦しかっただろうに……本当にありがたいなー。
(リニス。タローが起きたけど、支度は済んでるのかい?)
(あ、分かりました。もう食事は出来上がりますから、タローを連れて食堂に来てください)
(あいよ)
「タロー、食事が出来たって言うから食べに行かないかい?」
「うん。ちょうどお腹が空いていたから助かるよ」
アルフに連れられて食堂に移動する。
食堂に近づくといい匂いがしてくるよ。
それに合わせて「グー」と言う音がアルフの方から聞こえる。
「な、なんだい。腹が減ったんだから仕方がないじゃないか!」
「別に何も言ってないんだけど……」
「ふ、ふん。じゃあいいよ」
アルフは顔を赤くしながら早歩きで先に進む。
僕もしっかり付いて行かないとな。
扉を開くと大きな丸いテーブルがあり、そこに料理を置いているリニスがいた。
そして僕達の方を向き、笑顔で話しかけてくる。
「タロー、おはようございます。もうお昼を過ぎてますすけどね」
「リニスおはよう。フェイトやプレシアさんは?」
「え、えぇっと……」
僕の質問に口を濁すリニスに、顔をそらすアルフ。
上手く行かなかったのかな?
そんな事を思っていると、食堂の奥にある調理場の方から声が聞こえる。
「フェイト、これは出来上がったからテーブルに並べてくれる?」
「はい、母さん」
「え?」
リニスとアルフを見ると2人とも笑っている。
あぁ、逆に上手く行きすぎたのか。
「あ、タロー。起きたんだね。母さん、タローが起きたよー」
「分かったわ。これで料理が終わるから、座って待ってなさい」
「はーい。タロー、座って座って」
そう言うフェイトに席を勧められる。
僕は勧められた席に着くと、その横にフェイトが座る。
フェイトの横にはアルフが座り、その横にリニスが座る。
僕のもう片方の隣は空いているから、プレシアさんが座るのかな?
「はい、これで料理は完成よ」
そう言って料理を持ち食堂に入ってくるプレシアさん。
憑き物が落ちたように晴々とした笑顔だ。
テーブルに料理を置き、僕の隣に座る。
「みんな揃ったことだし、いただきましょう」
「「「「いただきます」」」」
プレシアさんの声にみんなで食事の挨拶をして食べ始める。
周りを見渡すと、アルフは食事に集中していてこっちなんて見ていない。
プレシアさんはフェイトが食べる様子をジーっと見ているし、フェイトはその視線に気がついて照れてしまいなかなか食べられない。
リニスはそんな2人を見て微笑んでいてた。
何このカオス?
とりあえず僕は栄養補給が優先とし、話もしないでどんどん食べる。
うん、美味しい料理と微妙な料理があるな。
美味しいのは昨日食べたりニスのお弁当風な感じがするから、多分リニスが作ったのだろう。
微妙な料理のお皿を突っつくときに、チラチラとプレシアさんから視線を感じるんので、多分微妙な料理はプレシアさんが作ってるんだろうな。
みんなが思い思い食事を済ませると、妙な沈黙が流れる。
視線で誰が喋るのかみんなが振ってる感じだよね。
とりあえず当たり障りない話から振っておこうかな。
「フェイト、プレシアさんの料理って初めて食べたんじゃない?」
「「直球だー!!」」
まさかの使い魔コンビがツッコミを入れてきた。
あれ、なにか間違ってたかな?
「う、うん。母さんはずっと忙しかったから……。で、でもアリシアの記憶の中では食べたことあるよ」
「フェイト……それ、フォローしてないよ」
「昔からこの子は天然でしたから……」
フェイトの言葉にさらにツッコミを入れる使い魔コンビ。
プレシアさんは……冷や汗かいてるな。
「ごめんなさいね……。でも、もう大丈夫。これからは頑張って作るわ。今日は久しぶりだったから、あまりうまく作れなかったけど、ちゃんと練習するから……ね」
「あぁ、だから焦げてたり、味が微妙だったんですね。まぁ、食べ物だから平気ですけど」
「「タロー!!」」
悲鳴のような声を上げる使い魔コンビに、半泣きのプレシアさん。
そして、それを見て意味がわからずオロオロするフェイト。
随分とプレシアさんのイメージが変わっちゃったな。
これが本当の姿なのかもしれないけどね……。