第46話 海上決戦
アースラで残り6個のジュエルシードを一気に確保する作戦が決定された。
まさに海上決戦と名付けても良い舞台。
……でも、僕は留守番なんだよな。
アースラブリッジで海上を映す画面を見ている。
画面外ではあるが、武装局員10人による広域結界が張られ、準備は万端だ。
フェイトが巨大な魔法陣を展開し、魔法の詠唱を始めた。
「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。いま導きのもと降りきたれ……」
ブリッジではエイミィさんから驚きの声が上がる。
「あの年で天候操作の儀式魔法を使えるなんて……」
「あら、掘り出し物の人材だったかしら?」
「「艦長!」」
「冗談よ、じょ・う・だ・ん♪」
リンディさんの言葉に、オペレーターのアレックスさんとランディさんからツッコミが入る。
ちなみに茶髪で眼鏡を書けている方がアレックスさんで、紫色の髪がランディさんね。
うっかり2人合わせて、アンディさんと呼んだら怒られたよ。
「……バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス」
おっと、そろそろフェイトの儀式魔法が終了する。
ここからが本番だ!
「サンダーフォール!」
『Thunder Fall.』
これにより雷が発生し、海が荒れる。
そして海から光が立ち上り、巨大な竜巻が6個現れる。
ジュエルシード6個の同時発動だ!
「行くよユーノ!」
「わかってる!」
「「チェーンバインド!!」」
ユーノとアルフの魔法により、竜巻が鎖で縛り付け拘束される。
最後はなのはの魔法で封印だけど、一気に行けるのかな?
「……周りにフェイトちゃんが撒いた魔力が充満している。これなら、ディバインバスターのバリエーションで……行くよレイジングハート!」
『All right, My master.』
ん?なのはが今までにない魔法を唱えている。
それにより、まるで流星のごとく周囲の魔力がなのはに集束していく。
「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け!閃光!」
ブリッジではリンディさんが艦長席から立ち上がって叫ぶ。
「普通の砲撃魔法ではなく、集束砲撃魔法!? あの年で、まさか……信じられないわ!」
集まった魔力を集積した魔力球。
それを一気に砲撃として撃ち抜く!
「スターライトブレイカー!」
『Starlight Breaker.』
ピンク色の極光が全てを包み込む……。
勿論こっちのモニターは光で真っ白だ。
「エイミィさん、状況は?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね。えっと、ジュエルシード反応ありません!封印成功です!」
そして歓声に沸くブリッジ。
画面が元に戻り海上を映しだすと、嵐が収まり静かな雰囲気が流れているね。
なのはの前にはジュエルシードが6個が浮いている。
「な、なのは?前に収束系の説明はしたけど、いつの間に……」
「うん、ユーノ君に教えてもらったから、レイジングハートと何となくやったら出来ちゃった」
『はい、マスターは感覚で魔法を組むので、私がフォローすれば問題ありません』
「…………」
(ねえ、フェイト。あれを撃たれたら、フェイトは全力で防御しても墜ちるんじゃない?)
(そうだね、アルフ。あれなら私のフォトンランサー・ファランクスシフトなんて可愛いものだよね)
(うん、あれと比べたら打ち上げ花火と線香花火だね)
(次に戦う機会があったらどうしよう……)
(あーゆーのとは戦わないに限るんだけど……。とりあえずプレシアやリニスに相談して、新しい魔法でも覚えるかい?)
(うん、そうするしかないね)
念話で物騒な会話というか、明らかに怯えているフェイトとアルフがいる。
確かにあれは危険過ぎる魔法だね。
周囲の魔力を使うんじゃ、戦闘終盤でお互いの魔力切れ状態でも撃てるってことだよな。
いや、むしろその方が攻撃力が上がる様な……。
とりあえずあれを僕のレーザービームで相殺出来るかやってみたいな。
突然、海上を映していた画面いっぱいに「EMERGENCY」の文字が出る。
「次元干渉……別空間から海上に!? 後6秒!」
そして、海上に巨大な落雷が起きる!
なのはとユーノ、そしてフェイトは直撃コースだが、落雷となのはの間にユーノが飛び込み……。
「サークルプロテクション!」
「ユーノ君!?」
「なのはだけでも……スフィアプロテクション!」
ユーノの魔法により上空に半球型のバリアができ、なのはには球状に覆う防御魔法がかかる。
そして落雷に飲み込まれた3人。
雷が落ち着くと、海に向かって落下していくフェイトと、それを追いかけ抱きしめるアルフ。
バリアを破られダメージを受けて動けなくなり、なのはに支えられているユーノが映る。
「エイミィさん、今の攻撃は!?」
「次元跳躍魔法です!推定魔法ランクS+!」
「あんな高度な攻撃魔法を一体誰が……」
唖然としているブリッジスタッフ。
メインスクリーンに目を向けると、先ほどまで浮いていたジュエルシードが映っていない。
まさか、さっきの次元跳躍魔法で持って行かれたのか?
「ユーノ君! ユーノ君!」
「フェイト、目を開けとくれよ!」
向こうからは悲鳴のような呼び声が聞こえる。
リンディさんは慌ててみんなに指示を出す。
「エイミィさん、強制転移で全員帰還させて!」
「は、はい!」
戻ってくるなら治療が出来る!
僕の頭の上に乗っているリニスに声をかける。
「リニス、頼む」
(お任せ下さい)
念話で返事をしてブリッジから急いでリニスは出て行く。
「ランディ君、至急医療班の準備を!」
「了解!」
「アレックス君、ジュエルシードは? あと、魔法の解析をお願い」
「はい。ジュエルシードは……あの攻撃で全て持って行かれました!」
「なんですって!?」
「そして魔力の固有パターンを解析、データベースと照合……出ました」
画面には1人の男の画像が出る。
その男は……。
「シーマ特別査察官……」
ブリッジスタッフが沈黙する。
シーマさんは一体何をしてるんだ!
ブリッジに飛び込んでくるクロノ。
「母さん!」
「落ち着きなさいクロノ!報告をお願い」
「はい。ユーノ・スクライア、フェイト・テスタロッサ両名が先ほどの次元跳躍魔法にて負傷。リニスという女性が現在治療にあたってくれています」
「リニス?」
「はい。タローの知り合いと言ってましたが……」
そう言い僕の方を見る。
それに対して頷いた僕を見ると、話の続きを始める。
「タロー、後でちゃんと聞くからな。かあ……艦長。海上のジュエルシードは持って行かれました」
「それはここでも確認できているわ」
「それだけでなく、このアースラにあったジュエルシード7個もありません」
「なんですって!?」
「そして……シーマ査察官が連れてきた武装局員20名もアースラにいません」
ブリッジスタッフの顔が驚きに包まれる。
その中でもリンディさんは指示を忘れない。
「全員艦内各種チェックを最優先、そしてクロノとエイミィさんはシーマ査察官の事を調べて」
「「「「はい」」」」
僕はそっとブリッジから出て、医務室へ向かう。
みんな大丈夫かな〜?
医務室ではリニスの治療によってフェイトとユーノは意識を取り戻していた。
「みんなお疲れ様。もう怪我は大丈夫?」
「うん、ユーノ君が守ってくれたから私は大丈夫なの」
「リニスが治療してくれたから平気」
「しっかし、誰だい! あんなコトするのは……」
「タロー、アースラには被害ないのかい?」
「うん、アースラは平気っぽい。直接攻撃は来てないから」
「直接はないってことは、間接的にはあったんだね」
「まぁ、詳しくはわからないけど、シーマさんがあの落雷を起こしたみたいで、シーマさんが連れてきた武装局員20名がアースラからいなくなってるってさ」
「「「「!?」」」」
「そして、ジュエルシードも全部ないみたいだよ」
みんな驚きの表情に変わる。
更に詳しいことを話そうかと思ったら、エイミィさんから医務室に連絡が入る。
「みんなもう大丈夫かな? 会議室で話があるから集まってね〜」
「はい」
みんなで顔を見合わせて会議室へ向かう。
今度はリニスも人型でね。
会議室には作戦前に集まったメンバーと、新しく1人の男性がいる。
確かアースラの捜査スタッフで、アースラに元々配備されている武装局員10名のまとめ役であるギャレットさんだ。
「皆さん集まりましたね。それでは報告をギャレット君お願い」
「はい! アースラ艦内各種チェックの結果、時空管理局への通信システムが全て破壊、また次元移動システムも異常をきたしています。これは内部からの破壊活動であったと推定されます。現在は武装局員を含めたアースラスタッフ総動員で修理にあたっています」
「酷いわね……。引き続き修理をお願いね」
ギャレットさんは頷き会議室から退室する。
結構修理が大変なようだ。
「クロノ、エイミィさん。シーマ査察官についてお願い」
「はい。シーマ・エルグランドは……」
彼は現在35歳で、役職は時空管理局特別査察官。
階級は一佐で、クロノと同じくAAA+クラスの魔導師。
アレクトロ社と言うエネルギー技術開発会社の外部顧問。
そして、10年前に離婚したプレシア・テスタロッサの元夫であった……。