第48話 突入!
シーマは時の庭園を完成させるつもりだ。
魔力炉で21個のジュエルシードが発動すれば止められなくなる。
それよりもプレシアさんを痛めつけ、引きずっているのが一番許せないね。
「さて、行ってくるね」
僕の言葉にみんなが呆気にとられる。
「リニスはお留守番ね。ちゃんと待っててよ」
(はい、タロー)
「よーし、行く前に充電だな」
(はい?)
返事をしっかりしてくれたので、リニスをいっぱい撫でる。
頭だけでなく全身くまなくタップリと。
(ちょ……あっ……たっ……タロー……)
「よーし、良い子だ。よしよし」
(だっ……ダメですってば……ちょ……ちょっと……)
うん、これでしばらくは魔力が持つだろう。
そんな事をしている僕の近くにフェイトとアルフが来る。
「私も母さんを助けに行く!」
決意を秘めた目で僕を見るフェイト。
「危険だよ。それでも良いのかい?」
一応警告しておいたけど、その程度では怯まないか。
「フェイトが行くところに、あたしが行かないとでも思ってるのかい?」
「私のことはタローが守ってくれる。だから私がタローを守らないと」
「そっか」
撫で過ぎてグッタリしているリニスを置いて、フェイトの頭を撫でる。
(も、もう……お嫁に行けません……)
そんなリニスの言葉が聞こえたけど、気にせず立ち上がって移動しようとすると声が掛かる。
「待って、待ってなの。私も行くの」
「僕も行くよ。大体タローは転送装置の使い方を知らないだろ」
「いいの?」
「私はフェイトちゃんと友達になりたいの。そのフェイトちゃんをバカにされたのは許せないの」
「なのはが前を向いていられるよう、僕が背中を守るから。だからどこでも一緒だよ」
「ユーノ君……」
「なのは……」
そんな会話から2人の世界作ってるし……。
まぁ、後悔しないならいいや。
「それじゃ僕達5人は、勝手に行動します」
そう言ってブリッジの扉に向かう。
「キミ達ちょっと待ってくれ。艦長……いや、母さん」
「何かしらクロノ?」
お互いに呼び合うが、それは上司と部下ではなく親子のやり取りに聞こえた。
「シーマ査察官が言った様に、この件は既に上層部の指示があっての行動なのかもしれない。だけど、民間協力者に対しての攻撃。そして、その家族からのロストロギア強奪……」
リンディさんは黙ってクロノの言葉を聞いている。
「そんな事は何があっても許せるはずがない! 僕は僕の正義に従って動きたい」
「クロノはどうするつもりなの?」
「僕も彼らと一緒に行って来る。そのためなら執務官の地位も、管理局としての立場も捨てます」
「……そこまで覚悟しているのね」
「はい。管理局も色々と綺麗事だけでやって行けないのは分かっているつもりです。ですが、自ら進んで悪には染まれない!」
クロノはそう言い僕たちの方へ向かって来る。
その背中にリンディさんは優しく声をかける。
「クロノ執務官。貴方はまだ前作戦で出した命令を終えていません。民間協力者のフォローをしっかりやり遂げなさい」
「母さん?」
「ホント、どこまでクライドに似て行くのかしらね……」
「クロノ君も男の子だねぇ」
「茶化すなエイミィ」
「全責任は私が取ります。好きな様にやりなさい」
その言葉にクロノは深く頷き、僕たちを追い抜きブリッジから出て行く。
慌てて後を追う僕たち。
「良いのかいクロノ? 僕たちは好きでやってるんだよ」
「うるさいな。ユーノはなのはのためにやってるだけだろ。僕は僕のためにやるのさ。大体、民間人を守るのが僕の仕事なんだよ」
ユーノの言葉に茶化しながら答えるクロノ。
何だか雰囲気が随分違うけど、そんなクロノは嫌じゃないな。
「そっか」
「そうだよ」
僕と顔を見合わせ、お互いにニヤリと笑う。
そしてアースラの通路を歩いて行く。
後ろから付いて来るなのはとフェイトが話を始める。
「フェイトちゃん、私と友だちになって欲しいの」
その言葉にフェイトは俯いてしまう。
「私、クローンで普通の人じゃないんだよ」
「そんな事関係ないの。フェイトちゃんがフェイトちゃんだから、私は友達になりたいの」
フェイトはなのはの顔を見ている。
それに対してなのはは照れ笑いを浮かべている。
「にゃはは。今は返事はいいの。でも、全部を終わらせたら返事をして欲しいの」
「……うん」
その2人を見ながらアルフとユーノが話をしている。
「ユーノのパートナーはいい子だねぇ〜」
「真っ直ぐなのがなのはの良い所なんだよ」
アルフとユーノは2人して笑ってるね。
これでチームワークは大丈夫かな?
そんな話をしながら転送ポートの扉の前に到着した。
そこにはギャレットさんを含む武装局員10名がいた。
「クロノ執務官、行くのですか?」
「あぁ」
「我々も連れて行ってください!……と言っても、魔導師ランクが高くてもB+の我々が付いて行けば逆に足手まといになる」
「ですから我々の魔力を持って行ってください!」
「これならば先ほどで消耗した分の足しになるはずです」
そう武装局員達がデバイスをなのは、フェイト、ユーノに向け魔法を唱える。
「「「「「「「「「「ディバイドエナジー」」」」」」」」」」
その魔法により、3人の体に魔力が溢れて行く。
自分たちの魔力全てを送り、膝をつく武装局員達。
「後は頼みます」
「任せておけ。これでも僕はアースラの切り札さ」
「そうでした。ご武運を」
武装局員達は魔力切れで疲弊しているはずなのに、無理に立ち上がり敬礼をする。
そしてクロノを……僕達を送り出してくれる。
「行くぞ……転送!」
僕達6人は光に包まれ、時の庭園に転移する。
「ここからこんなに居るのか……」
時の庭園には既に多数の傀儡兵が待ち構えていた。
数に動揺するみんな。
そうすると、シーマの声がどこからか届く。
「クロノ執務官……あなたはもう少し賢いかと思っていましたよ」
「シーマ査察官か……。僕は僕でありたい。だからこんなことは止めさせてもらう」
「管理局に歯向かうとは愚かな事を……。まぁ、死んでも素材にして上げますから、クローンとなって管理局に奉仕なさい」
そして声は途切れる。
それが合図になったのか、傀儡兵がこちらに迫ってきた。
「いっぱいいるねぇ」
「さすがにこの量は……」
アルフとユーノがどうすれば良いか考え始める。
クロノが一歩前に出る。
「ここで疲弊してもつまらない。僕が数を減らす」
「いや、クロノ待って」
「タロー?」
前に出たクロノを押し留め、僕はバックを下に置き、ボールを取り出す。
そして、自分にかけている負荷を解除する。
周りの空気がそれに伴い荒れ始める。
「みんな、離れていて。僕が道を切り拓くから」
その言葉に慌ててユーノがみんなの前に立ち魔法を唱える。
「サークルプロテクション」
「ありがとユーノ。じゃあ、全力で行くよ」
「ちょっと、どういうことだ!?」
訳が分かっていないクロノを置いておき、僕はボールを強く握る。
そして若干の助走をつけ……一気にボールを投げる。
「光速送球(レーザービーム)!」
全力で投げたボールは周囲にいる傀儡兵をなぎ倒し、破壊し、蹂躙していく。
奥にあった扉や壁までも破壊しボールはどこまでも飛んで行く……。
そして時の庭園そのものが揺れた。
「え、あ……何だ今のは……?」
呆然としているクロノと、呆れている4人。
「相変わらずタローには常識が通用しないねぇ」
「僕の張ったプロテクションも、今の衝撃波を防いだだけで壊れちゃったよ」
「はやく母さんを助けに行かないと!」
「うん、それと魔力炉にあるジュエルシードの封印もするの!」
「いや……キミ達は今のを疑問に思わないのかい?」
「「「「だって、タローだよ」」」」
あれ、凄い酷いこと言われている気がするんだけど……。
しかもその言葉にクロノはこめかみを抑えて首を振っている。
「魔導師ではないし、当然リンカーコアもない。タロー、キミは一体何者なんだい?」
「僕は……」
「「「「野球選手さ!」」」」
「あー、僕のセリフ!!」
みんな思い切り笑ってる。
酷いや。
でも、緊張は無いみたいだね。
クロノ一人だけが呆れているけど、首を左右に振り前を向く。
「うん、その辺は後でゆっくり聞くとするか……。今は先に進もう」
その言葉にみんなが頷き奥に進んで行く。
進んで行くと、倒したはずの傀儡兵が床から湧いてくる。
「これが時の庭園の怖さだよ。魔力がある限り永遠に傀儡兵が作られるんだ」
「これじゃキリがないの」
「とりあえず奥に行かないと駄目だな。残りは僕がなぎ払うよ」
クロノはそう言ってデバイスを構える。
「スティンガースナイプ!」
『Stinger Snipe』
魔力光弾をコントロール、一発の射撃で複数の傀儡兵を殲滅していく。
執務官は伊達じゃないね。
「さ、先に進もう。いつまでも湧いてくるなら前に進むしかない!」
クロノの言葉にみんなが頷き先へ走り出す。