第50話 対決
プレシアさんを連れているシーマと、その部下である武装局員5名。
対するコッチは僕とフェイトの2人。
やっと直接会えたな。
「母さんを返せ!」
フェイトの悲鳴のような声が廊下に響く。
「クローンごときの言うことを聞くとでも思ったのか? それに、何だその格好は……」
フェイトは自分の置かれている状態を見る。
ボロボロのバリアジャケットの隙間から見える素肌。
僕にお姫様抱っこをされている上に、両手を僕の首に回してしっかりとしがみついている。
「……きゅう〜」
あ、オーバーヒートした。
『バリアジャケット再構成』
バルディッシュの声でボロボロのバリアジャケットは元の形に戻る。
さすがはバルディッシュ、気が利くね。
とりあえずそっとフェイトを床に降ろし、揺すって呼びかける。
「フェイトー、折角プレシアさんを助ける場面なんだから目を開けろー」
それによりなんとか目を開けるフェイト。
周りをキョロキョロしているけど、そんな暇はない。
またもや抱きかかえて、シーマ達の放つ砲撃を回避する。
「え、あ、キャー」
「口を閉じてないと舌を噛むぞ」
そう言って四方八方に飛び回り、魔法を避けきる。
砲撃が落ち着いたのでフェイトを下に降ろすが、涙目で、顔を真っ赤にし、口を抑えている。
あ、舌噛んだんだ……。
「貴様、今の攻撃を避けるとは……。まぁいい。これを見れば動けまい」
そう言い、プレシアさんにデバイスを向けるシーマ。
それを見て怒りの表情に変わるフェイト。
さすがに僕も怒るよー。
「非殺傷でプレシアを攻撃されたくなかったら動くなよ」
「母さんを離せ!」
「クローン、貴様には聞いてない!」
三流の悪役のやることだけど、人質は何にしても有効だよね。
それが無くなったらどうする気なんだろ。
まずは全力で救出させてもらおう。
まずは相手を観察する。
そして相手の呼吸に合わせる。
一瞬の隙を見逃さない!
「絶対盗塁(アブソリュートスチール)!」
シーマと武装局員5名が同時に瞬きをした瞬間を逃さず、一瞬で移動し、プレシアさんを抱きかかえて元の場所に戻る。
これでプレシアさんの安全は確保されたね。
そっとフェイトの隣にプレシアさんを降ろす。
そこで初めてシーマ達は、自分の手元にプレシアさんがいないことに気が付いた。
「なっ……いつの間に……」
「今だよフェイト」
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト」
フェイトは僕の移動にはついてこれないけど、戻ってきた僕を見て冷静に魔法詠唱を始めていた。
それにより42基のフォトンスフィアがフェイトの周りに現れる。
「これが私の残りの魔力全てを使った全力全開! 撃ち砕け、ファイアー!」
『Photon Lancer Phalanx Shift!』
毎秒7発の斉射を5秒継続し、合計1470発のフォトンランサーを発射させる。
この廊下の広さでは回避しきれないし、シールド魔法の上からでも撃ち抜く!
シーマと武装局員5名は為す術もなくやられていく……。
そして出現させた42基の魔力球を、1つにまとめて巨大な剣のように変化させ……。
「スパーク……セイバー!」
その魔力で出来た巨大な剣を持ち、前に踏み込んで横に薙ぎ払い、シーマ達のいる場所で大爆発を起こす。
しかし、手にはまだ魔力の剣が残っている。
それを今度は上から縦に叩きつけ、さらに大爆発を起こす。
最後は後ろに腕を引き、突きの形で魔力を撃ち出し、とどめとばかりに大爆発を起こす。
「はぁはぁはぁ……」
爆煙が晴れ、シーマと武装局員5名が魔力ダメージによるノックダウンで身動きひとつ取れない状態なのを確認し、フェイトは魔力の剣を消す。
しかし、消耗が激しく床に座り込んでしまう。
よく見れば剣を持っていた腕は焼け、腕の部分のバリアジャケットは完全に破損している。
自分の魔力を集めて作ったとはいえ、巨大過ぎる魔力をずっと持っているのは負担が大きいんだね。
「ごめん、タロー。後をお願い……」
そう言うとフェイトのバリアジャケットも解除されてしまう。
完全に魔力切れなんだろうな。
「ん、うぅ〜ん」
さすがにこの大爆発が起きれば、気絶しているプレシアさんも目が覚めるよね。
フェイトも這うようにプレシアさんの側に寄る。
「母さん……無事ですか?」
「フェイト……。あぁ、こんなにボロボロになって……」
「プレシアさんを助けるために、必死にフェイトは頑張ったんですよ」
僕のその言葉にプレシアさんはフェイトを見る。
既にバリアジャケットが維持が出来なくなり普通の服になっていて、両腕は熱傷を負っている。
疲労と魔力切れのため顔色も悪く、それでもプレシアさんを心配させないように笑顔でいる。
「フェイト!」
「母さん……」
プレシアさんはフェイトを抱きしめ、フェイトもまたプレシアさんに抱きつく。
母娘のちゃんとした再開ができて良かった。
今はそっとしておいてあげたいな。
僕はシーマ達の傍に行き、デバイスをまとめて取り上げ、後は全員引きずって集めておく。
ジュエルシードはデバイスの中かな?
デバイスの宝石を良く見ると、ジュエルシードが入っているのが分かるな。
6人居て、デバイスが6本だから、ジュエルシードも6個か。
デバイスの宝石部分に指を入れて、無理やりジュエルシードを取り出す。
6個取り出したから、全部ポケットに入れておけば良いかな?
しばらくそんな事をして時間を潰していたら、やっとプレシアさんとフェイトが離れた。
そして僕の方を向き、プレシアさんがお礼を言ってくる。
「タロー……ありがとう」
「僕はいつもどおり、出来ることをやっただけです。プレシアさんを助けたのはフェイトですよ」
「えぇ。それでもお礼を言わせて頂戴」
「はい。でも、まだ解決していないので、ちょっとだけそれは待ってください」
そう言って今の状況を説明する。
プレシアさんからは僕達のいない間に起きた、シーマ達の行動を聞く。
まずは武装局員20名が時の庭園にやってきた。
一方的にジュエルシードとプロジェクトFの資料の提出を求める。
当然プレシアさんは突っぱねたため、武装局員20名と戦闘が始まってしまう。
所詮は高くても魔力ランクB+程度の武装局員では、条件付きとはいえSSのプレシアさんに敵うはずもない。
しかし、シーマがアリシアの遺体を盾にしながら現れる。
さすがに攻撃ができなくなったプレシアさんは捕獲されてしまう。
そしてジュエルシードと資料を奪われ、目の前でフェイト達に次元跳躍魔法を浴びせるのを見せつけられる。
あとは殴られたり蹴られたりして気絶させられてしまった。
その後、助けられるまでは覚えてないと。
「アリシアはどこに持って行かれたの?」
「多分魔力炉の方だと思うけど……」
僕の言葉に考えこむプレシアさん。
ちゃんと供養してあげないといけないから、遺体は必要だよね。
「じゃあ、取り返さないとね」
「え!?」
「シーマ達は何かで縛っておけば良いかな?」
「タロー……ありがとう」
「気にしない気にしない。プレシアさんは大丈夫なの?」
「えぇ、大丈夫よ」
そして近くにおいてあるバルディッシュを掴む。
「フェイト借りるわよ。バルディッシュも良いわね」
「え、あ、はい」
『Yes.』
そうするとプレシアさんがバルディッシュを構え、魔力を集中させる。
「バルディッシュを仮契約にて起動。闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧……バルディッシュ、セットアップ!」
『set up.』
「バリアジャケット構成」
『barrier jacket.』
プレシアさんの服がバリアジャケットに変わる。
その姿は、初期のフェイトの格好だが、色は黒ではなく紫で、腰の部分にスカートはない。
そして指先から肘までを覆う金属の籠手、足首から膝まで覆う金属のブーツが装備される。
あぁ……フェイトのバリアジャケットって、やっぱりプレシアさんがデザインしたんだ……。