第51話 逆襲
魔力切れのフェイトの代わりに、プレシアさんがバルディッシュを使いバリアジャケットを装備する。
その姿を見て、母娘だなーとノンビリと思う。
「タロー、フェイトをお願いね」
「はい」
プレシアさんに言われたので、返事をしてフェイトを抱きかかえる。
それを見てプレシアさんは床をバルディッシュで叩く。
そうすると巨大な魔方陣が現れ、魔力炉で戦っているなのは達が映る。
「この武装局員は邪魔ね。少し減らしておいてあげる」
「「え?」」
僕達の反応を楽しむかのように見ながら、魔法を唱え始める。
「バルディッシュ、力を貸しなさい。サンダーレイジO.D.J!」
『Thunder Rage Occurs of DimensionJumped.』
魔方陣に映っている武装局員に向かって、空間……いや、次元を超えた落雷が襲い掛かる!?
その落雷は半数以上の武装局員に当たり、当たった武装局員は落ちていく。
「次元跳躍攻撃……」
フェイトが無意識に呟く。
これってシーマが儀式魔法として使ったものだよね。
プレシアさんは1人でこれ使えるんだ……。
「やっとタローを驚かすことが出来たわ。さ、急いで行きましょ」
笑顔で僕達にそう言うと、螺旋階段の真ん中から飛び降りる。
僕も慌てて追いかけ飛び降りる。
僕が行くまでにプレシアさんは魔法を唱え終えていた。
「エクスディフェンダー! バルディッシュ、サンダーレイジ」
『Thunder Rage.』
1つ目の魔法でプレシアさんの周りに防壁が現れる。
そして、2つ目の魔法で周りにいる傀儡兵を雷光で拘束し、拘束した傀儡兵に雷撃の一斉攻撃を行う。
大量の傀儡兵が一気に破壊されて行く。
……もしかしてプレシアさんって強すぎなんじゃないかな?
そのまま周りを魔法で薙ぎ払いながら、どんどんと下に降りて行く。
僕も少し足場を蹴ってスピードを上げて付いて行く。
フェイトはそのスピードが怖いのか、しっかりと僕にしがみついているんだけど、プレシアさんが魔法を使う度にそれをしっかりと見つめている。
まるでプレシアさんの魔法を全て覚えようとしているかのごとく……。
距離のある傀儡兵は攻撃魔法で落とされ、接近して攻撃してくる傀儡兵は、プレシアさんがあらかじめ張ったエクスディフェンダーで防壁に阻まれ、しかもその防壁の反撃を受けて落とされる。
さすがは魔導師ランクが条件付きとは言えSSだね。
「フェイト、魔導師ランクSSってどれぐらいなの?」
「え、あっ、うん。私が魔導師ランクAAAだから……」
「それだけで十分強いのは分かった」
「そ、そう? 私、説明下手でごめんね……。一応なんだけど、一般的な局員がBランクって聞きました」
「あぁ、フェイトも既に規格外な強さで、しかもその上ってことは理解できた」
さらに傀儡兵がA〜AAって言ってたから、既に相手にならないよね。
そんな話をしながら自由落下していると、倒しても湧き出ていた傀儡兵が湧かなくなって来た。
「あら、あちらは終わったようね」
「あぁ、そう言えばクロノ達が向こうを封印すれば湧かなくなるのか」
「それなら、全部終わらせてしまいましょ」
「母さん?」
「見ていなさいフェイト。これがサンダーレイジの進化型よ」
そう言い、プレシアさんは魔法詠唱に入る。
「母さん……はい!」
「サンダーブレイド」
『Thunder Blade.』
プレシアさんから雷の剣を多数発射される。
それが傀儡兵に刺さり、放電を始める。
それだけで弱い傀儡兵は破壊されて行く。
「ブレイク!」
その言葉で雷の剣が爆発する。
1目で耐えていた傀儡兵はその爆発で全て破壊された。
サンダーレイジは拘束してから雷撃の2段階の発動だけど、これは1段目から攻撃力がある上に、それを耐えても追撃もすると……。
「すごい……」
今の攻撃で周りにいるすべての傀儡兵が倒された。
それを見てフェイトは驚いている。
プレシアさんはフェイトを見て一生懸命クールな表情を装っているが、口の端とか笑っているし……。
多分、フェイトに良い所を見せられて嬉しいんだろうな。
そうこうしていると、最下層に到着する。
その後はプレシアさんの案内で魔力炉へ向かう。
魔力炉へ辿り着くと武装局員が全員気絶している。
そして封印処理を済ませたジュエルシードをなのはとユーノが持ち、クロノが円柱状の容器に上着をかけている。
「あ、タロー。そっちは終わったのかい?」
「うん、シーマもフェイトが倒して気絶しているよ。まぁ、フェイトは魔力切れで動けないけどね」
僕が抱えている腕の中で、フェイトは顔を真っ赤にしてすまなそうにしている。
それを見てアルフが駆け寄って来る。
「さすがはあたしのご主人様だ!」
「そうね、私の……娘だもの」
2人の言葉を聞き、嬉しそうに微笑むフェイト。
「いい雰囲気な所、申し訳ない。このフェイトに似た子が入っているポットと、時の庭園を今後どうするかを話しておきたい」
申し訳なさそうにクロノが口を挟んでくる。
いくら魔力ダメージでノックダウンしていても、シーマ達が意識を取り戻してしまうかもしれないからね。
プレシアさんは少し悩み、そしてフェイトを見て決意する……。
全員でアースラに戻ってきた。
シーマ達は縛り上げて護送室に放り込んで隔離してある。
もう夜も遅いし、魔力切れや疲労もあるので部屋を用意してもらった。
大部屋でみんなで寝たんだけどね。
そして次の日、フェイト達は食堂にいるが、艦長室にリンディさんとクロノ、プレシアさんと僕がいる。
艦長室での話し合いで、時の庭園の封印が決まった。
どう封印するかは今後の課題になるが、プレシアさんは全てをリンディさんに託したようだ。
リンディさんも了承し、最善を尽くすと約束してくれた。
そしてアリシア・テスタロッサの葬儀を実施する。
もう眠らせてあげたいと言うことで、地球にお墓も作ると決めた。
何で地球にお墓と言うと……テスタロッサ家は地球に住むことが決まったからだ!
プレシアさんの違法研究はシーマによってやらされたものと言う事で、特に罪にはならない方向にするとリンディさんとクロノが話していた。
しかし、時の庭園がなくなればプレシアさんには住む場所がないので、地球に移住すると言う話になった。
管理外世界でならそこまで管理局に干渉されずに済むらしい。
ただ、管理外世界の戸籍などを手に入れると言う問題がある。
そこはリンディさんにより、誰かが管理局の嘱託魔導師になれば何とか出来るらしい。
後はテスタロッサ家の話し合いになりそうだ。
「これにて一件落着なのかな?」
話し合いが一段落したので、ふと僕が言葉を漏らす。
だって、この話し合いに僕がいる意味が無いような気がするんだもん。
「まぁ、タローは今後、プレシアさんが地球に住む手伝いをするんだから、知っておいて貰わないといけないだろ」
「それにタロー君には嘱託魔導師になるよう、フェイトさんを説得してもらわないとね〜」
その言葉に驚いているプレシアさん。
「嘱託魔導師は私がやるのでは駄目なの?」
「えぇ、プレシアさん。貴方の魔導師ランクは管理局には魅力的だわ。でも、アレクトロ社の大型魔力駆動炉の暴走事故があったでしょ。その件が引っかかっちゃうのよ」
「それではリンディ艦長は、分かってて嘱託魔導師の事を話したのね」
「あら、将来有望な魔導師に声をかけるのは、管理局職員の仕事でもあるんですもの」
プレシアさんとリンディさんの間で見えない火花が飛んでいる。
「あぁ、フェイトさんじゃ嘱託魔導師試験に受からないからダメなのかしら?」
「なんですって!」
フェイトのことを馬鹿にするような言葉をリンディさんが言うと、プレシアさんの口調が強くなる。
あ、このパターンって……。
「プレシアさんは、フェイトさんが嘱託魔導師試験に落ちちゃうから心配なんでしょ」
「そんな事あるわけ無いでしょ! 私のフェイトは優秀なのよ!」
「それなら受けてみたらどうかしら? 本当に優秀ならね〜」
「えぇ、イイわよ!」
そう言ってプレシアさんは艦長室から出ていってしまった。
あぁ、売り言葉に買い言葉。
プレシアさんの言葉を聞いた瞬間に、リンディさんがニヤリと笑ってるよ。
「はい言質っと。そういう訳でフェイトさんの説得よろしく〜」
「母さんやりすぎ……」
「あら、仕方がないでしょ。プレシアさんは魔力は強力でも、戦闘経験は圧倒的に少ないのよ。基本的に研究畑の人が入るよりは、フェイトさんが入ったほうが良いに決まってるじゃない」
「本音を言ったらどうですか? ここには僕とタローしかいませんよ」
クロノの言葉でため息をつくリンディさん。
「さすがにクロノには分かっちゃうか。前回と今回の事件のことで、もしかしたらプレシアさんが消される可能性もあるし、研究結果の提出を言われても嫌でしょ。それならその辺を何も知らないフェイトさんなら誤魔化せるわ」
「ちゃんとプレシアさんに言ったほうが良いですよ……」
「あら、薄々は分かってるでしょ。だからあんな見え見えの挑発に乗ったのよ。後はレティに話をつけて、私の下で出来るようにすれば完璧〜」
「「はぁ」」
思わずクロノとため息が重なっちゃったよ。
何だかこの人は読めないな。
良い人なんだろうけどさ……。
これはクロノが苦労するわけだ。