第52話 全力全開
時の庭園での戦いが終わり、残すは事後処理。
とりあえずだけど、全ては上手く行ったほうなのかな?
艦長室から出て行ったプレシアさんを追いかけて、クロノと僕は食堂にやってきたんだけど……。
「だから、なのはの方が強いんだよ」
「違う! フェイトのほうがもっと強い!」
……何これ?
ユーノとアルフが言い争ってるんだけど、意味がわからない。
とりあえずリニスの方を見ると、僕と目が合い寄ってくる。
「どうしたのこれ?」
「実はですね……」
まぁ、原因は嘱託魔導師試験のことをプレシアさんからフェイトに話があって、フェイトは優秀だから〜って言ってたのを、アルフがユーノに対してフェイトの方がなのはより優秀って言っちゃったと。
それに対してユーノが本気になり、お互いのパートナー自慢になって、やっとそれが落ち着いたので強さ比べの話に戻ってきたと。
「じゃあ、その当事者たちは?」
「えぇ……あちらです」
リニスの指差す方を見ると真っ赤になって俯いている2人がいた。
……あぁ、自分のことをお互いに自慢されてたから恥ずかしいのか。
「それなら対決してみよう!」
向こうでエイミィさんの大きな声が響いた。
要するに管理局側としても、2人の魔法戦能力のデータが欲しいそうだ。
あぁ、2人の了承も得ずにリンディさんに話をしてるよ。
しかもユーノとアルフはやる気満々だし……。
「タロー、何だか変な方向に行ったが、あの2人のデータは欲しい。ジュエルシードを管理局よりも先に収集していた人物が、優秀であったというのは書類的にもありがたいんだ」
「そっか、クロノが言うならそうなんだろうね」
「だからあの2人をやる気にさせておいて欲しい。僕はこれから戦闘が出来る場所の設定などをしてくる」
「はいはーい」
クロノはそう言うと食堂から出て行った。
仕方がないので真っ赤になって俯いている2人の側に行く。
「やあ、2人とも。ゆっくり休めたかい?」
「あ、タロー」
「タロー君なの」
僕の言葉に顔を上げて返事をしてくれる。
なんて言えば良いのかな?
「2人とも戦ったのは2回で、一応1勝1敗な訳だ。そこであの2人が言い争っている原因を取り除くためにも、模擬戦をやってみないかい?」
2人は顔を見合わせて、ユーノとアルフの方を見る。
僕はフェイトの耳元で囁く。
「フェイトがちゃんとなのはと戦うところが見たいな。プレシアさんやリニスも見てないんだからいいチャンスなんじゃない?」
そして今度はなのはの耳元で囁く。
「折角の前回の負けを取り戻すチャンスだよ。それに一緒に修行しているユーノに、今度は良い所を見せられるんじゃないかな?」
2人とも僕の囁きが効いたのか、やる気になったようだ。
「「うん、やる!」」
2人の返事によりエイミィさんが大喜び。
早速、説明とかをしようと、リンディさんやクロノに通信を繋いで色々話をしている。
それを見ていると服の裾を引っ張られる。
「タロー。私、今度も勝つから応援しててくれる?」
「うん、フェイト頑張ってね」
「うん!」
フェイトは笑顔で返事をして、プレシアさんの方に走って行く。
そこにアルフとリニスが集まり作戦会議みたいになっているな。
なのははとっくにユーノの方に行き、話し合いをしている。
ありゃ、今回は結構大変なことになりそうだ。
そんな訳で明日の早朝、海上にレイアー建造物を作り、さらに結界を張った巨大な空間。
そこで30分間の模擬戦をやることに決定された。
当然、なのは対フェイトの1対1の対決だ。
ユーノとアルフ、リニスは結界維持。
またもや僕は見学でアースラのブリッジへ。
今回はプレシアさんもブリッジで見学ですよ。
「レイアー建造物は非殺傷でも壊せるようになってるからね。避けるもよし、壊すもよしだよ」
「「はい」」
エイミィさんの説明を受けて返事をする2人。
「2人とも怪我には充分気を付けてね。残り3分だからバリアジャケットを装着して待機」
「「はい」」
リンディさんの言葉に返事をすると、2人はバリアジャケットを展開する。
「レイジングハート!」
『stand by ready.』
「バルディッシュ!」
『Get set.』
それを確認し、リンディさんが時計に目をやる。
「時間よ。レディ……ゴー!!」
その声と同時にフェイトは消えるように真っ直ぐ、正面からなのはに斬りかかる。
なのはは殆ど反応できないが、レイジングハートだけ前に出せた。
しかし、それごと切り裂き、攻撃に硬直したなのはに対し魔力弾を叩きこむ。
開始3秒の出来事だ……。
「たった2で決着……。モニター越しの僕ですら動きを見失ったぞ」
クロノ達が呆気にとられている。
だけどフェイトは構えを解かない。
むしろ魔法詠唱を始めている。
「!? フェイト! 既に決着は着いてるぞ。ユーノ、なのはの救出を!」
「クロノ。状況を見ずに勝手に終わらせちゃ困る。なのははまだ立っている」
クロノの言葉に対しユーノは冷静に答える。
破壊されたレイアー建造物の煙の中、なのははしっかり立ってフェイトを見つめている。
「レイジングハート、壊されちゃってごめんね。でも、まだやれるよね」
『Recovery.』
なのはの言葉にレイジングハート返事をする。
そして元の形に直り、バリアジャケットも修復する。
『Condition green.』
なのははその言葉に頷き、フェイトにレイジングハートを向ける。
「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。いま導きのもと降りきたれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス」
しかし、フェイトの詠唱は終わっている。
「サンダーフォール!」
『Thunder Fall.』
結界内だが天候が変わり、雷を伴った雨雲が発生する。
なのはも防御魔法の詠唱に入っているが、落雷がなのはに襲いかかる。
「ライトニングプロテクション!」
『Lightning Protection.』
間に合ったなのはの対電撃系防御魔法により落雷は全て防がれ、なのははダメージが無い。
そしてなのはも空に上がる。
お互いにシューターを飛ばしながらの空戦に入った。
「な、なんなんだ!? なのははあれで戦闘不能にもならず、しかも次は防御魔法が間に合いノーダメージって……」
「あら、ウチのフェイトのサンダーフォールは攻撃目的だけじゃないわよ」
「雨雲……まさか!」
「そうよ。雷を使うフェイトにとって、戦いやすいフィールドを作り上げただけ。少し発動までに時間がかかりすぎだけど……」
クロノとプレシアさんが説明してくれるから、僕は見ているだけで良いんだよね〜。
空戦ではフェイトの高速移動になのははクリーンヒット出来ないが、フェイトの攻撃もほとんどなのはが避け、当たってもシールドで防がれる。
フェイトは少し焦ったのか、高速移動でなのはの背後に回りこみ、バルディッシュで斬りかかる。
しかし、それに気が付いていたなのはは、振り向きざまにシールド魔法で防ぐ。
「ホールディングシールド!」
バルディッシュはなのはのシールドに刃先が噛まれ、フェイトの動きが止まる。
その隙をなのはは見逃さない!
「ショートバスター!」
なのはから放たれる砲撃をフェイトは回避できず、直撃して海に落とされる。
なのははさらにそこに砲撃を打ち込んでいく。
「ディバインバスター!」
『Divine Buster.』
水飛沫が舞い、建造物は破壊されて行く。
しかしフェイトは水中のまま移動し、砲撃範囲から既に逃れている。
水中から出たフェイトは空を舞い、なのはと空戦の続きを始める。
「ディバインシューター」
『Divine Shooter.』
「フォトンランサー」
『Photon Lancer.』
お互いに弾幕を張り、移動しながら撃ち合う。
それにより水飛沫が舞い、建造物が破壊されて行く。
長く続く空戦……。
「魔力残量、なのはちゃんが15%を切りました。対してフェイトちゃんはまだ40%以上残っています」
エイミィさんの報告で、なのはの魔力切れによる戦闘終了が想像された。
フェイトは最初に雨雲を作っていただけあって、魔力消費が少ない。
だけど、なのはにはまだアレがあるんだよね。
「そろそろフェイトが仕掛けるわ」
プレシアさんの言葉で画面に目を向けると、フェイトがなのはの上空を取り、見たことのある魔法を唱えている。
「フォトンランサー・ジェノサイドシフト!」
広域にバラ撒かれる攻撃魔法。
なのはは必死に避けようとするが、さすがにこの弾幕の壁は無理だ。
だが、1ヶ所だけ弾幕が薄い場所があり、そこになのはは飛んで逃げて行く。
まるで誘導されるように……。
なのはが弾幕を抜けきったと思った瞬間、バインドにかかり動きが封じ込められる!
「ディレイドバインド!? あらかじめ逃げ道を作って用意していたのか!」
「そしてフェイトの攻撃よ。あの子は耐えられるのかしら?」
なのはは無理やりバインドを剥がす。
ライトニングバインドと違って外すのにダメージはない。
無理やり引きちぎっているが、その間にフェイトの魔法が完成する。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト」
それにより42基のフォトンスフィアがフェイトの周りに現れる。
なのはは何とかバインドから抜け出し、その場でレイジングハートをフェイトに向け魔法を唱える。
「撃ち砕け、ファイアー!」
『Photon Lancer Phalanx Shift!』
「ディバインバスター・フルバースト!」
『Divine Buster Full Burst.』
2人の放った魔力と衝撃が衝突し、空中で激しい爆発を起こす。
海面に叩き付けられた魔力が海水を打ち上げ、雨のように降り注ぐ。
フェイトは撃ち終えた42基の魔力球を、1つにまとめて巨大な剣のように変化させる。
「スパーク・セイバー!」
溢れ出る魔力に腕を焼かれて行くが、そんな事を気にせず一直線になのはに向かって飛んで行く。
「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け!閃光!」
それを分かっていたのか、なのはは既に周りに残っている魔力を全て収束していた。
収束された魔力は直径10mを超えるものになっている。
それは桜色の魔力光だけではなく、金色の魔力光も混ざり、綺麗に輝く!
「受けてみて! ディバインバスターのバリエーションを。これが私の全力全開!」
なのはは集積した魔力球を一気に砲撃として撃ち抜く!
「スターライトブレイカー!」
『Starlight Breaker.』
フェイトは一歩も引かずに魔力の大剣で、魔力球から撃ち出され始めの極光に踏み込んで行き、横に薙ぎ払い大爆発を起こす。
しかしその程度では極光は消えない。
フェイトはあきらめず前に踏み込み、今度は上から縦に叩きつけて大爆発を起こす。
最後は後ろに腕を引き、突きの形で魔力の大剣を持ち極光に突撃して行く!
ぶつかり合う魔力。
桜色の極光と金色の極光がぶつかり合い、大爆発を起こす。
アースラの画面は全て砂嵐になってしまった。
「エイミィ!」
「大丈夫、予備のカメラに切り替えるから」
画面が海上を映しだすと、レイアー建造物は全て破壊され何も残っていない。
2人を画面で探すが、直ぐには見当たらない。
そうすると、水中からなのはを抱きかかえたユーノ、フェイトを抱きかかえたアルフが現れる。
ホっと息を吐くブリッジにいるメンバー。
「2人とも相打ちによる引き分けです。アースラに戻って治療しますよ」
「にゃはははは……」
「ふみゅ〜」
力ない返事を2人がして、リニスが結界を解除してアースラにみんなで戻ってくる。
戦闘時間28分30秒。
両者ノックアウトによる引き分け。
お互いの魔力残量は1%を切っていた……。