第53話 名前を呼んで
なのはとフェイトの全力全開による最終決戦。
結果は引き分けに終わったけど、ものすごい戦いだった。
なんせ僕は一言も喋ってないんだからね。
これって、どうなのよ?
アースラの食堂にみんなが集まった。
なのはの治療はユーノ、フェイトの治療はリニスがやっている。
「はい、2人ともご苦労様〜。すごい戦いだったけど、あまり無茶なことはしちゃ駄目よ〜」
「とりあえず2人とも魔力が空っぽなんだから、しばらく飛んだり魔法使ったりしちゃ駄目だよ〜」
「なのはの戦い方はめちゃくちゃだ! フェイトは最後以外は普通だったが、最後の突撃は何だ!」
リンディさん達が口を開き、エイミィさんが注意し、クロノが怒る。
なんともバランスのいい人達だ。
「とりあえずゆっくりご飯でも食べて休んでね」
「今日の午後には、なのはちゃんは帰るんだからね」
「後で戦技教育……教導資料とか用意しておくから、しっかり学ぶんだな」
そして食堂から出ていく3人。
「リニス、アルフ、ユーノ。朝食を貰いに行くから付き合って」
「はい、プレシア」
「わかったよ」
「はい」
そう言って離れる4人。
残されたのはなのはとフェイト。
みんながいなくなるのを待って、フェイトは躊躇いながら口を開く。
「君が言ってくれた友達になりたいって言葉。友達って良く分からないんだ。私にはタローしか友達がいないから……」
「うん」
「でも、君とはもっと話をしたい。例えクローンの私でも……今日まで色々あったんだ」
「うん、うん」
「タローは自然に友達になっていた。だから逆に友達って、どうやってなれば良いか分からない……」
「……簡単だよ」
「え?」
「友達になるの、すごく簡単……名前を呼んで?
初めはそれだけで良いの。
君とかアナタとか、そういうのじゃなくて……。
ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの。
私、高町なのは。なのはだよ」
「……なのは」
「うん、そう」
「なのは!」
「……うんっ!」
「ありがとう、なのは……」
「うん……」
2人は泣きながら抱きあう。
「悲しいことがたくさんあって、それを全て吹き飛ばしてくれた人がいた」
「私も、私と一緒に歩んで支えてくれる人に会えたの」
「そして私に友達になって欲しいって……。そう言ってくれる、なのはと出会えて良かった」
「私も……私もだよフェイトちゃん」
さて、僕も去ろうかな。
しばらく2人で色々話せば良い。
食堂の端っこに行くと、プレシアさん達がご飯を用意して待っていた。
「タロー。2人は平気かい?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
そう聞くとユーノはホっとした表情になる。
みんなと食事を始め、しばらくすると手を繋いだなのはとフェイトがやってきた。
「お腹すいちゃったー」
「私もペコペコ」
2人を混ぜて食事を続ける。
そしてプレシアさんとリニスに対して、お互いの自己紹介とかをした。
フェイト自身が地球に住みたいので、嘱託魔導師の資格を取ることを決意したりと、有意義な朝食だった。
午後になるとなのは、ユーノ、僕には帰宅の許可が出た。
なのはの家にはリンディさんが行き、魔法のこと、今回の事件のことを話してくれるそうだ。
なのはもみんなに話す覚悟をしっかりと決めている。
これが終わればアリサとすずかにも話をするって言ってたな。
僕の方は特に誰が必要ってわけではないんだけど、クロノが付き添いを申し出てくれた。
後は僕と一緒に戻るのは猫形態のリニス。
プレシアさん達はアースラでしばらく待機だそうだ。
「ただいまー」
久し振りの我が家だな。
でも、1泊2日か……。
大して久し振りじゃないのか。
母にクロノを紹介し、簡単にあったことを僕が説明した。
クロノはそこまで全部説明する僕に驚いていたけどね。
その後、クロノから時空管理局などの説明をしてもらったけど、特に母の態度が変わるわけもなく普通だった。
呆気にとられながらクロノは説明を終え、アースラに戻って行った。
一応僕のアドレスを教えておいたけど、どうやって連絡を取るんだろうかね……?
クロノが帰ったので、母にプレシアさん達の話をし、戸籍を手に入れるまでの住む場所を相談した。
そこで出てきたのはさざなみ寮!
あそこは3部屋空いているので問題はないそうだ。
しかし、そこは元女子寮となっていたので、ユーノには悪いけど住むことが出来なそうだ。
食事は作ってもらえるので、プレシアさんの食事がアレでも大丈夫だろう。
とりあえずなのはに連絡を取って、ユーノ経由でプレシアさん達に家のことは何とかなったとの話をして貰う。
アースラに連絡出来るようになれば便利なんだけどなー。
部屋に戻り落ち着いたので、アリサとすずかに全て終わって帰宅した旨をメールで伝える。
まだ授業中なんだろうなー。
午後からでも学校に行けば良いんだけど、さすがに行く気にならないや。
どうせ明日は土曜日で休みだしね。
他にも迷惑をかけたノムさんにもメールしておいた。
しばらくするとノムさんからメールが返って来て、日曜日は試合だから来れたら来いと。
何だか普通に野球をやるのは久し振りだな。
よし、それに合わせてジョギングでもしてこよう。
そんな訳で海鳴市全部走ってます。
全力疾走では危険なのでほどほどのスピードですけどね。
大体100mを10秒で走るぐらいのペースで駆け回ってます。
「なんや? あのスピードで走り回るとかありえへんやろ……」
同じ道を何度か走っていると、車椅子に乗った少女がそんな事を呟いていた。
年齢は僕と同じぐらい……って小学校はどうしているんだろう?
ちょっと気になるけど、走っているところを急に止まったら危ないので、ぐるーーーっと一周走って後ろに回ってみた。
「ねえ、君学校は?」
「わっ、な、なんや? ……あ、さっき物凄くはよう走って行った子」
「子って……。同じぐらいの歳でしょ」
「それもそうやね。しっかし、凄く足が早いんやね」
関西弁……かな?
あまり聞きなれないけど、多分そうだろう。
「そうかな? 普通だと思うけど」
「それはないわ〜。 でも、走れてええね」
そう言って悲しそうな表情をして自分の足を見る少女。
「そうだ、自己紹介が遅れたね。僕の名前は一之瀬太郎……野球選手さ」
「あぁ、これはご丁寧に。私の名前は八神はやて。見ての通り車椅子に乗った薄幸の美少女や」
「薄幸の美少女ってのは自分で言うものじゃないと思うけど、可愛いのは確かだからしょうが無いか」
「いややわ〜。褒めても何もでぇへんで」
少し照れながら手をパタパタさせて僕の方を扇ぐ。
通称おばちゃんパタパタ。
何だかありがちなジェスチャーですね。
「まぁ、そんなことはどうでもいいや」
「ええんかい!」
流石は関西芸人。
しっかりツッコんで来るな〜。
「八神さんは学校はどうしたの?」
「呼び方は、はやてでええよ。私もタローって呼ぶから。学校は……」
はやてが言うには小学校は足の障害のため休学中。
しかも私立聖祥学園の3年生という、僕と同じ学校で同学年だった。
そして、両親を幼い頃に亡くしており、ずっと一人で暮らしてきたらしい。
「そっか、お疲れ様だね」
「タローは軽くゆうね〜。普通の人が聞いたら、謝ってくるのに……」
「そうなの? 謝られても困る内容でしょ。それなら軽く流すぐらいで良いかなって」
僕の言葉を聞いてはやては笑い始める。
そんなにおかしな事言ったかな?
「そやそや、その通りや。タローはオモロイこと言うな〜」
「そっかな? じゃあ、僕が次の試合でホームラン打ったら希望を持って手術を受けてくれ、とか言ったら聞いてくれるのかい?」
「いややわ〜。足の障害は原因不明なのに手術で治るわけあらへんよ」
「そうなのか〜。日曜日に野球の試合があるから、はやてのためにホームランでも打ってあげようかと思ったのに」
その言葉に少し考えるはやて。
そして何だか悪巧みを考えついたようにニヤリと笑う。
「そんなら、タローがホームラン打ったら、私が言うことを1個聞いてあげてもええよ。ただし、打てなかったら、私の言うことを1個聞くんやで」
「分かった。じゃあ、約束だ。とりあえずその日バッターボックスに立てるように頑張ってみるよ」
「あはははは。バッターボックスに立っても立てなくても、打てなかったら言うこと1個聞いてもらうで」
「良いよ。それなら日曜日にそこの河川敷でやるから見に来てよ」
「分かったわ。ほな、タローが逃げないよう、アドレス交換するで」
そう言って携帯電話の番号とメールアドレスを交換する。
そしてはやての家まで車椅子を押してあげたよ。
何だかノリの良い不思議な少女との出会いだね。