第4話 ジョギング
洒落たレストラン兼バーのFOLX(ふぉるくす)に夕飯を食べに来たら、月村家の皆さんと相席になった。
今日はイベント盛りだくさんだね。
料理が来るまでに、みんなで自己紹介を始める。
今はフェイトがいないけど、戻ってくれば僕やすずかと同じ学校になるから、ちゃんと挨拶しておいてもらわないとね。
自己紹介が済む頃には料理も出てきて食事が始まる。
食事しながら話をするんだけど、プレシアさんは忍さんと、リニスはノエルさんとファリンさん、僕とすずかと言う感じに話し相手が別れちゃった。
プレシアさんと忍さんは意中の相手と〜とか、結婚後〜とか話をして盛り上がっているので、僕は口が挟めません。
でも、忍さんに言いたいのは、プレシアさんはバツイチ……。
そんな事を頭の中で考えた瞬間、プレシアさんに睨まれた。
おっかしいな〜?
リニスとメイド姉妹は尽くすべきご主人様についてとか、メイドの何たるか〜みたいな話で盛り上がってる。
なんでそんな話で盛り上がってるかと思えば、リニスもプレシアさんに仕える身なんだったね。
すっかり忘れてたよ。
そう言う訳で僕はすずかとノンビリと話をしながら食事タイム。
「タロー君はなんでここに?」
「うん。両親が今日はデートで、夕飯がないって連絡が来たのがさっきでさ。お腹が減って仕方がないので外食にしたんだ。このお店のマスターは知り合いだしね」
「そうなんだ。ここって料理が美味しいから好きなんだよね〜」
意外と有名店なんだね。
だから土曜日の今日は混んでるのか。
「マスターは長崎にある洋食店、サフランってところで修行をしたんだってさ。まぁ、そこが僕の伯母さんの家なんだ」
「へ〜。世間は狭いね〜」
「そうだね。何だかんだと全員が関係者だったりするんだよ」
僕の言葉にすずかは笑う。
まぁ、なのはの兄である恭也さんと、すずかの姉の忍さんがお付き合いしていたり、ここのマスターがさざなみ寮に住んでいる仁村真雪さんの後輩だったり……。
美由希さんのクラスメイトに神咲那美さんがいて、その人もさざなみ寮に住んでいるとかね。
そんな話をすずかとしながら食事を済ませた。
「そう言えば、明日はタロー君、野球の試合なんだよね」
「うん、そうだよ。でも、最近練習に行けてなかったから、先発出場は難しいかな」
「そうなの?」
「いくら上手くても練習に出てこない人を使うほど監督は甘い人じゃないよ。良くて代打や代走、守備固めってところかな?」
「折角の試合だから、アリサちゃん張り切ってたのに……」
「なんでアリサが張り切るのか分からないけど、約束もあるから1打席ぐらいは入れるように祈ってるさ」
打席に立たないことには何も出来ないからなー。
これからまた練習にたくさん参加できるようにしなきゃ。
「私も応援しに行くからね」
「ありがとう。事件も一段落したから、練習に参加するようにしないとね」
「うん、がんばってね」
その後も雑談しながら夕食を食べた。
そして終わると解散となる。
また3人で歩いて帰る。
明日の試合は出られると良いな〜。
僕達が帰宅しても、まだ両親は帰ってきていない。
さっきは荷物を広げたまま出かけちゃったので、それのお片付けから。
今プレシアさんとリニスが寝る部屋に荷物を置いたんだけど、荷物が多すぎて寝るスペースがない。
片付ければ良いんだろうけど、夜中にそんな気力はないようだ。
そんな訳で僕の部屋に布団をひき、3人で一緒に寝ることとなった。
プレシアさんの寝相は知らないけど、リニスは気がつくと猫になってスペースを作ってくれるから、広さ的には平気だろう。
それではおやすみなさい……。
明け方、なんだか苦しくて目を覚ます。
目を開けて状況を確認すると、プレシアさんとリニスが左右から僕を抱き枕にしていた。
あれ、リニスはいつも猫になっているんじゃなかったの?
とりあえず2人を起こさないようにそっと脱出する。
で、2人を抱き合うようにしておいて、着替えを持って部屋から出る。
これなら僕がいなくても2人して抱き枕にしてられるから大丈夫だよね。
今日は久しぶりの野球の試合だから、出られるか分からないけどしっかりアップしておこう。
軽く30分ほどかけてストレッチをする。
その後ノンビリと海鳴市内をジョギングに出かける。
「おはようございます」
「おはようタロー君。朝からジョギングとは良いね」
「朝のジョギングは気持ち良いですからね。士郎さん達もですか?」
「あぁ、我が家の日課にしているんだよ」
そう答えると恭也さんと美由希さんが頷く。
まだなのははまだ体力不足なため、一生懸命息を整えているので反応できない。
そしてユーノは……なんだか重そうな服を着させられ、タイヤを引きずってジョギングをしていたようで、みんなが立ち止まったので倒れ込んで休憩している。
「ほら、ユーノ君。休むにしても座らずにしっかり立ってなさい」
「は、はい……」
「なのはだって座ってないんだから、男のお前が倒れこんでどうする!」
士郎さんと恭也さんに言われ、何とか立ち上がるユーノ。
それを見て美由希さんは苦笑いしてるけど、あれは酷い気が……。
まぁ、いいか。
「この後、国守山で軽く運動するんだが、タロー君もどうだい?」
「あ、良いですね。素振りもしたいのでご一緒させて頂きます」
「それじゃあ行こうか。ビリは追加トレーニングだ!」
そう言って士郎さんは走りだし、慌てて恭也さんと美由希さんが後を追う。
そして残された僕達3人……。
「ユーノ君、頑張って行こうなの」
「なのは……僕のことは良いから先に行って」
「ううん、ユーノ君を置いて行けないよ!」
「なのは……」
「ユーノ君……」
そして見つめ合う2人。
うん、そっとしておこう……。
僕は2人を置いて士郎さん達の後を追いかける。
結構人外な速度だな〜。
国守山でストレッチを済ませ、士郎さんと恭也さんはスローペースな殺陣を始める。
動き一つ一つを確認するように、ゆっくりしっかりと。
美由希さんはシャドーボクシングをするように技を繰り出している。
僕は普通に素振りにするか。
目の前に素振りで小規模な竜巻を起こし、それに対して素振りをして竜巻を重ねていく。
千回を超える頃には超圧縮された竜巻が出来上がる。
その辺に落ちている砂利を拾い、僕はそこに軽く投げ込むと、竜巻の力で砂利が四方八方に跳ね飛ばされた。
それを全てキャッチして、竜巻の力が弱まるまで繰り返す。
地味なトレーニングだね。
「恭ちゃん……あれ、何やってるんだろ?」
「まず、素振りで竜巻を起こすところからツッコむべきか?」
「さすがはタロー君、訳がわからないね」
なんだか酷いことを言われている気がするんだけど……。
そんな声を聞いていると、やっとなのはとユーノがやってきた。
「やっと着いたの〜」
「そ、そうだね……」
なのはは疲れているぐらいだけど、ユーノは若干死にそうな感じになってるね。
ユーノは引きずっていたタイヤを外し、なのはと仲良くストレッチを始める。
それを見ている士郎さんと恭也さんの背後から黒いオーラが立ち上っているのは僕の気のせいだろう。
「お父さんも恭ちゃんも大人気ないな〜」
「美由希さんはあの2人の関係は賛成なんですか?」
「うん、そうだよ〜。なんだか微笑ましいじゃない」
「なるほど〜。恭也さんは忍さんがいて、なのははユーノがいて……。美由希さんは?」
「…………。ちょっと、邪魔……じゃなくて、ストレッチを手伝ってくるね」
あぁ、美由希さんが殺意の波動に目覚めた!?
その後、高町家全員のストレッチ指導が始まった。
ユーノ……人の体はそっちに曲がらないし、人の体はそこまで伸びないよ……。
そして運動が始まるんだけど、運動じゃなくて模擬戦だよねそれ。
魔法のことを家族に伝えてあるようで、士郎さんの攻撃を必死に瞬間的に発動させる防御魔法で防ぐユーノ。
隙を見て飛針を投げたり、鋼糸で反撃するユーノは流石だな〜。
士郎さんには全部防がれてるけどね。
なのはの方は飛行なしで美由希さんと模擬戦。
魔法があると美由希さんは勝てないんだね。
美由希さんの通常攻撃では、なのはのシールドやバリアを貫通できない。
徹は衝撃を表面ではなく裏側に通す打撃技、貫は相手の防御を突き抜ける技。
この2つは通用するみたいだけど、なのはの弾幕には敵わないらしい。
恭也さんとなのはでは戦闘経験の差があり、恭也さんが勝ってるみたいだけど、いつまでこれが続くことやら……。
ちなみにユーノも美由希さんには勝てるよ。
ユーノは攻撃魔法の特性がなかった分、飛針、鋼糸などの暗器を使い、攻撃手段が出来たせいか強くなってるみたいだ。
当然魔法なしでは、なのはもユーノも勝てなくなるけどさ。
それにしても2人とも恐ろしい成長具合だね。
さすがは恐怖の高町道場……。