第5話 代打
高町家との朝練?
なのはもユーノも近接戦が強化されているんだろうな。
朝のジョギングも終え、帰宅すると朝食が用意されていた。
「タロー、遅かったわね」
朝食を用意しているのはプレシアさん!?
まぁ、朝食ってそんなに凝ったものが出るわけじゃないから、誰でも簡単に作れるか。
「うん、ジョギングしていたら高町家のみんなに会って、一緒に軽い運動してきた」
「そうなの? 今日は午前中から試合なんだから無理はしないようにね」
「ありがとうねプレシアさん」
そして椅子に座りみんなで朝食を食べる。
まぁ、オムレツなら失敗しようがないよね。
ちょっと味が薄……なかったけどさ。
「プレシアさん、卵に何か調味料を入れて焼いた?」
「いいえ、そのまま焼いたわよ」
「あぁ、だからか」
みんなテーブルにある調味料を付けて食べる。
「タロー、プレシアは今は焦がさずに焼くほうが大事なので、何も入れさせませんでした」
「なるほどねー。まぁ、これはこれで好きな味に出来るから良いけどさ」
リニスのフォローを聞き、納得する。
砂糖とか入れると焦げやすくなるもんね。
僕は基本的にカレー以外は男料理しか作れないから、なんでもイイんだけどさ。
※男料理とは目分量、いい加減、濃い目の味付け、大盛り料理のことである。
朝食を終えたのでシャワーを浴びて試合へ行く準備をする。
そして河川敷の球場に出かける。
到着すると既にアリサが待っていた。
「おはよ、早いね」
「タローおはよ。ちょっと目が覚めちゃったから早く来ただけよ。別に深い理由はないわ」
「そっか。でも、わざわざありがと」
「また人の話を聞いてないでしょ……」
折角お礼を言ったのにそっぽを向かれてしまった。
おっかしいな?
「ちょっと監督のところに行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
アリサに送り出され、ノムさんのところへ行く。
チームメイトは既に何人か集まっており、各自時間を潰している。
「おはようございます!」
「おう、イチか。おはようさん」
そしてノムさんに今まであったことを話す。
魔法のことは上手く誤魔化しているので、何となくでしか伝えられないけどね。
あまり巻き込んじゃ駄目だし……。
「報告することは以上です。今まで迷惑をかけてすいませんでした」
「ええよ。イチが満足行くようやれたんならな」
ノムさんから掛けて貰える優しい言葉は珍しいな。
凄く嬉しいや。
「まぁ、練習に来れへんかった分、スタメン出場はさせへんで。代打では使うさかい、しっかり集中しとくんやで」
「はい! ありがとうございます!」
その後、チームメイトと雑談したりしながら試合開始を待つ。
まず第一声は謝罪ばかりだったけどね。
言葉は様々だったけど、みんな優しく迎えてくれたよ。
試合開始前のチーム全体練習に入る時には、なのはとユーノ、すずかが来ていた。
河川敷に降りてくると大変なのか、土手の上に車椅子のはやてが見えた。
「わざわざ来てくれてありがとう。スタメン出場じゃないから、代打で出られるように祈っててよ」
メールではやてに送ると、直ぐに返信が来る。
「打席に立たなくても勝負は勝負やからね。でも、可哀想なタローのために、少しだけ祈っといてあげるわ。乙女の祈りは安くないで〜」
まぁ、優しさなのかどうなのか微妙なラインだな。
とりあえず手を振っておいたけどね。
そして試合が始まる。
ベンチスタートでもちゃんと相手選手の動きを観察し、こちらの選手にアドバイスを送るぐらいは出来るからね。
僕はノムさんの隣でしっかりと応援してよう。
試合は一進一退の好ゲーム。
しかし、最終イニングである6回の表に3点を入れられ、6対4と離される。
6回の裏、ウチの攻撃だが上位打線まで繋げられるか?
5番の伊藤はヒットを打ち、6番の山崎はしっかりとボールを選んで、四球で塁に出る。
7番の渡辺はセオリー通りバントで塁を進め、ワンアウト2塁3塁。
8番高橋が犠牲フライを打ち、まずは1点返すと言う仕事をしっかりとした。
9番の佐藤はピッチャーのため疲れており打線には期待が難しい。
そこでノムさんがベンチから出る。
「バッター交代。佐藤に変わって一之瀬」
「はい!」
ここで僕の出番だ。
バットを持ちベンチから立ち上がる。
「タロー、頼んだぜ!」
「佐藤先輩、任せてください」
佐藤先輩とハイタッチをしてバッターボックスに向かう。
さて、集中して行くか。
「タロー、俺に回せば良いんだ。無理すんなよ」
ネクストバッターズサークルに居る、1番打者の田中先輩が声をかけてくる。
「大丈夫です。ホームランを打つって約束しているんで」
「おうおう、そりゃ気張らにゃならんな。よし、俺のことは気にせずブチかまして来い!」
「はい!」
先輩の応援を受けてバッターボックスに立つ。
僕はホームランバッターと違い、ヒットの延長にホームランがあるわけではない。
ホームランはあくまでホームランを打とうとしないと打てないんだ。
背筋を伸ばして後傾気味に重心を取り、右手でバットを垂直に揃え、左手を右上腕部に添える。
今日は1打席目だから、初球をしっかり見て……ボール。
2球目でタイミングを合わせるが、バットを振らず……ストライク。
3球目を集中し、タイミングを合わせバットを振り抜く!
カキーン!
ボールは弧を描き飛んで行く。
そして打球は土手の上まで届き、最後は優しく減速し、はやての手の中に収まる。
ウォオオオオオオオオ!!!!
チームメイトの雄叫びが球場に響く。
アリサ達もベンチから立ち上がり喜んでいる。
僕はガッツポーズをしてダイアモンドを一周する。
ホームベースを踏むと同時にチームメイトにもみクシャにされてしまった。
「良く打った! 俺の出番が無くなったが許してやろう」
「まぁ、俺の代わりに打席にたったんだから、これぐらい打って当然だな」
「最近、練習サボってたくせに生意気だぞこいつ!」
みんなの笑い声に囲まれる。
ノムさんも苦笑いしてるが喜んでいるね。
はやては……僕の方とボールを見比べつつ、ポカーンとしている。
大丈夫かな?
「ゲームセット。7対6で海鳴マーリンズの勝利です」
「「「「「「「「「あ(りがとうございま)したー」」」」」」」」」
両チーム別れ、試合の話をしながらベンチへ戻る。
ノムさんを中心とした反省会を済ませ、片付けが終わると、アリサ達が待つベンチの方へ向かう。
「ただいまっと」
「タロー、凄いじゃない! あたしが応援したお陰ね」
「そうだね。アリサ、ありがとう」
「べ、別にイイわよ。こ、これぐらいいつでも応援してあげるから……」
顔を赤くしてそっぽを向くアリサ。
自分で言っておいてテレなくても良いのに。
「私も応援してたけど、凄かったね。手に汗握って興奮しちゃったよ」
「すずかもありがと。最初から出られれば良かったんだけどね」
「それは昨日聞いたから平気だよ。今度は最初から出られると良いね」
「うん。そのためにはまた練習をしっかりやらないとね」
「私も応援してるからね」
ニコニコとすずかが答える。
みんなの応援は嬉しいね〜。
「凄いねタロー。僕も興奮しちゃったよ」
「タロー君凄いの。今度はユーノ君がサッカーの試合に出る様になったら応援に来てね」
「うん。ユーノは翠屋JFCに入団したんだね」
「あぁ、士郎さんが監督だからね。修行の一環って言われたら断れないよ。でも、スポーツはやってみたかったから楽しいよ」
「そっか。試合の日は教えてね。応援に行くから」
「ありがとうタロー。まだ始めたばかりだからそう簡単には試合に出れないだろうけど、僕は頑張るよ」
ユーノがそんな事を言うと、なのはが見とれている。
もう、そっとしておこう……。
「あ、タロー。そう言えばこの間の件は大丈夫よ」
「ん? この間の件って?」
アリサが急に言ってくるけど、なんの話だっけな。
そんな僕の反応にアリサは呆れちゃっている。
「タロー君、はやてちゃんの事だよ。学校で介助付きの通学を許可するとかの」
「あぁ、なるほど!」
「本当に分かってなかったんだね……。アリサちゃん必死でお父さんだけでなく、月村家にもお願いしてきたのに……」
すずかの言葉にアリサが慌ててすずかの口を手で塞ぐ。
「すずか! タローには言わないって約束したじゃない!」
「違うよ。私が約束したのは何でそこまでやったのかの理由を言わないことだよ。それとも、そっちが言って良い方だった?」
「ダメーー!! そっちは絶対にダメ!」
「じゃあ、こっちは良かったんだね」
顔を真っ赤にして慌てているアリサに対して、ニヤニヤと笑うすずか。
なんだか分からないけど、すずかの背後に黒いオーラが見え、しかもそれが笑ってるようだ……。
「ほら、アリサちゃん。ちゃんとタロー君に言わないと駄目だよ。鋭いようで鈍いんだからさ」
「もぅ……すずかのイジワル」
アリサはすずかから離れ僕の方に向く。
「あのね、はやての学校での介助付き通学の件は、イレインを使うというなら許可をもらえたの。だからはやてにも伝えてもらえるかな?」
「うん、ありがとう。流石はアリサだ!」
「べ、別にあたしは何もしてないわよ。さっきもすずかが言ったように、パパと月村家のお陰なのよ」
「それでもそこまでしてくれたのはアリサだろ。だから本当にありがとう」
アリサは顔を赤くして頬を指で掻きながらそっぽを向いてしまう。
そこまでテレなくても良いのにね。
本当に助かってるんだからさ。
その後、アリサとすずかはこれからお稽古らしいので、間もなく解散となった。
あ、なのはとユーノはそのまま放置しておいたよ。