第7話 制服
カツカレー食べてると幸せだな〜。
1918年に元となった料理もあるらしいんだけど、現在の形は1948年に東京都中央区銀座の洋食店「グリルスイス」で生まれたらしいよ。
築地にもあるらしいから是非とも行ってみたいな〜。
「「ご馳走様でした」」
「お粗末さまでした」
うん、カツカレーを食べて僕は満足。
「イレイン、料理すごく美味しかったよ」
「ほんま、美味しかったで。他にも料理は作れるんか?」
「はい、カレーは1番練習させていただいた料理ですけど、世界各国の料理データが入ってますし、和洋中の料理は殆ど一度は作ってますので問題無いです」
イレインの料理データが入っていると言ったところで、はやては首を傾げた。
意外と細かいところに気が付くんだね。
イレインもそれに気がついており、僕に視線を送ってきた。
僕が頷くとイレインが話を始める。
「お嬢様、私について説明させて頂きますね。実は……」
イレインは自分が自動人形であることをはやてに説明した。
自動人形については、簡単に今は失われた技術で作られたもの。
イレインを含めて3体しかいない。
「3体じゃなくて、3名ね。物じゃないんだからさ」
「ご主人様……」
「大体、自我があるなら人間と一緒でしょ。ほら、義手の延長みたいな?」
「ちょっと違うかと思いますが……、ありがとうございます」
深々とイレインがお辞儀をしている。
大したこと言ってないのにな〜。
「そや、もうイレインは私の家族や! だからもう自動人形とか関係あらへん!」
いきなりはやてが声を上げる。
ちょっとイレインもビックリしているよ。
「だからお嬢様やなくて、はやてって呼んでぇな」
「ありがとうございます。……はやて」
「うん、よろしゅうなイレイン」
その後はイレインがはやての家を掃除すると言い出し、はやてが止めたが、イレインはメイドとしてこれからの仕事なのでと言い張り、大掃除を始めた。
僕たちは手伝わせて貰えず、リビングで大人しく待つように言われてしまった。
「なんや、凄く申し訳ないなぁ」
「ん、何が?」
「タローは簡単に大したことないと言うけど、この体での一人暮らしは大変だったんよ」
はやては俯き自分の足を撫でる。
「でも、それがほとんど解決して、しかも明日からは学校に行けるなんて……」
「そっか? これは僕がホームラン打って、はやてが僕のお願いを聞いてくれた結果だよ」
「だから、明らかに私のためにタローが動いただけにしか見えないやないか!」
「んー、野球選手ってのは夢や希望を見せるものだよ。だから、はやてに対して僕が出来ることを精一杯しただけさ」
そこまで話をすると、家のチャイムが鳴る。
「来客やね」
「そうだね。僕が押して行くよ」
話を中断し、僕がはやての車椅子を押して玄関まで行き、玄関のドアを開けた。
「タロー、アリサに頼まれた物を持って来たわよ」
「住所は教えたのに、ちゃんと場所を教えないから、プレシアが道に迷って大変だったんですよ」
荷物を持ったプレシアさんとリニスが外にいた。
「ちょっとリニス! 主人である私の失敗をあっさり言わないで!」
「え? そんな契約してませんよ。事実ですし、タローに電話して聞こうにも携帯電話はないし、公衆電話が見つからずパニックにもなっていたじゃないですか」
「酷いわ! そこまで言わないでー」
慌ててリニスの口を手で抑えようとするプレシアさんだが、リニスは簡単に避けてしまう。
さすがに身体スペックが違いすぎてダメですね。
「はやてが呆気にとられてるし、人の家の前で暴れるのは良くないですよ」
「ほら、タローの言うとおりです。プレシアは自分の失敗を大人しく認めなさい」
「うぅ……。昔はリニスも素直だったのに……」
「昔のプレシアは素直じゃなかったですけどね」
ションボリとするプレシアさんに、笑いながらそう返すリニス。
プレシアさんの昔は狂気の方だったから、素直なわけ無いか。
「よ、ようわからんけど、タローの知り合いなのは理解できたわ。とりあえず中に入ってください」
「「はい」」
一向に話が進まないので、はやてが家の中へ招待する。
2人は大人しく家の中へ入る。
リビングへ行くと、イレインが既に全員の飲み物を用意していた。
「はやて、紅茶で良かったですか?」
「う、うん。なんだか人にやってもらうのは慣れへんな」
「諦めてください。今後ずっとこうなるんですからね」
イレインがそう言いながら微笑み、はやては笑う。
上手くやっていけそうだね。
「あ、イレイン。私も手伝いますよ」
「リニスはこの家に来たお客様ですから、大人しく座って待っていてください」
「はい、それではお願いしますね」
いつの間にかイレインとリニスが仲良くなってるね。
僕が野球をやっている間に自宅で話をしていたんだろうけど、共に人に仕える身分だから気が合うのか?
全員が座って、飲み物が用意されたところで、プレシアさんとリニスが自己紹介を始める。
それに対してはやても自己紹介をし、おたがいに落ち着いたところでプレシアさんが背後から荷物を取り出す。
え、その荷物って背後から出せる大きさじゃないよね。
(タロー、アレはデバイスの拡張領域にしまっておいたものですよ)
(そうよ、中々便利でしょ)
(すごいね! でも、こんなことが出来るならこの間の買い物の時に、僕が荷物を持つことなかったんじゃないの?)
僕の言葉にプレシアさんは焦っている。
(あ、あれは……)
(プレシアは抜けているので、うっかり忘れていただけです。私は覚えていましたよ)
(ちょっとリニス! また私に対してそんな事言って……。それよりも覚えている貴女が言わなかったのはおかしくないの?)
(え、えっと……。男性と一緒に買い物をして、男性に荷物を持ってもらうと言うシチュエーションを体験してみたくって……)
(……はぁ。貴女、そんな事を考えていたのね)
呆れたプレシアさんの言葉に、リニスは慌てて言い返す。
(え、だってこれは女性の憧れるシーンだって、プレシアの持っていた本に……)
(あーあーあー!! い、いつの話をしているのよ! それとその話はなし!!)
(まだ数日前の話ですが……、プレシアがそう言うなら今は言わないでおきますね)
なんとも酷い念話だな。
そっとしておこう……。
「ちょ、ちょっとプレシアさん! どこから出したんですかその荷物?」
「女性には秘密が多いものよ」
そう言って口の前で人差し指を立てる。
バツイチぃ……。
そう頭で思うと、ギロリとプレシアさんに睨まれた。
まるで時の庭園に初めて行った時に当ててきた殺気のようだ。
「そ、そうやね。女性には秘密がいっぱいや……」
その殺気に当てられたのか、はやても腰が引けている。
リニスが額に手を当てて首を振ってる。
「いい女ほど秘密は多いものよ。過去を詮索すると死……嫌われるわよ」
プレシアさんから聞こえた言葉が怖い。
はやても怯えてるぞ。
「はいはい、それはその辺で終わらせておきましょ」
リニスが手をパンパンと叩き、話を一旦切る。
「ほら、早くそれを渡しましょ」
「そうね。はやて、これをどうぞ」
そうやって持って来た荷物をはやてに渡す。
はやても首を傾げながらその荷物を開けると中から出てきたのは、私立聖祥大附属小学校の制服だった。
「こ、これ……」
「そうよ。明日からはやてが通う学校の制服よ。アリサ……貴女のクラスメイトになる子なんだけど、その子が用意してくれたの」
アリサってば気遣いと根回しが凄いな。
明日お礼をいっぱい言わないとな。
「はやて、これからそれに1回着替えてみましょうか。サイズのこともありますしね」
「う、うん。そうやな」
そうイレインは言い、車椅子を押して奥の部屋へはやてを連れて行く。
今のうちにアリサにメールで感謝の言葉を送っておこう。
しばらくすると制服に着替えたはやてが戻ってくる。
「ど、どうやタロー。似合うか?」
「うん、似合っていて可愛いね。これで明日はバッチリだ」
「そ、そうか? なんや、嬉しいな〜」
はやては僕の言葉を聞いて微笑む。
それを見てみんなもニコニコと笑っている。
明日の学校は楽しみだね。
(私も子供モードになればまだ着れますね)
(リニス、お願いだから貴女まで学校に通うとか言い出さないでね)
(え、冗談ですよ、じょ・う・だ・ん)
(いえ、貴女が言うと冗談に聞こえないわ。大体、私と貴女はリンクしているから分かるのよ)
(あら、そういう事を言うんですか? さり気なく自分も着てみたいと思ってることをタローにバラしますよ)
(……お互いに言わぬが花って事にしておきましょう)
(そうですね)
嫌な念話を聞いてしまった……。
僕が念話を聞こえることは教えたんだけどな〜。
まぁ、良いか。