第8話 闇の書
はやてに私立聖祥大附属小学校の制服を渡したら喜んでくれて良かったんだけど、プレシアさんとリニスの念話がなんとも……。
僕でもノーコメントって思うこともあるんですよ。
はやてと学校の……授業の進み具合とか友達のコトとかを話したよ。
今まで休んでいた分はイレインが教えることも可能だそうだ。
「イレインは優秀だな〜。僕にもそのうち勉強を教えてよ」
「はい。はやてを教えるのも、ご主人様も一緒に教えるのも変わりませんから」
「そうや、タローも一緒に勉強しような。1人じゃサボれへん」
「いや、2人でもサボれないから……」
はやてはゴキゲンなようで、ずっと笑顔だ。
(プレシア……)
(確認してらっしゃい)
(はい)
なんだか念話でプレシアさんとリニスが話をしたと思うと、リニスが立ち上がる。
「あの、お手洗いをお借りしても良いですか?」
「ええですよ。場所分かります?」
「大丈夫です」
そう言ってリニスはリビングから出ていく。
そして気配は2階へ上がって行ってる気がするけど……。
プレシアさんは目を瞑ってるな。
何をやってるんだか?
しばらくするとリニスが戻ってきた。
時間がかかったのに対して、ちょっと迷っちゃいましたーなんて誤魔化していたけどね。
その後、はやての学校の準備とかあるので、早めの解散になった。
あまりお邪魔しても申し訳ないしね。
「それじゃ、また明日学校でね」
「うん。前までそんな言葉が聞けるとは思ってへんかったよ。ほんま、ありがとうな」
「気にしないで良いよ。今度は一緒にキャッチボールでもしようね」
「ええよ。ちゃんと取れる球を放ってな」
「それじゃあねー」
「ばいばーい」
「「お邪魔しました」」
僕らが角を曲がるまではやては手を振っていた。
そんなに嬉しかったんだね。
帰り道、プレシアさんが僕の方を向いて深刻そうな顔で話しかけてくる。
「タロー、スクライア一族の子って地球に残ってるわよね」
「ん、ユーノのこと? 普通に高町家に住み着いてるよ」
「悪いんだけど、その子だけ家に呼び出して貰えないかしら? ちょっと意見を聞きたいの」
「何の事だか分からないけど、良いよ」
携帯電話は……ユーノはまだ持ってなかったな。
よし、こんな時こそ念話だね。
(もしもーし、ユーノやーい。聞こえるかーい?)
(!? た、タロー!? な、なんで念話使えるの!)
(いや、何となく……)
(訳が分からないよ……)
念話はユーノに届いたようだけど、何だか呆れてるね。
(まぁ、それは良いとして、ちょっとお願いがあるんだけど)
(はぁ、タローが念話を使えるのは良く分からないし、スルーできる程の軽いことじゃないんだけど……)
(僕は気にしてないよ)
(そう言う問題じゃなくて、常識的に言ってるの! どんなに言ってもタローには無駄なんだろうけどさ〜。それで今日は何?)
(あ、プレシアさんがユーノに聞きたいことがあるから、ユーノだけ僕の家に来れるかい?)
(……なのはに説明したらすぐに向かうよ)
(悪いね〜)
(いや、プレシアさんが僕に聞くことって何だか気になるし、昼のトレーニングも一段落ついたからね。僕からもプレシアさんに聞きたいことがあるから丁度良いや)
ふむ、ユーノからも聞きたいことか……なんだろね?
(じゃあ、後で)
(うん、後ほど)
そう言って念話を切る。
どうも電話と違って話しにくいから困るね。
そっと言葉が届くように念じないといけないし……。
早くユーノも携帯電話持たないかなー。
「あ、ユーノに念話でお願いしたら、なのはに伝えたらすぐに来るってさ」
「そう? ありがとう。それじゃ急いで帰らないといけないわね」
「プレシア……。タローの念話が普通にユーノまで届いていることに対して異常を感じましょうよ……」
「そう言えばタローはリンカーコア無いのよね」
「そうなんですよ……」
「「はぁ〜」」
プレシアさんとリニスは顔を合わせため息をつく。
何かおかしい事あったかな?
自宅に帰り、しばらくするとユーノがやってきた。
僕の部屋へ通し、僕、プレシアさん、リニス、ユーノの4人で話を始める。
僕はなんの事だか分かってないけどね。
「ユーノ、わざわざありがとうね」
「いや、別に大丈夫だよ。今日の修行は、夜間のみで終わりだし……」
ユーノは修行のことを言うと若干表情に影がさす。
厳しい修行なんだね。
私怨が篭ってるんだろうとは思うけど……。
「申し訳ないけど、さっそく話に入らせてもらうわ。リニス!」
「はい」
プレシアさんに言われ、リニスが立体画像を空中に出す。
その画像は一冊の本。
表紙には剣のような形で作られた十字架が付いており、鎖で封印するかのように縛られている。
「ユーノはこの画像の品はなんだか分かりますか?」
リニスの問いかけにユーノはその本を良く見る。
「これって……。鎖が付いているから、まだ起動はしていないけど闇の書なんじゃ……」
ユーノはしぼり出すように言う。
「やはりそうなのね。私も半信半疑だったけど、スクライア一族の貴方が言うなら間違えはなさそうね」
「こ、これは何処で見たんですか!? 禁断の魔道書と言われていて、時空管理局では一級捜索物として手配されているんですよ!」
「あの〜、闇の書ってなーに?」
僕の言葉にみんなが僕の方を振り向く。
なんだか責められている感じがして嫌だな……。
それに対してリニスが優しく説明をしてくれる。
リニス曰く、持ち主と世界に破滅を呼ぶとされる禁断の本。
魔法の源であるリンカーコアの魔力を食らうことで、ページを増やす。
全666ページが完成すると持ち主に力を与える。
しかし、その強大過ぎる力はマスターの意思すら食いつぶし世界を滅亡に導いてしまう……。
「世界が滅亡したら闇の書も壊れちゃうんじゃないの?」
「いえ、それだけじゃないの。闇の書の最大の特徴は転生機能と無限再生機能……」
これはいくら破壊されてもいくらでも再生する。
しかも他世界にワープするので、闇の書の完全破壊は不可能とされている。
この機能のため、時空管理局でも封印に失敗し、何人もの犠牲者が出ているそうだ。
毎回持ち主が死ぬとランダム転生し、発動するまでは誰の手にあるかわからなくなる。
「なるほどねー。説明ありがと」
「いえいえ」
「さらにもう一点加えると、起動した闇の書が一定期間蒐集がないと、持ち主自身のリンカーコアを侵食する。だから蒐集してもしなくても、持ち主にあるのは滅びだけなんだ……」
リニスの説明にユーノが追加する。
どうやってもダメなんじゃ、困った本だね。
「タローが理解したところで、ユーノにお願いがあるの。闇の書のことをもっと詳しく調べて欲しいの」
「それは良いですけど、一体何処で?」
「……無限書庫。管理局本局にあるから、今は私が直接行くことができないの。だからリニスと一緒に行ってくれないかしら?」
ユーノは俯き悩む。
「お礼は出来る限りのことをするわ。どうしても持ち主を救ってあげたいの」
「詳しくは話してくれないんですね……。でも、一体誰のためにそんなに言うんですか?」
プレシアさんは悩みながら、何故か僕の方を向く。
そして、決意を灯した目をして口を開く。
「……私達にとっての恩人のために。その人の友達を助けたいの」
「私からもお願いします。私たちは恩に報いたいのです」
プレシアさんとリニスはユーノに対して頭を下げる。
それを見てユーノは慌てて言う。
「そこまでしないでください。多分ですが、その恩人は僕にとっても恩人ですから……。僕にそれを断る理由はありませんよ」
「ありがとうユーノ」
「ありがとうございます」
その後、無限書庫利用の許可は今日中にプレシアさんが取るので、明日以降に出発したいという話になった。
ユーノは今日中に高町家から許可を取ってくると言う。
「ちなみにユーノもプレシアさんに聞きたいことがあったんじゃなかった?」
「そうなのユーノ? 調べ物のお礼でなんでも言って頂戴」
「えっと、そこまでな話ではないんですけど……。実は、僕が使うデバイスが欲しいんですけど、それの相談に乗ってもらいたいなと」
そういえばユーノってデバイス持ってないよね。
「あら、貴方はデバイスがなくても、十分に魔法行使が出来るように見えたんだけど……」
「今のままで良いならそうなんですが、その上を目指すにはどうしてもデバイスが必要なんです」
「貴方も色々とあるのね。そっちの理由は詳しくは聞かないけど、デバイスについて話をしましょ。私の方で用意させていただくわ」
「え!? そ、そこまでしていただくわけには……」
プレシアさんの言葉にユーノは慌てて断る。
しかしプレシアさんはゆっくりと首を左右に振る。
「それだけのことをしてもらうつもりよ。だから私はユーノの専用デバイスを作るわ。どうせタローのも作らないといけないしね」
「……タローはリンカーコアがないから、デバイスを使えないんじゃ?」
「そうでもないのよ。デバイス自体にね……」
その後プレシアさんとユーノのデバイス談義が始まった。
僕のと言うか、魔力を持たない人のデバイスは魔力充電式で、拡張領域に物を入れる鞄代わりと、データを入れておき辞書などの代わりになるようにすれば問題ないようです。
ユーノのデバイスについてだけど、攻撃魔法を重視しないので武器としての性能を持つアームドデバイスか、支援に特化させたブーストデバイスって話になった。
いろいろ詳しいことを話しをしていたけど、僕にはさっぱりだったよ。
その後、ユーノは高町家へ帰った。
それにしても闇の書か……。
一体どこにあったんだろう?