第9話 天使の梯子
ユーノに無限書庫での調べ物を頼んだプレシアさん。
その後は2人でデバイス談義に花を咲かす。
ユーノって僕と一緒でデバイスが欲しかったのか〜。
使い方は僕と違うんだろうけどね。
ユーノは高町家へ帰り、夕飯を食べてお風呂に入り、明日からの学校の準備を済ませ一段落したところで、僕の部屋にプレシアさんとリニスが集まる。
何で僕の部屋に集まるんだろう?
まぁ、いいか。
「さて、連絡しないとね。リニスお願い」
「はい」
リニスが何か術式を使うと空中ディスプレが現れた。
しばらくすると画面にリンディさんが現れる。
「あら、プレシアじゃないい。どうかしたのかしら? またタローが何かやらかしたの?」
「それは色々とあるけど、今回は違うのよ」
そう言って僕の方を2人して見るんだけど……。
えっと、どういう意味かな?
「そんな事はどうでも良いんだけど、何のようかしら?」
「そうね。そんな事はどうでも良いわね」
「…………」
「あぁ、タロー。何で部屋の端っこで拗ねてるんですか。大丈夫ですよ、大丈夫」
拗ねた僕に対してリニスが頭を撫でてくれる。
良いもん、そんな事言うと今後は自重しないから。
「それでリンディにお願いがあるんだけど……。無限書庫の利用許可を出して欲しいのよ」
「無限書庫って……何を調べるのかしら?」
プレシアさんの言葉にリンディさんの眼が光る。
「ちょっと、11年前の悲劇と無限連鎖を終わらせようと思ってね」
「……プレシア!?」
「だからこそ、リンディに許可を取って貰いたいのよ。理由は内密にしながら大至急にね」
プレシアさんがリンディさんに対して優しく微笑む。
それを見てリンディさんも微笑み返す。
「11年前の事は、貴女には関係ないんじゃないのかしら?」
「あら、折角お友達になった人に関係あることなのよ。それは私にとって関係があるのと同じことでしょ」
「……バカね」
「貴女もね……」
僕は良く分からず2人を見ているが、リニスは意味が分かっているらしくニコニコしている。
なんだろ、この疎外感……。
「明日の早朝までに用意させてもらうけど、誰のを用意すればいいのかしら? まさか貴女が来れるわけではないんでしょ」
「ええ、申し訳ないけど私は行けないわ。代わりに私の使い魔であるリニスとユーノ・スクライアの2名分をお願い」
「分かったわ」
リンディさんは頷きそう言う。
「後、もう一つ」
「まだあるの?」
驚きつつ笑顔で答えるリンディさん。
なんだかこの2人って仲が良いんだな〜。
「これは管理局にとっても良い話になるかもしれないわよ」
「あら、何かしら?」
「デバイスマイスター、それも腕がいい子を紹介して欲しいの」
「これの理由は教えてくれるのかしら?」
「ええ。デバイスの件はね……」
リンカーコアのない人用のデバイスの研究補助が欲しい事を伝える。
そのデバイスの使用方法など細かに話しているけど、僕にはさっぱりだね。
リンディさんは驚きつつも、真剣に聞いている。
「と言うわけよ。研究だけならすぐに始められるんだけど、ユーノのデバイスも作らないといけないので、手が足りないのよ」
「なかなか面白いところに目をつけるわね〜。これが実用化になるなら地上部隊が喜びそうだから、上手く話を持って行けるわ。後で連絡をさせるわね」
「悪いわね」
「悪いと思ってないくせに」
「言うだけならタダよ」
「聞くと損した気がするから、言わなくてもイイわよ」
2人はニコニコと笑いながらそんな会話をしている。
気が合うんだな……バツイチ同士。
そう思うとギロリと言う音が聞こえそうなほどの勢いで2人に睨まれた。
口に出してないからノーカウントってことで勘弁して下さい。
その後も雑談混じりに2人は話をしている。
デバイスマイスターって人は、エイミィさんの後輩であるマリエル・アテンザさんを紹介してくれるそうだ。
腕の良い技官らしいので楽しみだね。
僕はあまり話しについていけないけどさ。
その後、フェイトのことを雑談し、通信は終わる。
「どうせならフェイトと話をすれば良かったのに」
「イイのよ。今は嘱託魔導師認定試験前だから集中させてあげないとね」
「それに明日には私が向こうに行きますから」
「頼んだわよリニス」
「はい、頼まれました」
試験前の会話は集中が途切れるから、終わってからで良いのか。
そう言うならイイんだけどさ。
「じゃあ、僕からも応援してたって伝えてくれる?」
「良いですよ」
帰ってきたら盛大に祝ってあげれば良いんだし、これぐらいでイイのかな。
その後、プレシア達は部屋に戻って行った。
僕も明日の学校に備えて早く寝るかな。
いつもの様に起きると、既にリビングにはプレシアさんとリニスがいた。
朝の挨拶を済ませ、朝ご飯を終わらせるとプレシアが口を開く。
「リンディから連絡があって、朝のうちに迎えが来るそうよ」
「随分と早いですね」
「そうね。リンディも少し無理したようね」
プレシアさんは苦笑いしながらそんな事を言う。
頼んだのはプレシアさんなのにね。
「じゃあ、リニスとしばらくお別れか。ちょっと寂しいね」
「大丈夫ですよ。すぐに調べ物を終わらせて戻ってきますから」
「うん、待ってるね」
そんな話をしていると家のチャイムが鳴り、ユーノがやってきた。
「おはようタロー。朝からお邪魔します」
「おはよ。別に邪魔じゃないからイイよ」
ユーノに対してプレシアさんが頭を下げる。
「わざわざ頼んでしまってごめんなさいね」
「いえ、僕に出来ることはやっておきたいので……。そうでもしないと誰かに借りを返せませんから」
「そうなのよね。ただ、誰かさんは貸しだとか思ってないのが問題なのよね」
「プレシア、仕方がないですよ。誰かさんはある意味ニブチンですから」
「そうね。あ、ユーノにこれを渡しておくわ」
そう言うとプレシアさんは服の中をゴソゴソとし、どこからか一冊の本を出してくる。
表紙には四角が2つ重なった絵柄と、その周りに良く分からない文字が書いてあり、ハードカバーで分厚い本だ。
「これはユーノの
「
「良く知ってるわね。旧約聖書ではヤコブが夢に見た、天使が上り下りしている、天から地まで至る階段と言われているわ」
プレシアさんは天使の梯子をユーノに手渡す。
「それを由来にしたこのデバイスは結界魔法、防御魔法、支援魔法、回復魔法を増強するブーストデバイスよ。他にも私が前に使っていた検索魔法なども入っているから、そこから貴方がアレンジして行くと良いわ」
「わざわざありがとうございます」
「あら、これは無限書庫での調べ物に使ったりするものよ。戦闘用のデバイスはまだ考えてるから、完成したら渡すわね」
その言葉にユーノがビックリしている。
「2つもデバイスを貰うなんて申し訳ないですよ!」
「あら、良いのよ。天使の梯子は元々検索用に使っていた物に手を加えただけだから。貴方が頼んだのは戦闘用のデバイスでしょ」
「そ、それはそうですが……」
「まだ完成してないんだから遠慮することはないわ。その分しっかり頼むわね」
ユーノはその言葉を噛み締め力強く頷く。
「現時点でタイムリミットはまだ分からないけど、急ぐに越したことはないわ。それもなるべく内密に……」
「はい!」
ユーノはエンジェルス・ラダーをしっかりと両手で抱きしめる。
「ブーストデバイス、
『認証』
エンゼとユーノが光りに包まれるが、すぐに光が収まる。
「これでこのデバイスはユーノ、貴方の物よ」
「はい、ありがとうございます」
ユーノは嬉しそうにしている。
良いな〜。
僕もデバイス欲しいな〜。
しばらくするとリンディさんから迎えが来て、ユーノとリニスは無限書庫というところへ行ってしまった。
僕も学校に行かなきゃな。
「リニスのお弁当も今日でしばらくおあずけか……」
その言葉にプレシアさんがこちらを微笑みながら見る。
「大丈夫よタロー。明日からは私がお弁当を作るわ」
「え!?」
「ちゃんとフェイトが帰ってくるまでに、しっかりと練習しないとね」
プレシアさんはやる気満々のようだが、ここ数年お弁当を作ってない人のやる気が、殺る気に見えるのは気のせいだろうか……。
食べ物なら食べるから良いけどさ〜。
「さ、明日のお弁当から実験開始よ!」
「練習とか実験とか不吉な言葉が聞こえているんですけど……」
プレシアさんは僕の言葉に反応すること無く、母の方へ行ってしまった。
どうしよう、回復魔法使えるリニスとユーノはもういない!
僕の胃がピンチのようだ。
リニス……また会えるよな……。