第10話 復学
リニスとユーノが無限書庫へ行ってしまった。
寂しくなる上に僕のお弁当は今後プレシアさんが作ってくれることに……。
頑張れ僕! 負けるな僕! 回復魔法を使える2人は無限書庫だ!
リニスの最後のお弁当、通称最後の晩餐を持ち通学する。
クラスに到着すると三人娘が既に居た。
「おはよ〜」
「「「おはよ〜(なの)」」」
ちょっとなのはの元気が無いようだけど……。
「アリサ、昨日はありがとうね。おかげで制服は渡せたよ」
「タローはそういうところに気が付かないと思ったから、あたしの方でやっておいたのよ。サイズは大丈夫だったかしら?」
「ん〜、女の子のサイズは良く分からないけど、イレインがいるから手直しぐらいできるんじゃない?」
「それもそうね」
僕の言葉にアリサは頷いている。
そこにすずかが入って来た。
「あ、イレインはちゃんと行ったんだ」
「うん。すずかも説得してくれたんでしょ。ありがとうね」
「私はそんなに大したことしてないよー。元々イレインも乗り気だったもん」
「みんなの協力のお陰で助かったよ」
頭を下げるとアリサは照れくさそうにして、すずかはニコニコ笑っている。
本当にいい友達を持ったよ。
「それで、なのはは何で元気がないの?」
なのはからは返事がない。
代わりにすずかが教えてくれた。
「ユーノ君が仕事の関係で管理局に行っちゃったから寂しいみたい」
「あぁ、そうなんだ……。そりゃ、仕方がないな」
「全く、あたし達がいるのにそこまで落ち込むこと無いのに!」
「でも、アリサちゃんもタロー君がいなかったとき元気なかったよ」
「そ、そんなことないわよ! 何言ってるのよ!」
すずかの言葉に慌てるアリサ。
「僕がいなくて寂しかった?」
「え……あ、う、うん……。でも、ちゃんと帰ってきてくれたし、今は一緒でしょ」
アリサが真っ赤になりながら素直に答えてくれる。
ちゃんと待ってくれる人がいるのは嬉しいな。
「ありがとうねアリサ」
「べ、別にお礼を言われるようなことはしてないわよ」
「それでもさ。ホントありがとう」
「むぅ……」
アリサが真っ赤になって俯き、すずかがニコニコそれを見守る。
そんな事をしているとなのはが急に立ち上がり、教室から走って出て行く。
「な、なんなの?」
「なのはちゃん……」
「良く分からないけど、追いかけておこうか?」
僕の言葉に2人は頷き、なのはを追いかけていく。
なのはの行った先は屋上だった。
そこでレイジングハートを両手で持ち、その先に空中ディスプレが出ている。
ディスプレに映っているのはユーノだ。
なんだかいい雰囲気で話をしているので、僕たちは顔を見合わせて屋上を後にする。
「何よあれ、心配して損しちゃったわ」
「まぁまぁアリサちゃん……」
プンスカ怒るアリサに、宥めるすずか。
いつもの流れだ。
「それにしても空中にディスプレを出して、しかもそれを通じて話が出来るなんて凄いね」
「あれも魔法の力なのかしら?」
2人は僕に説明を求めるように見てくる。
僕も良く分かってないんだけどなー。
「なのはが持っていた赤い宝石はデバイスって言う名の魔法補助機械。つまり魔法使いの杖みたいなものらしいよ」
僕の言葉に2人が頷く。
「で、それを通して通信をしているんじゃないかな? ユーノは今日の朝にやっとデバイスを手に入れたんだし……」
「そうなんだ〜」
「あたし達も使えれば便利なのに!」
「魔力がないと難しいみたいだけど、プレシアさんが魔力のない人でも使える物を開発中だよ」
その言葉に興味を引く2人。
そんなに目をキラキラさせ欲しがっても……。
「どんな物が出来るかは僕にはわからないからね。一応完成したら貰えるように頼んでおくけどさ」
「「ありがとうタロー(君)」」
はぁ、この2人にかかると僕もダメだな。
でも作るのは僕じゃないから良いか。
教室へ戻りホームルーム開始前になのはが帰ってきた。
しかも随分とニコニコしてるな。
それを見たアリサが呆れ、すずかは微笑んでいる。
そしてホームルームが始まる。
教師が教室へ入って来て、挨拶が終わると話が始まる。
その内容は体の不自由な人について。
そして、それは介助者がいれば普通に生活できるというもの。
小学生だけあってみんな素直に聞いているな〜。
僕も小学生だけどさ。
そこで話を終わらせ、廊下の方へ声をかける。
「それでは入って来てください」
教室の扉が開き、車椅子に乗ったはやてと、それを押しているイレインが入って来た。
イレインはさすがにメイド服ではなく、スーツ姿だ。
結構似合っているな。
「今日は転校生ではなく、休学中だったお友達を紹介します」
教室の中がざわめく。
教師は黒板に“八神はやて”と書く。
「今日から復学して一緒にお勉強をする、八神はやてさんです。訳あって脚が不自由で車椅子生活を送っていますが、介助者のイレインさんがいれば皆さんと一緒に生活できます」
みんな真面目に話を聞いている。
アリサやすずかは僕の方をチラチラと見ているけどね。
「それでは八神さん、自己紹介をどうぞ」
「はい!」
はやては元気良く返事をして、イレインに車椅子を押してもらい前に出る。
でも、はやては緊張しているっぽいな。
「八神はやてと言います。車椅子生活ですけど、イレインが介助してくれるので学校に来れるようになりました。みんなよろしゅうお願いします」
その自己紹介を聞き、教室は拍手に包まれる。
みんな受け入れてくれたみたいで良かったよ。
はやても笑顔になったから、緊張は取れたかな?
その後、教師から今日の注意事項などが話され、授業が始まる。
授業中もなんだかみんな落ち着きが無いけど、はやては復学とはいえ、ある意味転校生みたいなものだからなー。
気になってしかたがないんだろうな。
落ち着かない授業が終わると、はやての席の周りにはクラスメイトが集まり、各々質問をしている。
流石のはやてもアワアワしているね。
それを見かねてアリサが手を叩いて自分に視線を集める。
「はいはい、みんないい加減にしなさいよ。八神が困ってるでしょ」
みんなの顔を見て、落ち着いたのを確認して、話を続ける。
「ほら、質問をまとめてあたしが聞くから、この休み時間中にメモしてあたしに渡してね。次の休み時間から順番に聞くから」
みんな「はーい」と返事をして、各々メモ書きを始める。
それを見てはやてはホっとしているね。
その隙にはやてに挨拶しておくか。
「や、はやて、イレイン。今日から一緒によろしくね」
「あ、タロー。よろしゅうな」
「ご主人様、よろしくお願いします」
はやては笑顔で返事をし、イレインは頭を下げる。
イレインの言葉を聞き、カツカツと足音を立ててアリサが僕のそばに来る。
「タロー……、ご主人様って何?」
プレシアさんにも勝るとも劣らない凄いプレッシャーだ。
ニコニコ笑っているすずかも、黒いオーラが漂ってる気がするし……。
はやては車椅子の肘掛けを叩き大爆笑し、イレインも笑ってる。
絶対ワザとだな!
「冗談ですよ。学校ではタローと呼ばせて貰います」
「タチの悪い冗談を言わないで欲しいな。軽く命の危険があったぞ」
「いえ、はやてにそう言うと面白いよって言われまして……」
「あー、イレイン! 私のせいにするなんてえげつないやん。イレインかてノリノリだったやないの」
笑いながらお互いに責任を擦り付けている2人。
どっちでも良いけど被害者は僕なんだよね。
「そう言う訳でアリサ、わかってくれた?」
「そ、それなら良いのよ。でも、学校ではって言ってたわよ」
その言葉にイレインがアリサの側に来る。
「タローは私に自我を与えてくれた人です。それにより私の心にマスター登録させて頂きました」
「もぅ、そう言われたら納得するしか無いわよ……。でも、私のだもん(ボソ)」
ぶつぶつと文句を言いながらもアリサは納得してくれたみたいだね。
そこにはやてが入ってくる。
「そや、八神さんとかやなくて、はやてって呼んでえな」
「それならあたしもアリサで良いわよ」
「すずかって呼んでね」
「なのはなの」
「アリサちゃん、すずかちゃん、なのはちゃん。よろしゅうな」
「「「うん、よろしく(ね・なの)」」」
その後、自己紹介を軽くしているとチャイムが鳴る。
アリサの机には大量のメモ紙が置いてあり、アリサが深い溜息をついているけど大丈夫かな?
しかし流石はアリサ。
授業中に上手くまとめられたようで、次の休み時間にははやてに順次質問をして行く。
はやてもそれに上手く答え、クラスメイトは満足したようだ。
まぁ、休み時間全部使っちゃったけどね。