第12話 ぷちしあ
パーティーも終わり、夜にプレシアさんの部屋でリニスからの連絡を待っていた。
「遅くなりました」
「良いのよ。無理を言っているのはこっちだから。それで進展は?」
「それがですね……」
リニスの話の内容は、無限書庫があまりにも巨大で未整理である。
正直、チームを組んで年単位での調査をする場所だということ。
「私もそっちへ行くべきかしらね?」
「本当はそうしてもらえると助かるんですけど、なかなか難しいでしょ」
「そうね。私が管理局に出向いてしまうと、折角リンディが動いてくれたことが無駄になるから……」
プレシアは悩んでいる。
「とりあえずこちらで手を増やしてみるわ。リニスは引き続きお願いね」
「はい、分かりました。ユーノがプレシアから貰ったデバイスにある検索魔法をアレンジしているので、それが完成すればかなり楽にはなると思いますから……」
「そうなの? さすがはスクライア一族ね。そう言えば、スクライア一族に応援は頼めないのかしら?」
「現時点ではスクライア一族の現在位置が見つからないようなので、ちょっと難しいかも知れません。ですが、その件はクロノ執務官が協力してくれているので、そのうち良い返事が聞けるでしょう」
多少光明が見えて来たけど、まだまだ難しそうだ。
「なにはともあれ手詰まりね。今はコツコツやるしかないけど、お願いね」
「はい、分かりました。それでは失礼します」
そしてリニスとの通信は切れる。
プレシアさんは深い溜息をつき、室内にある分厚い本を出してくる。
それはユーノに渡した魔導書と同じ大きさっぽいけど、表紙が全然違うね。
「プレシアさん、それって何?」
「これは儀式用のデバイスよ。タローは使い魔について知ってるわよね」
「うん、リニスやアルフのことでしょ」
「そうよ。使い魔は基本的に永続的に仕えさせるものじゃないの。作る時に契約として、使い魔が成すべき目的を設定し、それに合わせて能力を決定、そして目的が達せられた後に契約を解除するのが一般的な使い方なの」
僕は黙って頷く。
それを見てプレシアさんは話を続ける。
「そして使い魔は存在しているだけで術者の魔力を使うわ。だから何体も同時に高性能な使い魔と契約するのは難しいのよ。でも私の魔力量なら、無限書庫で調べ物専用に契約するなら……」
「プレシアさん、もしかして無理するつもり?」
「えぇ、ちょっとだけ無理をするわ。魔力の関係上、2週間が限度……数は12体」
そう言うと僕の方を向いて微笑み、魔導書を広げて12枚ページを破く。
その12枚の紙がプレシアさんの周りに浮いて、紙の前には動物の死体が浮かび出る。
「契約! プレシア・テスタロッサの名の下に! 12の魂を召喚し、12の亡骸に宿れ!」
プレシアさんが呪文を唱えると、12の死体が光りに包まれる。
そして光が収まると、プレシアさんの周りに身長30センチぐらいの小人が12人現れた。
ベースはみんなプレシアさんなんだけど、猫耳と尻尾がついていたり、うさ耳がついていたりと、動物の死体に準じているようだ。
「我ら主、プレシア・テスタロッサにより契約せし使い魔12体」
「主よ契約内容を」
その言葉にプレシアさんは頷き、言葉を紡ぐ。
「契約内容は無限書庫で、リニスとユーノの手助け。闇の書に関する資料の検索。契約期間は14日」
「「「「「「「「「「「「了解しました我が主!」」」」」」」」」」」」
後でプレシアさんから説明を受けたんだけど、使い魔は動物が死亡する直前、または直後に人造魂魄を憑依させる事で造り出すんだって。
だけど毎回、死亡直前の動物とか用意できないから、さっき出した魔導書は使い魔のための死体を保管しておくものだったらしい。
これはアリシアの死体を保管する方法からの転用だそうだ。
その後、プレシアさんから連絡を受けたリンディさんが、モニタ越しに頭を抱えていたのは印象的だったな。
でも、新たに12名分の無限書庫の使用許可を得るのではなく、リニスのに追加する形だから多少は楽らしい。
でも、多少なんだよね……。
あんなに一気に使い魔が増えて、魔力消費も増えたプレシアさんの体調が心配だったので、今日は僕もこの部屋に泊まったよ。
さざなみ寮は来客用の布団は余ってるし、リニスの分の布団もあるから問題ないってさ。
リンディさんが来るまで、布団の中に大量の使い魔が入って来て困ったよ。
その日の深夜にリンディさんが直接迎えに来て、12体の使い魔……別名ぷちしあを連れて行った。
その別名は僕がつけたんだけど、リンディさんが大爆笑していたのは印象的だったな。
折角名付けてあげたのに……。
朝、目が覚めるとプレシアさんはまだ寝ていた。
疲れているだろうから、起きるまで頭を撫でておいたよ。
リニスもこれで魔力供給になったって言っていたぐらいだから、プレシアさんの魔力枯渇も多少はマシになるかな?
そうしているとプレシアさんが目を覚ます。
「おはよプレシアさん。休めましたか?」
「え、あ、おはよう……た、タロー!?」
「はい、そうですよ。どうしましたか?」
「え、あ、うん……。ちょっとだけ良い夢が見れたのよ」
そう言ってプレシアさんは自分の目元の涙を拭う。
「そうですか。覚えているうちに口に出しておくと、夢の記憶は長持ちしますよ」
「そうね……。時の庭園でアリシアとフェイト、リニスとアルフ、私の5人で暮らしていたのよ。ただの日常の夢だったけど幸せだったわ」
ちょっとだけ悲しそうな顔をしているプレシアさん。
アリシアは亡くなり、フェイトとアルフは嘱託魔導師認定試験とその研修、リニスは無限書庫と、全員が一緒にいたのって本当に短い時間だったんだな。
早く一緒に生活できると良いよね。
さざなみ寮で朝食を一緒にご馳走になり、その後一旦帰宅。
今日ははやての家にみんなで招待されているので、お昼には間に合うように行かないとね。
はやてがお昼ご飯をご馳走してくれるって言うから楽しみだ。
「こんにちはー」
そんな訳ではやての家にやって来た。
ドアが開き、イレインが出迎えてくれる。
「ご主人様、お疲れ様です」
「いや、疲れてないから」
「どうぞ中へお入りください。既に皆様揃っていますよ」
「あら、僕が最後だったか」
リビングに通されると、みんな揃っていた。
一通り挨拶をしてソファーに座る。
「ほな、タローも来たことやし、私はお昼ご飯作ってくるな〜」
そう言い、車椅子のまま台所へ移動して行くはやて。
その背中に向かって声をかける。
「楽しみに待ってるよ」
「まかしときー」
はやてが料理をしている間、みんなで話をしたり、ゲームをしたりと時間を潰す。
お邪魔しておいて、しかも料理まで作らせちゃって良いのかな?
そんな事を思っているとアリサが立ち上がり、はやての方へ声をかける。
「はやてー、本当にあたし達は何もしなくて平気なの? そんなに料理とか出来ないけど、手伝いぐらいなら出来るわよ」
「アリサちゃんありがとな〜。でも、今回は私の料理を食べて欲しいから、そっちで待っててな〜」
「分かったわよ。でも、手伝いが必要なら声をかけなさいよね」
「了解やで〜」
アリサはその返事を聞き、僕の隣まで移動して座る。
そして僕の顔を覗き込み話しかけてくる。
「はやては料理得意みたいね。あ、あたしも最近料理の練習始めたんだけど、上手くなったらタローは食べてくれる?」
「へー、アリサも料理やってるんだ〜。上手くなる前からでも食べるから安心してよ」
「そ、それじゃ練習している意味が無いじゃない。ちゃんと美味しいのをご馳走するわよ」
「だから練習も付き合ってあげるよ。試食していれば良いんでしょ」
僕の言葉を聞き、アリサは笑顔になる。
「そ、そうね。じゃあ、付き合って貰おうかしら」
「うん、楽しみにしているよ」
その返事が嬉しかったのか、アリサはずっとニコニコしていたよ。
それを見たすずかも微笑んでいたけどね。
なのはは口数も少なく、マイペースにすずかとゲームしてるね。
やっぱり、ユーノがいないから元気全開じゃないのかな?
折角一緒に住めるようになったのに、無限書庫へ行って調べ物をしてもらってるから申し訳ないや。
その対策としては、なのはも嘱託魔導師になっちゃえば良いのかな?
嘱託魔導師なら管理局内へ行けるだろうから、無限書庫に居るユーノとも会えそうだ。
でも、調べ物が終わればユーノは帰ってくるし……。
なんとも難しい所だ。
とりあえずデバイスを経由した会話で我慢してもらうしかないかね。