第14話 お弁当
早朝から学校を背景にみんなで写真撮影。
授業が終わる頃には現像も済んでいるってさ。
はやての手紙も今日中に出せるね。
たしか日本からイギリスまで手紙を出すと、4〜7日で届くんだっけかな?
流石にそんなに掛かるんだと、月1のやり取りになっちゃうね。
お昼休みに屋上で相変わらず、いつものメンバーでお弁当を食べる。
そこで僕のお弁当見たアリサが目敏く言ってくる。
「今日はお弁当の雰囲気が違うみたいだけど、プレシアさんは腕が上がったの?」
「いや、今日のお弁当は母が作ったんだよ」
「あれ、プレシアさんはどうしたの?」
その話に乗ってきたのはなのはだ。
「土曜日からプレシアさんはさざなみ寮に住み始めたから、今はいないんだよ」
「そうなんだ〜」
僕となのはの会話の横で、すずかがアリサを肘で突っついている。
アリサは恥ずかしそうに俯きながらも言葉を紡ぐ。
「あ、あのね。もし、もし良ければなんだけど、あたしがお弁当を作ってきてあげようか? まだ、お料理は練習途中だから、あまり上手じゃないけど……」
「へ、良いの? 作ってくれるなら嬉しいけど、無理することはないよ」
「ほな、私が作って上げようか? 料理の腕は昨日食べて知っとるやろ」
「ううん、あたしが作ってきてあげるの!」
突然会話に混ざってきたはやてに対し、アリサは声を荒げる。
はやてはそれに対してニヤリと笑う。
「それならタローがどっちのお弁当を食べたいか、私と勝負と行こうやないの」
「の、望むところよ!」
あれ、何だか変な方向に話が進んでるんだけど……。
「今まで料理している私が有利なのはしゃあない。だから、金曜日のお弁当で各自1品、みんなの分を作ってくるってのはどうや?」
「良いわよ。はやてには負けないんだから」
「なのはちゃんとすずかちゃんも参加すんやで〜。審判はタローや!」
「え、えっ、えーーー!!!」
「私も!?」
はやての言葉になのはとすずかも驚く。
まぁ、完全に流れ弾に当たったって感じだよね。
「勝者はタローがなんでも言うことを1つ聞くっちゅうことで」
「え? なんで僕……「私も参加します」……イレイン!?」
何故かやる気満々のイレインまで参加してきた。
え、これってどういうこと?
「ほな、金曜日が楽しみやね」
「負けないもん!」
「私達もやるんだ……よね?」
「料理……お母さんに教わらなきゃ駄目なの」
「メイドの名にかけて負けません」
明らかに楽しんでいるはやてと、やる気満々のアリサとイレイン。
すずかとなのはは困惑気味だけど、結局やる方向で諦めたようだ。
昼休みはこの話で終わってしまったけど、僕は一体どんな言うことを聞かされるんだろうか……?
そして放課後はリトルリーグの練習に参加だ。
次の日以降も昼間は学校で授業を受け、昼休みに屋上でみんなと騒ぎながらお弁当を食べ、放課後は練習と毎日が同じように過ぎて行く。
あっという間に金曜日のお弁当対決の日がやってきた。
屋上で各自様々な大きさの入れ物を持っている。
「さて、誰から行くんや?」
「私から行くの。私が作ってきたのは……これ!」
なのはが大きな入れ物を開けると、中には大量のオニギリが入っている。
「一番簡単で、一番食べるオニギリを作ってきたの」
「なのはちゃん……それ、おかずやない」
「え? でも、はやてちゃんは一品って言ったから、オニギリでも問題ないでしょ」
そりゃそうだ。
まぁ、そんな事はどうでも良い。
結局みんなで食べ始める。
「うん、普通だね」
「そうね、普通よね」
「具はゲテモノやオモロイもん入っとらんのか〜」
「でも、普通に美味しいよ」
「う〜、みんなして普通普通言わないの!」
悪い評価じゃないのに、普通と言われすぎてなのはは拗ねてしまった。
「それじゃ、なのはちゃんが拗ねてるから、私が出す一品はこれだよ」
すずかがタッパーを開けると、中にはポテトサラダが入っていた。
「またメインやないやないか!」
「え? メインははやてちゃん達が作ると思ったから、あえてサラダ系で攻めてたんだよ」
みんなで食べるけど、僕にはカラシが効いていて丁度いね。
「うん、カラシの刺激が美味しいね」
「私はカラシ苦手なの」
「なのははお子ちゃまね」
「むぅ〜」
「ご、ごめんね。ちょっと多く入れすぎちゃった」
ちょっと辛いけど概ね好評だ。
カラシの量は好みの問題だもんな〜。
「それでは、私の料理を出します」
そう言ってイレインはアルミホイルに包まれた何かを取り出す。
「少し離れてください」
そう言うとイレインはスーツの上着を脱ぎ、腕まくりをする。
あれ、それって電撃ロープ“静かなる蛇”じゃ……。
そんなことを思っていると、静かなる蛇をアルミホイルに巻きつけ一瞬放電する。
それによりアルミホイルが温まり、中から美味しそうな匂いが漂ってきた。
「はい、包み焼きハンバーグです」
「「「「「おぉ〜」」」」」
アルミホイルを開けると、まるで出来立てのように湯気の上がっているハンバーグが姿を現した。
お弁当なのに温かいなんて凄い!
「ジューシーで美味しいね」
「でも、お弁当としたら反則やな」
「そうよ、ちょっとズルイわ」
「でも、美味しいの」
イレインのは、ある意味自分を生かした料理ってところか。
「さて、ここで真打登場! 私のはこれや」
タッパーを開けると綺麗な色の竜田揚げだ。
唐揚げと竜田揚げの違いは、唐揚げが小麦粉を使って、竜田揚げが片栗粉も使うだったっけな?
後は竜田揚げのほうが醤油やミリンに漬け込んであるものだったはず。
「味が染み込んでいて美味しいね」
「濃すぎず薄すぎず……さすがははやてね」
「美味しいの」
「はやてちゃんは本当に料理が上手なんだね〜」
はやては笑いながら胸をそらせる。
「ふっふっふ。これで私の勝ちは決まったもんやな」
「まだ、あたしの料理があるもん。私の作ってきたのは……これよ!」
アリサがタッパーを開けると卵焼きが入っていた。
「た、タロー。頑張って作ったんだから食べてよね」
「そんな事言わなくてもアリサの料理なら食べるさ」
食べてみると……ふんわりとしていてジューシーだ。
卵焼きなのにこんな感想ってオカシイかな?
「凄い美味しいね。冷めてるのにふんわりしてる」
「ほんまや。なんでや?」
「アリサちゃんの卵焼き美味しいね」
「ホント、美味しいの」
みんな高評価だ。
「どうやって作ったんだい?」
「うん、この卵焼きってお弁当専用なのよ……」
アリサが言うには、卵3個に対して80ml程度のダシを入れる。
卵を良くかき混ぜず、卵の白身をちぎるように混ぜる。
強火で加熱し、卵を一気にたっぷり流しこむ。
表面が乾いたらクルクル巻くのではなく、表面がドロドロになったらパタンと畳む。
「へぇ〜、これでそんなに違うんだ〜」
「う、うん。これだと出来上がったばかりは、そこまで美味しいわけじゃないのよ。あくまでお弁当用の、冷めてから美味しい卵焼きの作り方なのよ」
「流石アリサちゃん。凄い練習したんだね」
「今度私も作ってみるの」
そしてみんなの視線が僕に集まる。
勝敗を決めるのは得意じゃないんだけどな〜。
「正直みんなの一品はどれも美味しかったよ。いくらでも食べたいぐらいさ。でも、お弁当の一品としたら……アリサの卵焼きが美味しかったな」
僕の言葉にアリサが満面の笑顔を浮かべる。
「イレインのハンバーグは美味しいけど、あれはお弁当のおかずじゃなくて、目の前で料理だよね。はやてのも料理としては凄い美味しいんだけど、お弁当と限定したら冷めて味が少し落ちてると思うんだ」
「やはりあれは狡かったですね」
「料理としては褒められてるのは分かるんやけど、ちょっと複雑やな」
その言葉にがっくりと項垂れるはやてとイレイン。
「すずかのはカラシの量で好き嫌いが分かれるし、なのはのは一品だけどメインじゃないからね」
「次はメインを作るね」
「私もちゃんとおかず作るの」
そう言う訳で、みんなで残さず食べ始める。
アリサの卵焼きは一番最初に無くなり、アリサはニコニコしている。
みんなどれも美味しいからビックリだよ。
砂糖と塩を間違えるとか、異物混入とか無くてホッとしちゃった。
「はやてのはさすがに美味しいわね……。一品じゃなかったら勝てないわ」
「アリサちゃんかて、あれから一週間もないのに、これだけのものを作れるって凄いことやで」
「あれからずっと、ウチにいる人達は玉子焼き地獄になってたのよ。パパや鮫島もしばらく卵焼きは見たくないんじゃない?」
その言葉にみんなが笑う。
料理は回数を重ねることで、どんどん上手になるものだね。
「流石はアリサちゃんやね。でも、愛情を込める量に関しては負けへんで」
「良いわよ、受けて立つわ」
そしてアリサとはやての間に見えない火花が飛び散る。
すずかとなのははニコニコと面白いものを見るように笑ってるけど……。
やっぱり料理は愛情ってことなのかな?