第15話 潮干狩り
お弁当1品勝負はアリサの勝利で終わった。
まぁ、審査員が僕だから何とも言えないんだけどね。
みんなの料理はどれも美味しかったら、僕は満足していますよ〜。
昼休みも授業も終え、放課後の野球の練習。
汗まみれ、泥まみれになって帰宅し、お風呂とご飯を済ませれば1日が終わる。
そんな充実した日だった。
tell……tell……
土曜日の早朝、電話の鳴る音で目が覚める。
「はぃ、もしもひぃ。タローです……」
「タロー、もしかして電話で起きた?」
声で直ぐわかる……電話の主はアリサだった。
「うん……、ちょっと寝ぼけてるから待ってて。直ぐに覚醒するね」
「だ、大丈夫よ。なかなかレアなものを聞けたし……(ボソ」
頭を左右に振って軽く頬を叩く。
瞬きを数回すれば……よし、目が覚めた。
「もう大丈夫だよ。それで今日はどうしたの?」
「う、うん。昨日の事なんだけど……」
「昨日のこと?」
「お弁当勝負に勝った人は……その、ねっ……」
何だか言いにくそうにしているな。
確か僕がなんでも言うことを1つ聞くってヤツだったよね。
「うん、なんでも言うこと聞くんだよね。大丈夫、覚えてるよ」
「そ、それなら良いのよ。それで、タローは今日の予定って空いてるかしら?」
「空いてるよ」
「よし(ぼそ)……それなら、今日は潮干狩りに一緒に行きましょ」
「潮干狩り?」
今って、そんな時期なんだっけ?
「本当は5月の最初ぐらいが良いんだけど、その時期はタロー達忙しかったでしょ」
「うん」
「今の時期が梅雨入りの前に行ける最後ぐらいなのよ。お昼過ぎから3時間ぐらいしかできないけど、タローならその時間でも沢山採ってくれるでしょ」
「まぁ、どれぐらい採れるかわからないけど……」
「丁度この時期の潮干狩り客は少なめだし、貝も育ってきてるから大きいのが採れるのよ」
客が多い時期よりも客が居ない時期の方が育つから、大きいのが採れるのか。
「そ、それで一緒に行きましょ。昨日の約束なんだからね!」
約束じゃなくても頼まれたら断らないのに、アリサは律儀だな〜。
不安がらせてもいけないから直ぐに返事をするか。
「うん、良いよ」
「じゃあ、迎えに行くから準備しておきなさいよ。それじゃ後でね!」
アリサのその言葉で電話が切れる。
潮干狩り……とりあえず熊手を用意しておいた方が妥当なのかな?
後は濡れても良いように着替えとタオルっと。
両親に説明したらあっさりと許可も出たし……。
他にバケツやら網やら持たされました。
しばらくするとアリサが迎えに来たので、鮫島さんの運転する車に乗り込む。
いつもの車と違って、今回は4WDのオフロード仕様の車だ。
「誘ってくれてありがとね」
「べ、別に、あたしがタローと行きたいから誘っただけよ」
「うん、だからありがとう」
「むぅ〜、いつもスルーばかりして〜」
僕の言葉にアリサが少しむくれる。
ん〜、なんて言うべきかね?
正直、僕達はまだ小学生だからな〜。
精神的な成長はこれからだから、好きとか嫌いの感情がはっきり分かって無いと思うんだ。
せめて中学生……って言っても、まだまだ子供だし……。
ちゃんと答えが出せない僕もまだ成長していない子供ってことか。
結局有耶無耶になり、その話はせず雑談をしながら車は進む。
しばらくすると潮干狩りが出来る場所に到着する。
「着いた〜!」
車から降りるとアリサが伸びをしているので、僕も体が固まってるから軽くストレッチをする。
「うん、結構時間かかったね」
「海鳴市の近くは海水浴場だから、潮干狩りが出来る場所となると、少し離れないと駄目なのよね」
「そっかー。それじゃ、すぐに開始かい?」
「まだ潮が引いてないから、少し待つのよ。その……待ってる間にご飯にしましょ」
「そっか、もう時間はお昼だもんね。どうする、何処で食べる?」
僕の言葉にアリサは俯いてしまう。
あれ、なんか変なこと言ったかな?
「あ、あたしがお弁当を作って来たんだけど……」
「おっ、そうなの? それは僕も食べて良いのかな?」
「う、うん。た、タローが褒めてくれた卵焼き……それ以外も頑張ったから、食べてくれると嬉しいな」
「アリサの作ってくれたものなら何でも食べるって言ったじゃないか。楽しみだな〜」
「うん! じゃあ、直ぐに取ってくるね」
アリサは笑顔になり車の方へお弁当を取りに行く。
昨日に引き続き、今日も食べれるって嬉しいな。
鮫島さんはいつの間にか何処かへ行ってしまったようで、アリサと二人でレジャーシートを広げてお弁当の準備だ。
「「いただきまーす」」
今日のお弁当はウインナーにアスパラのベーコン巻き、卵焼きとサラダ、そして各種サンドイッチ。
卵焼きは相変わらずの凄い美味しさだ。
他に作ってくれた物も美味しいね。
「うん、美味しいね。わざわざ早起きして作ってくれたのかい?」
「うん。昨日あれだけ褒められたら、今日も作りたくなるのよ」
「そっか。美味しいお弁当を食べられる僕は幸せだなー」
「……バカ(ぼそ)」
綺麗に全部残さず食べ終えました。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
「料理の練習中とかアリサは言ってたのに、すごい美味しかったよ」
「そ、そう? また今度も作ってきてあげるわね」
「ありがとう」
僕の言葉に顔を赤くして照れるアリサ。
本当に美味しかったからビックリしたよ。
2人で片付けを済ませ、潮干狩りの準備をする。
潮が引いたといってもこの時期だと30センチぐらい水が残っているので、水着に一応なっておく。
まだ夏じゃないから肌寒くなってもいけないので、僕もアリサも上着を羽織っているよ。
「さ、いっぱい採るわよ!」
「おー!!」
2人で熊手を持って、網を腰にぶら下げ潮干狩り開始!
バシャバシャ水を跳ねさせて移動したり、熊手で黙々と掘り続けたりした。
他にお客が少ないので、好き放題に出来るね。
「アリサ、このあさりとかで何作るんだい?」
「んー、あさりなら酒蒸し、ボンゴレ、味噌汁ぐらいかしら? 他のはまだ勉強中なのよ」
「へー、そうなんだ。僕はあさりの味噌汁好きだな」
「それなら最初に作ってあげるわよ。問題はどうやって学校に持って行くかね」
「味噌汁用の魔法瓶って今あるらしいよ」
「そうなの? それなら大丈夫ね。帰ったら調べてみなくっちゃ」
そんな話をしながら一生懸命に採る。
時間が過ぎて行くのに合わせて潮が満ちて行く。
この時期はあまり長時間できないんだよね。
「タロー、そろそろ戻る? 他のお客さん達はみんないなくなっちゃったわよ」
「おや、本当だ。でも、あまり採れてないよね」
「う〜ん、これじゃ味噌汁が精一杯ね。タロー、なんとかしなさい」
「うん、アリサの許可が出たし、他のお客さんも居ないからちょっと頑張るね」
気合を入れて久々の……ガッツポーズ!
グッ
それにより半径20mの空間から海水が無くなり、足場がしっかり出てきた。
そして、潜っているはずのはまぐりやあさり、マテ貝などが砂の上に出てきている。
「…………」
「ほら、取り放題」
「ホント、タローは相変わらず、訳の分からない力があるわね……」
乱獲しちゃうと駄目なので、ここの潮干狩り会場の決まりである1人2kgまで採る。
それでも僕とアリサで4kgだから、随分と沢山になるんだけどね。
しっかり採ったところで、時間切れのようだ。
周りから水が一気に戻ってきた。
僕とアリサは思い切り水を頭からかぶってしまった。
「きゃ。もう、なんなのよー!」
「んー、時間切れかな?」
「そういう事はもっと早く言いなさいよー! お陰でビッショリじゃない」
しかも潮が満ちているので、結構な深さになっている。
「これは浜まで戻るの大変そうだね」
「う〜、油断した〜。もう少し早く戻っておくべきだったわ」
「過ぎたことはしょうがないさ。さて……ヨイショっと」
「きゃ」
このまま歩いて戻るのでは身長がまだ低い僕達には厳しいので、アリサを抱きかかえ水面を歩いて戻る。
「ちょ、ちょっと……ビックリするじゃない!」
「あ、ごめんごめん。とりあえず僕達の身長だと、浜まで戻る前に沈んでも困るからさ。おんぶの方が良かった?」
「そ、そういう事を言ってるんじゃないわよ! と、とりあえずこの格好で良いから、走ったりすると怖いからゆっくり行ってね」
アリサは真っ赤になりながら、落ちないようにと僕にしがみ付いている。
折角採った貝もあるし、落ちないように慎重に水面を歩いて行く。
無事、浜にたどり着くと鮫島さんが待っていた。
心配かけちゃったかな?
「鮫島さん、遅くなってすいません」
「いえ、問題ありません。おかえりなさいませ」
「……ただいま」
「お二人共濡れてしまっているようですね。お風邪を召さぬうちにお着替えをどうぞ」
そう言って鮫島さんは僕達にバスタオルをかけてくれる。
その後、体を拭いてから更衣室で着替え、車に乗って帰る。
さすがに疲れたのか、アリサは帰りの車の中で僕に寄りかかって寝てしまった。
きっとお弁当を作るために早起きをしたりと大変だったんだな。
「う〜ん……タロー……」
「うん、僕はここにいるよ。アリサ、今日はありがとうね」