第18話 なのはとユーノ
アースラの食堂は野球の話題で大盛り上がり。
結局ミッドへの移動時間はそんな話題で終わってしまった。
「ミッドに到着したから、タローとなのはは無限書庫の方へ行きなさい」
「あれ、プレシアさんはどうするんですか?」
「私は管理局の施設に行きたくないから……」
そしてチラチラとフェイトのことを見る。
要するに親子水入らずってことかな?
それなら……。
「アルフ〜。無限書庫へ案内してよ」
「え〜、あたしがかい?」
そしてプレシアさんとフェイトの方をちらっと見る。
「うん、良いよ。フェイト、悪いけどタローたちを案内してくるから、お留守番頼むね」
「え、あ、うん」
フェイトは良く分かってないみたいだね。
まぁ、その内に行っちゃうか。
「んじゃ、タローになのは。行くよー」
「あいよ」
「はいなの」
アルフの誘導に着いて行く僕となのは。
プレシアさんと目があったのでウィンクしておいた。
プレシアさんはちょっと驚いたようだけど、意味を理解してくれたみたいだね。
「ふぇ、フェイト。一緒にお昼を食べに行かないかしら?」
「え? か、母さんと2人で……ですよね。はい!」
後ろの方でそんな会話が聞こえたけど、僕たちは無限書庫の方へ進んで行く。
「そう言えば無限書庫は入室許可が必要らしいから、何処でユーノを呼び出そうか?」
「タロー、そんな事考えてなかったのかい? しょうがないねぇ」
アルフは呆れつつ、何かを操作すると空中モニタが現れ、そこにはクロノがいる。
「なんだいアルフ? またタローが何かやらかしたのか?」
「うん。ユーノを呼び出したいらしいんだけど、どうすれば良いか分からないんだってさ」
「分かった。ちょっと待ってくれ」
そう言ってモニタに映っているクロノは向こう側で何かを操作している。
それにしても、またやらかしたって……。
みんな酷いな〜。
「ユーノは現在、A区画の第3会議室の貸出許可を受けているから、そこにいるはずだよ」
「ありがとうクロノ」
「気にしないでくれ。タローの世話を頼んだよ」
「うん、しっかりやるよ!」
そして通信が切れ、空中のモニタは消える。
何だか僕の扱いが酷い気がするんだけど……。
「よし、こっちだからさっさと行こう!」
「はいなの」
アルフは元気良く僕らを誘導し、なのはも元気良く着いて行く。
色々腑に落ちないが、まぁ、良いか。
のんびり後を追うことにしよう。
さて、僕たちはA区画の第3会議室の前にいる。
とりあえずノックして〜。
コンコン
「どなたですか?」
「リニス、僕だよ。タローだよ」
部屋からリニスの声がしたので名前を名乗る。
「た、タロー!? なんでここにいるんですか?」
随分と驚き慌てた声が返ってきた。
「とりあえず開けてくれないかな? アルフ達もいるからさ」
「は、はい。どうぞ」
リニスの言葉で扉が開く。
僕に続いてアルフ、そしてなのはが室内に入る。
全員が入ったのを確認するとリニスは直ぐに扉を閉めた。
一応やってることは秘密ってことになってるからかな?
「や、久し振り。元気してた?」
「はい、タローもお変わりなく……」
「やぁ。なのはにタロー、久し振り。アルフはこの間ぶりかな?」
「そうだね。あれから少しやつれたんじゃないかい?」
アルフの言葉にユーノは力なく笑う。
「いやぁ、調べ物も終わりが近かったからね。ちょっと寝てないんだ」
随分と無理してるみたいだな。
室内を見渡すと、疲れきったユーノと、ちょっと毛並みが悪くなってるリニス。
そして12人のぷちしあ達に、見たことのない黒い髪のツインテールで猫耳の可愛い女の子と、白い髪のツインテールで猫耳の可愛い女の子が2人いた。
「タロー君……。プレシアさんの使い魔さんは、リニスさん以外に12名って聞いていたんだけど……残りの2人は誰?」
「さあ? 知らない人」
なのはの地の底から聞こえるような低い声に、思わず素で答えてしまった。
一応来る前にぷちしあ達のことは、なのはにも教えてあるよ。
なのははツカツカとユーノの前に進み、ニッコリと微笑む。
……妙な迫力があるんだけど、それは僕の気のせいかな?
「ユーノ君、調べ物大変そうだね……。で! そこの可愛い猫耳の女の子2人は誰かな?」
「え、あっ、なのは?」
「だ・れ・か・な?」
なのはの笑顔にひきつるユーノ。
迫力に押されて言葉が出せなかったみたいなんだけど、それをなのはは逃がさない。
そして、幸か不幸か……猫耳の女の子2人がユーノの左右に来て、本能的な恐怖からかユーノにしがみつく。
ピシ
空気が割れるような音が僕には聞こえた。
周りを見るとアルフは耳も尻尾も畳んでリニスの後ろに隠れている。
ぷちしあ達も同様にリニスを盾にしているが、リニスは扉に向かって後ずさりをしている。
「ユーノ君は調べ物で大変だって聞いていたんだけど、可愛い女の子と仲良くするぐらい暇だったのかな?」
「ちが、な、なのは。ちょっと待って」
「少し……頭冷やそうか……」
なのはの迫力が恐ろしいけど、このままではユーノに砲撃を撃ちそうな雰囲気があるで、とりあえずなのはを後ろから羽交い絞めにする。
「タロー君、離すの!」
「ちょっと落ち着きなさいな。ほら、ユーノ。今のうちに説明するんだ!」
「え、あ、うん。タロー、ありがとう。なのは聞いてくれ!」
「レイジングハート!」
『落ち着いて下さいマスター』
ジタバタ暴れるなのはに、慌てて説明しようとするユーノ。
なんでこうなったんだ?
「この子達は……」
「この子達!?」
「なのは、いい加減に落ち着きなさい」
なのはは僕の言葉なんて聞く耳持たないようだ。
ユーノは覚悟を決めたのか、大きく息を吸って少し強めに話し始める。
「無限書庫での調べ物を早く終わらせて、なのはに早く会いたかったから、効率を上げるために使い魔契約したんだ!」
ユーノの言葉を聞き、なのはビクッ! っと震え、ジタバタ暴れるのが治まった。
とりあえず羽交い絞めを解いて僕は少し離れよう。
「契約内容はこの調べ物が終わるまで。だから今日中に終わるから、その後に契約を解除するんだよ!」
ユーノは必死に言葉を紡ぐ。
なのはは俯いているけど、ユーノのなのはに早く会いたかったって言葉が嬉しかったのか、顔が少し赤らんでいるね。
「材料と言ったら失礼なんだけど、この辺で手に入ったのが死にそうな黒猫と白猫だったんだ」
「女の子の理由は?」
「メス猫だなんて気にもしてなかったよ。それに……髪型がツインテールなのは、なのはのイメージが入っちゃって……」
まだ俯いたままだけど、ユーノの言葉になのはは真っ赤になってるぞ。
そのなのはをユーノは両手で両肩を掴み、自分の顔に向かせる。
「僕は暇だったわけでもないし、他の女の子に気を取られているわけでもないよ。僕の事、信じられない……かな?」
その言葉になのはは首を左右に振る。
「ううん。私、ユーノ君を信じる。さっきはごめんね……テンパっちゃって……」
「大丈夫だよ」
なのはの言葉に優しく答えるユーノ。
「だって、出会ってから一番一緒に居られてない時間だったから、つい動揺しちゃって……」
「平気だよ」
「今日だって、ユーノ君に会いたくて、私の作ったお弁当を食べて貰いたくって、一生懸命作って持って来たのに……」
「なのは、僕のためにお弁当を作って来てくれたんだ」
「うん、ユーノ君のために愛情込めて一生懸命作ったんだよ」
「ありがとう、なのは」
「うん……うん!」
やっと誤解が解けて落ち着いたようだ。
ユーノの使い魔は空気を読んで猫形態に戻っている。
リニス達もホっとしたようで、扉の外から室内に入ってくる。
……いつの間に部屋から出ていたんだ?
戻ってきたリニスたちと手分けして、部屋においてある資料を端に片付け、テーブルを広く空ける。
そして片付いたテーブルの上に、なのはがお弁当を並べて行く。
ユーノもそれの手伝いをし、なのはがニコニコとゴキゲンだ。
さっきまでの空気は何だったんだよ……。
そんな中、ぷちしあ達は資料と一緒に端に行き、まだまだ調べてる。
意外と真面目な使い魔なんだね。
ユーノの使い魔も、なのはの視界から外れて人型になり、資料を調べるのを続けている。
こっちも主人に似て真面目だな。
しかも、なのはに気を使う素晴らしい使い魔だ。
それならさっきユーノにしがみつかなければ……なんて、後で思ってもしょうがないよね。
あれだけ恐怖を与えられちゃ仕方がないさ。