第20話 11年前
闇の書が本当は夜天の魔導書と呼ばれることが分かった。
しかもプログラム改変により闇の書と呼ばれるようになったことも……。
どうすれば直せる……いや、治せるんだろうね?
俯いて悩んでいたプレシアさんが、顔を上げみんなを見渡す。
「まず、闇の書を夜天の魔導書へ戻す方法を考えましょう」
「そうですけど……無限書庫をいくら探しても、元のプログラムデータは出てきませんでしたよ」
「その、元のプログラムは私が何とかします。その他の対策を一緒に考えて欲しいの」
プレシアさんの言葉にユーノが反応する。
「まずは闇の書の起動を確認しないと駄目ですね。闇の書を何処で見つけて、誰が持ち主なのか僕は知りません」
「そうね、まずはそこから話をしたいんだけど……。その前にユーノは11年前に起きた、前回の闇の書事件のことを知ってるかしら?」
「はい。無限書庫にデータがありました……」
闇の書の暴走に対して、時空管理局は艦隊を出動させ、一時はその暴走を押さえ込んだ。
本局への帰還中に、2番艦エスティアにて保管されていた闇の書が再度暴走し、艦の機能まで奪ってしまう。
主砲アルカンシェルのコントロール機能まで失い、さらにそのアルカンシェルが艦隊に向けられるという事態に陥った。
艦隊司令で事件に対して指揮を執っていたギル・グレアム提督は苦渋の選択の末、自らの艦のアルカンシェルでエスティアを闇の書ごと沈めた。
……ギル・グレアム?
「そうね。そのエスティアの乗員は船が沈む前に、何とか避難が出来たの。最後までエスティアに残り、船と運命を共にしたクライド・ハラオウン提督によってね……」
「ハラオウンって……」
「そうよ。このアースラにいるリンディとクロノの父親よ」
ただでさえ防音効果のある結界内が、さらなる沈黙に包まれる。
リニスは俯き、ユーノは拳を強く握りこむ。
「だからみんなには秘密にしておいて欲しいの。アースラスタッフだけでなく、研修期間がまだ残っていて、しばらくはアースラにいるフェイトとアルフにも……」
プレシアさんは絞りだすように声を出して僕達にそう言う。
11年前ってことは、クロノは当時3歳だぞ。
ハラオウン家と違うが、家族を失った辛さはプレシアさんが一番良く分かるんだろうな。
だからこそ、プレシアさんとリンディさんは仲が良くなったのかも知れないね……。
リニスの耳がぴくんと動き、周りを探るような動きをする。
「プレシア……」
「分かったわ。それじゃ、詳しい話は地球に戻って、明日の夜に話すわ」
「分かりました」
ユーノの返事を聞くとプレシアさんとリニスが頷き、結界が解かれる。
プレシアさんは手を2回叩き、重い雰囲気を和らげる。
しばらくすると食堂の扉が開き、なのは達が戻って来た。
「ふぇ〜、疲れたの〜」
「私も〜」
そう言って食堂の椅子に座りぐったりとするなのはとフェイト。
アルフは心配そうにそれを見ている。
「全く……キミ達は加減を知らないのか?」
「まぁまぁ、クロノ。それでどうだったんだい?」
「そうもこうもないよ。フェイトの新しい魔法でなのはが撃沈ってところさ」
僕の言葉に呆れるように両手を広げておどける仕草をする。
「フェイトちゃんの新魔法凄かったの!」
「そんな……母さんに教えてもらったから……」
なのはがガバッ!っと起き、笑顔でそう言う。
いや、なのははそれで撃沈したって言われてるんだよ。
フェイトはその言葉に照れているのか、顔が少し赤くなっている。
「まぁ、新魔法は今までのフェイトの魔法をベースに言うと、最大射程を犠牲に威力と発射速度を高めている感じだったが……」
「うん。プラズマスマッシャーって言うんだ。でも、まだ魔力消費も大きいから、連射は出来なくって」
「当たり前だ。あんな魔法高速移動に合わせてポンポン使われてみろ。相手をするのが大変だ」
おや、結構クロノの評価は良さそうな魔法なんだね。
プレシアさんはそれを聞いて嬉しそうにしているし、リニスもニコニコしているよ。
「まぁ、もう少し魔力運用とかの訓練をすれば、使える魔法となりそうだ。しっかり訓練するんだな」
「うん、ありがとうクロノ」
「別に僕は何もしていない。まだ研修は半分も終わってないんだ。残りの期間をしっかりやるようにと言っただけだぞ」
そう言ってソッポを向くクロノ。
研修期間で物にしろって聞こえるし、その期間はクロノが訓練に付き合うってことだろ。
しょうがない奴だな〜。
その後、僕やなのはの携帯電話をクロノが預り、メカニックに改造させる。
これでクロノ達にも電話がかけられるようになるんだってさ。
随分と便利な携帯電話になるな〜。
「機種変更したら本体は返すんじゃないぞ。ちゃんとこっちで処分するから持って来いよ!」
「分かったよ。それよりクロノのアドレス教えて」
「タローは本当に分かってるか不安だな。えっと、アドレスだけど……」
僕の携帯電話にはクロノ達、アースラスタッフの番号が登録された。
顔写真を付けておかないと誰が誰だか混乱しそうだ。
フェイトは携帯電話を持っていないので、羨ましそうにしている。
「フェイト……。研修が終わって地球に
「母さん!?」
「折角だから親子一緒のにしましょう。リニスとアルフも一緒に買いましょうね」
「はい!」
フェイトは嬉しそうに頷く。
リニスはそれを見てニコニコしているし、アルフは自分も良いのかと驚いている。
「なのは、僕も地球に帰ったら携帯電話を買いに行きたいんだけど、一緒に行ってくれないかい?」
「うん! でも、ユーノ君地球の戸籍は……?」
「それならこの間、申請がやっと降りたよ。住所はなのはの家になってるけど……」
「うん! そのままで良いの! 帰ったらお父さんやお兄ちゃん達に言わなきゃね」
嬉しそうにしているなのはの口から“お父さん”や“お兄ちゃん”の言葉が聞こえた瞬間、ユーノは身体をビクっと震えさせるが、何とか笑顔になる。
若干、怯えてるように見えるし、顔色が悪いのは気のせいだろうか?
そんな雑談混じりに会話に流され、闇の書の話はお開きとなった。
なのはに聞かせるのもここよりは地球での方が良さそうだしね。
そして地球に到着し、転送ポートで送ってもらうこととなったんだけど、フェイトが俯いて少し泣きそうだね。
僕はそんなフェイトの頭を撫でる。
「ふぇ!?」
「研修が終わって帰ってくれば、僕らは一緒の学校に通えるんだ」
「うん……」
「僕はそれを凄く楽しみに待ってるね」
「うん!」
フェイトはニッコリと笑ってくれた。
撫でるのを止め、クロノやアルフと握手をして別れる。
「それじゃ、またね」
「うん、また!」
そしてプレシアさんの部屋に戻ってきた。
この人数でいると狭いな。
なのはとユーノは直ぐに帰って行った。
あまり遅いと家族も心配するだろうしね。
「タロー、耕介が一緒に飯食ってけってさー」
帰ろうとする僕に、真雪さんが声をかける。
「そーだぞー。コースケの料理はウマイぞー」
「さぁさぁ、席に着いて着いて」
美緒さんや愛さんに勧められたので、夕御飯をご一緒させてもらう。
ここで出てきたメニューは、昨日僕が潮干狩りで採ってきたあさりやハマグリだ。
リニスが今日からさざなみ寮に住み始めるので、それの緊急歓迎会って事だった。
急に決まったことなのに、耕介さんの料理は豪勢で凄く美味しかった。
美緒さんは猫仲間が増えたと、リニスに一生懸命話しかけていた。
さすがに猫又と使い魔じゃ随分と違う気がするんだけどな。
そして、愛さんはリニスに具合が悪くなったら言ってね、と猫のように扱うのでリニスは困ってるよ。
いくら動物医院の医院長先生でも、使い魔の体の具合は見れないでしょ……。
那美さんに久遠、リスティさんに真雪さん。
みんなワイワイ騒ぎ、楽しい夕飯だね。
お酒も入りドンチャンと騒ぐので近所迷惑にならなければいいけど……って、ここの近所に家はなかったな。
あ、ちゃんと両親に連絡して、夕飯をごちそうしてもらって帰ることは伝えたよ。
連絡なしは駄目だからね。
その後、リニスの部屋の片付けとかを手伝った。
正直こんなに早く戻ってくるとは思っていなかったらしく、荷物はまだダンボールのまま……と言うよりは、デバイスに入ったまま。
1個1個取り出し、ベッドを組み立てる。
服とかを片付けるのはさすがに僕じゃ駄目だろうから、力仕事担当だね。
まぁ、1時間もしないで寝るぐらいは問題なくなったよ。
後は明日以降に片付ければ良いね。
一段落ついたので、リニスがお茶を用意し、プレシアさんの部屋で一休憩っと。