第22話 八神はやて
はやてを抱きかかえ、忘れ物を取りに八神家へ向かう。
屋根の上を飛び跳ね、電信柱や壁を足場に一直線で。
「た、タロー。ちょ、ちょっと休憩や!」
「ん? どうして?」
「私が怖いからやーー!!」
急ぎと言ったり、休憩と言ったり忙しいな。
まぁ、いいや。
とりあえず神社へ着地っと。
座れる場所にはやてを降ろし、僕も腰掛ける。
「はやて、大丈夫?」
「大丈夫なわけあるかー!! なんやねん! なんで窓から飛び出るねん! そしてなんで屋根とかピョンピョン移動するねん!」
「いや、その方が早いでしょ」
「早いとか関係あらへん! どう考えてもオカシイやろ……って、なんで何がオカシイのと言いたそうな顔でこっちを見とるんや!」
大きな声でこんなに一気に喋って、はやては元気だなー。
「その顔、元気だなーとか思ってるんやろ!」
「なんで分かったの?」
「どあほう! タローがだいたい何考えてるかみんなお見通しや! こっちの言葉を軽く流しよってからに……」
ふむ、ポーカーフェイスってヤツを覚えないと駄目かな?
はやては大きな声で喋ったので、深呼吸をして落ち着こうとしている。
「まぁ、ええわ。それよりもどないしたんや?」
「ん、なにが?」
「なにが? やあらへん。今日は朝から変やったやろ」
「そうかな?」
「あんな、タローは分かりやすいんやで。まだ、出会ってそんなに経ってへんけど、いつも見てるんやから分かるわ」
はやては軽くため息をつき、僕の顔を両手で抑える。
「タローと出会って私の生活が……人生が一転したんよ。そうしてくれた人の様子がオカシイなら、心配にもなるわ」
僕は大したことしてないんだけどな。
「また、僕は大したことしてないとか思っとるやろ。その言葉はタローにとってはそうでも、救われた側にとっては失礼やで」
「あ、うん。ごめん……」
「なんで謝るんや? タローは大したことをしてるのは、私が保証したる。ただ、それを自覚して欲しいんや」
そう言う物なのか……。
「だからその辺を踏まえて、私に今日の様子がオカシイ理由を話してくれへんか? みんなにもそうやけど、明らかに私が原因に見えたで」
「そんなつもりはなかったんだけど……でも、はやてがそう言うならそうなんだろうね」
「そうやで。ほらほら、お姉さんに話してみぃ」
茶化すようにそんな事を言うけど、目は真剣だね。
「お姉さんって、同じ学年じゃないか」
「私は来週誕生日やで。タローは?」
「僕の誕生日は10月22日だけど……」
僕の誕生日を聞いて、はやては勝ち誇った顔をする。
「ほな、4ヶ月以上も私がお姉さんやんか。だから、お姉さんには甘えてもええし、弱音も吐いてええんやで」
凄い屁理屈だな〜。
でも、はやてらしいと言うか、何と言うか……。
「はやて、ありがと」
「嫌やわ—、お礼は解決してからにしてや」
「そうだね。でも、ありがと」
「タローは相変わらず人の話を聞かへんな〜」
はやては呆れながらも笑っているね。
「それじゃ……はやてって、魔法を信じるかい?」
そこから話した。
この世界には魔導師という存在がいること。
管理世界と管理外世界のころ。
ロストロギアのこと。
「そんなファンタジー小説みたいなこと話してるけど、どの辺がタローの悩み事なんや?」
「そのロストロギアの事からなんだけど……」
ロストロギア、闇の書のこと。
はやてが持ち主とは、まだ言えないけど……。
その魔導書をどうにかしようと、僕の知り合い達が一生懸命動いていること。
だけど僕は何も出ない……。
「なんや、よう分からんけど、タローはその闇の書の主を救いたい。でも、知り合いばかりが色々やってくれて、自分は何も出来てないって思っとるんやな」
「うん……」
はやては僕のほっぺたを限界まで引っ張って、そのあとパチンと音がするような感じに離す。
「さっきも言うたように、タローはそう思っても色々やってるんやで。その知り合い達を集めたのは誰や? そして誰のために動いとるんや?」
プレシアさん、リニス、ユーノ……全部僕が居たから知り合えた……?
はやての言う通り、僕が何か出来ていたとすれば、プレシアさんとリニスの恩人って……僕?
その人の友人……僕の友人である、八神はやてを救うため?
「その顔なら少しは分かったようやね。それなら、その先は自分が出来る事をすればええことも分かるな」
「うん。はやて……ありがとう」
「まぁ、これぐらいお姉さんには昼飯前や。お腹減ったから、お昼ご飯にしようや」
そう言ってはやては、手持ちの鞄の中からお弁当を取り出す。
そういえば、今はお昼休みだったね。
「さあ、タローの分もあるから召し上がれ〜」
「いいの?」
「当たり前や! この間、アリサちゃんに負けたけど、今度はお弁当用の料理にしたんや! しっかり食べてーな」
「うん」
何だか色々申し訳ない……いや、ありがたいな。
「「いただきます」」
そしてお弁当を食べる。
前の料理も美味しかったけど、今度の料理は冷めても美味しいものとか、冷めてもしっかり味のあるものなど、とても工夫してあるね。
美味しく食べていると、はやては箸を動かしながら話し始める。
「それで、闇の書……夜天の書の主ってのは私なんやね」
「……うん?」
驚いた顔ではやてを見るけど、はやてはニコニコ笑っている。
「どう考えてもそうやろ。……全く、隠し事の下手な男やね。そんなんじゃ浮気も出来へんで」
「いや、浮気って……」
「浮気や無くて、ハーレムかいな? まぁ、それぐらいの器量を見せて欲しいもんや」
話がどんどん逸れて行ってるんだけど……。
「タローはそれだけ魅力的っちゅう話や。おっと、話が逸れてるわ。それで夜天の書の主である私は、一体何をすればええの?」
「えっと……」
「あぁ、ええでええで。タローだと上手く説明できへんやろ。プレシアさんに今度詳しく教えて貰うわ。私の誕生パーティーに連れて来て貰えるか?」
「うん、分かった。……だけど、こんな話信じられるの?」
僕の言葉にはやてはニヤリと笑う。
「タローの話だから信じられるんや。タローは私に奇跡を何度も起こしてるんやで。1人で寂しく生活していたのに、イレインっちゅう家族を与えてくれて、夢にまで見た学校生活をおくらせてくれて……」
「いや、それは……」
「そして、タローのホームランボールをキャッチしてから、足の具合もええんや。最近は全然痛みもない。石田先生……病院のお医者さんも良くはなってないけど、悪くもなってないって言ってるぐらいや」
えっと、それはホームランボールと関係有るんだろうか……?
「その出来事って関係有るの?」
「あんな私の両手にそっと入ってきて、見てみればサイン付きのホームランなんて、ツッコミどころの嵐や。その後に脚の悪くなるのが抑えてるんやったら、これのお陰やって思えるやろ」
そう言う物かね〜?
まぁ、いいか。
「そして、今度は闇の書を夜天の書に戻して、私の脚も治してくれるんやろ」
「ま、まぁ、そうだけど……」
「ほんま、そこまでやられたら、タローは私の王子様や。こんな美少女にそう言われるんやから、出来る事をしっかりやるんやで!」
そう言って僕の肩をバシバシと叩く。
はやては僕を励ましてくれているんだ。
自分が闇の書に囚われていると分かっても……。
それなら僕は僕に出来る事をすべてやらなきゃね。
「ほな、お弁当も食べ終わったし、授業が始まる前に学校に戻るで〜」
「え? 忘れ物はどうするの?」
「そんなのタローを連れ出して、2人きりで話す口実や。それに気が付かないのはタローぐらいやろうけどね」
はぁ〜、そうだったのか〜。
それなら学校に戻らないとね。
「ほな、また帰りもお姫様抱っこでよろしゅうな……王子様」
「はいはい、姫の仰せのままに」
はやてを抱きかかえ、最短距離で学校へ戻る。
はやては行きと違い、帰りはキャッキャッと楽しんでいる。
ジェットコースターとは違うんだけどな〜。
空いている教室の窓から帰還っと。
そこには三人娘が待っていた。
いや、もうはやてもここに混ざってるから、四人娘って言うべきなのかな?
「タロー、おかえり」
「ただいま」
「それよりも、早くはやてを降ろしなさいよ!」
アリサの言葉でイレインが車椅子を僕の側に用意する。
僕はそっとそこにはやてを座らせる。
「なんや、いつまでもあのままで良かったのに〜」
「ダメよ。貸したのは昼休みだけだもの」
「……私のもんにするで」
「嫌よ。もう既に私の物なの!」
はやてとアリサの間で見えない火花が飛び散る。
2人は一体何を言ってるんだろうかね……?