第23話 話し合い
何だかはやてに凄く慰められたというか……何と言うか……。
恥ずかしいところを見せたもんだ。
参った参った。
午後の授業も無事に終えて、放課後の野球の練習を実施。
汗をかいて頭をスッキリさせる。
悩み過ぎは僕に良くないな。
考えるんじゃない、感じるんだ! と昔の凄い人も言ってますしね。
気分良く練習も終えて帰宅。
今日の夜はプレシアさんのところで、ユーノも来て話をすることとなっていたね。
とりあえず向かうかな。
耕介さん達に挨拶をして、プレシアさんの部屋にお邪魔する。
リニスがお茶を用意してくれて、しばらくするとユーノがやってきた。
「昨日に続いて悪いわね」
「いえ、僕も気になってることですし、友のために動きたい気持ちがありますからね」
そう言ってユーノは僕の方を見る。
本当にありがたいな。
「それじゃ、闇の書……いえ、夜天の書の主の話をするわよ」
そしてプレシアさんは語る。
夜天の書の主が八神はやてと……。
そしてはやてが僕達と同級生で、友達であることも。
まだ闇の書は発動していないけど、魔導師が海鳴市に侵入し、八神家を監視している。
「以上よ。質問はあるかしら?」
「いえ、今の時点ではありません。夜天の書自体のことは分かっていても、主の情報、監視している魔導師の情報……色々と必要ですね」
プレシアさんとユーノが意見交換を始めたけど、ここは僕の話を聞いてもらっておこう。
「あの、6月4日の月曜日がはやての誕生日なんだ。で、前日の日曜日に八神家で誕生パーティをやる予定になってる。そこにプレシアさんとリニスを連れて来てってさ」
「あ、僕もなのはから誕生パーティの事を聞いてるよ。もちろん行くつもりだよ」
「誘われた以上は私達も行くわ。問題は監視している魔導師ね……」
プレシアさんとユーノとしてはその魔導師に気が付かれないのが良いと言うんだけど、やっぱりその方法が難しいみたいだ。
「その魔導師を捕まえちゃうってのは駄目なの?」
「実力が分からない相手よ。あの隠蔽力の高さだけを見ても、かなりの手練れと判断しても良いわ」
「それに捕まえるというのは監視に気が付いているとバラすも同然だよ。それは意味が無いんじゃない?」
僕の意見にプレシアさんとユーノが直ぐに答える。
さてどうすれば良い……。
「とりあえずその魔導師の監視を実施しましょう。リニス、頼めるわね」
「はい、お任せください」
時間が遅いので、今日の話し合いはこれにて解散となった。
リニスは監視のために猫形態となり、八神家に向かっていった。
次の日。
いつものように学校へ行き、みんなとお昼ご飯を一緒に食べる。
「そう言えば、プレシアさんとリニスもはやての誕生パーティーは来れるってさ」
「そうなん? ありがとうな」
「あ、ユーノ君も大丈夫って言ってたの」
「そうすると合計で……9人になるわね。はやての家はその人数は大丈夫なの?」
「うん。私の家は無駄に広いから平気やで」
その後、誰が料理をするかとか色々話し合った。
はやてがトップクラスで料理が上手いが、今回は主賓だから大人しくしてて貰わないとね。
そう言う訳で料理担当はイレインとリニス、最近腕を上げてきたプレシアさんの3人に決まった。
後でプレシアさん達に伝えるのは僕の仕事のようだけどね。
そんな昼休みも終えて、放課後はいつもの様に野球の練習。
いつもの様に良い汗をかいたよ。
夜にはさざなみ寮へ電話して、プレシアさんに誕生パーティの料理担当の件を伝える。
妙に張り切った返事が貰えたよ。
フェイトの誕生パーティーの予行練習だねって、言ったのがいけなかったかな?
その電話を切った後、ずっと悩んでいた事を実行に移す。
僕は僕の出来る事をしっかりとやらないとね。
そしてある相手に電話をかける……。
ガチャ
「もしもし、クロノだが……タローかい?」
「あぁ、クロノ。僕だ、タローだよ。夜分にゴメンな」
「いや、いいよ。一息つこうとしていた所だから」
「仕事中に悪いね」
「アースラに乗ってると毎日が仕事みたいなものだから、あまり気にしないでくれ」
クロノは弱々しく笑って答える。
24時間拘束だもんな。
「それで、なんの厄介事かい?」
「おいおい、酷いな。僕の電話は厄介事しか想像できないのか?」
「ははは、そんなもんさ。それで、ただ僕の声が聞きたいって訳ではないんだろ」
「そんな気持ち悪いことは言わないよ。それにしても、クロノはお見通しか……」
僕は咳払いをして、真面目に話し始める。
「ここから話す言葉は管理局執務官クロノ・ハラオウンに対してではなく、僕の友人であるクロノ個人に対してだ」
「……分かった」
「まずはプライバシーの侵害の謝罪から。ちょっとしたことから、クロノの父親の死んだ11年前に起きた事故のことを全て知ったよ。それに関わったロストロギアのことも」
僕の言葉に電話の向こうからゴクリとツバの飲み込む音が聞こえた。
「ロストロギア、闇の書……」
その後クロノは黙って僕の話を聞いてくれた。
闇の書の真実、夜天の魔導書のこと。
プレシアさん、リニス、ユーノから聞いたことを僕なりに分かりやすく伝える。
そして、闇の書を夜天の魔導書に戻したいと……。
それを話し終えると暫く沈黙が続くが、やがてクロノが口を開く。
「やっぱり厄介事じゃないか。前回はジュエルシード、今回は夜天の魔導書だぞ」
「クロノが闇の書の被害者の1人だと言うことは分かってる……」
僕の言葉をクロノが遮る。
「みなまで言うな。確かに僕は闇の書を恨んでいる。母さんもあの事件の後、随分と弱っていたしね」
やはり家族を失った恨みは強いか。
プレシアさんがアリシアを失い狂ってしまったのと同じだよな。
「おい、タロー。何、黙ってるんだ? 僕は闇の書に対してはそうだけど、夜天の魔導書には恨みはないぞ」
「え?」
クロノの言葉に思わず声を出してしまう。
何が言いたいんだ?
「タローは闇の書を夜天の魔導書に戻したいんだろ。闇の書がなければ僕の恨みなんて行く宛がなくなるものさ」
「……僕から話をしておいてなんだけど、クロノはそれでイイのかい?」
「僕個人はタローの友人だ。そしてタローの友人が、今回の闇の書の主なんだろ」
「言ってないのに良く分かるね」
僕の言葉に呆れたようにため息をつく。
「本気で言ってるならキミは馬鹿だな。いや、そんな事以前に馬鹿だったな」
おいおい、酷いことを言うな〜。
「まぁ、そんなものどうでも良いさ。タローの友達なら、僕の友達でもある。君が普段やるように、友達を救うのに理由なんていらないだろ」
「クロノ……」
「僕に何が出来るか分からないけど、今度地球に行くからその時に詳しく話をしようか」
その後クロノは話は変わるが……と前置きをして話を始めた。
ハラオウン家は地球に引っ越す予定があって、休みの時に物件を見に来る。
そして、フェイト達も研修中だけど休みがあって、母親に会いに行くかも。
ついでだけど、その時までにテスタロッサ家の地球の戸籍も用意させると。
要するに、みんなで地球に来るってことか。
「そっか……。それじゃ僕は待ってれば良いのかな?」
「そうだな。僕らの戸籍もついでに出させるように、頑張ってこれから書類作成するよ」
「おいおい、あまり無理するなよ」
「大丈夫だ、問題ない。エイミィにも手伝わせるから」
……エイミィ南無。
「それじゃ、急ぐからまたな」
「うん、またな」
クロノとの電話を終わらせる。
あいつ、無理しなきゃいいけど……。
次の日の夜、プレシアさんから呼び出しがあり、さざなみ寮に僕とユーノが集まる。
「わざわざ呼び出して悪かったわね」
「いえ、別に大丈夫です。今回も闇の書の件ですよね……」
ユーノの言葉にプレシアさんは頷く。
プレシアさんは手元のキーボードを打ち、空中モニタを展開する。
「八神家を監視している魔導師が分かったわ」
画面には一匹の猫が映っている。
当然、リニスではない猫だね。
そして、魔導師が動物ってことは……。
「使い魔ですか」
「そうよユーノ。アレは誰のだか分からないけど、リニスクラスの高レベルな使い魔よ」
「使い魔は主の魔力によって強さが変わる。つまりアレの主はプレシアさんクラス……」
「え、ちょと待って! プレシアさんって確か、魔導師ランクSSですよね。ってことは……」
「そうよ。あの使い魔を仕向けた相手は、最低でもSランクオーバーの魔導師よ」
……藪をつついたら蛇でなく龍が出てきたってこと!?