第25話 海鳴マーリンズ
今日は野球の試合。
久しぶりにスタメンで出られると良いな。
「よ、タロー早いな」
「田中先輩」
「前の試合からちゃんと練習に出るようになってるから、今回の先頭打者はまたお前に戻るかな?」
「ノムさん次第なんで何とも……」
僕の返事に田中先輩は笑い出す。
「どう考えてもマーリンズで一番の実力者はお前だ。だからこそ、練習に出ていればお前が一番打者なんだよ」
「そうなんですか?」
「自覚のない奴は怖いね。お前と一緒にピッチャーを引っ掻き回すのが俺の楽しみなんだぜ。だからしっかり練習に来いよ」
「はい」
田中先輩は相手投手のストライクゾーンぎりぎりの際どいボールをカットして球数を増やし、四死球を多く選んで高い出塁率を誇る。
98年頃の石井琢朗みたいな選手なんだ。
僕は出塁率が抜群に高いので、お互いに一番打者としての資質を持っていると言われる。
監督であるノムさんは、僕が一番で出塁し、田中先輩が二番で更に引っ掻き回すと言う感じに使ってるんだよね。
他のみんなも徐々に揃ってきて、アップを始める。
その頃にはアリサやはやて達も観客としてやってきた。
僕に気がついたようなので手を振って応える。
「おい、タロー。今日もお前のお陰で可愛い子の応援がいるんだな」
「佐藤先輩、僕のお陰ってなんですか?」
佐藤先輩は僕の返事を聞き、両手を広げてやれやれと言う。
「聖祥学園の美少女たち。知らないとは言わせないぜ」
「……いえ、知りませんが」
「おいおいおいおい。お前さんと同じクラスの三人娘……いや、新たに薄幸の美少女っぽい車椅子の少女も入って四人娘と言えば有名だろ〜」
四人娘……アリサとすずかとなのは、そして車椅子と言うとはやて……あ、4人だ。
「あのメンバーのこと?」
「そうだよ! なんでお前は分からないんだ!? まぁ、彼女たちが見てるなら、俺は張り切ってボールを投げるぜ!」
そう言って投球練習に行ってしまった。
佐藤先輩って、観客が多いとテンションが上がって、キレのある球を投げる良いピッチャーになるんだよね〜。
まぁ、何でもちゃんとやってくれればどうでもイイんだけどさ。
しばらくすると監督がみんなを集めスタメンを発表する。
海鳴マーリンズ
1番 一ノ瀬(9)
2番 田中 (6)
3番 山南 (2)
4番 川村 (3)
5番 伊藤 (5)
6番 山崎 (4)
7番 渡辺 (8)
8番 高橋 (7)
9番 佐藤 (1)
よし、スタメン一番打者だ。
そして試合が始まる……。
初回から僕と田中先輩で弾数を増やした上で出塁し、更にそこから盗塁してピッチャーを引っ掻き回す。
山南先輩は確実に犠牲フライを打って得点し、川村先輩と伊藤先輩で打ち崩す。
1out、1塁2塁。
既に2点が入っており、ピッチャーも弱気になって行く。
続く山崎先輩はしっかりと球を見てファーボールで出塁。
満塁のところ、渡辺先輩が外野深く打ち上げ、犠牲フライで更に得点。
高橋先輩は三振でチェンジ。
初回から3得点と有利に立った。
投げては応援があるせいか、佐藤先輩はキレキレで三振の山を築く。
今日は完全に完勝ペースだ。
「佐藤、お前今日は絶好調だな」
「なんだよ山南。可愛い女神たちが見ているなら、俺は常に最高のパフォーマンスをするだけさ」
きっとみんな思っている。
いつも真面目に投げろよと……。
「タロー、頑張りなさいよー!」
「タロー、私の誕生日プレゼントのホームランはまだか〜?」
アリサとはやての応援が響く。
お陰で相手チームから殺気が漏れている気がするんだけど……。
いや、味方からもか!?
「みんながんばってー」
そんな時にすずかの応援が聞こえる。
味方からの殺気は霧散した。
先輩たちって……もしかして単純?
「がんばってなのー」
「「「「「「「「がんばるよー!!」」」」」」」」
「がんばれー」
「「「「「「「「ち、彼女持ちは散れ(ぼそ)」」」」」」」」
みんなのやる気と殺意が混ざり合い、チームのテンションはMAXだ!
結局5回コールド勝ちになってしまい、僕はホームランを打ち損ねてしまいました。
ちなみに佐藤先輩が10奪三振とか訳の分からない状態です。
毎回みんなに応援を頼んだら、このチームって負けないんじゃないかと思う今日この頃……。
解散してみんなの元へ行く。
「ただいま〜」
「タロー、おかえり。相変わらず凄い活躍ね」
「みんなが応援してくれたからだよ」
「と、当然よね。あたしはいつも応援してるから、いつもその調子で活躍しなさいよね」
照れたようにそっぽを向くアリサ。
「でも、私の誕生日ホームラン打たへんかったな〜」
「ごめんね。みんな調子が良くて、打順が1つ回って来なかったんだよ」
「残念やわ〜」
「後で言うこと聞くから勘弁してよ」
「その約束貰ったで!」
僕の言葉にはやての眼が光る!?
これは迂闊だったかな……。
「計画通り(ぼそ)」
俯きニヤリと笑うはやて。
いや、聞こえてるから……。
「タロー、あたしにも誕生日の時に言うこと聞きなさいよ!」
「えっと、ホームランとか関係なしに?」
「そうよ。タローの活躍はあたしの応援でバランスが取れてるんだから、それとは別に用意するのよ!」
「アリサちゃん、それは強引……」
アリサのトンデモ理論にすずかがボソッとツッコむ。
ツッコミ担当のはやては……僕に何をさせるか考えていて、それどころじゃなさそうだ。
「ユーノ君、私もお願いがあるんだけどな〜」
「なのはのお願いなら、誕生日関係なく聞くよ」
「でも、誕生日プレゼントって方が、何となく特別で良いの」
「じゃあ、それはそれで聞くよ。他にいつでも聞くけどさ」
……こっちは放っておこう。
「ご主人様。私は製造日が誕生日でイイのでしょうか? 正直いつ作られたかまで分からないのですけど……」
イレインまで乗っかってきた。
「流石にそれは分からないから、自分で決めちゃえば良いんじゃない?」
「そうですね。それでは、5月2日としましょう。来年の誕生日を楽しみにしています」
「てっきりこの流れならすぐに来る日にちにして、僕に誕生日プレゼントをねだるかと思ったんだけど……」
僕の言葉に首を左右に振るイレイン。
そして、自分の左胸に手を当てて口を開く。
「それは魅力的ですが……。私にとって5月2日と言う日は、とても大切な日なのです」
「それならイイんじゃないかな。後でさくらさんにも伝えてあげなよ」
「はい」
イレインは嬉しそうに頷く。
完全に人間だよね。
金属パーツが多いから重量があるだ……殺気!?
「タロー、あたしの言ってること聞いてるの?」
「あ、ああ」
「良いのね。やったー!」
あ、普通に返事してしまった。
まぁ、いいけどさ。
ついでにみんなの誕生日を聞いたり、僕の誕生日を教えたりしたよ。
試合は午前中で、お昼を挟んで午後からは練習。
他のみんなも午後は予定があるから丁度いいんだけどさ。
なのはとユーノは翠屋の手伝い、アリサとすずかは習い事。
はやてとイレインは病院へ行き、その後はプレシアさんと明日の食材を買いに行くそうだ。
とりあえずお昼ご飯を何処で食べようかと言うと、アリサとはやてがお弁当を出してきた。
「朝早く起きたから、卵焼きをいっぱい作って来たわよ」
「私も朝から頑張ったんやで! 今度の卵焼きは一味違うんや」
「ふ、2人とも落ち着いて……」
見えない火花を散らせるアリサとはやて。
それをわたわたと止めようとするすずか。
まぁ、そんな事で止まる2人じゃないんだろうけどさ。
お弁当を見ると色々な卵焼きがある。
2人してこだわったのかな?
前回美味しく食べたダシ入り卵焼き。
コーンビーフの入ったもの、チーズの入ったもの、ひき肉、人参、じゃがいもと色々入ったもの……。
変わり種では、ほんのりワサビ味や、ほんのりショウガ味とかがあったよ。
どれも美味しかったよ。
他のおかずも美味しい物ばかりで、いっぱい食べさせていただきました。
お弁当なのに肉じゃがとか、鶏肉のトマト煮込みとか食べれるとは思わなかったよ。
なのはが食べるごとにアリサとはやてに作り方を聞いていたけど、ユーノに作ってあげるのかな?
「さあ、タロー!」
「どっちの卵焼きが美味しかったんや!」
そして食べている途中に2人に詰め寄られた僕。
なんで凄い迫力を出しているんだろう……?
「どっちもお……」
「「どっちも美味しかったってのはなし!」」
「…………」
「ふ、2人ともー」
引き分けをキャンセルされました。
すずかが落ち着かせようとしているけど、無理だろうな〜。
「えっと、普通のダシ入り卵焼きはアリサの方が美味しかったけど、他の色々な卵焼きははやてが作った方が美味しかったよ」
「「…………」」
「そう言う引き分けじゃ……駄目?」
2人はしばらく悩んでいたけど、お互いに笑いながら握手をした。
「さすがはやて、なかなかやるわね」
「アリサちゃんも料理歴が短いのに、ここまでやるとはな〜」
ニコやかに握手しているはずなのに、何だか雰囲気が怖い気がするのって僕だけでしょうか?
それを横目に、すずかがおかずを箸で掴み僕の方に差し出してきた。
「はい、タロー君。あーん」
「あーん」
つい反射で食べちゃった。
まぁ、美味しいから良いけどね。
「「あーー!!」」
「2人とも騒ぐと埃が舞うよ。大人しく食べな〜」
アリサとはやてが悔しそうな顔ですずかを見るけど、すずかは涼しい顔で知らんぷりしている。
横を見れば、なのはに食べさせてもらっているユーノがいるから、こういうのは普通なんだろうか?
野球の話を書くのが何気に一番難しかったりするんですよね。
そこに書き込んでしまうと、テンポが悪くなって先に進まない。
まぁ、今回は誕生パーティーまでのつなぎの話なんで、これぐらいで良いかなと。
この話をまるまる削って、ストーリーを進めようかと思っていたのは、ここだけの話です。
一応参考に打順の後ろにある番号ですけど、以下の通りになっています。
1:投手(P)
2:捕手(C)
3:一塁手(1B)
4:二塁手(2B)
5:三塁手(3B)
6:遊撃手(SS)
7:左翼手(LF)
8:中堅手(CF)
9:右翼手(RF)
主要メンバーの誕生日ですけど、はやて以外原作設定がないので、この小説のオリジナル設定として決めたものも載せておきます。
なのはの誕生日は、とらハの設定から持って来ましたけどね。
ユーノ……4月9日
はやて……6月4日
アリサ……8月31日
タロー……10月22日
すずか……12月1日
なのは……3月15日
イレイン……5月2日