第1話 誕生日
誕生パーティーは盛大に行われ、はやては喜んでくれたようだ。
そしてみんなが帰ったので、魔法のことから闇の書に対する今後の方針をプレシアさんが説明した。
それによって、結構いい時間になっちゃったな。
「プレシアさんとリニスさん、もし宜しければ泊まって行きませんか?」
はやてが急にそんな事を言い出す。
「色々と話を聞いて不安もあるんです。監視している魔導師が戻ってきたら怖いですし、魔法を使える人が側に居てくれると今夜は安心できそうですし……」
はやては不安そうに言う。
色々と聞いて動揺しちゃったか……。
それも仕方がないよね。
「明日は学校ですけど、ゆっくりしていってもらえると嬉しいです」
色々話されて混乱してるから、誰かにいて欲しいのかな?
「タローは昨日の言うことを聞くっちゅう話やったな。お願いごととして、私と一緒に寝よ」
「うん……うん?」
あれ、僕のは何だか違うんじゃないか?
僕が首を傾げると、プレシアさんが口を開く。
「ええ、泊まるのは良いわよ。リニスは一回帰って私達の着替えと、タローの着替え、学校の準備を用意してきて」
「はい、わかりました」
プレシアさんの言葉にリニスは頷き、直ぐに玄関から外へ出て行く。
「イレインはお風呂とお布団の準備や。頼んだで〜」
「はい」
そう言ってリビングからイレインも出て行く。
そんな事よりも……。
「はやて。僕も泊まるのは良いけど、なんで一緒に寝るの?」
「えっと……その……後で話すわ。とりあえずお風呂行ってくるわ」
そう言ってはやてはリビングから出て行ってしまった。
プレシアさんはどこからか杖を取り出している。
「今夜のことを考えると、何かあってもおかしくないわね。特にあの子の誕生日は明日なんでしょ」
「そうですね。今日は誕生日の前日です」
「じゃあ、私は少し小細工をしてくるわ」
そう言ってプレシアさんもリビングから出て行ってしまう。
一体何をやるんだろう?
しばらくすると、みんなリビングに戻ってきた。
はやてとイレインはお風呂上りだね。
イレインってお風呂入っても錆びないのかな?
「ご主人様。私は防水加工完璧です」
「あ、そうなの? ……僕、口に出してないよね」
「そんな顔で見られていたら、ご主人様の考えぐらい想像付きます」
そうなのか……。
まぁ、謎が解けたから良いや。
プレシアさんとリニスがお風呂に入りに行った。
僕は最後に1人で入るのさ。
「そう言えば、一緒に寝る理由は今なら話せるかい?」
「うん……。正直、怖いねん」
「闇の書の事とか?」
僕の言葉に対し左右に首を振るはやて。
じゃあ、何が?
「あのな、私は今になってやっと幸せなんや。でも、それが夢なんじゃないかと……寝たらまた一人になってしまうんやないかと……」
はやては俯き身体が震えている。
僕はそっとはやての頭を撫でる。
「ごめん、無理に言わせて。分かった、僕で良ければ一緒に寝るよ。変な夢なら起こしてあげるさ」
「うん……ありがとうな」
頭を撫でるのをやめるとはやてが文句をいうので、プレシアさん達がお風呂から帰ってくるまで撫で続けた。
意外と疲れるんだけど……。
最後に僕がお風呂に入り、リビングに戻るとはやてしか居ない。
「あれ、みんなは?」
「プレシアさんとリニスさんは寝たで。イレインは片付けしに行ってもうた」
アクビしながらはやてが応える。
もう眠いんだな。
「じゃあ僕達も寝ようか。明日学校で眠そうにしてたら怒られちゃうからさ」
「そうやね。じゃあ、よろしゅうな」
はやてはそう言って両腕を僕に対して広げてくる。
抱きかかえろってことか……。
まぁ、仕方がないね。
「よいしょっと」
「こら! レディーに対してその掛け声は失礼やろ!」
「いやぁ……つい」
「ほんとタローはデリカシーってもんがないんやな。ちゃんと優しく連れて行くんや」
「はいはい、お姫様」
そう言ってはやての部屋へ連れて行き、ベッドに優しく降ろす。
布団をかけて、僕はベッドの端っこに寝転がる。
「もっと近くでもええんやで。そこやと落ちるやろ」
「いや、さすがに近すぎるのもなんだから……ね」
「タローは変なところでアレやな。まぁ、ええわ。ほな、おやすみ」
「うん、おやすみ」
そう言って目を瞑る。
直ぐにはやての寝息が聞こえてきた。
誕生パーティーだからって、はしゃぎ過ぎたんだろうな。
さて、僕も寝るか……。
妙な気配で目が覚める。
はやてが寝る前にしまった闇の書が光り輝き、本棚から勝手に出てきた。
「うーん、なんやねん……」
その光ではやてが目を覚まして身体を起こすが、まだ寝ぼけてるようだね。
部屋の真ん中で浮いている闇の書が、鎖を引きちぎって勢い良く開く。
そして白いページが次々とめくられていく。
『封印を解除します』
666頁の白紙のページがめくれた後に本が閉じ、表紙を前にして闇の書がはやての目の前に浮かぶ。
寝ぼけていたはやても完全に目を覚ましたようだ。
『起動』
部屋が黒い光りに包まれ、見たことのない魔法陣が現れ、4人がその魔法陣から出てきたように見える。
その4人は片膝をつき、頭を垂れていて、部屋に広がっていた光が収まる。
「闇の書の起動を確認しました」
「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士でございます」
「夜天の主の下に集いし雲」
「ヴォルケンリッター。なんなりと命令を」
桃色の髪をポニーテールにした女性、金髪の髪を肩あたりまで伸ばした女性、犬の耳と尻尾を付けた白髪の男性、赤い髪を三つ編みで二つにわけた小さい女の子。
その4人が次々と言葉を述べた。
「きゅう」
あ、はやてが気絶した。
倒れないようにそっと支える。
「……主?」
桃色の髪の女性が不安そうに声を出す。
「あ、ちょっと待ってね。はやてが気絶しちゃったから」
「何!? そして貴様は何者だ!」
4人が急に立ち上がり、戦闘態勢を取る。
その瞬間、4人は紫色のロープで縛り上げられた。
「何!?」
「バインドだと!」
「クラールヴィントが反応出来なかった!?」
「お前これを外せー!!」
4人が叫ぶけど、今は夜だから静かにして欲しいな。
でも、何だかこの空間って結界の中みたいな感じがするんだけど……。
そう思っていると部屋の扉が開き、プレシアさん達3名が入ってきた。
「このバインドは貴様か!」
「ええそうよ。この空間で敵意を抱くと発動する魔法よ。敵意を抱かなければ外れるから安心なさい」
プレシアさんがそう言っているうちに、イレインがはやてを抱きかかえる。
「貴様! 我が主をどうするつもりだ!」
「とりあえず落ち着きなさいな。結界を張ってあるとはいえ、騒がれるのは好きじゃないのよ」
「こんなバインド……あたしが引きちぎってやる……」
プレシアさんの言葉を無視して、小さい女の子がバインドを引きちぎろうとするけど、ビクともしない。
それを横目に白髪の男性は目を瞑り、精神を落ち着かせるように長く息を吐く。
そうするとその男のバインドが消える。
「ザフィーラ!?」
「良くやった! 早く主を!!」
金髪の女性と桃色の髪の女性が言葉を発するが、ザフィーラと呼ばれた白髪の男は手で制す。
「落ち着け。この女の言うとおり敵意を抱かなければ自然と解ける」
「「「!?」」」
その言葉に驚きつつも、3人は目を瞑りザフィーラがやったように長く息を吐き精神を落ち着かせようとする。
それにより3人のバインドも解けた。
「ホントだ……なんなんだこの魔法?」
「そんな事より落ち着いたならリビングへ行くわよ。こんな狭い場所で話なんて出来ないわ」
小さい女の子の疑問にプレシアさんは答えもせず部屋を出て行く。
イレインはその騒ぎのうちに、部屋から出て行ってしまっている。
「とりあえず、リビングに行かない? ここにいても訳が分からないでしょ」
「タロー、4人を連れてきてくださいね。私ははやてに治療魔法をかけてますから」
「私も治療魔法が使えます! 私も主を見せて貰っても良いですか」
リニスの言葉に金髪の女性が慌てて声を出す。
リニスは少し驚いた顔をするけど、優しく微笑む。
「ええ、良いですよ。リビングへ行きましょ」
「はい!」
「シャマル!」
部屋から出ようとする金髪の女性に、小さい女の子が声をあげる。
その瞬間、小さい女の子はバインドで縛られ動けなくなる。
「ヴィータ落ち着け。まだ結界は解かれて居ない」
ザフィーラがそう言うと、ヴィータが目を瞑って落ち着こうとする。
「とりあえずリビングに行きましょう。お互いに意思を伝える言葉があるんですから、落ち着いて話しあいましょう」
「うむ、分かった。シグナム、ヴィータもそれで良いな」
「ああ」
「分かったよ……。だけど主に何かあったらぶっ潰すからな!」
シグナムは頷くが、ヴィータは僕を睨みつけている。
「僕がはやてに何かするわけ無いだろ。まぁ、今は信じて貰えないだろうけどさ」
そしてリビングに行くと、ソファーに寝かされたはやてに対し、リニスとシャマルが治療魔法と思われるものをかけている。
イレインはお茶の準備をし、プレシアさんは僕達が来たのを確認し杖で床をトンと叩く。
それにより、さっきまで感じていた結界の気配がなくなった。
そして、治療魔法の効果が出てきたのか、はやてがゆっくりを目を開ける……。