第2話 ヴォルケンリッター
ついに闇の書が起動した。
そしてそれに伴い現れた4人。
桃色の髪をポニーテールにした女性、金髪の髪を肩あたりまで伸ばした女性、犬の耳と尻尾を付けた白髪の男性、赤い髪を三つ編みで二つにわけた小さい女の子。
シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータと仲間内で呼び合っているが、まだ自己紹介もできていない状態なんだよね。
はやては闇の書の起動と同時に気絶しちゃったし……。
プレシアさんの結界により無力化された4名。
そして、落ち着かせてからリビングへ移動させる。
気絶していたはやてが治癒魔法によって目が覚める……。
「おはよぉさん。なんか本が光って人が出てきた夢を見たんや……」
「いや、それ夢じゃないから。ほら、そこにいるでしょ」
はやての視線が闇の書から出てきた4名に向く。
はやての視線が向いた事により、その4人は片膝をつき、頭(こうべ)を垂(た)れる。
「烈火の将 剣の騎士シグナム」
「紅の鉄騎 鉄槌の騎士ヴィータ」
「風の癒し手 湖の騎士シャマル」
「蒼き狼 盾の守護獣ザフィーラ」
「「「「我らヴォルケンリッター。闇の書の主を守り、その敵を打ち倒すのが役目。」」」」
一応自己紹介なのかな?
はやてはアワアワ言ってるけど……。
「とりあえず僕達も自己紹介をしないといけないんじゃないかな?」
僕の言葉を聞きはやては頷く。
「そ、そやね。私は八神はやて、夜天の魔導書の主っちゅうヤツや」
「僕の名前は一ノ瀬太郎……野球選手さ!」
はやてと僕の自己紹介に続いて、プレシアさん達が前に出る。
「プレシア・テスタロッサよ」
「プレシアの使い魔、リニスと申します」
「八神家メイドのイレインです」
ヴォルケンリッターの4名は落ち着いているようだが、僕達に対して警戒を解いていないね。
そんな緊迫した空気の中、はやてがヴォルケンリッターに対して優しく言葉をかける。
「とりあえず頭をあげてぇな。ここに居る人達はみんな私の味方なんや。警戒は解いて大丈夫やで」
「ですが主、そこのプレシアと言う者の魔法は脅威かと……」
「それは私達のためや。これから色々と話し合いをするのに、みんなは警戒を解いて欲しいんや」
はやての言葉に動揺が走るヴォルケンリッター。
少し戸惑いながらも4名は頭を上げた。
「やっと顔を見せてくれたんね」
はやては4名に微笑みかける。
それにより、やっと緊迫した空気が緩んだ感じがするね。
「イレイン、みんなに飲み物を頼むで」
「はい、少々お待ち下さい」
はやての言葉にイレインとリニスは台所へ移動する。
プレシアさんはデバイスの杖を待機状態のカードへ変換し、テーブルの上に置く。
「和平の使者なら槍は持たない……そんな小話のオチがベルカにはあったわよね」
プレシアさんはそんな事を言うんだけど、どんな小話なのかが気になるんですけど……。
ヴォルケンリッターはその言葉を聞いて顔を見合わせる。
(おい、アレって諺じゃなかったっけか?)
(ヴィータ……本当にアレは小話のオチだぞ)
(ヴィータちゃん……)
(ザフィーラは知っていたのか?)
(詳しい話の内容は覚えておらぬが、分かり合うのに武器は必要ない、王は拳で語るのみだって話だったはずだが……)
ベルカの王様ってみんな脳筋なのか?
(それじゃ、素手でこいつと殴れば良いのか?)
((((いや、それは止めておけ))))
「ちなみに小話の通り、拳で語り合うのは御免よ。ベルカの騎士に1対1で接近戦をするなんて無理よ」
プレシアさんはそう言って両手を上げ、手のひらを4人に見せ、戦意がない事を表す。
「とりあえず戦闘の意思はないと言うのが、分かってもらえると嬉しいわ」
その言葉を聞き、4名はまた顔を見合わるが、今度は頷く。
シグナムが前に出てテーブルの上にミニチュアの剣を置く。
「これが私のデバイス、レヴァンティンの待機状態だ」
それに続き、ヴィータはミニチュアのハンマー、シャマルは鎖を通した4つの金の輪をテーブルに置く。
「私は守護獣のためデバイスは持っておらぬ。しかし、話し合いが終わるまで拳はけして握らぬと誓おう」
ザフィーラはそう言い、両手を開いて見せる。
その言葉を聞き、プレシアさん達はホッとし、はやては微笑む。
「ほな、これでゆっくり話が出来るな〜。みんな楽にしてえな」
「しかし我らは主に従う者として……」
返事をするのは代表っぽいシグナムのようだけど、はやての言葉に戸惑ってるね。
「その、主っちゅうのも止めや! 私は八神はやて……はやてって呼んでえな」
「しかし我らは人間ではありません。闇の書のプログラムの1つ……魔法生命体です」
その言葉にリニスとイレインは言葉を発しようとするが、プレシアさんに止められる。
2人とも人間ではないからなー。
だから何? って感じなんだけど、そういうものでもないのか。
「タロー、ちょい移動手伝ってえな」
「うん」
はやての言葉に僕がはやてを抱き上げ、指示されたようにシグナム達の元へ移動する。
そしてシグナムの頬を優しく撫でる。
「魔法生命体だか何だか分からへんが、こうやって私は触ることが出来る。話すことが出来る。そんな事言ったらウチには機械人形って分類のイレインがおる」
そう言ってイレインを優しい目で見るはやて。
イレインもはやてに対して微笑む。
「でも、イレインは家族みたいなもんや。シグナム達がその程度の理由で、私と家族になれないはずあらへん!」
その言葉に驚く4人。
「人間かどうかなんてどうでもええんや。そこにいるタローなんて幽霊を2人も口説いたって言ってたで」
「いや、口説いてないから」
イキナリ振られたので、思わず普通に返す。
「でも、友達になったんやろ」
「そうだね。幽霊だから、人間じゃないからって……僕は差別はしないよ」
「ほらな。こんなアホもおるんやで」
僕の返事に満足したはやて。
でも、アホ呼ばわりは酷くないか?
「だから、ちゃんと個人として……」
はやてはシグナムの瞳を見つめる。
「シグナムはシグナムとしておればええ」
そして残りの3名の瞳も順次見つめていく。
「ヴィータはヴィータとして、シャマルはシャマルとして、ザフィーラはザフィーラとして……」
みんなの顔を見渡す。
「私、八神はやての家族となるんや!」
「「「「はい、我が主!」」」」
片膝をつき、頭を垂れ、返事をする4名。
しかし、はやては首を左右に振る。
「あかんあかん。もう私たちは家族や。だから主とか無しや!」
4人は顔を見合わせ、普通に座リ直す。
「はい、主はやて」
「シ・グ・ナ・ム!」
少し怒ったような口調でシグナムを見るはやて。
その言葉に遠慮しつつも、シグナムは改めて口を開く。
「……はやて」
「うん、よろしゅうなシグナム」
そして次はヴィータの顔を見る。
「うん、はやて!」
「うん、ヴィータもよろしゅうな」
次はシャマルを見る。
「はい、はやてちゃん」
「うんうん、シャマルもよろしゅうな」
最後にザフィーラを見る。
「主はやて……はやて」
「うん。ザフィーラよろしゅうな」
主を名前で呼ぶのに抵抗があるようで、ザフィーラは主を付けてしまったが、その瞬間3名からの痛いほどの視線と、怒ったはやての視線を受ける。
さすがにザフィーラも耐えられず、諦めて名前を呼んだね。
その言葉を聞き笑顔になったはやてを見て、ザフィーラの顔も優しく微笑んだ。
これなら言ったかいもあるってもんでしょ。
「さて、私の八神ファミリーに4名も追加となった訳やけど、お互いに詳しい話をしようか」
「「「「はい」」」」
はやての言葉に4名は素直に返事をする。
その返事を聞き、プレシアさんが立ち上がって空中モニタを展開しつつ説明を始める。
その間にリニスは闇の書をはやての部屋から持って来て、テーブルに載せる。
プレシアさん達が調べた闇の書の真実について。
僕達が闇の書を夜天の書へ戻したいと言うこと。
ヴォルケンリッター……守護騎士について。
プレシアさんの説明にかなり驚いている4名。
守るつもりが守れていなかったんだもんな。
みんな悔しそうに俯いている。
しかし、はやては4名に優しく微笑む。
「大丈夫や! ちゃんと元に戻れる! だから一緒にがんばろうな」
はやての言葉に4人は顔を上げる。
そして無言で頷く。
さて、ここからが始まりだ!