第4話 リインフォース
はやてが飛行魔法に興味を示している。
歩けないなら飛べば良いじゃないか! ってことなのかな?
空を飛べるって便利そうだよね。
「さ、そう言う話は後に置いておきましょ。闇の書……いえ、夜天の魔導書の分析をしないといけないわね」
「そうは言っても、私達も間違った情報しか得ていないんだが……」
「あたしの頭の中にある変な記憶、違和感はあるけど、それがなんなのか分かんねんだよ……」
プレシアさんの言葉にシグナムとヴィータが答える。
つまり守護騎士からの情報は使えないと。
「本当はあの子が出ていれば話しが早いんですけど……」
「それには蒐集して人格起動からか……」
シャマルとザフィーラも考え込んでいる。
管制人格って、この闇の書の中にいるんだよね。
僕はおもむろに闇の書を手に取ってみる。
んー、どうやったら出てくるのかな〜?
闇の書から管制人格が出てこないかと、闇の書をブンブンと縦に振ってみる。
ドタ
「「「「「「「え!?」」」」」」」
僕が振った闇の書から、長い銀髪と深紅の瞳が印象的な若い女性が落ちてきた。
その女性は左右を見渡す。
「え? えっ! えー!?」
とりあえずパニックになったようだ。
「か、管制人格……」
「なんであの子が?」
「ま、まだ蒐集とかしてねーぞ!」
シグナム、シャマル、ヴィータも混乱している。
ザフィーラは直ぐ様はやての前に立ち、女性を警戒をしているが、顔は驚いているね。
「タロー……貴方またやらかしたわね……」
「いや、その……ねぇ」
プレシアさんがジト目で僕を見てくるんだけど、自覚がないのでさすがに何とも……。
周りを見渡すと良く分かってないであろう、はやてと目が合う。
「何だか……ねぇ」
「これ、タローの仕業なんやね……」
「えっと、その……はい」
その言葉を聞いて深い溜息をつく。
わざとじゃ無いんだけどなー。
「とりあえずタローは置いておいて……。初めまして、私ははやてや。名前なんちゅうか教えてえな」
「私は……夜天の魔導書、管制プログラム。名前なんてものはない」
「やっぱり闇の書の……」
名乗る名前がないという女性に、反応するヴィータ。
しかし、はやてはヴィータの前に手を出し、言葉を止める。
「ヴィータ、違うやろ。闇の書や無い。夜天の魔導書や。間違えたら可哀想やろ」
「う、うん……」
ヴィータの返事を聞き、嬉しそうにヴィータの頭を撫でるはやて。
「そや、ヴィータはええ子やな。それにしても名前はないんか?」
「はい、主。所詮私は呪われた魔導書のプログラムです。名乗る名前なんて……」
「どアホウ! シグナム達といい……あんたらは揃いも揃って……」
女性の言葉を遮り、怒り出すはやて。
やっと4名は納得したのに、また最初からだもんな。
「タロー、私をそこのソファーに座らせて! そしてあんたはその前に来る!」
「はいはい」
「はい、主!」
僕がはやてを抱きかかえ、その後ソファーに座らせると、その前で片膝をつき、頭(こうべ)を垂(た)れる女性。
それを確認したはやては咳払いをし、改まった口調で言葉を紡ぐ。
「夜天の主の名において汝に新たな名を贈る。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース」
「え……」
「主の言葉が聞こえなかったんか? リインフォース……返事はどないした?」
「は、はい!」
はやての少し強めの口調に女性……リインフォースは思わず頭を下げて返事をしてしまう。
それを見て満足そうにはやては頷き、笑顔になる。
「ほな、リインフォース。これからは八神家の一員や! そして主とかも今ので終わりやで。はやてって呼んでえな」
「ですが主……」
戸惑うリインフォースの言葉に、そっぽを向き返事もしないはやて。
シグナム達は苦笑いをしつつ、リインフォースを見ている。
(何を笑ってる烈火の将!)
(いやいや……さっきの私達はこんな感じだったのか……)
(まだそんなに経ってないのに、笑ってしまうわよね)
(風の癒し手までも……)
(もう、そんな呼び方はしないほうがいいぞ。
(蒼き狼……)
(だからお前は管制プログラムって名前じゃねぇし、あたしも紅の鉄騎じゃねぇんだ。ちゃんとヴィータって名前なんだよ)
(……ヴィータ)
(そうだよ。そしてお前はリインフォースだ!)
(私はリインフォース……)
(そして我らの主はもう居ない。家族の一員である八神はやてと言う個人が居るんだ)
(烈火……いや、シグナムだったな。あぁ、分かったよ……)
「えっと、その……はやて(ぼそ)」
「なんや、リインフォース?」
やっと呼んでくれた名前に、嬉しそうに返事をする。
「その……良いんですか?」
「減点1」
「わ、私はプログラムなんですよ」
「減点2」
「元は夜天の魔導書ですが、今は呪われた闇の書です……」
「減点3」
「いつかは暴走する運命ですし、主のリンカーコアを侵食してるんですよ!」
「減点4と減点5」
「真面目に聞いてください!!」
返事を全て減点で答えているはやてに対して怒り出すリインフォース。
しかしはやては落ち着いて言葉を紡ぐ。
「今までは今までや。今回で闇の書も夜天の魔導書へ戻すし、みんなを開放する。私が最後の夜天の主なんや!」
「はやて……」
「そうや、もう私は主って名前やない。八神はやてや! だからリインフォース……家族になってくれへんか?」
「はい……はい……」
リインフォースは、はやての言葉を聞き、俯き涙を流す。
そのリインフォースの頭を優しく撫でるはやて。
「私は今まで1人やったんや。今日、こんなにも家族が増えて嬉しいんやで。ちゃんと夜天の魔導書に戻すから、一緒にがんばろうな……」
「「「「「はい!!」」」」」
そして僕の方を見てウインクをする。
「頼んだで、王子様」
「はいはい、お姫様のために頑張るよ。けど、僕よりも働いてるのはプレシアさん達なんだけど……」
そう言ってプレシアさんを見ると、ニコニコと笑ってる。
リニスもイレインを見てみても、なんだか楽しそうに笑ってるし……。
「私達はタローを中心として繋がってるのよ。ちゃんと自信を持ちなさい!」
「そうですよタロー。プレシアがこんなに頑張れるのも、貴方が治したからなんですからね」
「私もご主人様が居なければスクラップやジャンク行きですから……」
そっか……そうだよね。
「うん、頑張って夜天の魔導書に戻して、リインフォース達を開放してあげよう!」
僕の言葉に頷くみんな。
とりあえず僕に何が出来るかわからないけど、全力で取り組むからね。
その後、プレシアさんが出した黒いワンピースをリインフォースが着たりと色々やっていたら、あっさり夜が明けた。
はやてはテンションが高く、別の意味で眠れないんだろうけどさ。
そんな僕達に疲れ知らずのイレインとリニスが朝食を用意してくれた。
夜食も食べたから軽めだったけど、美味しかった。
初めて料理を食べるリインフォースは、何故かヴィータが自慢げに食べ方を教えていた。
いや、まだ今回は1食しか経験値は変わってないからね。
そして活動を開始する前にお風呂に入ることになりました。
「リイン、減点5なので私をお風呂に入れてえな」
「え、ある……いえ、はやて。私は人をお風呂に入れる経験なんてないのですが……」
「大丈夫や。とりあえず裸のお付き合いするで!」
「分かりました」
そう言ってその場で脱ぎ始めるリイン。
慌ててそれを止めるシグナムとシャマル。
いや、キミ達さっきここで着替えてたし……。
「さあ、行くで! リインは私を抱き上げて連れて行ってな〜」
「はい、はやて」
そう言ってはやてを抱きかかえ、脱衣所へ向かっていくリインフォース。
大丈夫なんかね?
しばらくするとお風呂場の方ではやての喜ぶ声と、リインフォースの悲鳴じみた声が聞こえてきたけど、僕は何も聞いてないことにしておこう。
しばらくすると、つやつやの肌になったはやてと、げっそりと疲労の色を隠せていないリインフォースがお風呂から出てきた。
その後みんなが交代交代でお風呂に入り、買い物に出かけることとなった。
しっかし、この人数で出かけるって結構大変な気がする……。