第4話 通学は新たな出会い
通学時間、通学路には人が溢れかえっている。
そんな中、今日は朝練もなく普通の時間に通学できるため、のんびりと歩くタローとアリサ。
既に学校公認の仲のため、冷やかす声は殆どなくなったが、それでも他の生徒からの視線は多く集まる。
しかし、2人とも気にも止めず会話を楽しんでいる。
「ねぇ、タロー。今日は放課後の部活も休みなんだから、セブンスミストへ買い物に付き合ってね」
「うん、構わないよ。僕もアンダーシャツとか買っておきたいしね。アリサは何を買うんだい?」
「えっと、そろそろ水着を……ね。その……タローと一緒に選びたいな……って」
そう言いアリサは少し顔を赤らめタローの顔を覗き込む。
しかし、タローは普通に流すので頬を膨らませる。
「むー、タローはそう言う反応ばかりなんだから〜」
「え? 僕なにか悪いことした?」
「べっつにー」
そう言いアリサはその場でクルンと回ると、後ろから歩いてくる初春を見つける。
初春も気が付いたらしくアリサと目が合う。
「飾利ー、おはよー」
アリサの声にタローも後ろを振り向き、初春に対して手を振る。
そんな初春の後ろから長い黒髪に、白梅の花を模した髪飾りを着けている少女が近付いて来る。
「うーいはーるーん♪」
初春に話しかけるところを見ると知り合いのようだが、初春が後ろを向くよりも先に少女の両手が初春のスカートをまくり上げる。
「おっはよーん!!」
「!?」
勢い良くまくり上がったスカートは、初春の下着だけでなく臍まで見せる。
当然振り向いていたタローとアリサはバッチリと見てしまった。
何事かと初春が混乱している中、少女は初春の前に回りこんで話しかけている。
「おっ、今日は淡いピンクの水玉か〜」
「ぎゃわぁーッ」
少女の言葉に初春が悲鳴で返事をしているようだ。
そしてアリサはタローの顔を見て呟く。
「見た?」
「うん」
「忘れなさい」
「はい」
アリサの言葉に大人しく頷くタロー。
なんだかんだとアリサには結構従順です。
「だっ……男子もいる往来でこの暴挙ッ!? 何すんですか佐天さん! タローさんやアリサさんにまで見られちゃったじゃないですか!!」
「クラスメートなのに敬語とは他人行儀だねぇ。どれ!! 距離を縮めるために親睦を深めてみようかね」
「わ゛ーッ!!」
そう言い初春のスカートを何度もめくろうとする少女……佐天。
「タローは見なくて良いの」
「はい」
タローの目の前にはアリサの両手があり、既に見えない状態だ。
「めくらないでくださいっ!! 連続でめくらないで〜っ」
他の男子達がそれを見ようと初春に視線が集まるが、アリサが出した蜃気楼で全く見えない。
そしてアリサが睨むと、すごすごと男子達は散って行く。
初春はそれを見てホッとする。
「ほら、そこの子もそろそろ止めてあげなさいよね」
「はーい。……って誰?」
「飾利の友達のアリサよ。アリサ・バニングス。そしてこっちがタローよ」
「うん、前が見えないけど一之瀬太郎です。タローでいいよ」
「あたしは佐天涙子、よろしくねー」
アリサの言葉に佐天が答え、そのまま自己紹介となる。
佐天はアリサの名前を聞き何か引っかかっているようで、首を傾げている。
「タローにアリサ……さん? どこかで聞いたような……」
「佐天さん! なんで同じ学校で同じ学年なのに知らないんですか!?
「
初春の言葉に驚く佐天と、呆れるアリサ。
「柵川中学初の
わーぱちぱちと言う擬音が聞こえそうな紹介の仕方だが、当たってるだけにアリサは苦笑いしか出来ない。
そして、そろそろ両手をどかしてくれないかなーと、アリサの服の裾をツンツンと引っ張るタロー。
「えー!! なんで
「ふふん。この間、街で出会ってそこで友達になっちゃいました」
タローとアリサのやり取りを放置して、勝手に盛り上がる2人。
アリサはやっとタローの意図することが分かり、両手を下げてタローの視界を開放する。
「改めて飾利おはよ。そして涙子、初めまして」
「わ、わ、わ。男の人にナチュラルに名前で呼ばれた!? なんだか新鮮!」
「わ、私もです。さすがはアリサさんの良い人なだけのことはありますね」
「もしかしてタローって、アリサさんの好きなタイプって明言された人!?」
そしてキャーキャーガールズトークのようなものに花を咲かせ始める2人。
アリサはタローの人の呼び方に呆れつつも、いつもの事かと諦めて溜息を付く。
「……あれ、あたしこの2人と入学前に会ってる気がする」
「どういうことですか佐天さん?」
「あー!! あの時、暗い路地裏で助けてくれたカップル!!」
「えー! ちょっと、なんですかその話ー?」
「あのね、あのね……」
そして再び話が始まる2人だが、アリサは腕時計で時間を確認すると、優しく声をかける。
「2人はクラスメイトだから後でユックリ話せるでしょ。このまま立ち止まって話をしていたら遅刻しちゃうわよ」
「「は、はい!」」
そう言って歩き始めるアリサと、その横に無意識に立つタロー。
その2人を挟むように初春と佐天が並び、話をしながら学校へ向かう。
「そう言えば飾利、マスクしてるけど風邪でもひいたの?」
「は、はい。ちょっと風邪気味なので予防も兼ねてマスクしてます」
アリサの質問に初春が答えると、初春のしているマスクを佐天が見ながら呟く。
「そんな大きいマスクして、初春ってすっかり女捨ててるなーって」
「佐天さん酷いですよ!」
「じゃあ、放課後にセブンスミストへ一緒に行くよね」
「行きます、行きますよ!」
そして佐天の言葉に乗せられて頷く初春。
「あら、セブンスミストへならあたし達も行くけど……一緒に行く?」
「え? 本当ですか! 行きます、行きます」
「私も良いですけど……良いんですか?」
アリサの言葉にすぐさまノリノリで答える佐天と、チラリとタローへ視線を送り確認する初春。
そんな初春を見てアリサは微笑む。
「タローも一緒に行くけど良いわよね」
「えっと……それじゃデートのお邪魔なんじゃ……」
「大丈夫よ。タローとはいつも一緒にいるしね」
アリサはそう言ってタローに視線を送るが、タローはよそ見をしていて気が付かない。
佐天は「うぁ〜ラブラブなんだ〜」とか冷やかし初春に止められるが、アリサはニコニコと笑う。
「一緒に住んでるしね。でも、まだ付き合っては居ないのよ」
「「えー!?」」
アリサの言葉に驚き、2人でヒソヒソと話し始める。
「なんで一緒に住んでいて付き合ってないのかな?」
「知りませんよ! タローさんあんなんだし、反応が悪いだけなんじゃないんですか?」
「あー、外見は普通でボーっとしているから、意外と安パイで安心しちゃってるのかな?」
「外見普通って……まぁ、そのとおりなんでしょうけど……」
あーだ、こーだと小声で初春と佐天が話していると、アリサがタローに声をかける。
「タロー、さっきからどうしたの?」
「ん? いや、さっきの学生……随分と変な音を聞いていたなーって」
「変な音? 音楽じゃなくって?」
「うん。良くわからないんだけど、イメージで言うと脳波っぽい音」
「なによそれ?」
「さあ?」
タローの曖昧な表現に首をかしげるアリサ。
結局、アリサは詳しくタローに聞いても意味が無いと判断して話を終わらせた。
そして学校へ着き初春たちと放課後に下駄箱に待ち合わせの約束をして別れる。
「んーっ、終わったぁ」
下駄箱に伸びをしながら歩いてくる佐天と初春を見つけ、タローとアリサは手を振る。
そして4人は合流して歩き始める。
「これで明日の終業式が終わればついに夏休みだね!」
「そうね。家に帰る予定も立てないと」
「アリサさん達は帰るんですか?」
「ええ、そうよ。まだ予定も立ててないし、こっちで遊びたいからすぐじゃないけど」
「それならご一緒に遊びませんか?」
「良いわよ。ただ、大概タローを連れて行くけど、それでも良ければ……ね」
佐天の誘いにアリサは条件付きで答える。
その条件に佐天はタローの顔を見ながら問いかける。
「ただでさえ一緒に住んでるのに、そんなに一緒に居たいんですか?」
「そうね……離れたくはないわね」
佐天の問い掛けにアリサは微笑む。
そしてタローの顔を見て呟く。
「目を離していると、何処で騒ぎに巻き込まれてるか分かったものじゃないし、一緒に居るために力を得たんだから……」
「はい?」
「ううん、なんでもないわ。それだけ好きってことよ」
「うわ〜、ご馳走様です」
最初のアリサの呟きはタロー以外聞こえておらず、堂々と惚気るアリサに、顔を赤くしつつも興味津々の佐天。
色々と質問しようと佐天がアリサの方へ一歩踏み出すと、初春が向こうを歩く御坂に気が付き手を振る。
「御坂さーん」
「ん? おーっす。そっちはお友達?」
「はいっ」
初春は御坂の元へ歩いて行くので、話を中断し3人も後を追う。
そして話している初春を佐天が引きずり戻し、小声で質問をする。
「ちょっと! あのヒト、常盤台の制服着てんじゃない。知り合いなの?」
「ええと
そして初春から
「初めまして。飾利の友達のアリサ・バニングスよ」
「同じく一之瀬太郎、タローって呼んでくれると嬉しい」
「私は御坂美琴よ。アリサさんにタローさん」
自己紹介をしている3人を他所に、佐天は御坂が
初春の説明も学園都市最強の
そしてこの間、
「こんな感じに噂が広がっていくのね……」
「大変そうですね」
「さすがにもう慣れたわ。それと私の方が学年が上だけど、敬語とか気にしないで良いからね」
「ありがとう、美琴さん」
「う……男の人に下の名前で呼ばれるってなんだか……」
「嫌でした? それなら御坂さんにしますけど」
「ううん。なんだか新鮮だから、そのままでイイわ。よろしくねタロー」
タローの言葉に御坂は笑顔で余裕を持って答えるが、内心男性に名前で呼ばれる機会がないのでドキドキしているのは内緒だ。
アリサはなんとなく御坂の表情からそれを読み取るが、あえてツッコまない優しさは持っている。
それよりもタローの腕に自分の腕を絡め、自分の物だとアピールする事で必死なだけかもしれないが……。