第5話 セブンスミスト
風紀委員活動第一七七支部のパソコンの前で、ツインテールの少女は唸り声を上げている。
「やっぱり場所も時間も関連性が認められませんわね。もう少し手がかりがあれば容疑者の絞り込みもできますのに〜」
キーボードを打つ手を休め、机にもたれ掛かる。
現在学園都市を騒がしている、連続
アルミを基点にして
ようは“アルミを爆弾に変える”能力による連続爆破事件のことだ。
その机にはその資料が色々と散乱しており、必死に調べているのが伝わってくる。
「遺留品を
呟きながら資料を眺めていると、自分の呟きに違和感があったことに気が付く。
そしてパソコンのキーボードを叩き、資料を表示して確認する。
「九人!? いくら何でも多すぎません?」
彼女は真実の糸口を掴んだのか……。
「あの……あたし佐天涙子です!!初春の親友やってます!!」
「そ……そう、よろしくね」
一通り初春から御坂について聞き終えると。目を輝かして自己紹介を始める佐天。
御坂は若干引きつつも笑顔でそれを受け取る。
「さっきアリサさんに聞いたんだけど、洋服を見に行くなら私もご一緒していいかしら?」
「もちろん大歓迎! ……ですけど、あたしらが行こうとしてるの、フツーのチェーン店ですよ?」
常盤台はお嬢様学校と言われているだけあり、庶民の代表な柵川中学のメンバーが行くような場所に、果たして連れて行って良いのかと佐天は悩んでいる。
「いや……あんまそーゆーの関係ないわよ。ウチって外出時は制服着用義務があるから、服にこだわらない人結構多いし」
「そうなんですか?」
御坂の言葉に佐天は納得し、並んで目的地に向かって歩いて行く。
その後ろではタローと腕を組んでいるアリサが、タローに話しかけていた。
「タローは少し服にこだわりなさいよ」
「え、僕? 僕はイイよ。自分で選んでも訳分からないし……」
「もう、子供じゃないんだから、しっかりなさいよね!」
「僕の服はアリサとイレインが選んでくれるし、僕はそれに頼っちゃうからな〜」
タローの情けない言葉だが、頼っちゃうの一言でアリサの機嫌は一気に良くなる。
その勢いでタローを引っ張り御坂達の横に並んで歩く。
「あ、そういえば今日は白井さんは一緒じゃないんですか?」
「あー、何かあの子忙しいみたい」
初春の質問を御坂は軽く流す。
その頃、風紀委員活動第一七七支部のパソコンの前で、ツインテールの少女……白井黒子はクシャミをしていたとか何とか。
「でも、
歩きながら佐天はそんな話を振ってくる。
アリサはスルーだが、御坂は佐天の方を向く。
「あー“
「え? なんですかそれ」
佐天の呟きに初春が反応する。
「いや、あくまで噂だし、詳しいことはあたしも知らないんだけど……」
そして佐天はうわさ話をみんなに話す。
能力の
ネット上の都市伝説みたいなもの。
「でも、本当にあるならあたしでも……」
そんな寂し気な佐天の呟きを、しっかり聞き取れたのはタローだけであった。
しかしタローには掛ける言葉を持っていない。
自分も分類は
セブンスミストに到着すると、女性の買い物から始まる。
タローは大人しく数歩下がって付いて行く。
正直、佐天から下着の話を振られても困ると思いながら……。
案の定、初春の下着を佐天が布地の少ないものを勧め、それにアワアワと慌てている姿をタローは遠目に見ていた。
アリサもみんなと楽しく服を選んでいるようで、タローは完全に蚊帳の外だ。
そんな中、御坂がとあるパジャマの前で立ち止まっていることにタローは気が付いた。
「ね、ね、これ、かわ……」
「アハハ。見てよ初春、このパジャマ。こんな子供っぽいのいまどき着る人いないっしょ」
「小学生の時くらいまでは、こういうの着てましたけどねー」
御坂の言葉は佐天と初春の会話に消され、行き場のない御坂が呆然としている。
タローはため息を付きつつ、皆んなのところへ歩いて行く。
「アリサ、水着は見ないのかい?」
「あ、タロー? 珍しく自分から言って来たわね」
「うん、アリサの選ぶ水着を見てみたくてね」
「もぉ……ばか」
タローの言葉にアリサは顔を赤くして照れている。
それを興味深そうに見ている初春と佐天は眺めていた。
「じゃ、じゃあ、一緒に見ましょ。ほ、ほら、行くわよ」
「あ、あたし達も水着見に行きまーす」
「ええと……水着コーナーはあっちですね」
3人とともにタローは水着コーナーに向かう。
その際、御坂にジェスチャーで、どうぞパジャをごゆっくり見てくださいと伝えると、御坂は両手を合わせタローに感謝してた。
「タローこっちよ!」
「はいはい」
御坂にバイバーイと手を振りタロー達は水着コーナーに消えて行った。
水着コーナーではアリサがタローを引っ張り回しながら、色々と悩んでいる。
その横で初春と佐天はその姿を楽しそうに眺めつつ、自分たちの水着を選んでいた。
「よし、試着するわ! タロー、行くわよ」
「はいはい」
「ハイは一回」
「はーい」
「伸ばさない!」
そんな会話も嬉しそうにやられると、イチャついているようにしか見えない。
店員もそんな雰囲気を邪魔しないように、あまり近付かずかないでいた。
「感想は後で聞くから、しっかり見なさいよね」
「うん、いつもしっかり見てるよ」
「……ばか」
そしてアリサのタローのための水着ファッションショーが始まった。
ビキニやセパレートタイプ、タンキニなどをタローに魅せつける。
それが終わると全て綺麗に片付け、タローの感想を楽しみにアリサは待っていた。
「可愛い物を着ても綺麗な物を着ても、どれもアリサに似合っていたよ」
「むぅ……それじゃ選べないじゃない。ちゃんと選んでよ」
「うーん」
「それと、可愛いとか綺麗以外の感想が聞きたいわね」
そしてアリサはタローにウインクをした。
タローは珍しく悩み、頭をかきつつもアリサの耳元でそっと囁く。
「正直、欲情するぐらいこれが似合ってた」
「…………」
タローの囁きに何も反応できず、アリサは真っ赤になり無言で他の水着を片づけ、御目当ての物をしっかりと握りしめてレジに向かった。
この水着を着てタローの前に立ったことを想像し……。
そして、タローといえば珍しく顔を赤らめ、水着コーナーから出て行く。
「ちょっと言い過ぎたかも……」
そんな呟きは誰にも聞こえない。