第6話 虚空爆破事件
タローとアリサが水着コーナーでファッションショーを楽しんでいる頃、御坂はみんなが居ない隙にパジャマの試着しようとしていた。
「うん、どうせ室内でしか着ないんだから、少し可愛くてもイイのよ」
明らかに自分に対して言い訳をしながら、姿見鏡の前に立つ。
鏡にはパジャマをあてた御坂と、つんつん頭の高校生、上条の姿が写っており、鏡越しに目があった。
「何やってんだお前?」
「!? な、何でも良いでしょ! それよりもアンタ、なんでここに居るのよ」
「ん? 俺は……」
上条は小さな女の子がセブンスミストを探していたので、連れてきてあげただけと伝える。
御坂はこれは幸いといつものように勝負を上条に申し込むが、さすがに少女の前での争いごとまではいけず、御坂を置いて上条は去って行った。
御坂がパジャマを買う隙を奪って……。
タローが水着コーナーの外に出ると、初春と佐天が既にいた。
ファッションショーは意外と時間を取っていたようだ。
タローは手を上げ合流すると、丁度別の所から御坂も歩いてきた。
「美琴さん、あれ買えました?」
「うー、ちょっとトラブルがあって……」
タローの言葉に御坂は肩を落とす。
御坂の頭の中には上条との勝負ができなかったことによるストレスと、パジャマを買いそびれたガッカリ感が混ざり合い、不完全燃焼状態になっている。
そんな中、初春の携帯電話が鳴り響く。
「はい、もしも……」
「初春ッ! 今どこにいるんですの!?」
電話を耳に当てていなくても聞こえるぐらいの大きな声で、電話の相手は叫んでいる。
「しっ……白井さん!?」
初春の声を聞いて少しは白井も落ち着いたのか、ゆっくりと話をする。
内容は
衛生が
その地点は第七学区の洋服店“セブンスミスト”!
そして白井の言葉を聞くと、初春は大きな声でみんなに伝え動き始める。
「この店が
初春の言葉にみんなは強く頷く。
そして店舗責任者に説明をし、避難誘導に当たる。
佐天も店舗外に出たのを確認し、初春は白井に再度連絡を取る。
「白井さん? 今、全員避難したか確認を……」
「今すぐそこを離れなさい! 犯人の真の狙いは観測地点周辺にいる
白井の言葉に初春は呆然とする。
「今回のターゲットはアナタですのよ初春!」
そんな初春にカエルのぬいぐるみを持った小さな子供が近付いて来た。
「おねーちゃーん。メガネをかけたおにーちゃんが、おねーちゃんにわたしてって」
初春がそのヌイグルミを見た瞬間、ヌイグルミを中心に
初春はそのヌイグルミを女の子の手から払いのけ、女の子を庇うように抱きしめる。
「逃げて下さい! あれが爆弾です!」
それを見た御坂は
誰もが間に合わないと思った瞬間、一人の高校生が初春達を護るように立ち、右手を爆弾に向ける。
しかし、それよりも早く動いた人物が……。
セブンスミストから少し離れた路地で、爆発を今か今かと待っているメガネをかけた少年がいる。
しかし爆発音は一切聞こえず、思わず首を傾げセブンスミストの方を覗きこむ。
「あれ? なんで爆発しないんだ?」
覗きこんだ顔に蹴りが辺り、ボロクズのように転がって行く少年。
「な!? 一体何が……?」
「はぁーい」
その路地の入り口には2人の少女が立っている。
一人は朗らかな笑顔を向けているが、米噛みに青筋を浮かべた御坂。
もう一人は腕を組んで、明らかに怒っているアリサ。
「要件は言わなくても分かるわよね。爆弾魔さん」
「な、何のことか僕にはさっぱり……」
「まあ確かに威力だけは大したものよ。でも、残念ね。爆発すら起こさせてあげないんだから」
「そんなバカな! 僕の最大出力だぞ!」
御坂とアリサの言葉に墓穴を掘ってしまった少年に対し、2人はニッコリと笑う。
少年は何とかこの場を逃げようとスプーンをカバンから取り出すが、御坂が撃った
「と、常盤台の
呆然とする少年に対し、アリサは鮫島に教わった護身術で関節を極めて少年を抑えこむ。
「暴れると折るわ。あたし、人の命を軽く見る人には手加減する気はないの」
アリサの言葉に少年は笑い出す。
「今度は常盤台のエース様か。いつもこうだ! 僕は何をやっても地面にねじ伏せられる……。殺してやる! お前みたいなのが悪いんだ。力のある奴なんてのはみんなそうなんだろうが!」
その言葉にアリサは呆れた顔をし、御坂の方を向くと離れるようにとジェスチャーがあった。
拘束を解き、素直に数歩アリサが離れると、少年の周囲に電撃が巻きらされる。
「知ってる? 常盤台中学の
御坂の言葉に少年は唖然とする。
「でもねっ、たとえ
「そうね。そっちにはそっちの事情があるみたいだけど、相談に乗る前に一発殴らせてもらうわ」
御坂とアリサは顔を見合わせ頷く。
「「せーの」」
ゴス! ガス!
2発のゲンコツをもらい、
「負傷者ゼロ。しかも
白井は呟きつつも現場を確認する。
そこには焦げ臭い匂いはしつつも、爆発の後すらない。
「初春と少女はお姉さまが守ってくれたと言いましたけど、明らかにこれはおかしいですの……」
2人の男が並んで壁に寄りかかっている。
初春達の前に立った上条と、それよりも早く動いたタローだ。
「よ、男の子。久しぶり」
「はい、上条さんもお元気そうで」
そしてまた沈黙が流れる。
「お前さんのアレはなんだ?」
「なんだと言われましても……ただのキャッチですよ」
「いや、それはおかしい」
タローの答えに上条はすぐにツッコミを入れる。
苦笑いをしつつタローは同じ様に質問をする。
「上条さんの不思議な手は何なんでしょうね? アリサの炎を普通に受け止められるっておかしいですよね」
「それは俺もいまいちよく分かんねーんだ。右手で触れた異能の力を打ち消す能力ってところか」
「上条さんのほうが明らかにおかしいですよね。僕はあくまで爆発そのものをキャッチしただけですから」
そう言ってタローは野球のグローブを上条に見せる。
焦げ1つ付いていないMIZUMOのグローブだ。
「それって野球のグローブだろ。しかも普通に売ってるMIZUMOの……」
「はい、そうですよ」
上条の質問に、さも普通に答えるタロー。
しばらくタローを見ていたが、上条は自分の頭をボリボリとかき、出口に向かって歩いて行く。
「みんな無事ならどんな力で守られようと何の問題はねーな。それが俺の
「そうですね。逆にでしゃばってすいませんでした。あそこにはまだ避難していない、僕の大事な人がいたもので……」
「金髪の彼女さんのことでせうか。それじゃ男の子なら動くのは当然だな。もし何かあれば俺を頼ってくれてもいいぞ。ただの貧乏苦学生だけどさ」
「ありがとうございます。それなら僕も上条さんの……」
「当麻でイイよ。タロー」
「はい、分かりました。当麻が困ったら僕もいつでもお手伝いします」
上条はタローの言葉に片手を上げて去って行く。
お人好しとお人好しが、互いに相手を認識した瞬間であった。