第10話 禁書目録
「それじゃあ、お留守番をお願いしますねー」
そう言って小萌は補習授業のために出かけて行った。
上条のために宿題を残して……。
「不幸だー!」
上条の絶叫がボロアパートに響き渡った。
そんな上条の服の裾をインデックスが引っ張る。
「ん? どうしたんでせうか」
「う、うん。あ、あのね……」
インデックスは言いにくそうに視線を逸らしている。
でも、意を決して口を開く。
「あのね……首輪とされているものが、私の身体のどこにあるか分からないの」
「うん」
「まだみんなが来ないから、それまでに……私の出来る事。それを調べようと思うんだよ」
上条はまだインデックスが言おうとしていることに気が付かない。
「だ、だからタローが言ってたように……とうまの右手で……私の身体を触ってほしいんだよ」
「あぁ、そんな事か……って、えーーーーーー!!!!」
上条はやっと言いたいことを理解して、思わず叫び声を上げる。
インデックスはと言うと、湯気が出るほどに真っ赤になって俯いてしまった。
「そ、それでは行きますよ……」
「う、うん……」
小萌のパジャマを脱ぎ、シーツに包まっただけの姿になったインデックスと、何故か正座で向きあって座る上条。
2人とも顔は真っ赤になっていて、お互いの心臓は破裂しそうな勢いで鼓動している。
意を決してインデックスの頭を優しく撫でる上条。
それの撫で心地が気持ちを落ち着かせ、インデックスはギュッとつぶっていた瞳を開く。
「大丈夫だから……な」
「や、優しくして欲しいんだよ……」
なるべく中心部から離れた場所……四肢から上条は触って行く。
正確には身体の上で手を動かすので、撫で回しているといった表現が正しいかもしれない。
「んっ……」
「だ、大丈夫か?」
「うん……へいきだよ……」
上条は胸やお尻などの(上条にも)刺激の強い場所を避けて触っているが、それでも(上条に)刺激は強く顔を真っ赤にしてしまう。
しかし、ここまで来たらやめるわけには行かず、段々と刺激の強くなるお腹などを触って行く。
「あっ……はふぅん……」
「おい、へ、変な声出すなよ……」
「だ、だって、とうまがおヘソの中に指を入れるから……」
「バカ、し、仕方がないだろ……」
「う、うん。分かってるもん。だ、だから我慢してるんだよ……」
2人は顔を真っ赤にして見つめ合う。
そして上条は、他の避けていた箇所を触り始める。
「あ……そ、そこは……」
「大丈夫、優しくするから……」
「う、うん。でも、私の胸……小さいから……」
「ば、バカ。そんな事を気にすんなよ」
「で、でも……とうまは昨日、火織の胸を見てた……」
「ち、ちが……わないけど、それはそれで……」
「むぅー、私もそのうち大きくなるもん」
「全てが終わったら、あの能力者……消す!」
「おおお、おちつきななささささい。すすす、すているるるるる」
「いや、火織さんも少し落ち着いたほうが良いかと思うけど……」
「わわわわ、私はおおおお、落ち着いてますよ!」
「分かった、分かった。でも、大きな声を上げると気が付かれるからね」
既に小萌のアパート玄関前に3人は来ていは居たが、あんな雰囲気の中に入ることも出来ず座り込んでいた。
いや、正確には神裂は耳まで真っ赤にしつつ挙動不審になり、ステイルは涙などを流しながら、壁に頭を打ち付けているんだが……。
「それにしても、昨日僕が言った意見はこんな意味を含んでいたとはなー」
頭をポリポリとかきつつ、不審者な2人をタローは眺めていた。
「もう、触れるところは触った……ぞ」
「う、うん……」
顔を赤らめ、艶かしい雰囲気を出しているインデックスと、若干興奮気味で鼻息が荒くなっている上条は顔を合わせる。
「あ、あとは……私の中……だよね……」
「なっ!? あ、あぁ……」
そして上条に視線がインデックスの下と上を交互に見る。
何かものすごいエロい方向にすっ飛びかけた思考を、上条は首を左右に強く振って追い出す。
既に十分エロいことはやっているのに……。
「う、上から行くぞ……」
「う、うん……」
インデックスの大きく開けた口の中に、上条は恐る恐る指を進ませて行く。
パチン
そんな静電気が散るような感触を上条は右手の人差指に感じると同時に、上条ごと右手が勢い良く後ろへ吹き飛ばされた。
その大きな物音に異常を感じた外に居た3人は室内に雪崩れ込んでくる。
いや、正確には若干ドアを開けるのに躊躇った2名を押しのけ、タローがドアを開放したのだが……。
「警告、第三章第二節。
インデックスの両目が恐ろしいぐらいに真っ赤に輝き、そして何かが爆発した。
「再生準備……失敗。“首輪”の自己再生は不可能、現状、10万3000冊の“書庫”の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」
侵入者……つまりは首輪を破壊した上条であり、この場にいるタロー達のことであろう。
インデックスの両目には真紅の魔法陣が宿る。
「“書庫”内の10万3000冊により、防壁に傷を付けた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。術式の構成を暴き、対侵入者用の
インデックスは糸で操られた人形のように立ち上がり、小さく首を曲げる。
「侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより特定魔術“
凄まじい音を立てて、インデックスの両目にあった2つの魔法陣が一気に拡大した。
インデックスの顔の前には直径2m強の魔法陣が2つ、重なるように配置してあり、インデックスが歌うように声を出す。
そして、そこからレーザー兵器に近い、太陽を溶かしたような純白に光が上条に向かって発射された。
「グゥッ!!」
上条はそれを右手で受け止めるが、“光の柱”そのものは完全に消し去ることはできない。
その光の柱を見てタローはニヤリと笑う。
自分の投げる光速の送球……まるでレーザービームにそっくりではないか。
「ど“
「そういう事か……!」
神裂のステイルはお互いに何かを理解した。
タローの言っていたことは正しかったと!
「“聖ジョージの聖域”は侵入者に対して効果が見られません。他の術式に切り替え、侵入者の破壊を継続します」
彼女の言葉により、光の柱はより一層威力を増し、上条に対して襲いかかる。
そんなインデックスを悲しそうな瞳で見つめたステイルは、漆黒の服の内側から何万枚と言うカードを出す。
「Fortis931!」
そのカードは炎のルーンを刻んでおり、あっと言う間に壁や天井や床を隙間なく埋めて行く。
「あの子のために僕は誰でも殺す! いくらでも壊す! そう決めたんだ、ずっと前に!」
ステイルは叫び声を上げる。
それは今まで心の中に閉じ込めていた本当の気持だったのかもしれない。
その慟哭を聞いたタローは、デバイスから愛用のMIZUMOのバットを取り出した。
「みんなその光の柱から避けて!」
タローはそう言うと、背筋を伸ばして後傾気味に重心を取り、右手でバットを垂直に揃え、左手を右上腕部に添える動作を行う。
そんなタローの言葉を信じて3人は散開し、光の柱が後ろに居たタローに向かって襲い掛かる。
「
その光の柱よりも早く、タローは全力でバットを振り抜く。
ピシィ!
タローはバットの芯に球を捉えた感触が手に伝わってくるのを感じると同時に、バットからそんな音がしたのを聞いた。
しかし、タローは全ての集中力を一点に集め、全力でバットを振り抜く。
誰よりも早く、誰よりも強く……。
ギュン!
それは何の音であろうか?
インデックスから放たれた光の柱が、タローのバットを折り返し地点として、インデックスに向かって弾き返されて行く。
「Salvare000!」
神裂が名乗りたくはなかった“魔法名”を口にする。
そして神裂の声と共に、数多くの鋼糸がインデックスの足元に襲いかかる。
バランスを崩したインデックスは、光の柱を放ちながら仰向けに倒れて行く。
完全に粉砕されたバットを片手にタローが神裂に声をかける。
「ありがとう火織さん。思わずピッチャーライナーになっちゃったよ」
タローの弾き返した光の柱がインデックスの放っていた光の柱を全ての見込み、インデックスが立って居た場所を通り過ぎて行った。
もし、そこにインデックスが居たらどうなっていたかは想像もつかない。
そしてその光の柱は部屋の壁を貫通し、街中をビルの合間を縫って窓のないビルを掠める。
そのビルは今までに起きたことのない衝撃に揺れ、内部にはエラー表示がたくさん出たらしいが、ここでは関係ないので省略する。
インデックスは倒れる際に、壁から天井を光の柱でなぎ払い、空に浮かぶ雲すら引き裂く。
もしこの射線上にあるならば、大気圏の外にある人工衛星も引き裂かれるだろう。
そして、光の羽が何十枚と雪の様に舞い散る。
「それは“
神裂の言葉を聞く前に、上条はインデックスの元へ走り出している。
「
上条を庇うように炎の魔神が現れ、光の羽を防ぐ。
炎の魔神は破壊と再生を繰り返すが、一撃一撃を防ぐごとの再生が間に合わなくなって行く。
上条の手がインデックスに届くよりも早く、インデックスは首を巡らせた。
巨大な剣を振り回すように、光の柱が再び振り下ろされる。
「
その光の柱を正面から、タローが投げた白球で押しとどめる。
その隙を上条は逃さない!
「行け、能力者!」
ステイルの叫び声を背負い、上条は吠える。
「この
上条は握った拳の五本の指を思い切り開く。
まるで掌底でも浴びせるように……。
「……まずは、その幻想をぶち殺す!!」
そして上条は右手を振り下ろした。
インデックスを取り巻いていた光は消え去り、同時に光の柱も消滅する。
「……警、こく。最終……章。第、零……“首輪”致命的な、破壊……再生、不可……消」
インデックスの口からすべての声が消えた。
しかし、光の羽が空から無数に舞い降りてくる。
上条は迷わずインデックスを抱きしめ、庇うように床に伏せる。
「危ない!」
神裂が声を上げるが、近付くことは出来ない。
いくら聖人とは言え、光の羽をすべて防ぐことは不可能だ。
そして迎える絶望に