第11話 幻想御手
インデックスの首輪を破壊したが、天から舞い降りる光の羽に為す術もない3人。
絶望に包まれ、諦めにも似た表情を浮かべる。
「諦めたらそこで試合終了だって昔のエライ人は言ってたよ」
そこには瞬間移動をしたかのように、タローがグローブを付けて立っていた。
「首輪から開放されたインデックスと、失われない思い出を作って行くんだろ。なら、しっかり顔を背けず前を向いて欲しいな」
みんなが顔を上げると既に光の羽はどこにもなく、タローは光る球をクルクルと指先で回している。
そしてタローはその光る球を振りかぶって光の柱で開けた穴から投げる。
光の球は街中をビルの合間を縫って、先ほど掠めた窓のないビルの逆側を掠める。
それによって傾いてしまった窓のないビルは元の角度に戻った。
しかし、内部ではまたエラー表示がたくさん出たようだが、ここでは関係ないので再度省略する。
「当麻、お疲れ様」
「あぁ、タローもお疲れ様」
そう言って上条は立ち上がり、2人はハイタッチを交わす。
「う、うーん……」
インデックスの声を聞き、みんながその周りに集まる。
そしてゆっくりと目を開けた。
「インデックス!」
「な、なにか違和感はないか? 大丈夫なのか?」
「怪我はありませんか?」
矢継ぎ早に言葉をかけられ、インデックスは混乱している。
そして状況を把握しようと身体を起こすが、抱きしめていた上条が離れたことにより、インデックスが包まっていたシーツを抑えるものはない。
ハラリと音がするようにシーツが離れ、全裸のインデックスが現れる。
「え!?」
「あ?」
「う?」
全員がキョトンとした表情になり、みんなの視線がインデックスの全身を見る。
そしてインデックスも自分の姿を確認した。
「
タローは誰に気が付かれることもなく、1人であっさりとアパートの外へ脱出した。
その後聞こえるインデックスの叫び声と、上条とステイルの悲鳴。
「不幸だー!!」
「それはこっちのセリフかもー!」
「何で僕まで!? これは能力者のせいだろー!」
「みなさん、落ち着いて下さい!」
そんな声を背中に聞きつつ、タローはゆっくりと歩きだす。
あの場所はもう大丈夫だと……。
「そう言えばタローはどうしてると思う?」
「どこかのトラブルの中心をウロウロしているとは思いますが……」
アリサとイレインが街中を歩きつつ、そんな雑談をしている。
昨日は結局タローが家に帰って来なかったが、その前にトラブル中の電話があったので、心配はしていない。
どうせ今日にはトラブルを解決して帰宅してくるであろうタローのために、2人で食材の買い出しをしている。
「あ、あれは涙子かしら?」
「はい、照合データでは佐天涙子様ですね。慌てているようですがどうかしたのでしょうか?」
「わからないわね。とりあえず声をかけてみましょ。涙子ー、どうしたのー?」
アリサの呼び声で佐天は気が付き、アリサの元へ走ってくる。
「どうしたの慌てちゃって」
「し、白井さんが……能力者の人と戦ってて……」
佐天の言葉にアリサの表情が引き締まる。
「詳しい話は場所を案内しながら教えて。その白井さんっていうのは涙子の友達なのね」
「は、はい。白井黒子さんは
「うん、良いわ。とりあえず急ぐわよ」
そう言って佐天とアリサは走りだす。
イレインはその後をゆっくり追いかけつつ、
「この取り壊し予定ビル?」
「は、はい。ここに白井さんが……」
「うん、分かったわ。涙子は待っててね」
そう言ってアリサは廃ビルに入って行く。
温度差を利用し、中にいる人の場所をサーチしながら。
「みーつけた」
廃ビルに逃げ込んだ白井にスキルアウトの男が殴りかかる。
上手く逃げたはずなのに、この廃ビルは元々スキルアウトの溜まり場で、男は構造を熟知しているに過ぎないが、逃げる白井にはそれが絶望的なものになっている。
「へっへっへ。そろそろ集中できなくなってきただろ。ここでボコボコにしてやるよ」
男はそう言って白井に近付いてくるが、その男の足元から火が噴き出る。
「あっちゃっちゃー」
そう言って地面を転がり火を消そうと男はする。
白井は何が起きたのか分からずキョトンとしているが、下階からアリサがジャンプで現れたのを見て、さらに驚く。
「えっと、とりあえず貴女が黒子で良いのかしら?」
「は、はい。そうですの。それよりも貴女は……」
「あたしは涙子の友達よ。だからその友達の黒子とも友達になりたいんだけど、いいかしら?」
アリサの場違いな言葉に白井は呆然とする。
その間に火を消した男が立ち上がる。
「て、てめぇ! ぶっ殺してやる」
そう言ってナイフを取り出しアリサに向かって走りだす。
しかし、その前には火の壁が現れ、男は慌てて立ち止まる。
その瞬間、火の壁が男を囲むように立ち、身動きが出来なくなってしまった。
「お、おい! 何だこりゃ?」
「はい、そこで大人しくしてなさい。あたしは黒子とお話があるんだから」
「おい、ふざけんな!」
男はその後もギャーギャー騒ぐが、アリサの炎をそんな簡単に乗り越えられるはずもない。
そんな男を放置して、アリサは白井に手を差し伸べた。
「立てる? 涙子が心配してるから、早く戻ろ」
「え、えぇ。ありがとうですの。それより貴女はどなたですの?」
「あ、ごめんごめん。てっきり名乗ったつもりになってたわ。タローの癖が感染ったのかしら?」
そう言ってアリサは白井の手を引き立ち上がらせる。
「あたしはアリサ……アリサ・バニングスよ。柵川中学1年生で、飾利や涙子の友達よ」
「わたくしは白井黒子と申します。アリサさんでよろしいですの?」
「ええ、構わないわ。あたしは黒子って呼ばせてもらうけどね」
そう言ってウインクするアリサに白井は見惚れたが、頭をブンブンと左右に振り雑念として追い出す。
アリサは炎の壁を解除し、そこに暑さで汗だくになり座り込んでいる男をみる。
「大丈夫、だ。俺達は負けない、絶対に。オレ、タチは行ける……るんだ。実際にイけば、わかるん、だ」
男はうつろな目をしてヨダレを垂らし、表情が変わらずブツブツと何かを呟いている。
それを見たアリサと黒子は顔を合わせる。
「なにこれ黒子? 洗脳でもされた人だったの?」
「い、いえ……そんな事はありませんの」
「オマエにはワからない。オマエはイけない、から、アハハ大丈夫。ダイジョウブなんだ……」
変な言葉を呟く男をビルの外に白井はテレポートで送り出し、アリサと階段を降りて行く。
しかし白井の頭の中に浮かんでいるのは……。
「……
「それって涙子が言っていた都市伝説?」
「え、えぇ。ちょっと厄介なことに、都市伝説ではなくって本当に出回っているんですの」
そんな事を話しながらビルの外に出ると、既に
白井は
アリサが周りを見渡すと、逃げるように去って行く佐天を見つけた。
「イレイン、後はお願い。あたしは涙子のところに行って来るわ」
「はい、お気をつけてお嬢様」
イレインは頭を下げアリサを見送る。
「るーいーこ」
「ひゃい!」
佐天は気が付かれないよう走って逃げたのに、いきなり自分の名前を呼ばれてビックリした。
そして振り向くと、そこにはアリサが居る。
「どうしたの急に走りだして?」
「う、うん……白井さん、無事だったんだね。アリサさん、助けてくれてありがとうね」
その言葉に偽りはないが、沈んでいる雰囲気をアリサは感じ取る。
「うん、怪我はあるけど大丈夫よ。涙子が知らせてくれたから無事だったのよ」
「違う!」
アリサの言葉に佐天は声を荒げ否定する。
「あたし何もできてない! 所詮は
「涙子……」
「あたし、能力者になりたかった! でも、そんな力なかったの! だから、この
そう言って佐天はポケットから音楽プレイヤーを取り出す。
それが
「あたしが涙子の気持ちは分かるって言っても説得力がないわ。あたしは何も努力をせずに最初から
佐天は顔を上げてアリサを見る。
「さっきのスキルアウトね。
佐天は小さく頷く。
「だから、リスクは一緒に背負ってあげるわ。だから、思う存分能力者っていうのを味わいなさい!」
そう言ってアリサは佐天から音楽プレイヤーを取り上げ、自分で聴き始める。
「あ、アリサ……さん?」
「うーん、あまりセンスのない音楽……いえ、音ね」
そう言いながら一通り聞き終えると、佐天に返す。
佐天はそれを受け取り、音楽プレイヤーとアリサを交互に見る。
「これであたしも一緒よ。ちょっとぐらいズルしたくなる気持ち分かるから。だからこれは2人切りの内緒よ」
「う、うん」
佐天はうなずき、音楽を聴き始める。
ちょっとだけアリサと距離が近付いた様な気がしつつ……。