第6話 本当の気持ちと向き合えますか?
「2人共落ち着いたかしら?」
杏子とほむらを抱きしめ、ポンポンと背中を優しく叩きながらマミは言う。
その言葉にふと我に返った2人が慌ててマミから離れる。
「ふふふ、そんなに照れることないのに」
「「照れてない!」」
マミの言葉に2人は顔を赤らめて答える。
しかし声が揃ってしまったことに2人は顔を合わせ、その後ぷいっとそっぽを向く。
それを見てマミは余計にクスクスと笑う。
「いつの間にか仲良しになってて良かったわ」
「そ、そんなことより、私達を元に戻せるというのは本当なの?」
ほむらが真剣な表情でクロノを見つめる。
クロノはその視線を受け止めコクリと頷いた。
「詳しい説明は僕よりも適任なのが居るんだが……今はこの結界を維持してるからな」
「「「!?」」」
クロノの結界という言葉に驚く3人。
この魔法少女たちは結界=魔女の巣と言う認識が高いから余計であろう。
「そこまで驚くこともないだろ。まぁ、君たちと違った魔法体系が存在すると言うのは、なかなか受け入れにくいものかもしれないが……」
そう言ってクロノは時空管理局について話し始めた。
次元世界をまとめて管理する、警察と裁判所が一緒になったところで、各世界の文化管理とか、災害救助とかを行う場所と言う、かなりタローに毒された簡単かつ分かりやすい説明をする。
そして、次元世界の崩壊を招きかねないロストロギアについては、最優先で対処すると言うことを伝えると、それに反応して杏子が口を開く。
「ってことは何か? クロノ……さんはロストロギアってのがあるから来たの……来たんですか?」
「無理に丁寧な言葉づかいにする必要もないし、僕の呼び方はクロノで良いよ」
「そうよ佐倉さんが無理して丁寧に言うと……変よ」
杏子の言葉にクロノとマミが笑いながら言う。
ほむらは後ろを向いているが、少しだけ肩が震えているのが分かる。
「なんだよ……お前らみんなして!」
「笑ってすまない。だけど、自然のままで居てくれた方が僕も楽だからさ……。ちなみに僕は管理局員で出身はミッドチルダという場所だけど、今住んでいる家は地球にあるんだ」
別世界に住んでいると思っていたクロノの言葉に3人が驚く。
クロノは構わず言葉を続けた。
「だから“魔女”とかの被害があると、僕の住んでる街にも危険があるからね」
クロノは真実だけど全てを伝えてはいない。
元々秘匿義務のある任務なだけに、全てを伝えられないのだが……。
「まぁ、管理局と僕の話よりも、先に重要なところを話させて貰いたい。まずはソウルジェムを体内に戻す
「ダメよ!」
クロノが説明を始めるとほむらが声を荒げる。
それに驚き思わず顔を見合わせるマミと杏子。
クロノはそれを予測していたように落ち着いた表情のまま口を開く。
「ほむら、それはどういう事だい? 1ヶ月ぐらいならこの街を離れても……」
「駄目なのよ! 2週間後にはワルプルギスの夜が来るの。アレは貴方1人で抑えられるレベルじゃない!」
「ほむら落ち着けよ。あたしに協力を頼んだ時もそうだが、なぜワルプルギスの夜が来ると言うこと……そして来る日にちを知っているんだ?」
「そ、それは……」
ほむらに対してみんなの視線が集中するが、ほむらは言い淀む。
その時、クロノにユーノから念話が入る。
(クロノ、例の解析は全部終わったよ)
(本当に数日で終わらせたんだな……)
(マルチタスクの大半を注ぎ込んだからね。お陰で少し頭が痛いよ)
(アレだけのマルチタスクを解析に回しておいて、少しの頭痛で済むお前はどうなってるんだ? まぁ、後は罠にかけるだけだな。上手く行けば良いな……じゃない、僕達なら上手く行くさ)
(そうだね。
(被害が酷くならなければ良いんだが……。その辺は僕達でフォローすれば良いとして、そろそろ頼む)
(うん、分かったよ)
念話が切れると同時に、この病室に張られていた結界が解除される。
「じゃあ、僕
クロノの言葉に3人は驚きの表情を浮かべるが、構わずクロノは言葉を紡ぐ。
「
「「「!?」」」
「そしてほむらは何かのために何度も時間遡行を行なっている。それが次元震を引き起こしているとも知らずにね。まぁ、その次元震を僕が観測できたからこそ、インキュベーターの存在を発見できたのは皮肉なことだけど……」
言葉を失っている3人に対しクロノは、次元震は次元規模の災害だと簡単に説明を済ませる。
つまりほむらは常に次元規模の災害を起こし続けていたという事も含めてだ。
「だから僕としては時間遡行はもう使って欲しくない。だけど君には何度やり直してでも成功させたいものがある……違うかい?」
クロノの言葉にほむらはコクリと頷き、ゆっくりと口を開く。
「そうよ……私は鹿目まどかを救いたいだけなの……」
そしてほむらから語られる真実。
元の時間軸で初めて出来た友人、“魔法少女”であるまどか……。
だが、この先に現れる魔女“ワルプルギスの夜”に殺されてしまう。
だから助かる未来への道筋を求めて、同じ時間の平行世界を繰り返し戦い続けた。
「まどかが私に願ったのは“キュゥべえに騙される前のバカな私を助けてあげて”だった。だからまどかは二度と魔法少女にはさせないし、ワルプルギスの夜も倒してみせる……」
「やっぱりキミはこの世界の時間を巻き戻していたんだね。だから僕の記憶にキミと契約した場面がないわけだ」
ほむらの言葉が終わる前に声が聞こえた。
その方角を向くと、いつの間にか窓枠にキュウべえが座っている。
「キミがこれまで渡ってきた世界は全て途中で止まっているんだ。ある日のある出来事を境に、キミが時間遡行してしまうから」
「て、てめぇ!」
「佐倉さん!?」
「それはキミがこの世界が受けるべき災厄をずっと引き延ばしているのと同じなんだ。そして引き延ばせば引き延ばすほど、災厄の規模はどんどんと膨らんで行く……鹿目まどかの魔法少女としての素質と一緒にね」
憤る杏子をマミが宥めるが、そんな出来事を無視してキュウべえは話を続ける。
「お手柄だよほむら……君がまどかを最強の魔女に育ててくれたんだ。そしてこの災厄と交わった時、すべての次元は終焉の時を迎えるかもしれない」
キュウべえの言葉に誰も口を開けない。
そして窓の外をキュウべえは見ると、ニヤリと不気味に笑う。
「そして今回は更なる因果……クロノ・ハラオウンが巻き込まれた。だからこそ
窓の外には巨大で黒い雲のような塊が見える。
それは雲ではなく明らかに質量を感じさせ、この世のものではない魔力を帯びたものであることを、ここにいる全員は理解した。
「あれが災厄の魔女……ワルプルギスの夜なの?」
マミはあまりに巨大な力に怯え、杏子も窓の外を見上げたまま言葉を発せないで居る。
クロノは黙って事の成り行きを見守っている。
「さて、君たちはここで絶望して魔女になってくれると、僕としては嬉しい……」
その瞬間、ほむらはキュウべえの身体を銃で撃ち抜く。
何度倒しても意味が無いことを理解していても撃たずには居られなかった。
「私のせい……なのよ。だけど、まだ諦める訳にはいかないの。ここで災厄を止めれば問題ないわ」
その言葉でマミと杏子は我に返る。
「私としたことが弱気になってたわね」
「あたしらが倒しちまえば良いだけだろ」
ここで食い止めれば何も問題がない……自分は1人じゃ無い。
そんな3人に対しクロノはポケットから取り出した数個のグリーフシードを手渡す。
「過去を振り返るだけなら誰でも出来る。その後どうするかが重要なんだと思う。そのために僕
クロノはそう言って笑う。
そしてみんなは走りだす。
災厄を止め、すべてを終わらせるために……。
見滝原市街地の外れに4人は移動した。
「しっかし、クロノの魔法は便利なんだな」
「隣の芝は青いとは良く言ったものだ。君達の特化魔法……僕達で言うとレアスキルと言った分類になるんだが、それは僕としては羨ましいぐらいなんだがね」
杏子の言葉にクロノが肩をすくめる。
移動中に自己紹介だけでなく、ある程度の戦闘スタイルなどを説明し合ってある。
それによって役割分担を済ませ、4人は各々戦闘態勢を取っていた。
アハハハハーーーー…………
その不気味な笑い声の方向には霧が発生しており、その向こうには巨大なシルエットが浮かんでいる。
「おいおい、随分とデケェな……」
「ホントね。さすがに私もちょっと怖くなってきちゃったかも」
「この期に及んで何、弱気なこと言ってんだよマミ!」
「あら、意外だったかしら? 普段は余裕を持ってる様に見えるけど、私だって魔女は怖いものなのよ」
動揺している杏子と弱気なマミだが、それはあくまで言葉だけだ。
2人は顔を見合わせるとニヤリと笑う。
「久しぶりにコンビを組むんだ。どんな魔女だって倒せるだろ」
「私も逃げたりしないわ。佐倉さんとまた一緒に戦えるんですもの」
「……杏子だ」
「え?」
「杏子で良いって言ってるだろ」
杏子の言葉にポカンとした表情浮かべるマミと、自分の言葉が恥ずかしいのか、顔を赤らめる杏子。
それを見てマミは意味がわかったのか優しく微笑む。
「しばらくコンビを組んでないけど、腕は落ちてないんでしょうね……
「一度魔女に敗北したからって、足を引っ張らないでくれよマミ!」
マミと杏子のやり取りは別に、ほむらは辺りに仕掛けを施している。
それを横目にクロノは呟く。
「随分とすごい質量兵器の数々だな……」
「何度と繰り返した世界で補充して行った銃火器よ。もうこれ以上巻戻れないなら、ここで全部使わないと勿体無いわ」
「いや……勿体無いと言うか、個人で持てるレベルを超えているんじゃないか?」
クロノは今までの仕事を思い出しても、これほどの質量兵器は記憶にない。
そんな会話をしつつも、ほむらはせっせと設置して行く。
「見てるだけなら少しは手伝いなさいよ」
「あ、あぁ。でも、さすがに使い方はわからないぞ」
「とりあえずそれと同じように並べて行ってくれれば良いわ。後は私がやるから」
「分かった」
これって自分が質量兵器を使ったことにならないか少しだけ心配しつつ、ほむらに言われた通りにクロノは使い方の分からない質量兵器を設置して行く。
そんな4人の姿をどこからか見ていたキュウべえは、不気味に口を広げて笑う……。