第7話 最後に残った道しるべ
霧の中から象の様な大型の動物やリスなどの小動物の様なモノ達が、クロノ達の方へ列をなして通り過ぎて行く。
まるでパレードのように……。
そして辺りを覆っていた霧が徐々に晴れてきて、ワルプルギスが姿を現そうとした瞬間。
「さあ、始めましょうか」
——カチ
その音と共にほむらの左腕にある砂時計が動き出す。
クロノ達が目にしたのは爆発と爆炎に包み込まれたワルプルギスだった。
先ほどクロノとほむらがセットした数々の銃火器、それの全てが一斉に攻撃を始めた結果である。
「す、すごいわね、暁美さんの準備した武器の量……」
「つーか、タンクローリーとかぶつけなかったか? 明らかに武器ってもんじゃねーだろ……」
マミと杏子が興奮した様子で声を上げるが、クロノは冷静にワルプルギスを見ていた。
そして口には出さないが、あの程度で倒せるなら簡単すぎると。
「気を緩めるな。ここからが本番だ」
クロノ達の元へ戻ってきたほむらを視線に収めながら、クロノはデバイス……S2Uを持つ手を緩めない。
爆煙の中から黒い触手が現れクロノ達に襲いかかる。
「スティンガースナイプ!」
『Stinger Snipe』
その触手はクロノの魔力光弾で撃ち切る。
一発の射撃で複数の触手を殲滅して行く。
「露払いは任せてくれて良い。君達は攻撃に集中してくれ」
「はい!」「おう!」
クロノの言葉に強く頷き、マミと杏子は武器を構える。
マミは手を交差させマスケット銃を大量に呼び出す。
それを横目に杏子は槍を持って前に飛び込む。
「遅れるなよマミ!」
「ええ、杏子」
マミの一斉射撃が杏子の横をすり抜け、一点に集中されて行く。
その射撃が収まった瞬間、杏子の槍が同じ箇所に全力で攻撃をする。
共に魔女を狩っていた時に、強力な魔女に対するコンビネーションだ。
アハハハハーーーー
「ちぃ、かってぇなー。胴体ぶち抜くつもりだったんだけどな」
「そう簡単に勝たせて貰えるとは思ってはダメよ。あれは最強の魔女なんだから」
マミはそう言いリボンを一箇所に纏め、巨大な銃器を召喚する。
それを見た杏子は槍を多節棍へと変え、振り回しながらも周りの邪魔な瓦礫を破壊し、マミの射線を遮るものを排除する。
「ティロ・フィナーレ!」
特大の銃から放たれた一撃が、ワルプルギスに炸裂する。
ワルプルギスは炎弾攻撃をして来ており、周りの物が延焼を起こしていた。
しかし、2人はワルプルギスの周りを回避しながらも、攻撃の手を一切緩めない。
必ず倒すと心に誓いながら……。
クロノの魔法で切られた触手が使い魔となる。
「むっ!? 切ると使い魔になるなら、多少魔力消費が増えるが砲撃魔法に切り替えるべきかな?」
「いえ、それには及ばないわ」
それに対してほむらは手持ちの銃器で対抗する。
強力な魔女の使い魔なため、今までの使い魔よりは強力だが所詮は使い魔。
ほむらの銃器でも充分倒せる。
「そうか。それなら僕は触手を重点的に破壊して行くから、ほむらは使い魔を減らせたら頼む」
「分かったわ」
クロノと共に攻撃しながら、ほむらはマミと杏子の様子を確認していた。
先程の一斉射撃以上の攻撃力がないなら、マミと杏子のフォローに徹するのが一番だと。
「
「うぉ!? ほ、ほむらか……サンキュー、丁度減って来たところだ」
時を止めて杏子の横まで移動し、グリーフシードを手渡して、次はマミの元へと移動する。
ワルプルギスは瓦礫を浮かせ飛ばすなどの攻撃をしてくる。
それを避けつつ2人をフォローしながら、使い魔を倒し続けて行く。
必ず倒せると信じ続け……。
「やあ、久し振りだね鹿目まどか」
「キュウべえ……」
夕飯を食べ終え、部屋から外を1人眺めていたまどかの横に、いつの間にかチョコンとキュウべえが座っていた。
「何の用?」
「いま、暁美ほむら達が命をかけて必死に戦っているとしたらキミはどうする?」
「!?」
いきなりのキュウべえの言葉にまどかは驚く。
そんな驚いた様子を気にも止めずキュウべえは話を続ける。
「キミは今、何故窓の外を見ていたんだい? 今起きている何かを感じ取っているんじゃないかな?」
キュウべえの言葉にまどかは息を呑む。
夕飯を食べる前からずっと感じていた違和感……そう、まるで魔女の結界の中にいるような禍々しい感じ。
何かこの見滝原に起きているじゃないかと思い、ずっと窓から見滝原市街地の外れを見ていたのだ。
「やっぱりキミは素晴らしいほどに、魔法少女の素質を持っているんだね」
「……どういう事なの?」
まどかは窓の外を見渡すが、そこにはいつもと変わらない町並みしか見当たらない。
「知りたいならついて来るかい? 今、まさに最悪の魔女と戦っている魔法少女達を見届けにね」
そう言ってキュウべえは窓から外へ飛び降りる。
まどかは一瞬だけ躊躇したが、キュウべえの後を追うために部屋から出て行った。
「今、見滝原には災厄の魔女……ワルプルギスの夜がやって来ている」
「ワルプルギスの夜?」
「そうだよ。そしてそれと戦うために暁美ほむら、巴マミ、クロノ・ハラオウン。後はキミの知らない魔法少女である佐倉杏子と言う4人が命をかけて戦っているんだ」
「ほむらちゃんとマミさんが一緒に……?」
命をかけて戦っているというのに、ほむらとマミが一緒に戦っている……つまり2人は仲良くなれたんだとまどかは場違いな考えをする。
「ワルプルギスの夜はその3人の魔法少女でどうにか出来るレベルじゃない。クロノ・ハラオウンがどれほどの実力だかは僕には皆目検討がつかないけど、今の姿を見る限りでは勝てないだろう」
キュウべえはそう言うと、まどかの頭の中に
それは見覚えのある見滝原市街地の外れだったもの……既に橋は壊れ、大地は荒れ、建物は破壊されていた。
ワルプルギスは荒れ狂い、4人は苦悶の表情を浮かべ必死に戦っている。
「そんな……どうして……」
「残念だけど彼女らを助ける方法はないよ。ただ1つの例外を除いて」
「例外……?」
「わかっているだろう? 僕と契約して魔法少女になるんだ。キミの潜在能力なら、どんな途方もない望みだろうと叶えられるだろう。もしキミが魔法少女になったら、彼女たちを救うことが出来るかもしれない」
「私は……」
「これが、今のキミに出来る事だ」
そう言った後、キュウべえは口を閉ざし黙々と目的地に進んで行く。
まどかも言葉を発することができず、ただ後を着いて行くしか出来ない。
頭の中には「今の私に出来ること……」の言葉だけが延々と回り続けている。
猛攻の合間を縫って反撃を加えようとするマミと杏子。
触手や使い魔を潰し続けるクロノとほむら。
永遠とも思える攻防の中、未だに決定打を見出だせないでいる。
アハハハハーーーー
そんな中、耳を覆いたくなるような笑い声の嵐が起こる。
ワルプルギスから四方八方に炎の槍が発射され、攻撃が一層激しくなって行く。
「おいおい、これじゃかわすのが精一杯だぜ」
「一撃でも貰ったら致命傷よ。回避に徹しましょう」
「それじゃ倒せないぜ! 回避と同時に攻撃をしねーと……」
そう言って杏子は炎の槍を避けて攻撃に移ろうとした瞬間、避けた炎の槍が爆発し杏子を弾き飛ばす。
「ぐぁ!」
地面に叩きつけられた杏子に対し、黒い触手が襲いかかる。
「杏子、危ない!」
杏子を抱きかかえるようにマミがそこへ飛び込む。
しかし触手は強力で、マミを貫通し杏子を串刺しにする。
「ば、馬鹿野郎! あたしのことなんて放おって……」
「放おっておくなんて出来ないわ。だって杏子は私の大切な友達なんですもの……」
串刺しにされ身動きの取れない2人に対し、巨大な瓦礫が雨のごとく降り注ぐ。
その間にクロノが立ち塞がり、呪文を詠唱し始める。
「守護する盾、風を纏いて鋼と化せ。すべてを阻む祈りの壁。来たれ我が前に……」
しかし、クロノが詠唱を最後まで言えたのかは分からない。
巨大な瓦礫の雨に3人は埋もれてしまったからだ……。
「マミ! 杏子! クロノ!」
ほむらの悲痛な叫びが木霊する。
しかし3人からの返事はなく、ほむらは一瞬だけ足を止めてしまう。
それはワルプルギスを前にして致命的な隙であった。
アハハハハーーーー
巨大なビルやコンクリートの塊が宙を舞いほむらに襲いかかる。
それを空を飛び回避を試みるが、先ほど見せてしまった隙は大きく、ビルに叩きつけられ身体が埋まり捕らわれてしまった……。
「くっ……」
ほむらは必死にもがくが、既に魔力も少なく時を止めることも出来ない。
グリーフシードは使い果て、仲間は瓦礫の下敷きになってしまった。
「どうして? どうしてなの? 何度やっても、アイツに勝てない……。繰り返せば、それだけまどかの因果が増える。私のやってきたこと、結局……」
ほむらの嘆きに合わせ、ソウルジェムがどんどんと濁って行く。
「ほむらちゃん!」
その声にほむらはハッと顔を上げる。
声の主はほむらの初めて友人……全てをかけてずっと守りたかった存在。
瓦礫と化したビルの屋上に、全ての元凶とも言えるインキュベーターと共に鹿目まどかが立っていた。
「まどか、あなたまさか……」
ほむらは目の前が真っ暗になりそうだった。
これ以上時間遡行は出来ない。
やり直しの効かない状況で、まどかの横にキュウべえが居るという現実を突き付けられてしまった。
「さぁ、まどか。みんなを救うために……運命を変えるために……」
キュウべえがニヤリと笑う。
その笑顔がほむらには悪魔の微笑みにしか見えなかった……。
「僕と契約して魔法少女になってよ!」
「そうだ……私が契約すれば……」
まどかの言葉にキュウべえの赤い瞳が輝き、耳のような器官がまどかを包むように大きく広がる。
「さあ、鹿目まどか……その魂を代価にして、君は何を願う?」
「まどか、やめて!」
「私は……」
ほむらの絶叫が響く中、まどかの口が開かれる。
「その必要はないよ」
その言葉とともに、キュウべえの体が翆色の鎖で縛られる。
そしてまどかの横に現れたのは、民族衣装のような服装を身に纏ったユーノであった。
「やあ、
「な、なんなんだい」
ユーノの言葉に感情を持っていないはずのキュウべえが、動揺するかのように口を開いた。
そして鎖から逃げようと体を動かすが、翆色の鎖はビクともしない。
諦めた様子で目を閉じるが、直ぐ様キュウべえは目を見開く。
「何をしたんだ人間!」
「数多くの器を渡り歩き、無限の寿命を持つキミでも、キミの魂を器に固定してしまえば逃げられない。今、どの器に魂がいるかを見つけるのは難しかったけど、契約の瞬間だけは確実に魂の居場所が分かるからね」
さも簡単で普通の事の様にユーノは説明する。
つまりキュウべえは無限の器が至る所に存在し、その中を魂だけが移動する。
いくら殺されても壊れるのは器だけで、魂は生き延びることが出来ていた。
そのため捕獲することも消滅させることも今まで出来なかった。
「まぁ、この謎に辿りつけたのはギリギリだったけどね。そして自分から罠に掛かってくれた。僕の結界の中と言う逃亡不能な罠にね」
ロストロギアとは使い方次第では世界はおろか、全次元を崩壊させかねない程危険な物である。
そして
それをユーノは見滝原に来て直接
「キミはもう終わりなんだよ」