第2話 超包子の1日
「それでここが超包子の屋台を開く場所ヨ」
昨夜から降り続いた雪が積もり、一面銀世界となった麻帆良学園のとある一角。
そこへ超とハカセに連れられて来たタロー。
ちなみに2人の失敗品……ならぬ、研究品である重力負荷装置や視野が狭くなるメガネ等などを装備済みだ。
「今、茶々丸が除雪道具を持って来るから、タローさんも雪かきしてもらいますよ」
「ん? この雪を退かせば良いの?」
「そうヨ。雪をどかさないと超包子の屋台を持ってこれないネ」
今後の課題は屋台に除雪機能を……と2人がブツブツと話し合っているのを横目に、タローはいつもの様にデバイスからバットを取り出す。
足元の雪を退かして軽く素振りを始める。
「タローさん。一体、何をやってるんですか?」
「除雪」
「「は?」」
タローの言葉を理解できない2人が首を傾げている。
その横でタローは鼻歌交じりにバットを振り抜く。
ギュオン
本来なら起きないであろう音を鳴らし、一陣の風が吹き抜ける。
「「…………」」
一瞬で起きた出来事に2人は言葉を失う。
1回バットを振り抜いただけで、周辺にあった雪は全て消し飛んだ……。
初見では当然の反応といえるかもしれないが、タローにとっては普通のコト。
「ふぅー、綺麗になったなった」
タローは良い仕事したと言った風に、汗を脱ぐフリをしながら後ろを振り向くと、唖然とした表情の2人と顔を合わせる。
「あれ? 2人共これじゃダメだった?」
「「いや、意味がわからない(ネ)です!」」
2人のツッコミが麻帆良学園に響き渡るが、当の本人はよく分かっておらず、頭の上にはてなマークを浮かべつつ首を傾げるだけであった。
◇
そんな除雪騒ぎから少し時間が経つと、茶々丸が除雪道具を持って現れた。
しかし、既に予定されていた雪かきが終了しており、手持ち無沙汰になってしまった4人。
とりあえずタローと茶々丸がお互いに自己紹介をするが、その程度の時間では埋まらないぐらい暇になってしまっている。
「それにしてもタローさんは、どうやって除雪をされたんですか?」
「こうやって……えい! ってね」
不思議そうにタローを見つめる茶々丸に対して、手持ちのバットを軽く振って他に残っていた雪を消し飛ばす。
それを見ても今度は唖然とせず、手持ちの電子機器を開いて解析をしようとするハカセ。
しかし、当然のことながら魔力の反応だけでなく、気すらデータとして表示されることはない。
「うぅ……科学は万能なのです……。いずれタローさんも解析して見せます……」
「どんまいネ」
ガックリと肩を落とし、半泣きになりながらキーボードを必死に叩くハカセと、それを慰める超。
その2人を見てどうするべきか悩みつつも、茶々丸は自分の
「タローさんは一体何者なのですか?」
「何者と言われても、野球選手としか答え様がないんだけど……」
いつの間にかバットはデバイスに収納しており、そう言いながら自分の頬をポリポリと掻くタロー。
ちなみに、その場に居る3人は、どうやってバットを消したのか理解できない。
それ程に自然かつ素早い動作であったのだ。
「タローさん、そのマジックアイテムは何ですか?」
しかし、メガネを光らせハカセはタローに問いかける。
どんなにタローの動きが前動作もなく、高速で行われたとしても、デバイスそのものの魔力反応を消し去ることは出来ない。
モニタに齧り付いてまでタローを分析していたハカセだけが、それに気が付く。
「マジックアイテムって……何?」
シラを切ったり誤魔化している訳ではなく、普通に意味が分からず首を傾げるタロー。
それに対して茶々丸が、そのまま和訳した“魔法の道具”と言うところから説明を始める。
一通り説明を受けると、タローは多少理解することが出来たのか、腕時計型デバイスに視線を送り口を開いた。
「茶々の説明通りなら、このプレシアさんが作ってくれたデバイスが、マジックアイテムって分類だと思うよ。荷物の収容以外には使ってないけどね」
その言葉で超とハカセは、先ほど次元野球の説明の時に映像機器を出した腕時計だと気が付く。
超とハカセの魔法科学でも再現できないそれは、プレシアさんと言う人が作ったものだと言う。
2人はその人物が何者なのかを考えるよりも、タローの次元野球の説明がドンドンと真実味を帯びて行ることに気が付く。
「タローさん……それ、分解させてくれませんか?」
「駄目です」
目に怪しい光を灯したハカセが、タローのデバイスを触ろうと近付いて来るが、タローはデバイスを付けた腕を背中に回す。
このデバイスはプレゼント品であるため、タローが基本的に何も考えていないとは言え、さすがに分解するのを許可はしない。
しかし、ハカセだけでなく超もデバイスに興味を持ったようで、分解が駄目なら分析、せめて解析などをさせて欲しいと、2人はしつこい程に迫ってくる。
それは超包子の屋台が到着するまで続く……。
◇
超包子の屋台を持ってきたのは、メインシェフである五月だけでなく、良くバイトをしている
——遅くなってすいません。
「さすがに雪が積もてて、ここまで移動させるの大変だたアル」
屋台と言っても、それは路面電車の様なもの。
麻帆良学園内は私有地に分類されるため、学校の許可さえ得られればどんな乗り物でも免許がなくても運転できる。
ポンポン許可を出されたら、ある意味無法地帯にもなりそうだが……。
それはともかく、五月が運転して来たのだ。
「へー、これが屋台なんだー」
タローはそんなことを言いながら、超包子の屋台を物珍しそうに見ている。
——この方は、どなたですか?
「今日から超包子の従業員になったタローさんです」
——今日からですか?
「そうネ。昨日茶々丸が拾ってきたヨ」
——拾ってきたんですか……?
楽しそうに屋台の周りをウロウロしているタローを見つめながら、五月が疑問を口にする。
しかし、超とハカセの答えによって、余計疑問が増えている気がするのは、気のせいではないはずだ。
首を傾げている五月を横目に、古はタローに近付いて行く。
「初めましてアル」
「あー、初めまして。今日からお世話になるタローだよ」
「古菲アル。よろしくね、タロー。それよりテーブルとか並べるの手伝う宜し」
「了解了解」
2人は名前だけの自己紹介を済ませ、テーブルや椅子を並べ始める。
そんな2人に気が付いた茶々丸が慌てて手伝いに入り、3人であっという間に並べ終えてしまう。
それを見て超と五月は仕込みに入り、ハカセは屋台周辺の照明や暖房器具の設置などを始た。
そんな中、タローと五月がお互いに自己紹介したりしていると、開店の時間はあっという間に近づいて行く……。
「超包子、開店ネ」
超の声で、屋台の近くで開店を待っていた人々が集まってくる。
あまりの人気にタローは驚いているが、逆に麻帆良学園に居て、この店を知らないタローに驚くべきであろう。
タローの初バイトはハッキリ言って酷いものだった。
役に立たなかった……と言うわけではない。
無駄までに高い身体能力を生かし、テーブルと厨房をほぼ一歩で移動して、一滴も零さず品物を届ける。
そのため、クリスマスという忙しい日なのに接客担当には余裕があり、本来接客に回る茶々丸は調理場に回ることができた。
——タローさんのお陰で、厨房の人員が増えて助かりましたね。
「ホント、イイ拾い物したネ」
——あー、やっぱり拾い物って扱いなんですね。
「あんな非常識の塊に対してなら、当然の扱いですよ」
「ハカセ……妙に感情が篭ってるネ……」
超包子の閉店時間になり、後片付けをしながら厨房で雑談をする3人。
忙しい今日を何とか乗り切った事を喜んでいる五月に、タローを完全にモノ扱いにしている超。
そして妙に怨念の篭った瞳で片付をしているタローを見つめるハカセ。
「大体、この超包子の周りにある各種カメラで、捉え切れない動きが出来るなんておかしいんですよ!」
バン! と言う音をテーブルを叩き、文句を言うハカセ。
それを見て五月と超は苦笑いをしている。
そこに茶々丸がやってきた。
「ハカセ、外の片付けは終わりましたが……」
「そうだ、茶々丸!」
「ハイ?」
テンション高めのハカセに声をかけられ、茶々丸は首を傾げる。
「茶々丸の視界データならタローさんを捉えきれたよね!」
「いえ、無理でした。そして、タローさんの動きですが、瞬動術と類似される動きと思われますが、気や魔力の反応はないため解析不能です」
「それに瞬動は直線の動きだから、タローの動きは無理アルよ」
茶々丸が説明している後ろから、ヒョイッと顔を出して説明の追加をする古。
武道家としてタローの動きに興味があったたようで、ウエイトレスをしながらずっと観察していた。
しかし、あの非常識な動きは武道の名門・古家の跡取りであり、今年度秋に行われた学園大格闘大会“ウルティマホラ”で優勝した古ですら理解できなかった。
「うぅ~、なんてなんて非常識な……」
その2人の説明を受け、唸るハカセを横目に超は1人考える。
果たしてアレは本当に一般人という分類なのだろうかと。
この麻帆良学園は魔法使い達によって建設され、多くの魔法使いが教師・生徒として在籍し、修行や学園の治安維持に従事している。
しかし魔法の存在はもとより、彼らそのものも秘匿されているため、知っている人はかなり少数であろう。
まぁ、この超包子では超にハカセ、そして茶々丸が知っているので、意外と多く感じるかもしれないが……。
片付けを終えて空をのんびりと眺めているタローの側へ、超は1人近付き口を開く。
「ねえ、タロー」
「何、鈴音」
「タローは魔法の存在を信じるカ?」
「ん? 魔法なんてその辺にゴロゴロしてる、普通の力でしょ」
超の質問に普通に答えるタロー。
その瞬間、妙な間が空く。
「……タローは魔法生徒なのカ?」
「何ソレ?」
「えっと……タローは魔法を使えるのかってことネ」
タローの答えに若干呆れた表情をしながらも、超は質問を続ける。
「僕は魔法は使えないよ。ただ、使える人を知ってるだけかな。ほら、この麻帆良学園でも良く使ってる人を見かけるでしょ」
「ま、まあネ」
魔法をばらしたらオコジョ刑何年なんて決まりもある、この学園に所属する魔法使い達。
超やハカセは所属していないので、そんな決まりに縛られることはないが、それでも
大体、この学園には認識阻害の魔法がかかっており、無意識に深く気にしない様になっているのだが……。
「タローには認識阻害とか効かないのカ?」
「何となく脳にまとわり付くような感じがあるけど、それが認識阻害ってやつなのかな? まー僕は元々、細かいこと気にしないから、それも効果ないんじゃない」
「そんな理由で認識阻害は効かなくなる訳ないネ」
そう言って深いため息をつく超を見て、タローはただ首を傾げるのであった。