第3話 友人
現在僕は仁王立ちのアリサと、腰を抜かしていて動けないルイズの前で正座しています。
アリサが怒っているのは、僕のことをルイズが「冴えない生き物」とか「もっと格好良かったら」と言ったのが理由。
だけど、僕が正座しているのはなんでだろう……?
「貴女にタローの魅力を語ってあげるのも勿体無いけど……」
「じゃあ、この平民は何が出来るのよ? 他の使い魔なら主人の目となり、耳となる能力が与えられるのよ!」
「じゃあ、今タローが見ている風景がルイズは見える訳?」
そう言ってアリサは僕の顔を覗き見る。
僕もアリサの顔を覗き込むけど、ルイズは首を左右に振る。
「あんたじゃ無理みたいね。私、何も見えないもん!」
「他には何かないの?」
「使い魔は主人の望むものを見つけて来るのよ。例えば秘薬とかね」
アリサも質問にルイズは答えてくれる。
秘薬……ってなんだろ?
首を傾げている僕を見ると、ルイズはため息をつきながら説明してくれる。
要するに魔法の触媒で、その材料となる硫黄とからしいんだけど……。
「秘薬の存在すら知らないあんたじゃ、そんなの見つけてこれないでしょ!」
ルイズの言葉に僕は頷く。
それを見ると苛立たしそうに言葉を続ける。
「最後に、これが一番なんだけど……」
「何?」
「使い魔は主人を守る存在であるのよ!その能力で主人を敵から守るのが一番の役目!」
それを聞いてホッとする僕とアリサ。
一番簡単なモノがあったんだね。
「……強い幻獣だったら、並大抵の敵には負けないけど、貴族のミス・アリサはともかく、あんたじゃ……」
「ミス・アリサなんて畏まった呼び方しなくて良いわ。あたしは貴女のことをルイズと呼ばせて貰ってるから、あたしの事もアリサでイイわよ」
ルイズの言葉を遮り、アリサが言葉を発する。
アリサの言葉にルイズは戸惑いつつも、返事をする。
「う、うん。……アリサ」
「それで良いわ。それと使い魔をあんたじゃなくて、タローって名前で呼んであげて。ルイズにとっては使い魔でも、あたしにとっては大事な人なの」
「う、うん。た、タロー?」
ルイズは更に戸惑いながら僕を呼んでくれた。
それに僕は頷く。
「うん、ルイズ。秘薬とかその辺は良く分からないけど、守るぐらいなら出来るから大丈夫だよ。これでも守備は得意なんだ」
「タロー、守備って野球の話でしょ……。まぁ、タローなら特に変わらないから良いけど……」
あれ? アリサが呆れてるけど、なんでだろ?
アリサは咳払いをして、ルイズに話しかける。
「タローの強さは分からないわよね……。後で分かるから、それまではあたしの強さを保証にでもしておいて」
「は、はい」
「そんな固くならないでよ。メイジとか貴族とかあたしには大した差はないの。……もう関わったんだからあたし達は友達なんだからね」
「え?」
「名前を呼んだら友達って言う子がいるのよ。だからあたしとタロー、ルイズはもう友達なのよ……ね」
「え、えっと……」
戸惑うルイズ。
それを見た僕とアリサは顔を合わせて笑う。
「ね、ルイズ」
「そうだね、ルイズ」
「う、うん……。アリサ、タロー」
照れながらも嬉しそうに僕達の名前をルイズは呼ぶ。
うん、それで何の話をしていたんだっけかな?
「それでルイズ。授業にみんな行っちゃったけど、あたし達はどうするの?」
「え?……あー、今日はもう良いわ。私の部屋に行って、話をしましょ」
「ええ、ルイズが良いならそれでイイわよ。お部屋を教えてくれるかしら?」
「はい……じゃなくて、うん」
アリサとルイズは何だかいつの間にやら仲良くなってる。
まー、ケンカとかするよりは良いんだけどさ。
ルイズの部屋へやってきた。
部屋の大きさは12畳ぐらいで、北側にある扉と南向きの窓があり、西側にベッド、東側に大きなタンスが置かれている。
他にもテーブルがあってその上にランプが置いてあったりするけど、電気類は一切ない。
「あら、ルイズって結構イイ趣味してるのね」
アリサは家具を見て褒めているけど、僕にはさっぱり分からない。
大きくて頑丈そうだなーぐらいはわかるけど……。
「そ、そうかしら? でも、これは全部家の者が用意したの。私が買った訳じゃないの」
「そうなの? まぁ、それは良いとして……。少しあたし達のことをルイズに話しても良いかしら?」
「う、うん。お願い」
アリサが地球のことや次元世界のことを説明する。
要するに僕達が居世界から召喚されたと。
ルイズは一生懸命話しを聞いているけど、信じるのは難しそうだね。
「まぁ、ここまで話しておいても中々信じられないと思うわ。でも、ここにないものを見せてあげる」
アリサはそう言い、ペンダント型のデバイスからノートパソコンを取り出す。
それを見てルイズはびっくりしている。
「な、なに!? どこから出したの?」
「落ち着きなさい。このペンダントだけでも、ここにない物だって分かるわよね」
アリサの言葉にルイズは無言で頷く。
それを満足そうに見ると、パソコンを起動させて動画や音楽を再生させる。
「うわぁ、なにこれ~?」
「うん、これがあたし達の世界で発達した科学というものよ。逆にこの世界にある魔法は、あたし達の世界に
パソコンの画面を見て驚いているルイズにアリサはそう説明する。
「じゃあ、何の系統の魔法とか関係なく動いているの? マジックアイテムじゃなくって?」
「系統っていうのが分からないけど、魔法じゃないわ」
ルイズはアリサに魔法の系統、火・水・土・風・虚無と言う魔法系統を説明している。
僕には良く分からないけど、アリサが分かってれば良いか。
その後もアリサとルイズの科学と魔法談義は続いている。
アリサの頭の回転の良さは昔から知っているけど、ルイズも正直この世界では頭が良いんだろうな。
分からない言葉を自分なりの言葉に置き換えて、話を噛み砕き理解して行く。
正直なぜ“ゼロのルイズ”と呼ばれているんだろう……?
「タロー、タロー。そろそろ起きなさい」
「……ん?」
「もう、ご主人様とその親友の話し合いを聞かずに寝ている使い魔がどこにいるのよ!」
目を開けると僕の顔をのぞき込んでいるアリサと、その後ろで腕を組んで仁王立ちのルイズがいた。
あれ、なんで僕は床に横になっているんだろう?
「タローはトレーニング中だったんだから、疲れていたんでしょ。あたし達の話を聞いてるうちに寝てたわよ」
「そう言っても、アリサは嬉しそうに膝枕してたじゃない」
「もう、ルイズってば。タローはそう言う隙があまりないから、結構大変なのよ」
「はいはい、ご馳走様」
仲良く話す2人……あれ、いつの間に?
「それより油断してると、ルイズも惚れるわよ。あげないけどね」
「何言ってるのよ! そんなイイ男には見えないじゃない」
「後で分かるわよ」
そう言って笑い合う2人。
はて、いつの間に僕の所有権はアリサに行ったんだか……。
「いつの間にかよ」
心読まないで……。
そして僕が寝ている間に学園側との交渉は終わっていた。
アリサって本当に優秀だよね。
さすがはマリナーズのゼネラルマネージャーと言う肩書きは伊達じゃないね。
その交渉の結果、アリサは帰還方法が見つかり、帰還するまでは客人として学園に滞在。
滞在中の費用は学園が持つこととなり、ここでの貴族と同じ待遇となった。
稀に学園側からの依頼に応じなければならないこともあるが、その際は給与が発生するとのこと。
そして僕はとりあえず召喚された以上、僕はルイズの使い魔として契約。
しかし、アリサの所有物なため、学園側とルイズの実家から給与が発生する。
要するに使用人と同じと。
……で、何度も思うんだけど、僕はいつからアリサの所有物になったんだろうねぇ?