第4話 寝床
さて、学園との契約は問題なかったようだけど、僕たちは今後どうするんだろうね?
「まぁ、タローが考えても仕方が無いから、その辺はあたしに任せておきなさい」
僕の表情から考えを読み取ったアリサが胸を張って答える。
横には同年代のルイズがいるが、随分と差が激しい……なんて思ってません。
アリサの視線がちょっと強くなったので、膝枕から起き上がる。
「あたしは客室を用意してくれるらしいけど、使用人扱いのタローはそこには泊まれないみたいよ」
「ついでに私の部屋も使い魔を寝かせるスペースなんてないわ」
アリサの口調だけでなく、ルイズまで怒ってる……。
何で心を読まれるかなー?
「じゃあ、僕はどこで寝れば良いのかな?」
「「知らないわ」」
2人の言葉で僕は部屋を追い出されてしまった。
うーん、迂闊な事は考えないようにしないとなー。
学園の庭で夜空を眺めつつフラフラと当てもなく歩く。
月が2つあるから、やっぱり地球やミッドじゃない事を思い知らされるな。
初めて次元の壁を壊したけど、アレはバットが僕の全力に耐えられるのが前提の技術だ。
自動修復が済むまでは帰れそうにないね。
何やら色々な生き物の気配がするから、そっちの方に行ってみようかな。
そこには1つの大きな小屋……と言うのは大きい建物があり、覗き込むと巨大なモグラや竜、大きなトカゲ達がいた。
文字は読めないので、なんの建物かはハッキリと分からない。
でも、昼間ルイズに召喚された時に見かけた顔が居た。
「お邪魔しまーす」
僕の言葉で建物内にいる生き物……使い魔達が一斉に振り向く。
「僕も使い魔だから、一緒に居てもいいかな?」
僕の言葉を理解しているのか、普通に頷いてくれる子たちがいた。
うん、みんな賢いなー。
「自己紹介をさせてもらうね。僕の名前は一之瀬太郎……
僕の自己紹介に対して、他の子達はギャーギャー、わーわー喋る。
うん、やっぱり伝えようとすれば、どんな相手にも伝わるね。
向こうの発している言葉はまだわからないけど、そのうち理解出来る様になるさ。
火を吐くトカゲと、巨大モグラに囲まれて僕は藁の中に寝っ転がる。
トカゲは大きな瞳で僕に訴えてくるし、モグラもつぶらな瞳で僕を見ている。
「そっか、お前はフレイムって言うのか。そして君はヴェルダンデか。よろしくね」
僕の言葉に満足そうに頷きフレイムは頬を寄せてくるし、ヴェルダンデは鼻を摺り寄せて来る。
うん、フレイムの頬はザラザラしてるけど気持ち良いいし、ヴェルダンデも可愛いね。
その二人を撫でてあげると、気持ち良さそうにしている。
「なんでサラマンダーとジャイアントモールの言葉が分かるのん?」
その声に振り向くと竜がいた。
そして僕と目を合わせると、シマッタと言う表情をする。
喋ったらいけないのかな?
「うん、僕は何も聞こえてないから気にしなくてイイよ。でも、名前だけでも教えてもらえると嬉しいな」
僕の言葉に少し悩んだ表情をしつつも、キューと一声上げる。
「成る程ね。イルククゥって言うんだ。よろしくね。」
僕の言葉に驚いた表情をしつつも、もう一声上げる。
「うん、ご主人様にシルフィードって名前を新しく貰ったんだね。僕もこれからはそっちで呼ばせてもらうよ」
さらに驚きつつも僕に近付いて来るので、頭を優しく撫でる。
とても気持ち良さそうにしているから、他の使い魔達も撫でながら一緒に休む。
何だかみんなと仲良くなれた気がするね。
陽射しが窓から入って来て目が覚める。
命令されなければ自由なのか、目が覚めている子は少ないようだ。
そっと僕の上に乗っかっているフレイムを降ろし、枕にさせて貰ったヴェルダンデに小さな声でお礼を言う。
そして寝ている子を起こさない様に外に出ると水場を探す。
まずは顔を洗わないとね。
水場を見つけたので、デバイスからタオルと桶、着替えなどを出して、顔だけでなく身体も洗う。
うん、お風呂はないけど水浴びみたいで気持ちがイイね。
身体を拭き終え、上半身裸で涼んでいると、後ろから人の来る気配がする。
「キャ!」
女の子の声と何か乾いたものが落ちた音がしたので振り向くと、メイドの格好をしカチューシャで黒い髪を纏めた少女が両手で顔を覆っていた。
地面には水を組みに来たであろう桶が落ちており、そして顔を覆っている手の隙間から僕のことを見ている。
「おはようございます。ここの水って使っても平気だったかな?」
「は、はい……へ、平気です」
そう言って顔を赤らめている少女。
あぁ、僕は今上半身裸だったな。
とりあえずTシャツを着て、不要なものをデバイスにしまい込む。
「ゴメンね、変な格好で。もう、服を着たから平気だよ」
「は、はい!」
そう言っておずおずと顔を覆っている手をどかす。
いや、隙間から見ていたから意味がないんじゃないんだろうか……なんて口に出さない様にアリサの指導は受けてるよ。
少女の落とした桶を拾って水を入れてあげる。
「水を汲みに来たのかな? 良ければ手伝うけど、どこまで運べば良いんだい?」
「え、え!? それは申し訳ありませんよ」
「気にしない気にしない。これから運動するつもりだったから、それのついでだと思ってよ」
少女は僕の言葉に少し悩んだ表情をしていたが、僕の左手を見ると何かに気がついた。
「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
「ん、知ってるの?」
「ええ。なんでも召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますわ」
「そっか。その話に聞かせて貰いたいから、この桶を運ぶ場所を教えてくれるかな?」
僕の言葉に一瞬キョトンとしたが、にっこりと笑い頷く。
そして歩き出しながら話をする。
「結構強引なんですね」
「そうかな? 人の話を聞かないとは良く言われるけど……」
僕の言葉にクスクスと笑少女。
「あ、自己紹介が遅れたね。僕の名前は一之瀬太郎。タローって呼んでくれると嬉しいな」
「はい、タローさん。私はシエスタって言います」
「うん、よろしくねシエスタ」
食堂の裏手にある厨房の巨大な
まだまだ何度も入れないと満タンにはならなそうだね。
「私はまた水を汲みに行ってきますので、タローさんはここで休んでいてください」
「んー、この瓶いっぱいになるまで溜めるんでしょ。結構大変じゃない?」
「それでも、それが私の朝の仕事ですから」
そう言ってシエスタは桶を持って歩き出そうとする。
「要するに瓶がいっぱいになれば良いんだよね」
「え、えぇ。そうですけど……」
シエスタから桶を預かり、反復横跳びの要領で先ほどの水場と厨房を飛ぶ。
「え!? き、消えた……?」
「人は消えないよ」
「え、え? えー!?」
シエスタの声にしっかりと答えたんだけど、なんでか驚かれちゃった。
とりあえず瓶を水で満タンにしてたのがいけないのかな?