第6話 朝食
アリサによるルイズへの説教お話が終わり、僕も正座からやっと開放されました。
なんで正座していたのかは良く分からないんだけどさ……。
「そろそろ、朝ごはんに行きましょ」
「そうね、あたしもお腹が空いたし……」
「廊下に出るならマントは付けたほうが良いわよ」
「そうなの?」
ルイズの言葉にアリサデバイスから出したマントを付け、話しながら扉を開けて廊下に出て行く。
そんなマントは初めて見たけど、ルイズと同じ物のような気がするね。
それと、僕も付いて行った方が良いのかな?
2人を追って廊下へ出ると、他の扉から丁度誰か出てきて廊下で鉢合わせになった。
「おはよう。ルイズ」
赤い髪の女の子はルイズを見ると、にやっと笑い挨拶をしてきた。
そんな彼女を見るとルイズは嫌な顔をするけど、挨拶はしっかりと返す。
「おはよう。キュルケ」
「貴女の使い魔って、それ?」
僕の事を指さして、馬鹿にした口調で言って来た。
「そうよ」
「あっはっは! ホントに人間なのね! すごいじゃない!」
人間だと変なんだっけか?
首を傾げアリサを見ると、ちょっとムスッとしている。
僕の事を馬鹿にされると機嫌悪くなるんだよね。
それがなんとなく嬉しくて、アリサの手を握る。
「!?」
「ありがと」
「い、いきなり手を握ってくるとビックリするじゃない! それと別にあたしは何もしてないわよ」
アリサが少し慌てながらそっぽを向く。
顔が赤らんでるから照れてるのかな?
「“サモン・サーヴァント”で平民
「うるさいわね」
「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。ゼロのルイズと違って、一発で呪文成功よ」
「あっそ」
「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~」
キュルケは勝ち誇った顔をして、部屋から出てくる使い魔に視線を送る。
その使い魔は真っ赤で巨大なトカゲなんだけど……。
「あ、フレイム。おはよー」
「きゅるきゅる」
「早起きしたから先に外で水浴びしてたんだよ」
「きゅるきゅる」
「うん、そうだね。イイ天気になって良かったよ」
しゃがみ込んでフレイムと話をしていると、僕の握っている手が引っ張られる。
顔を上げるとアリサは兎も角として、ルイズと赤い髪の女の子……キュルケが変なものを見るような顔でこっちに視線を送っている。
「タロー、何処で知り合ったの?」
「ん? 寝床で一緒だったから、その時に友達になったんだよ」
「「いや、それはおかしいわ」」
僕の言葉にルイズとキュルケが声を揃えてツッコミを入れてくる。
何気に息が合ってるから、実は仲が良いんじゃないの?
「あたしのフレイムと友達って……貴方、お名前は?」
「一之瀬太郎。タローでいいよ」
「変な名前ね……。それと、そちらの貴女のお名前も聞いて宜しいかしら?」
「あたしはアリサ・バニングスよ。貴女はキュルケで良いのかしら?」
「ええ、あたしは微熱のキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。よろしくねアリサ」
長い名前だなーなんて思った瞬間、手が強く握られる。
はい、口に出しません……そう思うと手の握る力が緩んだんだけど、僕の心って口に出てないよね?
アリサとキュルケは表面上は普通に挨拶を交している。
「じゃあ、お先に失礼」
アリサとの挨拶を終えるとキュルケは髪の毛をかきあげて、さっそうと去って行った。
フレイムは僕の方を向いてお辞儀をすると、ちょこちょこと可愛い動きで後を追う。
僕がフレイムに手を振って見送っていると、ルイズは拳を握りしめ震えている。
「くやしー! なんなのよあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」
キュルケが見えなくなるとルイズは怒り始める。
「あら、あたしのタローを召喚したんじゃ不服なの?」
「そうは言ってないけど……。でも、メイジの実力を測るには使い魔を見ろって言われてるのよ! どう見てもあの馬鹿女のサラマンダーの方が、私の召喚した平民よりも高いのよ!」
「そう言うもんなんだ~」
「そういうものなの!」
僕の言葉にルイズは怒鳴り、先に歩いて行ってしまう。
アリサと顔を見合わせると、お互いに肩をすくめその後を追う。
やっぱり貴族ってそう言う物を気にするんだね。
随分と巨大な食堂にたどり着き、中を覗くと百人以上座れるやたらと長いテーブルが3つ並んでいる。
全てのテーブルに豪華な飾り付けがしてあり、まさに豪華絢爛と言った感じだ。
そしてマントの色ごとに使っているテーブルが違い、アリサやルイズと同じ色の生徒は真ん中を使用していた。
「これって学年ごとなのかしら?」
「そうよ。紫色のマントが三年生で、茶色のマントが一年生。そしてロフトにいるのは先生たちよ」
ルイズの視線の先を追うと中階があり、大人たちが歓談に興じている。
それを眺めている僕に対し、ルイズは得意げに説明を始める。
「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」
「うん」
「メイジはほぼ全員が貴族なの。“貴族は魔法をもってしてその精神となす”のモットーの元、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ」
「ふーん。じゃあ、貴族じゃない僕はこの食堂から出た方が良いかな?」
「そうね。ホントは使い魔は外よ。タローは私の特別な計らいでこの食堂にいられるのよ」
僕の言葉に自慢げに胸を張るルイズ。
別に外でイイんだけどな~。
「それにしても朝から無駄に豪華ね。カロリー高そうよ」
「アリサ、カロリーって何?」
アリサの呟きにルイズは首を傾げる。
僕が椅子を引くと2人とも腰掛け、アリサは説明を始める。
「カロリーっていうのは、あたし達の世界では熱量の単位よ。そして、摂取する熱量と代謝により消費する熱量の計量として使われているわ」
「……つまり、食べ物によってカロリーを摂取して、生きているとカロリーを消費するってこと?」
「そうよ。カロリーを摂り過ぎる……つまり食べ過ぎると、消費が追いつかなくて太るってことよ」
アリサの説明で理解したのか、ルイズは朝食を見て、その後僕の顔を見る。
「タローは使い魔だから外で食べるのが普通だけど、特別に私の料理を分けてあげるわ」
「あたしの分も多いから、タローは一緒に食べましょ」
ルイズの言葉にアリサが乗っかる。
これで僕は一緒に食堂で食事をすることが出来るようになったんだけど……カロリーを気にするって、やっぱり女性だよね。
僕の前に2人から分けられた料理が置かれると、祈りの声が唱和される。
ルイズも目を瞑ってそれに加わるけど、僕とアリサはそれを見ているだけだ。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」
「いや、これはささやかって料理じゃないから……」
「シッ! タローは大人しくしてなさい。……あたしもそう思うけどね」
そして祈りを終えると皆が食事を始める。
朝からワインを飲むとか、巨大な鳥のローストや
「これだけ食べてたら、貴族はみんな太りそうだよね」
「意外と魔法を使うとカロリーが消費されるのかもよ」
「アリサの超能力はどうなの?」
「あたし? あたしのは炎だから、熱量を消費するわ。つまりカロリー消費にイイのよ」
僕の言葉にアリサは微笑む。
自分の能力がダイエットに便利って凄いな。
その言葉を聞いてルイズは羨ましそうにアリサを見ているけど……。
「そう言えばここに来てルイズのことを“ゼロ”って呼ぶ人が多いけど、それはなんでだい?」
「うっ……そ、それは……」
「タロー。女の子には聞かれたくないことが多いって何度も言ってるわよね。それはルイズにとって聞かれたくないことよ」
言葉に詰まるルイズをアリサが優しくフォロー……と言うより、僕が何故か窘められてる感じになる。
「うん、それは悪かったね。ルイズ、ごめんね」
「べ、別にイイのよ。私が説明しなくてもそのうち分かるかもしれないし……」
ルイズは僕の謝罪を聞いてキョトンとしつつも、返事をしてくれる。
まぁ、別に問題ないなら気にしないだけだから良いけどね。