第7話 授業
食事が終わり一息つくと授業があるということで、僕とアリサはルイズに付いて行く。
教室のイメージは大学の講義室かな?
教師が一番下にいて、階段のように席が続いており、中に入って行くと先に教室にいる生徒たちが一斉に振り向いた。
そしてクスクスと笑い始めるんだけど、よっぽど僕が使い魔なのが可笑しいみたいだね。
「きゅるきゅる」
「やあ、フレイム。また会ったね」
僕に対してフレイムが挨拶してきたので、普通に手を上げて挨拶を交わす。
そうすると他の使い魔が一斉に僕を見る。
みんな夜に寝床で会った子たちばかりだ。
モソモソと使い魔たちが僕に寄ってくる。
「な、なんなの?」
「タロー、もしかしてこれ全部……」
「ん? 昨日の夜友達になったよ」
「はぁ……程々にしておきなさい」
驚くルイズに僕の言葉に呆れるアリサ。
僕は近付いて来た使い魔たちの波に飲み込まれているけど、普通に近くの子を撫でている。
他の生徒たちはボー然としていたが、我に返ると自分の使い魔を呼び戻す。
その命令を受けてぞろぞろと波が引くように主人の元に戻って行く使い魔たち。
「また後でね~」
僕の言葉に使い魔たちは色々な鳴き声で返事をしてくれた。
使い魔たちが離れるとルイズも気を取り戻し、席に着いてアリサを隣に座るように誘う。
2人が席に腰を掛けるけど、他の使い魔を見習って僕は大人しく床に座る。
勿論正座じゃないからね。
「あら、タローは分かってるのね。席に座れるのはメイジだけよ」
ルイズの言葉にアリサは首を傾げ、良いことを思いついたとニコニコしながら僕の顔を覗き込む。
「タロー。あたしの席を2人で座りましょ」
そう言って横にずれて席の半分を空けてくれる。
アリサの顔を見るとニコニコしつつも赤いから、結構照れているんだろうな……。
そんな状態の中、扉が開いて中年の女性が教室に入ってきた。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
ふくよかで優しい雰囲気を漂わせた中年の女性……シュヴルーズさんは教室を見回す。
そしてルイズを中心とした僕達を見るが、ルイズは恥ずかしそうに俯く。
「ミス・アリサ、今後よろしくお願いします」
「シュヴルーズさん、よろしくお願いします。ミセスを付けたほうが良かったかしら?」
「ああ、先ほど聞きました。ミス・アリサの国ではその敬称は付けないとお聞きしましたので、今まで通りで平気ですよ」
「ありがとうございます」
流石はアリサ、いつの間にやらそこまで話が進んでいたようだ。
「そして、ミス・ヴァリエールは変わった使い魔を召喚したものですね」
その言葉に教室中がどっと笑いに包まれた。
「ゼロのルイズ! 召喚出来ないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」
「違うわ! きちんと召喚してタローが来たのよ!」
その言葉にルイズは立ち上がり、可愛らしく澄んだ声で怒鳴る。
うーん、アリサと似た声で怒鳴られると、咄嗟に従ってしまいそうだな。
「何? どうかしたのタロー」
「いや、アリサとルイズって声の質が似ているなーって」
「そうかしら?」
「うん。ちゃんと区別は付くけど、どっちも可愛らしく澄んだ声だなって思ったよ」
「もぉ……ばかね。それよりも、ほら……早く座りなさいよ」
後ろではルイズと生徒たちがワーワー騒いでいるけど、気にせずアリサは席の空いた半分をペシペシと手で叩く。
ちょっと照れくさいけど、アリサがわざわざ空けてくれたんだから座らないとね。
僕が座るとアリサの顔が近くになるな。
「も、もっとくっつかないと、お、落ちちゃうんだから……ね」
「うん」
ピッタリと僕とアリサはくっついて席に座る。
いつの間にかクラスが静かになっているので周りを見てみると、後ろで騒いでいた生徒たちの口に赤土の粘土が押さえつけられている。
「では、授業を始めますよ」
授業は魔法の系統の説明から入り、土が重要なポジションを占めていると言う。
きっとシュヴルーズさんが“赤土”と言う二つ名を持ち、土系統のメイジだからなんだろうな。
色々と説明を済ませると、石ころに向かって杖を振り、短くルーンを呟くと石ころが光り、金色に輝く金属に変わった。
「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」
キュルケが身を乗り出し質問してるけど、金じゃないよねあれ。
「違います。ただの
コホンと、もったいぶった咳をしてから口を開く。
「“トライアングル”ですから……」
ふむ、良く分からないけど結構凄いってことかな?
分からないことはルイズに聞くか。
「ねえ、ルイズ」
「ひゃ!」
僕がアリサを挟んだ逆側に居るルイズに声をかけると、アリサが僕の声に驚いたのか小さく悲鳴を上げる。
「なに? 授業中よ」
「スクウェアとかトライアングルってメイジの強さみたいなもの?」
「はぅ……た、タロー。耳に息が当たるんだけど……」
僕が喋るごとにくすぐったそうに体を動かすアリサ。
それによって僕にまたくっついて、余計に顔が近くになる。
「はぁ……何授業中にイチャ付いてるのよ。あと、スクウェアとかは系統を足せる数の事よ。ラインが2系統、トライアングルが3系統、スクウェアが4系統で、これが一番上よ」
「ミス・ヴァリエール!」
「は、はい!」
折角ルイズが説明してくれたんだけど、それをシュヴルーズさんに
「授業中の私語は慎みなさい」
「すいませんでした」
「お喋りをする暇があるなら、貴女に錬金をやってもらいましょう」
ルイズが指名されるけど、困ったような表情をして中々立ち上がらない。
そのルイズを見てキュルケが声を上げる。
「先生、危険なのでやめといた方がいいと思いますけど……」
「危険? どうしてですか?」
「ルイズを教えるのは初めてですよね」
「ええ。でも、彼女が努力家ということは聞いています。さぁ、失敗を恐れずにやってごらんなさい」
「ルイズやめて!」
キュルケの必死な言葉をシュヴルーズさんは聞かず、ルイズに優しく言葉をかける。
その言葉を聞き、ルイズは立ち上がり教室の前へ歩いて行った。
隣まで来たルイズに対し、シュヴルーズさんはにっこりと微笑みかける。
「錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」
その言葉にコクリと頷き、ルイズは手に持った杖を振り上げ、目を瞑り短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。
その瞬間、机ごと石ころが爆発……。
パシ
取り敢えず危なそうなので、グローブでキャッチしておいたけど大丈夫かな?
爆発は抑えたけど、びっくりして後ろに倒れ込んでいるルイズとシュヴルーズさん。
教室にいる使い魔たちは異変に気が付き、机の下に隠れたり床に伏せて怯えている。
「タロー、大丈夫?」
「うん、僕は平気」
席から立ち上がったアリサが心配そうな声を出すけど、手を振って大丈夫な姿を見せる。
それを見てアリサはホッとしたしたようで、席に着く。
いつまでも倒れ込んだままじゃアレだから、僕はルイズに手を差し出す。
その手を掴んでルイズは立ち上がり、髪の毛をかき上げてゆっくりと口を開く。
「ちょっと失敗したみたいね」
「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」
「いつだって成功の確率ゼロじゃないか!」
他の生徒たちがルイズの言葉に猛然と反発する。
それによって教室中は騒がしくなるんだけど、ゼロのルイズねぇ……。
アリサの横に戻って視線を送ると、アリサはゆっくり頷く。
「そうよ、ルイズは魔法が発動できない。いえ、むしろ使うと全て爆発しちゃうのよ」
「そっか~、それは大変だね。魔力の流れみたいなのは、すごい量が送り込まれているのが見えたんだけどね」
「ん? 魔力が凄い量を送り込まれていたの?」
「うん、シュヴルーズさんの何倍もだね」
「うーん、じゃあ魔法が発動しないのは……」
僕の言葉にアリサは悩み込むけど、その間も教室中はルイズと生徒たちは怒鳴り合っている。
騒がしさが嫌になったのか、使い魔たちは僕の周りに集まり、ご主人様の痴態を眺めている。
使い魔たちを撫でてあげながら僕は思わず呟く。
「凄い授業だなー。今まで爆発したのって……あぁ、中学時代にも良くあったか」
なんて思いだすのは柵川中学の思い出。
あれも随分騒がしかったなーと思いながら、アリサの悩み込んでいる横顔を眺めてたら、授業はあっと言う間に終わっちゃった。