第15話 破壊の杖
“土くれ”のフーケを捕まえ、破壊の杖を奪還するため、ロングビルさんの案内で馬車に乗り込んだ。
馬車と言っても屋根がなく荷車みたいな感じだけど、襲われた時に直ぐに降りれるようにと言う訳らしい。
そして御者はロングビルさんがやってくれている。
「ミス・ロングビル……手綱なんて付き人にやらせれば良いじゃないですか」
移動中暇なのか、キュルケがそんな事を言うが、ロングビルさんはニッコリと笑って首を左右に振る。
「いいのです。わたくしは貴族の名をなくした者ですから」
「だって貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ。でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
キュルケは好奇心が先行したのか、ロングビルさんに根掘り葉掘り質問しているけど、それ以上は答えない。
そんなキュルケにルイズが噛み付き、いつものように言い争っている。
ホント、仲の良いことだ。
「ここから先は徒歩で行きましょう」
深い森の中を馬車で移動していると、小道を見つけたロングビルさんがそう言う。
メインの道じゃないから鬱蒼とした森が広がり、昼間なのに薄暗い。
「気味が悪いわね」
「キュルケ、怖いなら帰って良いわよ」
「嫌よ! ルイズが行くのにあたしが引けるもんですか」
ルイズとキュルケは仲良く言い争いながらも、我先にと進んで行く。
その後をロングビルさんと、歩きながら本を読んでいるタバサが続き、僕とアリサが最後尾をのんびり歩く。
「タロー」
「なんだいアリサ?」
音にならないぐらい小さな声で、アリサが歩きながら僕に話しかける。
「ロングビル……明らかに怪しいわよ」
「うん。アリサがそんな感じに見ているのは、気が付いているから大丈夫だよ」
「……良く気が付いたわね」
「アリサのことは、いつも見てるからね」
「……ばか。今する話じゃないでしょ!」
おかしいな、聞かれたから普通に答えたのに馬鹿呼ばわりとは……。
首を傾げつつアリサを見ると、顔を赤らめながらも続きを話し始める。
「と、とりあえずあたしの推測だと、ロングビルがフーケよ。信じられるかは任せるけど……」
「信じるよ」
アリサの言葉を遮るように僕が答える。
今さらそんな事を言わないで欲しいな。
「僕はアリサの事を無条件で信じてる。アリサに騙されるならそれは本望さ」
「……本当に馬鹿なんだから」
アリサはそう言うと僕の腕を組んでくる。
「そんな馬鹿なタローは、ロングビルとあたしが話をする機会を作って欲しいんだけど」
「良いよ。フーケを捕まえて、ルイズ達をうまく引き離すよ」
「よろしくね」
そんな話をしながら歩いていると、森の開けた空き地のような場所に出た。
魔法学院の中庭ぐらいの広さで、真ん中に廃屋がポツンとある。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中に居るという話です」
ロングビルさんが廃屋を指差して言うけど、人の気配なんて全くないね。
アリサも熱量で気が付いているみたいだし。
そんな中、ルイズ達は作戦会議をしている。
「タロー、偵察してきてくれるかしら?」
ルイズの言葉に視線が僕に集まる。
要するに偵察して、フーケがいれば外におびき寄せて、土のゴーレムを作る暇を与えず魔法で一気に攻撃って作戦らしいね。
居ないの分かってるけど、アリサが何も言わないのでその作戦に従えば良いのかな。
「じゃ、行ってくるね」
普通に1歩で小屋まで近付く。
窓から中を覗くけど、やっぱり誰も居ない。
「誰も居ないよ」
僕の言葉にみんなが集まってくる。
そして室内に僕とタバサとキュルケが入り、ルイズとアリサは外で見張り、ロングビルさんが辺りを偵察してきますと言って森の中に消えて行った。
小屋の中でタバサが何かを取り出す。
「破壊の杖」
「あっけないわね!」
タバサが無造作に持ち上げた破壊の杖は、僕が映画とかで見たことのある形をしている。
「それが破壊の杖なの?」
「そうよ。あたし宝物庫を見学した時に見たことあるもん」
僕の言葉にキュルケが答える。
つまり破壊の杖は……。
「「タロー!」」
アリサとルイズの呼び声が聞こえたので、迷わず外に出ると巨大な土ゴーレムの姿があった。
僕に遅れて小屋から出てきたタバサとキュルケがゴーレムを見ると、すぐに魔法をゴーレムにぶつける。
だけど、巨大な竜巻も火炎もゴーレムには通用しない。
「無理よこんなの!」
「退却」
キュルケとタバサがそう言って小屋から逃げて行く。
ルイズは逃げずにゴーレムに対して魔法を唱え、ゴーレムの表面に爆発を起こしている。
「私は逃げない! アイツを捕まえれば、誰も私をゼロのルイズとは呼ばなくなるもの!」
ルイズは真剣な瞳でゴーレムを睨みつけている。
ゴーレムはルイズを踏みつけようと動き始めた。
「ルイズ、危ないよ」
「魔法が使えなくったって私は貴族なの! そして、敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」
思わずアリサと僕は顔を見合わせ微笑む。
ルイズはしっかりとした考えと、強い思いを持っているんだと実感出来たからね。
「ルイズの思いはあたし達が支えてあげるわ。だからしっかりと前を向いてなさい。」
アリサがそう言いウインクする。
それを合図に僕はデルを抜く。
「おっ、タロー。俺っちの出番……って、なんじゃこのゴーレム!?」
「ただの土だから気にしない気にしない。とりあえず口を閉じてないと舌噛むよ」
「俺っちに舌はねーよぉぉぉぉぉぉーーーーー」
デルの言葉を聞いて安心してスイングする。
言葉の途中だったのか、デルの声が流されているけど気にせず振り切る。
それによってゴーレムは砂になり崩れ去る。
「え!?」
「普通に土の水分を全部飛ばしただけだよ」
「「それはおかしい」」
驚くルイズに説明するけど、ルイズとデルがツッコむ。
はて、何がおかしいんだろうか?
ゴーレムが消え去ったのを見て、タバサとキュルケが戻ってくる。
「な、なんなのタローって……。それとも、そのマジックアイテムの力?」
「凄い。……だけどフーケは?」
タバサの言葉に周りを見渡すと、ロングビルさんが茂みの中から現れた。
「ミス・ロングビル! フーケはどこからゴーレムを操っていたのかしら」
キュルケが尋ねるけど、ロングビルさんは首を左右に振る。
「タバサ、それが破壊の杖なの?」
アリサがタバサの抱える破壊の杖を目にして問うと、タバサは小さく頷く。
「ねえアリサ。あれってバズーカ?」
「いいえ。外見からそう言う風に思えるけど、ロケットランチャーと呼ばれる物なのよ。あたしも実物を見るのは初めてだけど、ダーティーハリー3で最後にハリーがギャング団リーダーに向けて発射した奴と同じね」
「あ、アリサのお父さんが好きで、随分前に一緒に見た映画だね」
「そうよ。このM72って書かれてるものは、アメリカが採用した対戦車ロケットランチャーね。この世界なら学院の塔ぐらいは普通に破壊できるんじゃないかしら」
いや、何でそこまで詳しいの?
「タローといると、どんな知識が必要になるか分からないから、広く浅くなんでも覚えているのよ」
僕の心を読んで答えないでください……。
「ミス・アリサは破壊の杖の使い方をご存知なのですか?」
「ええ。そこのリアカバーを引き出し、そっちのインナーチューブをスライドさせるのよ」
ロングビルさんの質問にアリサは説明を始める。
それを聞いてタバサからロケットランチャーを受け取り、そのように操作をするロングビルさん。
「そしてチューブに立てられたそれ、照尺を立てるのよ。最後は肩にかけてフロントサイトを撃つ方向に向けるの」
ロングビルさんは操作をしつつ、後退り僕達から離れてフロントサイトを僕達に向ける。
「ご苦労様、ミス・アリサ。使い方が分からなかったけど助かったわ」
「どういうことですか!」
ロングビルさんの言葉にキュルケが叫ぶ。
ルイズとタバサも唖然としてロングビルさんを見つめる。
「さっきのゴーレムを操っていたのは私」
そう言ってメガネを外し、鋭い目つきに変わる。
「そこの使い魔が何をしたか分からないけど、その剣で私のゴーレムが散々よ」
「おいおい、俺っちの責任かい!」
「そんな喋る剣はマジックアイテムでしょ。だからそれをよこしなさい。そして、あなた達は杖を捨てるのよ」
アリサが率先して杖を投げ捨てると、それを見たルイズ達は杖を投げ捨てる。
僕はデルを鞘に納めてロングビルさんの方へ投げた。
「どうして!?」
「そうね、ちゃんと説明してあげるわ。“破壊の杖”を奪ったけど使い方が分からなかったのよ。それであなた達に使わせて、使い方を知ろうと考えたのよ」
ルイズの怒鳴り声にロングビルさん……いや、フーケは答える。
「私のゴーレムを普通に破壊するとは思わなかったけど、そこの異国の貴族様が、丁寧に説明してくれたから助かったわ」
フーケはそう言って笑う。
「じゃあ、お礼をいうわ。短い間だけど楽しかった。さよなら」
アリサの説明で学院の塔が破壊できると聞いているため、みんなは凄い破壊力を想像している。
ルイズとタバサ、キュルケは観念して目を瞑った。
僕とアリサは普通にフーケを見ている。
「勇気があるのね」
「いえ、違うわ」
アリサがゆっくりと首を左右に振る。
その行動の意味が分からずフーケはスイッチを押した……が、“破壊の杖”は沈黙したままだ。
「な、どうして!?」
「あたしの説明には安全装置の解除方法が抜けていただけよ」
その言葉の意味が良く分からないが、“破壊の杖”が使えないことを理解したフーケは投げ捨てて、杖を構え呪文を唱える。
今度は巨大ではないが、2mほどの鉄のゴーレムが現れた。
「あと、あたしはメイジじゃないから、杖なんて必要ないのよ」
アリサの言葉が終わると同時に、ゴーレムの足元から鉄をも溶かす火柱が立ち、ゴーレムが溶けて形を保てなくなる。
その火力にフーケだけでなく、ルイズ達も唖然とする。
アリサは僕に意味有り気なウインクを1つした。
「じゃあ、あたしに敵対したからには消えてもらうわ」
「え、あ……」
アリサの周りに火の玉が何個も現れる。
そしてそれがフーケに向かって飛んで行き、フーケの足元で爆発し……。
「
次々と火の玉はフーケの居た場所にぶつかり爆発を繰り返す。
そしてそれが収まった後には、小さなクレーターが出来ており、フーケは跡形もなく消えていた。
アリサはゆっくりとその場所へ近付き、“破壊の杖”を拾い上げる。
「あたしの炎は必要な物以外は焼かないわよ」
ルイズ達は顔を見合わせると、アリサに駆け寄った。
「これにて一件落着ね」
アリサのウインクに複雑な表情を浮かべた3人が頷いた。