002 女の子が来るみたいです
どうも、お久しぶりです。清水達也、3歳になりました。……え? 進行が早すぎるって? しょうがないですね、では生まれる前から振り返ってみましょう。
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とりあえず、暇でした。自分では動けないけど重力を感じるわけでもなく、何かを口にできるわけでもなかったです。聴覚だけは完全に死んでいなかったので……え? 胎児期はどうでもいいから、生まれた後から話せ、ですか?
では生まれた後ですね。とりあえず死ぬかと思いました。産道を通るときとか頭が割れるかと思いましたしね。しかも出たら出たで呼吸するのを忘れてそのまま死亡寸前まで行きましたし。いやぁ、本能だけで自然に呼吸ができる、改めて生命の神秘を感じました。その後は看護師さん? に連れられてすぐに一人寝かされました。後は、食べる、寝る、母(だと思う)の言葉をたまに聞く、食べる、寝るの繰り返しでした。
食事や排泄関係は恥ずかしくないのか? 食事は、口に何かが付けられたら勝手に咥えるんだ。後で調べたらそういう反射らしいけど、反射だから自分の意思じゃあ止められないのね。咥える→吸うの流れで勝手にとるから別に恥ずかしいどうこうはなかったんだよね。で、排泄関係だけど……赤ん坊だと、我慢できません。あ、トイレ行きたいと思ったらもう漏らしてます。で、気持ち悪いから泣いて母親を呼びます。そうするとおむつがさっぱりして幸せです。
あとは大体この生活を半年くらい続けて、ミルクが離乳食になってって感じです。……よく考えたら夜泣きが少ない(夜でもお腹すいたら泣いて呼ぶしかないんです)以外はごくごく普通の赤ん坊ですね。あとは母さんと遊ぶ、父さんと遊ぶ、一人で遊ぶの三択でした。
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とにかく、そんなこんなで3歳になりました。で、何故こんな報告をしているのかというと、何か女の子を預かるようになったからです。母さんが電話口で話していた内容から推測すると、どうやらその子の両親のどちらかが大きな事故にあって大きな怪我をしたみたいです。それで、このままだと一人留守番することになるから同年齢の子供がいるウチで預かるようです。今までにできた友達というか近所の子たちはみんな普通の子なので、いきなり波乱万丈な人生になる兆しが見える彼女が最初の原作キャラ候補ですね。……まあ別にどうこうしようと思っているわけじゃあないけれど、折角一応の目標(候補)が出てきたのだから話をしようと思ったわけです。それにしても遅い。迎えに行くって言ってもう20分くらい経つんだけどまだ帰ってこない。車で行ったし、そう遠くの人には頼まないだろうからそろそろ帰ってきてもいいとは思うんだけど……。
はい、しばらく待ったんですけど、全然帰ってくる気配がありません。あれから10分ほど経ってもまだきてませんでした。結局さらに10分待って合計で40分ほどでした。話を聞いてみたら、最初だということでしっかりとした挨拶をしていたみたいです。で、きた子ですが栗色の髪をした可愛い女の子でした。
「ほら達也、挨拶しなさい」
確かに出迎える側だし、こっちから挨拶しないと。
「えーっと、清水達也、3歳です」
名前だけしか言って無いけどいいよね? 多分一緒に遊んでればいいだけだろうから、その中で色々すればいいよね?
「高町なのは、私も3歳、です」
あらら、元気が無いけど……これは仕方ないかな? 親が大怪我したばかりだろうし。
「じゃあなのはちゃん、何して遊ぼっか?」
「……何でもいいの?」
「うん」
これは本心からだ。近い年の子と遊んだことはあるけど、みんな男子だったから女の子と何をすればいいのかが分かりません。
「じゃあ、おままごとがしたいな」
もしかしたらくるかなーとは思ったけど、やっぱりかぁ……。ま、何でもいいって言ったし、やるしかないか。
「うん、分かった」
しばらく一緒にままごとをしていたら、なのはちゃんも何とか打ち解けてくれたみたいです。最初はやっぱり警戒しているみたいだったけど、途中からちょっとずつだけど笑顔を見せてくれるようになって、内心ほっとしました。え、ままごとの内容は何かって? 当然のようにお母さん:なのはちゃん、お父さん:達也君でしたよ。
で、そろそろお昼だということで中断して(なのはちゃんも特に文句を言わずにやめていました。自分で作るって言うかも、と思っていたので少しだけ驚きです)、お昼ご飯を食るところです。今日はオムライスをして、その上に旗が立っています。何でもいいけど、それはチキンライスでやるものではないのしょうか?
「ごめんねー、私料理はあんまり得意じゃないから、なのはちゃんのお母さんほどおいしくないけど食べてね?」
「なのはちゃんのお母さんって料理上手なの?」
「うん。お母さんは翠屋って喫茶店をやってるの」
「そうなんだ。じゃあ毎日美味しいもの食べられるんだ」
そう言うと、なのはちゃんの様子がおかしいことに気づきました。
「……なのはちゃん?」
「お母さん最近お店が忙しくて、ご飯前よりおいしくないんだ……」
うわ、地雷踏んだ。これ、どうすればいいんだろう。
「あ、でもお母さんの作るご飯はおいしいよ? 同じ種類のが増えてるくらいで。そ、それに今までは一人で遊んでたけど、今日は達也君と遊べたから楽しかったし」
3歳児に気を遣われてるよ……。聡い子だといえば聡い子だけど、普通3歳児がこんな気の遣い方をするのかな。それにしても
「なのはちゃん、一人で遊んでたの?」
「うん……。お兄ちゃんもお姉ちゃんもお仕事手伝ったりしてて忙しそうだし」
それに近所に近い年の子供がいないのかな? いたらわざわざうちに来てないだろうし。
「じゃあお昼からも一緒に遊ぼっか」
自分に出来ることなんて精々これくらいだ。多分、家族が皆忙しそうだから、わがままを言わないように気をつけてきたのだろう。
「……うん!」
僕や母さんになら、多少のわがままは言っても大丈夫だって、少しずつでも分かってもらえればいいかな。
「——こうして二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
午後からは母さんに絵本を読んでもらっています。どうやら知能が平均より高い(自我がしっかりしているので当然ではあるが)のが嬉しいらしく、こうして時間があったら色々な本を読んでくれています。
「なのはちゃん、楽しかった?」
「はい! おうちだと積み木とかばかりで絵本を読んでもらったことが無いのでとっても楽しいです」
目をきらきらさせて答えるなのはちゃん。絵本を読んでもらっていないのは、親が働いていることが原因でしょう。積み木なら一人でもずっと遊んでいられるから都合がよかった、というのもあるのかな。ちなみに、ウチの母は専業主婦なので大分時間を割いてもらっています。ありがたいことですね。
「あら、もうこんな時間ね。なのはちゃんのお母さんからおやつにどうぞってもらっているから食べましょう」
おやつを取るためだろう、母が出て行きます。
「達也君はよく本読んでもらうの?」
「うん。母さんも僕に読ませるのが楽しいみたいだし、一杯読んでもらったよ」
「そっかぁ。達也君って本読めたりするの?」
「うーんと、ちょっとだけなら」
実は読める。さすがに知識はなくても、何冊も読んでもらえばある程度言葉を覚えるのに苦労はしません。……実は新聞や広告を通してそれなりに難しい字まで読めるのですが、さすがにそれは隠して、絵本が何とか読める、というレベルで留めています。さすがに、「外務大臣不祥事! 明来月にも内閣総辞職か!?」などが読める幼児はまずいでしょう。
「じゃあこの絵本読んでもらっていい?」
「うん、いいよ」
そうして本を読んでいると、ちょうど1冊読み終わったところで母が戻ってきた。
「あら、達也なのはちゃんに読んであげてたの?」
「うん。ところでおやつって何?」
おやつが待ちきれない、という様子が出たのか母が微笑ましいものを見るように笑っている。うぅ、ちょっと恥ずかしい。
「翠屋の名物のシュークリームよ」
どうやら翠屋の名物はシュークリームらしい。飲み物はココアみたいですね。
「へー。じゃあいただきます」
シュークリームを口に運ぶ。食べてみると、今まで食べてきたどんなお菓子よりもおいしかったです。
あまりのおいしさに少しの間呆然としていたみたいだ。なのはちゃんと母は食べ終わっていたようで、雑談をしています。ただ、その内容が僕の割と恥ずかしいことなのはどうなのでしょうね。半分はわざとやっているとはいえ勘弁して欲しいものです。
「あら、達也、戻ってきた?」
母さん、3歳の息子に対してその言い方は無いと思います。
「……うん。なのはちゃん、シュークリーム、すっごくおいしいね」
お母さんのシュークリームが褒められたのが嬉しいのか、なのはちゃんも嬉しそうでした。
楽しい時間はすぐに終わるとはよく言ったもので、もうなのはちゃんが帰る時間になりました。
「達也ー、そろそろなのはちゃん送ってかなきゃいけないんだけどだいじょうぶかしら?」
そういわれて時計を見てみると短針が6を差しています。確かにそろそろ帰らないとまずい時間ではあります。
「はーい。なのはちゃん、行こっか?」
「……うん」
あらら、さっきまでとても楽しそうだったのに、今はもう落ち込んでいます。これは……
「母さん、なのはちゃんって今度はいつウチに来るの?」
「何言ってるの? 士郎さん、っとなのはちゃんのお父さんがある程度回復するまでは来てもらう予定よ」
「じゃあなのはちゃん、また明日一緒に遊ぼう?」
「うん!」
やっぱりせっかく出来た友達と離れるのが嫌だったみたいです。
「えっと、達也君ひとつだけお願いしてもいい?」
「うん」
一日なのはちゃんと遊びましたが、余りなかったなのはちゃんからの希望です。
「えっとね、絵本貸して欲しいんだけど……いいかな?」
上目遣いのなのはちゃんの頼みを断れる訳がありません。
「いいよ。どれがいいの?」
なのはちゃんは今日読んだ本ばかりを3冊選びました。
「今日読んだ本ばっかりだけど、いいの?」
「うん。私も、少しでいいから字が読めるようになりたいから」
なんという向上心でしょう。このまま成長すれば彼女はきっと大物になることでしょう。
「じゃあ明日から一緒に頑張ろっか」
「うん!」
「達也ー?」
っとこれ以上時間かけるのはまずいかな?
「今行くー」
こうしてなのはちゃんとの出会いは終わりました。
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なのはちゃんが帰った後に、少しだけ暇を潰そうと思って絵本をあさっていたら、なにやら見慣れない本があるのに気づきました。タイトルもない、飾り気の無い本。大学ノートのような体裁のその本を、なんだろうと思って開いてみても、ほとんどのページが白紙でした。ただ、最初のページだけが違って次のように書いてありました。
『登場人物
高町なのは:4,512』
……何これ?
とりあえずここまで。原作開始までは駆け足で進みますのでよろしくお願いします。