003 四者面談? するみたいです
なのはちゃんがウチに来るようになってから2週間が経ちました。
なのはちゃんがはじめて来た日に見つけたノート(?)ですが、結局よく分かっていません。書いてある項目は未だになのはちゃんについてだけですし……。ただ、その後ろに書いてある数字は、なのはちゃんに会うだびに増えているので、これが僕の原作改変度を表しているのではないかと予想しています。なので、このノートの名前は原作改変ノート(仮)と呼んでいます。ちなみに数字は、13,510まで増えています。他の人がどうなっているのか分からないのでこれが多いのか大したことないのかも分からないですが。
なのはちゃんについてですが、何回か外で遊んだこともありますが、残念ながらなのはちゃんは運動神経が残念なようで、部屋の中で遊んでいた方が楽しいみたいです。……まあ運動音痴なのは僕もなので、室内で遊ぶのは願ったりかなったりな訳ですが。2週間の間には色々しました。なのはちゃんのお気に入りである積み木をしてみたり、絵を描いてみたり、粘土をいじってみたり……。色々やったけれど、何だかんだで本は毎日読んでいました。遊びと言えば遊びなのですが、やっている内容は僕がなのはちゃんに文字を教えるのが主目的になっていました。まあ役に立たないわけではないし、いいのかな? 大きくなってからも本に興味があるのはいいことだし。
ピンポーン
どうやら、なのはちゃんが来たみたいです。
「達也君、おはよう!」
「おはよう、なのはちゃん」
2週間も経ったことで、大分お互いの距離が縮まりました。僕もなのはちゃんも相手を友達と呼ぶのに何の躊躇いもありません。まあなのはちゃんは予想でしかないわけですが。
「ねえ、今日も絵本読もうよ」
「うん、いいよ」
とりあえず、なのはちゃんは遊びに来たらまず借りていった本を僕に読んでくれます。最初は全然だったのですが、段々読める量が増えてきているので、毎回すごいすごいと褒めています。なんというか、こう妹ってこんな感じなのかなぁと思います。なのはちゃんは同い年ですが。ちなみに今日読んでいるのは、「三匹のこぶた」です。何が心の琴線に触れたのかは分りませんが、なのはちゃんはオオカミが気に入ったみたいです。……この年代の女の子でオオカミが好きというのは珍しいと思っていますがどうなんでしょう?
「達也君、どうだった?」
「前より上手に読めるようになってるよね。すごいすごい」
そう言ってなのはちゃんの頭をなでると、えへへーと嬉しそうに笑っています。……何か母さんが微笑ましいものを見るように笑っている気がしますが、きっと気のせいです。あらあら、とか聞こえる気もしますが気のせいです、ええ。
「なのはちゃんは達也のこと好きなの?」
もう放っておいてください、母上。
「うん! 達也君ははじめてのお友達だし大好きだよ」
ほら、なのはちゃんならこう答えるの予想できてたでしょ?
「達也はどうなの?」
「……僕も、なのはちゃんは友達だし好きだよ?」
だから、放っておいて下さい。
「そうそう、達也」
まだ何かあるの?
「今日はお昼から出かけないでね」
あ、まじめな話なのね。別に出て行けといわれなければ、家で過ごす予定だったから別にいいけど。
「はーい。お昼から何かするの?」
母さんはいたずらっぽく笑っていました。
「ふふ、秘密。おやつの時間には分るから待っててね」
どうやら秘密にしたいみたいです。
「なのはちゃん、何か知ってる?」
「ううん、わかんない」
なのはちゃんと顔を見合わせますが、結局結論は出ませんでした。
「うーん……考えても分からないし、とりあえず遊ぼっか」
「そうだね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
なのはちゃんと遊んでいると、いつの間にか二時半になっていました。おやつにはまだ早いけれど、今朝母さんが言っていたことが気なります。
「達也、そろそろ出かけるからキリをつけなさい」
「丁度終わったところだからいいけど、どこかいくの?」
なのはちゃんいるけどいいのかな?
「ええ。片付けたらなのはちゃんと一緒に降りてきてね」
さすがになのはちゃんも一緒か。じゃあまずは
「じゃあなのはちゃん、片付けよっか」
「うん」
片付けると言っても大した手間ではないのですが。ちなみに、さっきまでは1文字ずつ書かれたひらがなのカードを使って、別のカードに書かれた絵が何かを答える、という遊びと勉強の中間みたいなものでした。なので、片付けはすぐに終わります。……大体は、「さかな」とか「ちょうちょ」みたいな簡単なのでしたがたまにとんでもない答えが出てくるのが面白かったです、なのはちゃんが「せいようたんぽぽ」と答えたときはびっくりしました。僕にはタンポポの種類は区別できません。
片づけを終えて階段を降りていくと、母さんが待っていました。
「じゃあ二人とも車に乗ってね」
どうやら車で出かけるみたいです。本当にどこに行くんでしょうね。
「達也君、一緒に乗ろう?」
これはおそらく、助手席と後部座席で別れないようにしよう、と言うことだと思います。
「うん、いいよ」
でもチャイルドシートはそんな風に準備してあるのでしょうか?
してありました。なのはちゃんの話だと、普段は助手席についているそうなので(朝も助手席にあったらしい)、ウチに着いてからわざわざ動かしたみたいです。母さんになのはちゃんを含めて行動が読まれている気がしますが、気にしないことにします。
「あ、この道……」
「ん、どうかしたの?」
車に乗ってしばらく走っていると、なのはちゃんが突如呟きました。
「えっとね」
「なのはちゃん、悪いんだけど、達也にはまだ秘密にしておきたいから、しー」
母さんが横槍を入れてきました。
「は、はい」
「なのはちゃん、教えてくれないの?」
何となく予想できないわけではないですが、秘密にしたいようなので分からないフリです。
「にゃはは、秘密だよ」
珍しく僕よりも優位に立てているのが嬉しいのか、なのはちゃんはご機嫌です。これを見れただけでも分からないフリをしてよかったと思えます。
それから約5分、なのはちゃんと話しているとすぐに目的地に着きました。
喫茶翠屋。それが僕たちが着いたお店の名前でした。おそらく「みどりや」と読んで、なのはちゃんのお母さんがやっているお店なのでしょうが、さすがにこれが読めるのはまずい気がします。
「母さん、ここどこ?」
「いいから行くわよ」
まだ隠しておきたいみたいです。もういい加減明かしてもいい気がしますけどね。っと、なにやら手が引っ張られています。
「行こ?」
お姫様の仰せのままに。……いや、つぶらな瞳でなのはちゃんに見つめられたら断れませんよ?
「いらっしゃいませ……って朱美?」
「こんにちは、桃子」
出迎えたのはずいぶん綺麗なお姉さんでした。桃子さんと言うらしいですが、髪の色とかからするとなのはちゃんの家族かな?
「お母さん、こんにちは」
「あら、なのはもいるのね」
お母さんって……お母さんだよね? いや、自分が何言ってるのかわからないけど……。それにしてもずいぶんと若く見える人です。なのはちゃんにお姉さんとお兄さんがいることを考えたら、ほぼギリギリで結婚してるんじゃないのかな。
「ふふ、ここがなのはちゃん家がやってる喫茶店よ。びっくりした?」
びっくりしました。多分あなたが期待してるのとは別のところでですが。
「あら、そっちの子が?」
「そうそう。達也、挨拶しなさい」
あ、そうですね。はじめて会ったんだし挨拶はしないと駄目ですね。
「清水達也です」
「達也君ね。私は高町桃子、なのはのお母さんよ」
目線を合わせるのは子ども扱いされているみたいであまり好きではないのですが、なのはちゃんくらいの子供がいるのならやって当然なんでしょうね。
「よろしくね。……朱美、立ち話もなんだし席に案内するわ」
案内されたのは4人がけのテーブルでした。さすがに平日の昼間ということもあって、人はあまりいないみたいです。
「それじゃあすぐに持ってくるから待っててね」
注文が終わって、桃子さんが戻っていきます。口調が砕けているのは、知り合いだからでしょうね。ちなみに僕はシュークリームと牛乳を、なのはちゃんがショートケーキとオレンジジュースを、母さんがベイクドチーズケーキとコーヒーを頼みました。コーヒーは飲ませてもらったことはありますが、子供の舌だからか全然飲めませんでした。……おまけにそのときの様子を母さんと父さんに笑われたので、僕の中では黒歴史認定です。
「それにしても、達也はシュークリーム好きなのね」
あのシュークリームを食べたら、また食べたくなるのは当然じゃないですか。まあ、まずいものでも食べられる貧乏舌なので、実はもらったおやつ全部おいしかったんですが。
「うん。ところで、母さんとなのはちゃんのお母さんって友達なの?」
「ええ、中学の時同級生だったのよ。お互いこんなに近くで結婚することになるとは思ってなかったけどね」
なるほど。だからなのはちゃんをウチで預かってるのかな?
「お待たせ」
雑談をしている間におやつが来たみたいです。ケーキとシュークリームと飲み物が4つテーブルに置かれます。……4つ? どうやら桃子さんも一緒にいるみたいです。
「あら桃子、お店のほうはいいの?」
「この時間は余裕あるしね。休憩がてら、なのはと達也君とお話ししようかなって」
どうやらターゲットは僕となのはちゃんみたいです……というか僕ですよね?
「達也君、ありがとうね」
桃子さんに突然お礼を言われました。よく分からないので首を傾げてみます。どうやら意味は伝わったようで苦笑しています。……シュークリームに必死な僕の様子を見てではないと思います。
「えっとね、なのはが達也君と遊ぶようになってから元気になったから」
あ、そのことですか。別に大したことではないんだけど……とりあえずシュークリームを飲み込んで、と。
「別になのはちゃんとは一緒に遊んでいるだけですよ。ね?」
「うん」
むしろそれだけで元気になるというのなら、それ以前の環境の方が問題だったんじゃあないのかな。
「それでも、日中はなのはの相手が全く出来なかったから。……やっぱりずっと一人でいさせるのはまずかったって気付くことが出来たから」
「桃子、あんまり子供相手に難しい話してもしょうがないわ」
「それもそうね」
母さんが苦笑しながら止めてくれる。一応理解は出来てたけど、どこまで反応していいのか分からなかったから正直ありがたいです。
……そうだ、いい機会だしこれは言っておこう。
「えっと、なのはちゃんのお母さん」
「何かしら? あ、言いにくかったら桃子さん、でいいわ」
それは正直ありがたいです。
「じゃあ桃子さん。ひとつだけお願い、いいですか?」
「ええ。達也君なら、大抵のことは聞いてあげるわ」
「えっと、お仕事終わってからでいいので、なのはちゃんの為に少しだけ時間を作ってあげてください」
「どういうことかしら?」
桃子さんが困惑した表情を浮かべています。なのはちゃんはなのはちゃんでびっくりしているみたいです。ここまで言って怪しまれないだろうか、とも思います。でも、なのはちゃんと遊んだ2週間の間に感じたこと。これだけは何としても解消したいと思ったのです。
「なのはちゃん、家だと誰にも迷惑かけられないって言ってました。桃子さんじゃなくて、お兄さんでもお姉さんでもいいんです」
なのはちゃんが慌てています。でも、止めるつもりはありませんよ。
「絵本を1冊読んであげるだけでいいんです。……お願いします」
絵本を挙げたのは、僕に対しても色々と頼んでいたから、なのはちゃんが一番楽に家族に頼れると思ったからです。母さんも桃子さんも黙ったままだからすごくドキドキします。……失敗したかな?
「達也君」
さっき、僕にお礼を言った時よりずっと真剣な声。
「本当にありがとう。高町家で一番幼いなのはにそんなに負担かけていたのね……」
後半は、心の声が思わず漏れたのだろう。ありがとうとは違って、何とか聞き取れるギリギリの大きさだった。
「なのは」
桃子さんの声に、なのはちゃんがびくっと反応します。……怒られるとでも思ったのかな? そんなわけないじゃないですか。
「ごめんね、なのはがそんなに悩んでいるなんて気付けなくて。お母さん失格だよね」
桃子さんが優しくなのはちゃんを抱きしめます。そして、柔らかな言葉でなのはちゃんに謝っていました。
「だって、お母さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、大変そうで、なのはは、なにも、できないから、迷惑、かけちゃ、だめだって……」
嗚咽を漏らしながらなのはちゃんが答えます。
「いいのよ。なのはの悩みに気付けなかった私よりも、ずっとなのはは頑張っていたわ。だから、これからはもっと甘えてもいいのよ」
桃子さんの言葉にとうとう堪えきれなくなったのでしょう。なのはちゃんが声を上げて泣き出します。
店にいた数少ないお客さんも、一瞬驚いたようにこちらを見ますが、親子の微笑ましいシーンだと分かると暖かい目で見守っていました。5分ほど経ったでしょうか、なのはちゃんはようやく落ち着いたようです。ただ、人前で声を上げてないたのが恥ずかしいのか、耳が真っ赤になっています。
「桃子」
タイミングを見計らっていたのでしょう、母さんが声をかけます。
「達也が言ってたみたいになのはちゃんに時間を割いてあげて欲しいけど、無理はしなくていいからね? 日中は今までどおり家で預かるから」
「うん、ありがとう。やっぱり日中はどうしても厳しいから、そうしてもらえると助かるわ。……ありがとうね、朱美」
こう、お互いに頼れる友達って感じが羨ましいです。いつか僕も作りたいものです。
「朱美、今日は家でご飯食べていかない?」
「あら、いいの?」
「ええ」
どうやらあっという間に高町家で夕食をとることが決まったようです。
「じゃあなのは、達也君と家で遊んでて頂戴」
泣き止んだけれど、まだしっかりと声を出せないのか、なのはちゃんはこくんとうなずきました。
「じゃあ私は桃子を手伝うから二人で遊んでてね」
「あら、ありがとう」
母さんは翠屋に残るみたいです。
「達也君」
「うん?」
「ありがとう」
どういたしまして。そう言う代わりに、なのはちゃんの髪を思いっきりかき回してみました。
「もーっ!」
なのはちゃんは怒ったみたいでしたが、どこか嬉しそうでした。このやり取りで、いつもの空気に戻ったので夕食まで二人で遊んでいました。
ちなみに高町家は、やたら部屋数が多い上に広い庭や道場まであってびっくりしました。今日はずいぶん驚いた一日だと思います。
何とか書きあがりました。ようやく次から他の転生者が出てきます。……時間軸は大分飛びますが。
それにしても、どうしてこんなシリアスなシーンになったんだろう。本来ならもっと軽い予定だったのですが……。
それから、転生者に持たせるチート能力で何かいい案がありましたら教えてください。10人分一応設定はしてありますが、微妙に納得がいってないものもありますので。未確定な枠は一応4つあります(男女それぞれ2つずつ)。