004 小学校に入学するみたいです
なのはちゃんの家で夕食を食べて家に帰った後に、原作改変ノート(仮)を開いて、思わず噴き出しました。登場人物の欄に、高町桃子、高町恭也、高町美由希という名が増えているのは別にかまわないです(それぞれ、なのはちゃんの母、兄、姉だ)。なのはちゃんが登場人物であれば、その家族が登場していても何の不思議もないからです。問題は、前日の夜に13,510だった数字が、帰ってみたら3,000,000を超えていたことです。どうやら、なのはちゃんと家族とのすれ違いは随分と重要なファクターだったみたいですね。……家出でもして誰かと会ったりしたのかな?
ちなみになのはちゃんは、3ヶ月ほどウチに通っていましたが、士郎さん(なのはちゃんのお父さんです)が退院したところで、毎日は来なくなりました。ただ、それからも月に2〜3回は一緒に遊び続けました。せっかくできた友達だし、すぐに縁が切れなかったのは素直にうれしかったです。
そんな未だによくわからない原作改変ノート(仮)のことは置いておいて、不肖この清水達也、とうとう小学生になります。どうやら母さんは私立のいい学校に行かせたいらしく、よく分からないまま試験を受けていました。でも実際普通の幼児もよく分からないまま受けてると思うからこれは普通なのかな? さすがに小学校落第(笑)とかは避けたかったので、必死に頑張りましたが。おかげで無事合格、4月から私立聖祥大学付属小学校に入学することになりました。あ、なのはちゃんも聖祥に入学です。僕の知り合いで聖祥に行くのはなのはちゃんだけです。正直、一人でも知り合いがいてくれてほっとしています。……まあ同じクラスになるとは限らないんですが。とりあえず、明日の入学式でどうなるのかが決まるので、それを楽しみにとりあえずは寝ますか。
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やってきました入学式。せっかくだからということで、高町家と一緒に来ています。ウチからは母さんが、高町家からは桃子さんと士郎さんが来ています。とりあえずは……
「なのはちゃん、制服似合ってるね。可愛いよ」
色々と突っ込まれる前に褒めておきます。実際似合ってますしね。白を基調とし、黒のラインと赤のリボンでアクセントをつけた聖祥の制服は、なのはちゃんにはぴったりだと思います。
「本当? でも達也君も似合ってるよ」
「あらあら、なのはったら随分楽しそうね」
確かに、今にもスキップをしだしそうなくらい、なのはちゃんはご機嫌です。
「うん! だってこれからは毎日達也君と一緒だもん」
まだ同じクラスになると決まったわけではないですけどね。それよりも、保護者組(含む母さん)の生温かい視線をどうにかしてほしいです。僕もなのはちゃんも恋愛感情なんて持ってないですから。だから写真を撮ったりしないでください。何か外堀が着々と埋められている気がするんです、マジで。
校門前で写真を撮って(撮られて)いましたが、ようやく満足したのか撮影を中止したので、やっとクラス表を見に行けます。
「そんな……」
がっくり、という表現がこれ以上なく似合いそうな様子で、なのはちゃんがうなだれています。何でもいいですが、気をつけないと制服汚れちゃいますよ?
「まあ、しょうがないわよね」
残念ながら、1年1組のなのはちゃんと違って、僕は1年2組みたいです。どういう基準でわけているのかは知りませんが、さすがに6クラスもあったら同じクラスになる確率はそう高くないでしょうね。
「うぅ、せっかく達也君と同じ学校に通えるのに……」
「ほら、なのはいい加減立ち直りなさい。クラスは違っても、今までより遊びやすくはなったんだからいいでしょう?」
まあ車で10分だと子供にはちょっと遠いですよね。それを思えば遊びやすくはなったのかな?
「なのはちゃん、達也の他にも新しい友達が出来るかもしれないでしょう?」
見かねた母さんも説得の手助けをしている。
「なのはちゃん、入学式終わったら翠屋でパーティーでしょ? その時にいっぱい話そう?」
さすがに、放置はまずいかなぁなと、僕もフォローを入れます。フォローというか気をそらしただけですが。
「うん……」
なんとか納得はしたみたいですが、まだ元気はないですね。そろそろ時間も迫ってきていますし、これ以上はどうしようもないかな?
ぐずるなのはちゃんをなんとかなだめて、それぞれのクラスにやってきました。1組と2組が隣同士だとわかると、大分機嫌が直ったのがせめてもの救いでしょうか。それにしても、やっぱりなのはちゃんは大分大人びているんですね。クラスの子を見てみても、大部分の子が騒がしくしています。……まあ僕と同じクラスだったら、なのはちゃんも騒いでいたとは思いますが。んー……なのはちゃんと遊ぶようになってから、大分自分の年齢感覚が分からなくなったんですが、この分だと小学校でも結構浮くことになりそうです。実際、それまで普通に遊んでいた近所の男の子からは少し避けられてるみたいでしたしね。誰か話が合いそうな人が一人でもいてくれればいいんですけど。
「……はぁ」
何やら重そうな溜息が聞こえてきたので、何かと思ってみてみると。ものすごく整った容姿の幼女がいました——まあみんな幼女なわけですが。彼女も精神年齢は随分高そうです。金糸のような髪をしているので、おそらく外国の人の血を引いており、それにより大人びて見える面があるのは否定できません。それでも、周りの騒いでいる子を見る様子や、先ほどの溜息を考えると、精神的に成熟していることを期待してもよさそうです。
っと。視線に気付いたのか、こっちを見てきました。ばっちり目が合っています。
「ちょっと——」
「はーい、これから入学式が始まるから、みんな先生についてきてねー」
金髪幼女(仮)が何か話そうとしましたが、残念ながら時間切れ。そこで無理にこっちと話そうとしないあたり、やっぱりしっかりとしているみたいです。
入学式が終わりました。まあこういう式典の常としてものすごく暇でしたが、対象が小学1年生ということもあってか、思ったより早く終わったのでラッキーです。しかも、入学式終了後に集まっての話しもないので、さらに楽です。
「ちょっといい?」
「いいけど、どうかしたの?」
帰ろうと思ったら、金髪幼女(仮)に話しかけられました。ですよねー。
「別に大した用じゃないわ。入学式前にじっと見てきてたから」
つまり、なんで見ていたかを話せ、と? まあいいけどさ。
「いや、落ち着いているなぁと思って」
「そう言う君も随分落ち着いていたけどね」
まあ誰と話すでもなく、席でぼーっとしてたのは僕と彼女くらいだったしね。
「うん、まぁ。ただそれで、友達になれると学校生活が楽そうだなぁ、と」
「楽、ね」
僕が意図していたことが正確に伝わったようでなによりです。正直、なのはちゃん以上に大人みたいです。
「あー……まあね。これで少なくとも孤立したりして先生にどうこうっていうのはなさそうだ」
「そうね。私も君みたいな子がいてくれて助かるわ。……っとそうだ、私はアディリナ。アディリナ・バニングス。アディーって呼んで」
「僕は清水達也だよろしくね、アディーちゃん」
僕が自己紹介をすると、アディーちゃんは顔をしかめた。
「あーごめん、アディーちゃんってすごく違和感覚えるから呼び捨てにしてくれない?」
ふむ。ニックネームだし、アディーって呼んだ方がいいのかな? ただ、そう呼ぶと母さんに大分いじくられそうなので却下です。
「じゃあアディリナちゃんならいい?」
「んー、まあそれなら」
どうやら納得してもらえたみたいです。単純に妥協しただけかもしれませんが。
「じゃあ明日からよろしくね? Bye」
ずいぶんと綺麗な発音で別れを告げるとそのまま小走りで去っていった。……これは友達ってことでいいのかな?
「達也」
背後から声が聞こえる。どうやら母さんが来たみたいです。丁度いいタイミングなあたり、途中から見ていたんでしょうね。ああ、なのはちゃんたちもいるみたいです。このまま何事もなく終わりますように……。
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入学おめでとうパーティー(桃子さん命名)の為に、翠屋までやってきました。幸い、ここまでの道では何事もなくやってこれました。
「さて、と。すぐに準備するから待っててねー」
オーナー夫妻がいなかったため、翠屋は閉店していました。多分このままパ-ティーが続くので、今日は珍しい完全休業日でしょうね。
「なのはちゃん、お友達は出来た?」
「ううん。あんまりお話しする時間もなかったし、お友達ってほど仲良くはなれなかったかな」
やはりなのはちゃんの方も時間がなかったようです。
「そうなの。でも達也のほうはもう出来たみたいよ?」
「ふえぇ!?」
これはなのはちゃんをいじる方向なのでしょうか? ぜひそうして欲しいのですが。
「ああ、それなら俺も見たな。金髪の綺麗な子だろう?」
ああ、やっぱり見られてました?
「そうそう。でも私が待ってるのに気付いたみたいで、すぐに離れて行っちゃったわ」
僕の後ろから来たってことは、アディリナちゃんからは見えてたってことだしね。
「なのは、早く友達を作らないと達也君においていかれちゃうな」
士郎さん、なのはちゃんを煽らないでください。
「うん、頑張る!」
なのはちゃんも煽られないでください。
「で、達也。何を話してたの?」
はい、飛び火しましたー。
「別に大したことは話してないよ? 自己紹介したくらいで」
実際、話した内容ってこれくらいなんですよね。
「ふーん……。ま、納得しておいてあげるわ。で、なんて名前なの?」
納得しなかったらどうするって言うんですか?
「アディリナちゃんっていうみたい」
「達也君、なのはにも紹介してね?」
「もちろん」
僕を含めて3人とも精神年齢が高いですからね。何の問題もなく遊べると思います。
「ねえなのは。達也君捕られちゃったらどうする?」
いつの間にか桃子さんが来ていました。準備は終わったんですね。
「むー。達也君はずっと友達だもん!」
別に今はなんとも思ってはいませんが、5年6年経ったらそういうことを言われたらさすがにショックでしょうねぇ。
「あらあら」
別に小学生の低学年だったらこんなものでしょう? 何を残念そうにしているんですか、桃子さん。
「ねえ達也君。喫茶店の経営とか興味ない?」
「僕は作るより食べる方が好きです」
何回かこうやって誘われているけれど、誘いに乗るのはまずい気がするのでいつも断っています。
「あら、別になのはが料理をして、達也君はウエイターをやってもいいのよ?」
「そうだよ達也君、一緒にやろ?」
なのはちゃん、桃子さんの言葉の意味分かって無いですよね? それ遠回しに結婚しろって言ってますよ?
「ほら達也君、なのはもこう言ってるしどう?」
くっ。なのはちゃんが意味分かっていないのを承知で押してきますね。きらきらとしたなのはちゃんの瞳を見ると、断るのは気が引ける。引けるけど肯定は出来ない。
「……前向きに善処します」
日本人最高だね!
とても子供とは思えない僕の言葉に、保護者組みは苦笑いしている。別にいいのさ、なのはちゃんを傷つけずに断られたから。
「まあ今はそれでいいけど。でも将来……そうね、例えば10年後になのはに頼まれたらどうする?」
10年後か。どうなるのか全く予想できないな。それは、僕となのはちゃんの関係もそうだけれど、僕やなのはちゃんがどう成長するのかも分からない。……まあ、でも。
なのはちゃんが、このまままっすぐ育っていくのなら。
それも悪くは無いのかもしれないな。
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結局最後の質問には答えなかったけれど、桃子さんも士郎さんも何も言いませんでした。
その後はいつもより少しだけ豪勢な食事を楽しみながら、暖かく穏やかな時間がすぎていきました。
自宅に帰った後は、なのはちゃんに会った日の日課である、原作改変ノート(仮)の確認をしました。一人で3,105,128というとんでもない数字を叩き出しているなのはちゃんと違って、他の4人(士郎さん、桃子さん、恭也さん、美由希さん)は合わせても5,000に届きません。おそらく、物語の中でなのはちゃんはかなり重要な役割を担っているけれど、他の人は「なのはちゃんの家族」としての役割しか持っていなかったのでしょう。
別に、僕は彼ら彼女らを物語の登場人物としてみるつもりはありません(そもそも見ようにも元の話を知らないから無理なのだが)。ただ、何か悲劇が起きるというのなら、それだけは何としても防ぎたいと思うだけです。
あれ? 項目が増えてる。
『転生者
アディリナ・バニングス』
あ、彼女って転生者だったの?
おーとりあえず更新できました。更新できたことにびっくり。
転生者は出てきましたが、本当に出てきただけですね(笑)。
まあ字環から活躍予定なので期待……してもらえるといいなぁ。