006 友達が出来たみたいです
あれから急いで戻りましたが、やっぱりなのはちゃんは待っていました。そう長い間ではなかったのですが、待たされたことにご立腹で、翌日はしっかり教室で待っているように言われてしまいました。まあ、別にいいんですけどね。どの道そう大きな用事がもある訳ではないですし。
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入学式の翌々日。今日も今日とて学校に来ています。登校時は、なのはちゃんとは別行動です。これは、聖祥大学付属小学校をはさんで、清水家と高町家がちょうど反対に位置するのでしょうがないことなのです。なのはちゃんは大変残念がっていましたが、こればかりはどうしようもありません。
個人的には、そんなことよりも行きはバスが出ているのに、帰りは出ていないことの方が不思議です。いや、時間がおおよそ揃う登校時と違って、下校時は、学校で遊ぶ子がいることや学年によって帰る時間が大きく違うので、バスを運行するのに経費がかかる、ということはわかります。でも、帰る人数が多い時間帯に合わせて、1本や2本出してもいい気がするんですけどね。
話がずれました。ぶっちゃけてしまうと、小学1年生の授業なんて受けなくてもどうとでもなります。なりますが、授業に集中していないと、親に文句がいったり、先生に目をつけられたりするので、真面目に聞いています。……退屈ですが。あまりにも退屈なので、説明されている方法以外で出来ないか考えてみたり(算数)、変な突っ込みが出来る事がないかを探したり(道徳・生活)しています。それでも暇なので、授業に集中しながらも他のことを考えられるかを試しています。これがなかなか難しく、しばらくは時間が潰せそうです。
そんなこんなで、授業は目的意識を持って取り組めていますし、悪くないです。先生の教え方も上手ですし。そして、休み時間は本を読んで過ごす予定。
「達也、ちょっといい?」
だったんですが、何かアディリナちゃんが話しかけてきました。何かあったんですかね?
「別にいいけど、どうかしたの?」
本は閉じて置いておきます。本を読むのは楽しいですが、休み時間という短い時間で無理に読む必要もありませんしね。どちらかというと、内気な本好き少年を演じることで、面倒事——運動とか運動とか運動とか——を避けるのが目的です。
「大した用じゃないわ。ただ、いつも一人だし、一緒におしゃべりしない?」
孤立しているように見える僕を気遣って、という体ですが、アディリナちゃん、目が笑っていますよ。明らかに後ろにいる子たちを持て余したんだよね?
「うん、いいよ」
無理に断るだけの理由がないので肯定するしかありません。まあいいんじゃないかな。こうしてこの休み時間は、アディリナちゃんとのおしゃべりで過ぎていきました。アディリナちゃんは、休み時間が終わっても席に着こうとしない子たちを上手くなだめて着席させていました。僕にはあんな真似は出来ないので素直にすごいと思います。このクラスの面倒事は、きっと彼女が片付けてくれることでしょう。
アディリナちゃんは休み時間の度にお友達(?) を引き連れて僕のところにやってきます。ただ、僕が特に何か話したりせず、聞いているだけでも何も言わないので目的は不明ですが。毎回違う子を連れてくるので、話をする機会が出来たのは正直ありがたいです。
今日も今日とて、お昼はみんなでお弁当です。昨日よりは、会話した事のある人が多いので、食事中の会話も少しだけ会話が弾んだ気がします。それにしても、他のみんなのお弁当はなかなか面白い事になっています。最近はやりのキャラ弁とでもいうんでしょうか? アニメのキャラだったり動物だったりがいて見物する分には面白いです。僕ですか? 母さんは料理が得意でない上に、僕がそういったものに興味がないこともあって極々普通の弁当です。今はしっかりと手作りのおかずが入っていますが、いつかは冷凍食品の山になったりするんですかねぇ。
お昼が終わったら、今日も終了です。さすがに昨日怒られたばかりなので、なのはちゃんを待っていますが、1組の担任の先生は2組の担任と違ってホームルームが長いみたいです。すでにうちのクラスはほぼ全員帰っているのに、未だ終わる気配がないです。
「達也、誰か待ってるの?」
ボーっとしていたらアディリナちゃんが話しかけてきた。姉が1組にいるので、彼女も待っているのだと思う。
「うん。友達が1組にいるから待ってるんだ。……昨日、アディリナちゃんとの話が長引いて怒られたからね、今日は教室で待ってなきゃいけないんだ」
「ふーん……」
クラスでは積極的に友達を作ろうとしていないからでしょう、何やら怪しげなものを見るような目で僕を見てきます。
「どうかした?」
「べっつに。達也にも友達いたんだなぁって」
失礼な、僕にだって友達くらいいますよ。
「それで、その子って女の子?」
ものすごく楽しそうに聞いてきます。……ああ、結局学校でもこのことでいじられるんですね。
「うん、女の子だよ?」
せめてもの抵抗として、何も気にしてませんよ、とアピールをする。
「で、その子のこと好きなの?」
「うん、好きだよ?」
ふ、まだまだ甘い。僕がどれだけ母さんと桃子さんにからかわれてきたと思ってるんだ。……駄目だ、自分で言ってて悲しくなってきた。
「あら、随分素直ね。恋人なの?」
さすがにそれはないと思います。小学1年生でそんなに進んでいるとか考えたくないです。
「違うよ。僕もなのはちゃんも恋愛感情なんて持ってないし」
記憶がないからなのか、子供の体に引っ張られているのか何が原因かは知りませんが、とりあえず誰かに恋をした、ということはないんですよね。
「ふーん。どうやら嘘は言ってないみたいね」
なんとか納得してもらえたようです。
「達也君、お待たせ」
アディリナちゃんと雑談? をしている間に1組のホームルームが終わった様で、なのはちゃんがやってきました。
「平気だよ。じゃあアディリナちゃん、僕は帰るから。またね」
「あ、待って」
なのはちゃんが来たということは、すぐにアディリナちゃんの姉も来るでしょう。そう思って別れの言葉を告げるが、何やら引きとめられました。不思議に思いつつも、立ち止まってアディリナちゃんの言葉を待ちます。
「せっかくだし、紹介してもらってもいい?」
何がせっかくなのかはわかりませんが、確かに紹介した方がいいですね。前になのはちゃんにも紹介するって言ってますし。
「ん、わかった。アディリナちゃん、こっちが僕の幼馴染の高町なのはちゃん」
そう言ってなのはちゃんを示します。
「で、なのはちゃん。こっちがアディリナ・バニングスちゃん。前にちょっとだけ話したことあったよね?」
今度はそう言ってアディリナちゃんを示しました。
「アディリナ・バニングスよ。よろしくね」
アディリナちゃんはそう言って手を伸ばします。自然にそういう動作が出てくるあたりは、やっぱり外国人の家庭で育ったんだなぁと思います。
「え、えっと高町なのはです。よろしくね、アディリナちゃん?」
握手には慣れていないからでしょう、なのはちゃんはこわごわとアディリナちゃんの手を握っています。
「それで、達也、なのは。この後って何か急ぎの予定入ってる?」
アディリナちゃんの言葉に、思わずなのはちゃんと顔を見合わせました。
「別に入ってないけど」
とりあえず、二人共に面識のある僕が代表して答えます。
「そう。それじゃあアリサが来るまでの間話につきあってちょうだい」
まあそう長い時間ではないだろうし、構わないかな?
「僕は大丈夫だけど、なのはちゃんは?」
「なのはも大丈夫だよ」
二人とも平気なので、しばらく雑談することになりました。
「あら、それじゃあ二人は3歳の時からの付き合いなんだ」
「うん! 絵本を読んでくれたし、達也君のおかげでお母さんやお父さんとも仲直りできんだ」
なのはちゃんとアディリナちゃんが二人で仲良く話しています。いや、話している内容は僕が知っていることばかりだから、頷きながら聞いているだけなんだけど。
「へー、随分色々とやって来たのね」
そこで一旦言葉を切ると、獲物を見つけたネコのような表情を浮かべました。
「達也、光源氏計画?」
アディリナちゃん、さすがにそれはなのはちゃんにはわからないと思います。
「ひかるげんじ?」
ほら、やっぱり首をかしげています。
「いや、別にそんなつもりはなかったんだけど」
「まあそうでしょうね。でも10年後にどうなってるか楽しみだわ」
……10年後もこの子にからかわれるのか。別にアディリナちゃんが嫌いなわけではありませんが、先のことを考えると精神的に疲れがたまった気がします。
「???」
なのはちゃんは、やっぱりよく分かっていないようです。
「アディー、お待たせ」
3人でしょうもない話をしていると、はじめて聞く声が聞こえてきました。どうやら、アディリナちゃんの待ち人が来たみたいです。
「ああ、アリサ。別にいいわよ。待ってる間にお友達もできたしね」
そう言ってなのはちゃんに微笑む。こうやってたまに浮かべる柔らかい笑みと僕に向かって浮かべるチシャ猫のような笑みの差がすごい。
「へー、アディーにも友達できたんだ……ってうちのクラスの子じゃない。どうやって知りあったのよ?」
「んー、友達の友達がなのはだったって感じかな」
「そう。まあいいわ、さっさと帰りましょう」
「はいはい」
僕達をちらっと見ますが、すぐに興味なさげに視線を外したアリサちゃん? に苦笑ももらしながらも、アディリナちゃんが答えました。
「それじゃあね、達也、なのは。Bye」
僕達にむけて挨拶をすると、さっと去って行きます。それにしても発音いいよね。
「バイバーイ。じゃあ達也君、私達も帰ろっか」
元気よく手を振っていたなのはちゃんに僕も苦笑をこぼしながら頷きます。
「そうだね」
なのはちゃんとアリサちゃんの立ち位置はある意味近いのかもしれませんね。転生者(ぼくたち)の被保護者、という意味で。
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学校からの帰り道、なのはちゃんと先ほどのことについて話しながら歩いて行きます。ちなみに、今日は高町家にお邪魔します。なのはちゃんは家に帰っても結局一人なので、ウチに来るか高町家にお邪魔するかのどちらかになります。クラスで新たに友達ができたら、その子と遊ぶこともあるのでしょうが。
「そうだ、なのはちゃん。クラスで友達できた?」
昨日の休み時間に、クラスのことも話すように言ったけど、結果はどうなのかな。
「うん! でも、達也君が一番の友達だよ?」
むしろこの短い間で一番から落ちたら結構ショックです。
「ありがとう。で、どんな子なの?」
「えっとね——」
なのはちゃんは沢山の子を友達として挙げました。どんなに大人びているとは言っても、やっぱり小学生です。簡単に仲良くなって、何の照れもなく友達だと言い切れるのは羨ましいですね。
「それからね、すずかちゃんって言う子がいるんだ。あんまり話したことはないんだけど、休み時間に本を読んだりしてるから、仲良くなれると思うんだ」
休み時間に本を読む、ですか。どこかで聞いたことのある話ですね。ちなみに、なのはちゃんは僕の影響か、結構本を読みます。
「へー。じゃあ明日にでも話してみたら?」
何の気なしにそう言うと、なのはちゃんはちょっと困ったような顔をしました。
「うーん……。お話してみたいとは思うんだけど、本読んでるし、何か話しかけづらくて」
「ちょっとだけ大丈夫って断ればいんじゃないかな? なのはちゃんなら相手が嫌がっていたら雰囲気で分かりそうだし」
幼少期の家族との一時的なすれ違いの影響か、なのはちゃんは空気を読むのが上手い。特に、相手の求めていることを的確に察知するので、本当に嫌がることはしないと思います。
「そうかな? じゃあ話してみる」
少しだけ考えたみたいですが、僕が言った言葉だというのもあってか、なのはちゃんはすぐに納得しました。
「そういえば、アリサちゃんだっけ? アディリナちゃんのお姉さんとは話してないの?」
折角同じクラスなんだし、アリサちゃんも友達になれば4人で遊んだりもできるでしょう。
「えーと、ね」
再び困ったような顔をします。ただ、先ほどのすずかちゃんの時よりも悩みは大きいようで、歯切れがさらに悪いですね。
「アリサちゃん、何回か話しかけてみたんだけど、相手にしてくれないの。なのはだけじゃなくって、他のクラスの子に対してもそうなの」
どうやら随分な問題児みたいです。んー、なら無理に友達にならなくても僕は構わないんだけど。
「なのはちゃん、なのはちゃんはアリサちゃんと友達になりたい?」
「うん!」
なのはちゃんが友達になりたいというのなら。
「何かあったら僕やアディリナちゃんがフォローするから、好きにやったらいいよ」
やりたいようにすればいいと思います。それに伴った問題は、僕達がどうにかするから。
前回あんなことを言いましたが、何とかできたので更新します。
そして、気付けば当初の予定からズレまくっているのでいくつかトラブルも発生しています。
……最大の誤算はタイトルにもある原作改変ノート(仮)が空気になりそうな件。
ま、まあきっと何とかなります。
……なるといいなぁ。
あ、それから日間ランキングに入っていました。評価をしてくださった方、お気に入り登録していただいた方、ありがとうございます。この場を借りてお礼を言わせていただきます。