007 なのはちゃんを探しにいくみたいです
なのはちゃんとアディリナちゃんが出会ってから、1週間が経過しました。ノートの方は、アディリナちゃんになのはちゃんを紹介してから項目が増えました。『転生者』の項目のある次のページに、『アディリナ・バニングス』というタイトルのページが増えていました。そのページには、高町なのは:102という記述があります。これが、アディリナちゃんの改変度(たぶん)なのでしょう。一方で、アリサちゃんは会ったのにも関わらず、項目に追加されませんでした。原作の登場人物ではないのですかね?
また、その間になのはちゃんは無事すずかちゃんと接触できたようです。翌日から積極的に話しかけるようになったことで、少しずつ親しくなっていっているとのことです。やっぱり本を読んでいるので、話題が合うのが大きいのでしょう。あ、ちなみに近いうちに僕とアディリナちゃんに紹介してくれるそうです。
一方で、アリサちゃんの方は難航しているようです。何回か話しかけようとしてみたりしているそうですが、残念ながらほとんど相手にしてくれないみたいです。僕もアディリナちゃんと一緒にいるときに何回かあっているのですが、こちらをちらりと見るだけで、話しかけようとはしてきません。なので、アリサちゃんに関しては、なのはちゃんの問題と言うよりアリサちゃん側に問題があるのでしょう。さすがに何の接点も無い彼女の問題を解決するのは難しいので、アディリナちゃんに頼りたいのですが、残念ながら彼女はまだ傍観を貫くみたいです。まあどうしようもなくなったら、彼女も手を貸してくれるとは思いますが。
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いつものように、アディリナちゃんと駄弁りながらなのはちゃんを待ちます。今日はすずかちゃんを連れて来てくれるとのことなので、とても楽しみです。
「達也ー」
「んー?」
現在二人で脱力しています。普段は猫を被っているようで、しっかりとした頼れるお姉さんキャラなのですが、昨日から「疲れた」と言って、こういうだらしない姿を見せてくれるようになりました。二人で机に倒れこんでいる姿は、クラスメートが見たら目を疑うでしょうね。信頼されているみたいでちょっとうれしいのは内緒です。
「アリサのことどう思う?」
今まで傍観を決め込んでいたアディリナちゃんですが、クラスでの様子などをなのはちゃんから聞いているうちに不安になったのでしょうか。ついに僕にアリサちゃんについて質問をしてきました。
「んー……直接話したことは無いから分からないけど、悪い子じゃなさそうかな」
「そう……。何か根拠はあるのかしら」
と言っても、直感みたいなものだし。あえて言うとするならこれかな。
「アディリナちゃんが何だかんだで仲良くしてるから、かなぁ」
「それだけ?」
ここからは自信が無いんだけれど……。
「後は、何か無理してるみたいに感じたから」
「無理?」
うん。どこをどうって訳じゃあないんだけれど、はじめて会ったときのなのはちゃんみたいに、やりたいことを押し殺しているような感じがします。
「えーと、ね。なんか僕達のことを羨ましそうに見たことが何回かあるんだ。それなのに、何をするでもなく我慢しているみたいだった?」
何か最後は疑問形になっちゃったけど、言いたいことは伝わったかな? そう思ってアディリナちゃんを見てみると、腕を組んで考え込んでいます。
「んー……。思い当たる節はある、かな?」
よかった、なんとか伝わったみたいですね。
「何かあったの?」
「アリサはね、すごく優秀なの。私や達也みたいに転生者ってわけじゃないと思うんだけど、物事の本質をすぐに理解するの。なのはも頭はいいと思うけど、それ以上に」
そこで一旦言葉を止め、大きく息を吐くと、アディリナちゃんは少し考え込みます。
「ただ、精神面ではかなり歪な成長をしちゃったんだと思う。父はコングロマリットのトップをしているのだけど、その関係で同年代の友達ができなかった。当然よね、万が一にでも子供から不評を買って業務に問題を出すわけにはいかないから、相手をするのは必然的に年上の子ばかりになる。……だから、きっとどうやって接していいかわからないんでしょうね」
なるほど、経験不足からくる不器用、ということかな?
「そっか。なのはちゃんが頑張ってるけど、上手くいくかな?」
「うーん、五分五分かなぁ。自分に自信があるから、同年代の子を見下してるって言うのもあるかもしれないしね」
あーなるほど。同い年の子を相手にしてなかったら、どんなに頑張っても無駄になるかもしれない、か。
「まあなのはちゃんに期待しよう。駄目だったら、アディリナちゃんも協力してくれるんだよね?」
「もちろん。なのはちゃんはもちろんだけど、アリサもこのままでいていいわけじゃないしね」
ふーん。
「……なによ、その顔は」
別に何でもないですよ。ただ、アリサちゃんのこと本当に大切なんだなぁと思って。
……アディリナちゃんと話をしているうちに結構な時間が経ちましたが、なのはちゃんもアリサちゃんも来ていません。
「今日はずいぶん遅いけど、何かあったのかしら」
「どうだろう。ちょっと様子を見てくるね」
アディリナちゃんもおかしく思っているようだったので、僕が様子を見に行くために席を立ちます。
「お願いねー」
何でもいいけど、アディリナちゃんはだらけすぎだと思います。
廊下に出てみても、誰もいません。いつも帰る時間なら、まだそれなりに人は残っているので、やっぱり今日は相当に遅いみたいです。
歩いて10秒。すぐになのはちゃんのクラスまで着きますが、中を覗いてみても誰もいません。さて、どうしたものでしょう?
とりあえず戻って、アディリナちゃんに話してみたところ、アリサちゃんに電話してみるそうです。
「……駄目ね、出ないわ。ちょっと探してみるわ」
さすがに、学校内で誘拐されるとかそういうことはないとは思いますが、やはり、少し心配なのでしょう。そう言って、席を立ちます。
「待って、僕も行くよ」
なのはちゃんが、何も言わずに行くとは思えないので、きっとなのはちゃんが絡んで何かあったのでしょう。そう思って同行を告げます。
「そう? じゃあ一応メモだけは残しておきましょう 」
そう言って、アディリナちゃんは来ないので探しに出た旨を書いていきました。
「お待たせ。じゃあ行きましょうか」
アディリナちゃんと一緒に校内を歩いていきます。
「達也、どこにいると思う?」
「僕も特にあてがある訳じゃないんだけど……人がいないとことか?」
初日も、アディリナちゃんと話すために人気がない場所をわざわざ探したのだ。アリサちゃんは知らないが、なのはちゃんの行動パターンからすると、僕達を放って遊んでいることは考えづらいです。よって、二人で何らかの話をしているのではないのか、というのが僕の予想です。
「人気がない場所? なんでまた?」
「なのはちゃん、アリサちゃんのこと気にしてたでしょ? 僕たちみたいに何か話しているんじゃないのかな、っていう予想」
僕が言うと、アディリナちゃんは納得したような表情を浮かべます。
「なるほど、確かにそれはありそうね。とりあえず、私たちが話していた階段の側から、かな?」
アディリナちゃんはそう言って、どんどん歩いて行くので、僕は何も言わずに後をついて行きます。
「いないじゃない」
「いや、文句を言われても」
そもそも推測に推測を重ねている訳だし。
「うるさいわね」
口調こそこっちを責めるようですが、表情が歪んでますよ? やつあたりだという自覚はあるみたいですね。
「じゃあ、アディリナちゃんはどこにいると思うの?」
「そうね——」
そう、アディリナちゃんが腕を組んで考え始めた時でした。
「……シャ、返して!」
少し離れたとこから、声が聞こえてきました。でも、なのはちゃんでもアリサちゃんでもないようです。
「……どうする?」
僕が投げかけた質問に、アディリナちゃんは大きく溜息を吐きました。
「行きましょう。さすがに放置するのは気分が悪いし」
なんだかんだ言いつつも、面倒見はいいですよね。
声が上がった方へ向ってみると、中庭が見えてきました。どうやら、声のある時はココにいるみたいです。
「あら?」
先行していたアディリナちゃんが、思わず、といった風に声を上げます。
「どうかしたの?」
「ほら、あれ」
そう言って指を差すので、差された方を見てみると思いもよらない光景が見えました。
「なのはちゃん?」
アリサちゃんもいますが。後もう一人、黒髪の女の子もいます。声を上げていたのは、彼女のようです。3人の立ち位置を見てみると、なのはちゃん&黒髪少女とアリサちゃんが対立しているみたいです。
「アディリナちゃん、状況わかる」
「わかるわけないでしょ」
ですよねー。アディリナちゃんもどこか投げやりです。
「で、どうしよっか」
個人的にはもう少し様子を見た方がいいと思うけど、アディリナちゃんはどうなのかな。
「……さすがにこのままじゃどうしようもないわね。しばらく様子を見ましょう」
どうやら同じ意見のようです。二人の意見が揃ったので、3人のしっかりとみてみます。
なのはちゃん……3人の中では一番落ち着いています。アリサちゃんに向かって、色々言っているみたいですが、平行線をたどっているようで話が進展していないみたいです。
アリサちゃん……手にカチューシャ? を持っていてますね。なのはちゃんと言い争いをしているみたいですが、同じ話がループしていますね。
黒髪少女……泣きそうな顔をしています。なのはちゃんもアリサちゃんもカチューシャをしている姿を見たことがないので、もしかしたらカチューシャを取られてしまって泣きそうなのかもしれません。
「あっ」
僕が黒髪少女を観察していたら、なにやら乾いた音がするとともに、アディリナちゃんが声を上げました。何事かと思って視線を動かしてみると、驚くべき光景が広がっています。
「痛い? でも大切なものを取られちゃった子の心は、もっともっと痛いんだよ」
さすがなのはちゃん、6歳児の言う言葉ではありません。……じゃなくて、なのはちゃんがアリサちゃんの頬を叩いたようです。あのなのはちゃんが、暴力という手段に出たことにびっくりです。
などと、アディリナちゃんと二人で固まっていたのがいけないのでしょう、気付けばアリサちゃんがやり返して、あっという間に喧嘩になっています。
「これは、さすがに止めないとまずいよね?」
「そんなこと言ってる暇があったらさっさと止めなさい!」
答える間も惜しいとばかりに駆けていきます。こういう行動ができるから、人気があるんでしょうね。……あ、黒髪少女が止めに入りました。気弱な子だとばかり思っていたんですが、見た目から受ける印象とは違って、芯のしっかりした子みたいですね。
「二人ともそこまでよ。この喧嘩、私が預かったわ」
さすがアディリナちゃん、格好いいです。中学になってもこのままだったら、みんな『お姉さま』と慕ってくれると思います。もしかしたら姐御と呼ばれるかもしれませんが。
とりあえず更新。7話にして初の前後編と相成りました。
そう待たせることなく後編も投稿できると思いますので、ご容赦ください。
そして、この話を投稿する時点で日間ランキング6位。こんなに高い位置にいていいんですかね?
なににしても、呼んでくださった方、評価してくださった方、ありがとうございます。