009 海に遊びにいくみたいです
アリサちゃん達と友達になった後は、特に大きな事件はありませんでした。もちろん、合間合間にイベントがあったりはしたけれど。とにかく、1学期は無事に終わりました。
原作改変ノートには、新たに5人の名前が記されました。アリサちゃん、すずかちゃん、忍さん(すずかちゃんのお姉さん)、ノエルさん(月村家のメイドさん)、鮫島さん(バニングス家の執事さん)の5人です。登場人物欄にある数字は、みんな大した大きさではありません。すずかちゃんが頭一つ抜けていますが、大した差はなく5人とも団子状態です。ただ、アリサちゃんはアディリナちゃんのページに35,192という比較的大きな数字が書かれていたので、アディリナちゃんのページと僕のページでは独立して扱われているようです。
今までに分かっているこのノートの特徴は、
1. 自分と会話した事のある登場人物が登録される。これは、アリサちゃんが会っているのに話していない間は登録されなかったことから、かなり確度の高い情報だと思います。
2. 登場人物ごとに、原作からの乖離度が記録される。数字の意味は厳密には不明ですが、なのはちゃんの家族関係で大きく動いたことから、この考えも特に問題はないはずです。
3. 他の転生者の情報が登録される。こちらは、アディリナちゃんに会ったその日に会話もしているので、登録条件の詳細は不明です。
4. 他の転生者の改変度が記録される。2. と同様の数字が書いてあることから、という予想です。アリサちゃんがいきなり大きな数字で表れたのは、登場人物欄に記録されていなかったからでしょう。
以上4点が現在わかっていることです。とにもかくにも、原作の登場人物と転生者がわかるのは、原作の知識を持っていない身としては非常にありがたいです。
まあそんなことは置いておいて。とりあえず待ちに待った夏休み。やるべきことも大してないので、思いっきり遊びましょう。
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夏休みの宿題は、5人でまとめて夏休み初日に終わらせました。残っているのは、日記などのどう頑張っても1日じゃあ終わらないものばかりです。学年の成績トップスリーがいるのですから、これくらいは当然です。
やるべきことは終わっているので、後は思いっきり遊んでいます。といっても、アディリナちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんの3人は習い事などが頻繁に入っているので、いつもという訳にはいきませんが。
ちなみに、今日はみんなで海に来ています。それも、バニングス家の両親、忍さん、ノエルさんにウチの母親も来ているので、総勢
あ、来ているのはバニングス家のプライベートビーチだとかで、それなりに広い砂浜を11人で占有できます。おまけに、普段人がいないから浜辺もとても綺麗で万々歳です。お金持ちの友達がいるってすごいんですね。……余談ですが、滞在にかかる経費や移動費など全てをバニングス家で持っているので、珍しくうちの母親が恐縮がっていました。
「んーっ。やっと着いたわね」
アリサちゃんが車での移動で固まった体をほぐすように、伸びをします。車の中では5人でずっと話していたので、アリサちゃんが言うほど時間がかかったようには感じませんが、5人で思い切り遊べるのが楽しみなんでしょう。
「ほら、さっさと着替えるわよ!」
本当に待ちきれないんでしょう。元気一杯のアリサちゃんを見て、他の人はみんな苦笑しています。が、早く遊びたいのはみんな一緒なのでしょう、特に何を言うでもなく、先に走って行ったアリサちゃんを追いかけます。
「達也」
アディリナちゃんが、こっちを振り返っていたずらっぽく笑っています。
「覗いちゃ駄目よ?」
覗くわけ無いじゃないですか。
男で、しかも子供組ではただ1人性別が違うので、ぱぱっと着替えました。現在は、女性組の着替えが終わるのを待っています。まだまだ小学生だし、そんなに時間もかからないと思う。それにしても、晴れてよかった。せっかく海に着たのに雨降りだったら最悪だしね。
「達也君」
ぼーっとしているところに声をかけられたので振り向くと、そこにいたのは少しだけ予想外の人でした。
「忍さん?」
忍さんは、確か高校2年生だったはずです。すずかちゃんの家に言ったときに何回か話はしましたが、どうかしたんでしょうか? ……それにしてもスタイルいいですね。
「うん。達也君、なのはちゃんにお兄さんいるか知ってる?」
確かに、なのはちゃんにはお兄さんがいますが、どうかしたんでしょうか? 僕の疑問が伝わったのか、苦笑しながら忍さんは付け足してくれました。
「同じクラスに、高町恭也って男の子がいるんだけど、なのはちゃんのお兄さんなのかなぁって」
なるほど。丁度いい機会だし、聞いておこうって所かな。
「なのはちゃんのお兄さんも同じ名前です。本人かどうかは分かりませんけど。ちなみに、恭也さんは格好いいけど、寡黙でちょっと近寄りがたい雰囲気の人です」
あと、何だかんだと言いつもなのはちゃんには甘いです。
「あ、じゃあ多分本人だ」
「はあ、納得してもらえたらよかったです。でも急にどうしたんです?」
クラスメートなら、本人に聞けばいいのに。
「それがね、聞いてよ。高町君ったら去年も同じクラスだったのに、私のこと覚えてないのよ? この間も挨拶したら、返してくれたけど首傾げてたし」
忍さんの愚痴がはじまりました。こんなに美人さんなのに認識していない恭也さんにある意味びっくりです。前から思っていましたが、あの人本当に高校生なんですかね? どこかのおじいさんが転生してきたと聞いても、僕は驚かない自信があります。
「あらら、達也君。おねーさんをじっと見てどうかしたの?」
あ、気付かれてました?
「いえ、忍さんみたいな美人さんと同じクラスなのに覚えていないって、恭也さん本当に高校生なのかなぁと考えてました」
「そう? ありがとう」
忍さんはくすくすと笑っています。
「でも、そういうセリフは私じゃなくてあの子達に言ってあげてね」
そう言い残してさっと去っていきました。
「……」
睨み付けられています。ちなみに、睨んでいるのはアリサちゃんです。フリルの着いた真っ赤な水着を着ています。とても可愛いし、アリサちゃんには似合ってると思いますが、小1でビキニは早いんじゃないですか? 対アリサちゃん最終兵器のアディリナちゃんに助けを求めようと視線を向けますが、ニヤニヤと笑っています。……どうやら援軍は来ないようです。
「えっと、アリサちゃん?」
「なによ?」
「何か怒ってる?」
「別に」
取り付く島も無いとはまさにこのことでしょう。一体どうしたんですかね?
「たーつーやー?」
どこか甘えた声を出して、アディリナちゃんが僕に腕を絡めてきます。せめて、あと5年経っていれば違うんでしょうが、今やってもらってもそんなに嬉しくは無いです。
「女の子が水着に着替えたんだから、言うことがあるでしょう?」
腕を絡ませるついでとばかりに耳元に口を寄せ、呟きました。……ああ、なるほど。そういうことですか。一緒に来て様子を見ていたなのはちゃん、すずかちゃんも見てみます。なのはちゃんはオレンジの、すずかちゃんはピンクのワンピースタイプの水着を着ていました。うん。
「3人とも、似合ってるよ」
アリサちゃん、なのはちゃん、すずかちゃんそれぞれをきちんと見てから言います。なのはちゃん、すずかちゃんは嬉しそうにはにかんでいますが、アリサちゃんはピクリと反応しただけで、こっちを見てくれません。
「私はー?」
アディリナちゃんは、僕の手を離して、見せ付けるようにくるりとターンします。
「わーすごくにあってるよー」
「どうして片言なのよ!」
アディリナちゃんは怒って見せますが、顔は笑みを浮かべたままです。何かやけにテンション高いですね。
「ほら、アリサもいつまでも拗ねないの。遊びにいこ?」
「拗ねてないわよ!」
アディリナちゃんは、アリサちゃんをじっと見つめていましたが、ふと何かに気付いたように大きくうなずくと、にまーっと笑いました。
「ははーん、さてはアリサ……」
その後は、アリサちゃんに耳打ちしたので、なんていったのか聞こえませんでした。
「そんなわけないでしょ!」
顔を真っ赤にしたアリサちゃんがアディリナちゃんを捕まえようとします。
「きゃー」
アディリナちゃんはそれすらも楽しむかのように悲鳴を上げ、逃げていきました。あっという間に2人が消えてしまいました。
「なんだったんだろう……」
なにが何だかよく分からないので、なのはちゃんと思わず顔を見合わせます。
「もしかして……」
独り言だったのでしょう、聞き取れるギリギリの大きさでしたが、すずかちゃんが何かいいました。
「すずかちゃん?」
「う、ううん、なんでもないの。私達も行こっか、なのはちゃん、達也君」
「うん!」
「そうだね」
よく分かりませんが、まあすずかちゃんがいいと言っているんだし、いいのでしょう。あ、ちなみにすずかちゃんの僕に対する呼び方は、清水君から達也君に変えてもらいました。さすがに5人の中で僕だけ苗字で呼ばれるとさびしいものがありました。
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楽しい時間はあっという間にすぎていきました。あれから、5人で砂の城を作ったり、泳いだり、スイカ割りをしたりと全力で海を楽しみました。夕食はみんなでバーベキューをしました。なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんの3人はもちろん、僕もアディリナちゃんも普段では考えられないくらい羽目をはずして遊んでいました。ちなみに、大人組(含む忍さんとノエルさん)は、その様子を見ながら微笑ましいものを見るかのように笑っていました。
この旅行は一泊して、明日は船を出して沖のほうまで行く予定です。泊まる部屋は、バニングス夫妻が一部屋、忍さんとノエルさんが一部屋、母さんが一部屋、そして大きめの部屋に子供達5人が一緒に寝ることになっています。……まあなっているも何も、もう全員お風呂には入り終わっており、パジャマにも着替えているので寝るだけなのですが。
「ねえ達也君、一緒にお泊りするのはじめてだね」
そういえば、なのはちゃんとはもう3年以上の付き合いですが、お互いの家に泊まったことは無いですね。
「あら、そうなの? なのはは達也にべったりだから、何回か泊まりったこともあるものだと思ってたわ」
「私も」
アリサちゃんとすずかちゃんが意外そうにいっていますが、おそらく高町夫妻がこれ以上ウチに迷惑はかけられないと断ったのでしょう。僕の場合は、泊まるという話が出る前に家に電話して迎えに来てもらっていましたし。
「別にいいんじゃない? 別にこれで最後ってわけでも無いんだし」
アディリナちゃんの話に他のみんなも頷いています。まあまだ最後では無いでしょうが、その内無理になるでしょうねぇ。なんといっても僕が一人だけ男なわけですし。
「そういえば達也、忍さんと何話してたの?」
布団の中で雑談を続けていたところ、アディリナちゃんからとんでもない言葉が飛んできました。ほら、そういうこと言うから、アリサちゃんがまた機嫌悪くしてますよ?
「いや、たいした話じゃないよ?」
「たいした話じゃなかったらしてくれてもいいよね?」
すずかちゃんも押してきますね? まあ話しても僕に害があるわけでも無いしいいんですが。
「忍さんとなのはちゃんのお兄さん同じクラスみたい、って話をしてたんだ」
「「「えぇ!?」」」
「しかも去年も同じクラスだったけど、まだ忍さんのこと覚えてないみたいだし」
「「「ええぇ!?」」」
やっぱり驚きますよね
「おにーちゃん……」
なのはちゃんがうなだれていますが、その気持ちは分かります。
「うん、お兄ちゃんにこのこと話してみる!」
と思ったのもつかの間。なのはちゃんは、勢いよく布団をはだけて立ち上がると、決意をこめてそう言い放ちました。
こうして、いつでもできる他愛も無い話を、飽きることなく続けていました。いつまでも電気の消えない子供部屋に大人組が乗り込んでくるまでこの雑談は続きました。
明日も、いい日になるといいな。
宣言通り、日常回です。
それにしても既にこの人数でキャラを扱いきれないんですが、沢山のキャラが出てくる作品を書いている方は本当にすごいですね。
特に、アリサとアディリナの区別がつけづらい。当初の予定では双子だったのを急遽変更したので、そのときに性格ももう少しいじっていれば楽だったのでしょうが。
無印編は一応めどが立ったので、無印完結までは止まることなく更新を続けられると思います。