010 進級したみたいです
新たな出会いがあった春から、もう1年が過ぎました。喧嘩からはじまった関係も、今ではその欠片も残さず共にいることが自然だと誰もが思うようになりました。友達と呼ぶようになった人達も増えましたが、いつもの5人が親友であることにはその中の誰も疑いを持っていません。そして今、再び春を向かえ、僕達は、進級しようとしています。
「ねえアディー、達也ってどうしたの?」
「放っておきなさい、どうせロクでもないことを考えてるだけだから」
失礼な。
「色々あったけど、無事2年生になったなぁって思ってただけだよ」
「あら、そうなの? てっきりどうやったら学校が支配できるのかでも考えているのかと思ったわ」
「いやいや。そんなことがぱっと出てくるアディリナちゃんには敵わないよ」
春休みの間は会えなかったので、しょうもない会話ですが、とても楽しいです。
「はいはい。じゃれあうのはそれくらいにして、さっさと行くわよ。なのはもすずかも苦笑してるでしょ」
アリサちゃんは、僕達という友達が出来てから大きく変わりました。今では誰もが認めるクラスのまとめ役で、僕たちのリーダー格です。その整った容姿もあいまって、アリサちゃんに言われたら、何か従わなくちゃいけない気がします。こういうのをカリスマって言うんでしょうね。
「わかったわよ」
少しだけ残念そうにしているアディリナちゃんです。転生者ということもあって、精神的にはほぼ完成されているので、性格が変わった、と感じることは無いです。ただ、僕たちといるときに見せる、何のかげりも無い笑顔が増えた気がします。……同じだけ暴走も増えた気がしますが。
「じゃあ達也君、アディリナちゃん、またね」
そう言ってすずかちゃんが手を振ります。クラスでアリサちゃんが暴走したとき、唯一被害無く止められるストッパーとして期待されているとのことです。少し前まで、少し不安定だったみたいなので不安だったのですが、数日振りにあったら元に戻ったようなので安心しました。僕たちに向けている笑顔は、今までのそれよりもずっと明るいものでした。
「達也君、アディリナちゃん行って来るね」
なのはちゃんも僕たちに手を振ってから2人を追いかけていきました。なのはちゃんはなのはちゃんで大変だったみたいです。恭也さんが忙しいとかで、翠屋の手伝いに入っていたそうです。なのはちゃんも楽しそうにやっていたので別にいいのですが。
ちなみに、桃子さんに言われて、僕も何回か手伝いに入りました。小学生に手伝わせるのはまずくないか、と思っていたら、お客さんに「将来のための勉強だから」って答えていました。どういうことですか。お小遣いとして、少しだけですがお金をもらえたので、なのはちゃんたち4人にプレゼントを買っておきました。アディリナちゃんとアリサちゃんがいなかったので、5人揃ってから渡そうと思ってまだ渡していないのですが。
「じゃあ僕たちも行こっか」
「そうね」
今年は去年と同じクラス。来年はどうなるのか知らないけれど、4人の内誰かとでも同じになれるといいな。
「そういえば、春休みは忙しいって言ってたけどどうしたの?」
教室について、会えたことで忘れていた疑問が再び浮んできたので聞いてみました。
「父さんの会社の関係でパーティーがあったのよ。アリサか私のどちらかは連れて行きたかったみたいだから、「2人一緒じゃなきゃやだ」って駄々こねて2人で行って来たの」
駄々をこねるアディリナちゃんか、少し見てみたい気もします。
「どこにいってたの?」
「アメリカとイギリス。時間だけはあったから宿題には困らなかったけど、どっちかしか行ってなかったら確実に暇をもてあましたわね」
アメリカとイギリスか。まあ活動の拠点で行うという意味では妥当なところなのかな?
「そんなことより、あなたのノートに何か変わったことは無かったの?」
あ、原作改変ノート(仮)? 最近はほとんど変化が無かったので放置気味だったんですが。
「んー……。頻繁には見てなかったから分からないんだけど、忍さんと恭也さんがそれなりに増えてたよ」
最近は1週間に1度しか見て無いですからねえ。
「ふーん、恭也さんと忍さん、ね」
あれ、何か納得したような。
「アディリナちゃん何か知ってるの?」
僕がそういうと、アディリナちゃんは何か驚いたような顔をして僕を見ます。
「達也、知らないの?」
何をですか?
「その顔じゃ知らないわね。恭也さんと忍さん、付き合い始めたのよ」
あ、あの2人付き合い始めたんですね。夏に忍さんが気にしてたから、もしかしたら、とは思ったんですが
「そうなんですか。でも何でアディリナちゃんは知ってるんですか?」
「なのはとすずかからメールで聞いたのよ」
アディリナちゃんとアリサちゃんが携帯電話を持っているのは知っていましたが、なのはちゃんとすずかちゃんも買ったんですね。
「達也は買わないの?」
「今のところ必要だと感じたことは無いですしねぇ」
他のみんなに用事があるときも、家に電話すれば特に問題ないですしね。月村家、バニングス家は大きいので最初こそ緊張しましたが、何回か電話するうちになれましたしね。人間の慣れって怖いですね、
「ふーん。ま、いいわ。とりあえずお土産があるから帰りには私の家に来てもらうわよ」
あ、お土産あるんですね。何かは気になりますが、もらうまで楽しみに取っておきましょう。でもついでに僕のほうも渡したいですね。
「あ、ゴメン。アディリナちゃんの家に行く前に、ウチに寄ってもらいたいんだけどいいかな?」
「達也の家に?」
アディリナちゃんは、首をかしげて少しだけ考える様子を見せましたがすぐに言葉を続けました。
「いいわ。ところで朱美さんは家にいるの?」
忘れられているかもしれませんが、朱美は僕の母さんです。
「うん。僕が帰る時間にはいつもいるから、今日もいると思うよ」
「わかったわ。じゃあ放課後を楽しみに待っていなさい」
もちろんです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
放課後になって、現在ウチに寄ってもらっています。すぐに終わるから、と入ったのですが、何故かアディリナちゃんがついてきています。
「アディリナちゃん、待っててもよかったのに」
「朱美さんに用事があったから丁度いいわ」
母さんに用事が会ったのか。朝の確認はこのためだったんだろうな。
「そう、ならいいや。……ただいまー」
「あら達也、お帰りなさい」
母さんが出迎えてくれます。
「あらアディリナちゃん。遊びに来てくれたの?」
「いえ、達也が用事あるみたいなので、家に来る途中で寄っただけです」
母さんとアディリナちゃんが会話しているのを横目に家に入ります。あまりみんなを待たせるわけにも行かないし、急がないと。
「でも、さすがにそれは悪いわ」
「いえ。アリサも誰にも知られずに話したいと思いますし」
「あらあら、達也ったら。……じゃあ、お金はこっちで出すわ。ただ、私はよく分からないから、申し訳ないけどお願いしてもいいかしら? 」
戻ったら母さんとアディリナちゃんはまだ話していました。それにしても……アリサちゃん?
「どうしたの?」
「あら、お帰り。用事はそれ?」
僕が持っている袋を見てアディリナちゃんが言います。
「うん。で、何話してたの?」
「内緒。どっちみち今日父さんに話してみないと決められないから、明日また話すわ」
きょうは随分とじらされる日みたいです。ま、アディリナちゃんが僕に害のあることはしないと信じているので構わないんですが。……いたずらは結構されるんですがね。
「じゃあ行こっか。あんまり待たせるとアリサちゃんに怒られるし」
「そうね。じゃあ朱美さん、決まったらまた電話しますので」
アディリナちゃんは、最後に母さんにそういってお辞儀をすると、さっと車に戻っていった。一人遅れると本当に怒られかねないので、靴を履いて急いで追いかけます。
「はーい、それじゃ私とアリサからのお土産の公開です」
何とか怒られずにすみ、現在はバニングス家・2人の部屋です。
「っていってもただのお菓子だから、みんなでお茶会するだけなんだけどね」
勿体つけていたら、アリサちゃんが横から大事なところを掻っ攫います。
「アーリーサー? すぐに言っちゃったら面白く無いでしょ!」
アディリナちゃんはアリサちゃんの頬をぐにぐにと引っ張っています。アリサちゃんは文句を言っている(と思う)みたいですが、残念ながらなんと言っているのかわかりません。
「ふぉのー」
このー、でしょうか? アリサちゃんもアディリナちゃんの頬を引っ張り始めます。
「もう、2人ともそこまでにしようよ」
しばらく2人はにらみ合っていましたが、適当なところですずかちゃんが二人を止めました。こういうことを自然に、しかも2人共に角が立たないように収められるのがすずかちゃんのよさなんでしょうね。2人も別に本気でやりあっていたのではなく、姉妹のじゃれあいの延長線上の行為だったのでしょう、すぐに矛を収め、周りの話に参加しています。
それからすぐに飲み物とお菓子がやってきました。お菓子自体は、それなりのおいしさでしたが、2人の話す外国での状況や2人がいなかった春休みの状況などを話していたので、十分に楽しい時間がすごせました。
「でもお姉ちゃんが恭也さんと付き合うことになってよかったな」
すずかちゃんはとても嬉しそうです。春休み前からの悩み事はどうやら忍さんと恭也さんの関係に関してみたいです。
「それは私もよかったなって思うけど、すずかちゃんそんなに嬉しいの?」
どうやら、すずかちゃんの様子にはなのはちゃんも気付いているようです。
「うん、お姉ちゃんを受け入れてくれる人がちゃんといるんだって安心できたから」
忍さんを受け入れられない人なんているんですかね? まあ僕も忍さんについてはそんなによく知っているというわけでも無いので、僕の知らないところで何か大きな問題を抱えているのかもしれませんが。……なんだろう、予想も出来ないや。
「そう……。そう言えば達也、何のために家によってたの?」
それ以上踏み込まない方がいいと察したアディリナちゃんが話題転換を図ります。
「あ、そうだ。僕からもみんなに渡したいものがあったんだ」
僕もそれにのって、持ってきた袋からラッピングされたさらに小さな袋を4つ取り出します。
「はい、これ。みんなにプレゼント」
「……いいの?」
声に出したのはなのはちゃんだけですが、みんな驚いているようです。
「うん。桃子さんから少しだけどお金もらえたから。大したものじゃあないけど、受け取ってもらえないとこっちが困るよ」
そう言って、一人ずつに袋を渡していきます。
「じゃあみんなであけましょう」
「「「「せーの」」」」
アリサちゃんが音頭を取って、一斉に封を開けます。
「……ヘアピン?」
出てきたのは、同じデザインのヘアピンでした。まあ僕は知っていたわけですが。
「うん。みんなの髪の色に合わせて選んでみたんだ」
「……つけてみてもいい?」
「もちろん」
いつもと違って、どこか自信がなさそうに尋ねてくるアリサちゃんを安心させるように笑顔でうなずきます。
「どうかな?」
僕から見えないように後ろを向いて4人でピンをつけていましたが、終わったのかまずすずかちゃんが振り向きました。そのまますぐに他の3人も振り向きます。
デフォルメされた花のデザインなのですが、なのはちゃんには緑を、すずかちゃんにはピンクを、アディリナちゃんとアリサちゃんには紫を基調としたものを贈りました。ちなみに、アディリナちゃんとアリサちゃんでは、アリサちゃんのが赤が強い紫なのに対して、アディリナちゃんは青が強い紫になっています。
「うん、似合ってるよ」
実際にあわせたわけではなかったので少し不安でしたが、似合っているようで何よりです。
「達也、ありがと」
「達也君、ありがとうなの」
「うん、達也君ありがとう」
「……達也、ありがとう」
アリサちゃんのお礼の言葉が他の3人に比べて少し小さかったです。その上、顔が少し赤らんでいます……やっぱり、そうなんでしょうかね。ただ、小学2年生がそういう感情をしっかりと持っているのか、いまいち自信が持てないのですが。
アディリナちゃんはアリサちゃんを肘でつついています。その横ではなのはちゃんが嬉しそうに笑っていますが、これは単純にプレゼントが嬉しかったからだけでしょう。一方で、すずかちゃんは複雑な顔を浮かべています。……忍さんが恭也さんと付き合いだした関係なのかな?
「でも達也、大したものじゃないって言っても小学生じゃこれ4つって結構負担になりそうだけど、大丈夫なの?」
そう言えばアディリナちゃんは知らないのか。
「春休みに、桃子さんに拉致されて翠屋で働いていたからね。だからこれを買うくらいは平気だよ」
「にゃー!? なのははもらってないの!」
焦ると幼児化+猫化するのはなのはちゃんの特徴みたいです。
「桃子さんから、「なのはにプレゼント買ってあげてね」って言われてもらったお金だからね」
本当に、
「アリサ、着々と外堀が埋められてるみたいだけど、どうする?」
「うるさい! ……別になのはなら構わないし」
「……じゃあ私もいいのかな」
すずかちゃんの呟きが聞こえたのは僕だけだったみたいですが、一体どうなってるんですか、これ?
更新しました。思ったより時間がかかったので少し焦りました。
ここに来て完全に原作ブレイク。といっても原作の原作(リリカルおもちゃ箱)の原作(とらハ3)ですが。何と始まる前に終わってしまっています。なんということでしょう。
それではまたの更新をお待ちください。