012 悩み相談を受けるみたいです
あの神社で、巫女さんと久遠にあってから2週間が経過しました。この期間、アディリナちゃんやアリサちゃん、すずかちゃんと時間が会わないときは、神社まで行って久遠と遊んでいました。あの巫女さんは、神咲那美さんといって、現在高校2年生だそうです。さすがに、小学2年生の僕達のほうが学校が終わる時間は早いので、久遠を眺めていたり久遠と遊んでいるなのはちゃんを眺めていたりしている途中に来ることの方が多いです。ちなみに、私立風芽丘学園に通っているそうで、恭也さんや忍さんと同じ高校だそうです。あ、美由希さんも今年度からここに通っているみたいです。
那美さんも、かなり整った容姿をしています。那美さんのほうが少し黒に近いですが、なのはちゃんと同じく茶色い髪色を首の辺りまで伸ばしています。ただこの人、アリサちゃんを筆頭に、僕の友人たちとは別の意味で年齢通りに見えません。言動が可愛らしいのはいいでしょう。僕の周りにはいませんでしたが、そういう人がいてもいいとは思います。ただ、この人相当にドジをします。2週間のうち会ったのは、出会った時を含めて5回なのですが、そのうちの4回でこけています。逃げた久遠を捕まえようとして2回、神社にやってきた時に階段を踏み外して1回、後の1回は久遠にじゃれ付かれて、踏まないようにしたらバランスを崩してしまったのでまだいいのかもしれませんが。運動音痴のきらいがある僕やなのはちゃんでもここまでひどくは無いので、ある意味才能なのだと思います。
あ、ちなみに那美さんは原作改変ノート(仮)には登録されませんでした。こういう飛びぬけて綺麗な人で登録されなかったのは初めてなので、少しだけほっとしました。
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とりあえず、今日も今日とて久遠と遊んでいます。なのはちゃんは、久遠に芸を仕込んでいるみたいですが、久遠の覚えるスピードが信じられないくらい早いです。
「ほらくーちゃん、宙返り!」
今もなのはちゃんの掛け声にあわせて、空中で1回転しています。これ、今日練習始めたばかりなんだよ? もしかして、久遠が何か原作に関わっているのではないのかと疑ったこともあります。何せ、「登場人物」なので、動物が登録されなくても、おかしくないですしね。まあそれにしても、久遠が登場するのならあれだけ懐いている那美さんが無関係とは思いづらいので、結局のところ信じられないくらい頭のいい狐なのでしょう。……アリサちゃんの同類だと思えば何か納得できる自分がいます。
「……くぅん」
久遠が僕のところにやってきました。一人でいる僕が気遣われているみたいですが、実際のところはなのはちゃんのやる芸の仕込みに飽きたのか疲れたのでしょうね。
「よしよし」
社の上がり口の階段に腰掛けていた僕の膝の上にやってきたのでなでてやります。
「お前は怖がりだって割にはあっさり僕たちに懐いたよねぇ」
「そういえばそうだよね」
僕の呟きになのはちゃんが答えました。出会った直後は逃げられてしまいましたが、次に来たときに那美さんに紹介されたらその日のうちに抱けましたしね。
「まあそれだけ那美さんのことを信頼してるんだろうね」
「くぉん!」
久遠はこちらをじっと眺めて、いつもより力強くなきました。……いや。
「くーちゃん、言葉わかってるみたいだよね……」
あ、やっぱりなのはちゃんもそう思います?
「どうなんだろうね。まあ那美さんの名前に反応してるだけかもしれないけどね」
首をかしげている久遠を見ながらそう答えます。まあ物語の中なら言葉のわかる狐がいたり、人の姿をする狐がいたりしても不思議では無いんですけどね。……いまだにここがどんな世界なのか解ってないですし。
「あ、こんにちは、なのはちゃん、達也君」
久遠と戯れていたら、那美さんがやってきました。
「あ、那美さんこんにちはー」
いつもどおり巫女服を着てやってきている那美さんです。それにしても、この格好で街中を歩いているんでしょうか? コスプレをしていると勘違いされそうで僕だったら勘弁して欲しいのですが。
「達也君、どうかした?」
僕がじっと見ているのに気付いたのか、那美さんが首を傾げています。
「いや、那美さんここに来るときいつもその格好だけど、街中も巫女さんの格好で歩いているのかなぁって」
「うん、そうだよ?」
何かおかしいかな、と言わんばかりの那美さんを見て確信しました。那美さんは、天然みたいです。
「あれ、久遠、もしかして寝ちゃってる?」
僕の膝の上に来たまま動かないと思ったら、寝てしまっていたようです。
「ふふ、本当に信頼されているのね」
そうなんですかね。僕となのはちゃんと那美さんしか久遠と遊んでいる姿を見たことが無いので、他の人とどうなっているのかは知りませんが。
「そうなのかな。でも、きっと那美さんが最初に「大丈夫だよ」って言ってくれたから久遠も僕たちに懐いたんだと思いますよ」
「そうかな?」
どこか嬉しそうな那美さんにさらに言葉を加えます。
「はい。久遠が、那美さんを信じているから、僕たちも信じてくれたんですよ」
「そっか。……ねえ達也君、なのはちゃん」
つい先ほどまで浮かべていた笑みを消して、那美さんの声色が真剣味を帯びたものに変わります。
「大切な友達が、自分のことを忘れちゃって、周りの人に迷惑かけてたら、どうする?」
……? 急にどうしたのだろう。話の流れからすると、久遠に関わって、なんだろうけど。
「ううん、やっぱりいいや。ごめんね、急にこんな難しい質問しちゃって」
那美さんは、笑みを作ってそういいました。
「ちゃんと話しますよ」
「え?」
どこか、切羽詰った感じがする那美さんを放っておけなくて、とりあえず思い浮かんだことを口にします。
「迷惑って言うのがどれくらいなのか分からないけど、その人が本当に大切な友達だったら、僕だけはその人のことを信じてあげたいと思うから」
「……その人が、例えば事故とかで記憶がなかったとしても?」
「その人にとって、僕が一番大切な人だったら、きっと信じると思います。だって、僕が必要としてあげなきゃ、その人はずっと一人ぼっちですよね」
思い浮かべるのは、出会ったばかりの頃のなのはちゃん。僕がいたから完全に孤独というわけではなかったけれど、それでも家族との触れ合いが足りず、悩んでいた姿を知っているから。だから。
「大切な人だったら、「僕もいるよ」と伝えてあげたいと思うよ」
「でも、すぐに捕まえないといけないってなっちゃってたら?」
何があるのかは分からないけれど、本当に根深いんですね。
「警察でも、刑務所でも、何回でも会いに行きます。その人が、僕のことを思い出してくれるまで」
想像の中でしかないけれど、僕はやると思う。母さんと父さん。なのはちゃんにすずかちゃん。それから、アディリナちゃんとアリサちゃん。誰がそうなっていたとしても、きっと僕は何回でも会いに行くんだろう。真剣に僕の話を聞いているなのはちゃんを見て、そう思いました。
「もし、その子が、私のことを思い出せなかったら死刑になっちゃうとしても?」
那美さんからは、今にも泣き出しそうな、そんな印象を受けます。そんなにやばい事態なんですか? まあでも、周りのことを思って捕まえる人達を責める訳にも行かないからこそ、那美さんは悩んでいるんでしょうね。
「……でも、会いに行くしかないんですよね? 迷惑かけるのを止められないのなら、僕のことを思い出してくれるまで会うことしかできないから。……だから、その人との絆が信じられるのなら、きっとどうあっても変わらないと思います。『助けられなかった』っていう後悔は残るかもしれないけど、『できることはあったのに』っていう後悔だけはしたくないから」
なのはちゃんの時も、不審に思われるのを覚悟の上で士郎さんと桃子さんに言って、今の僕となのはちゃんの関係があるのだから。
「くーん」
いつから起きていたのか、久遠が僕の手を舐めています。
「久遠……」
久遠はじっと那美さんを見つめ、僕の膝から降りて那美さんの元へと近寄って行きます。
「そうだよね、久遠とわたしは友達だもんね」
「くぉん!」
今まで聞いてきた久遠の声の中で、一番嬉しそうだと感じた鳴き声でした。
久遠とじっと見詰め合っている那美さんをそっとしておいて、なのはちゃんを少し離れた場所に誘います。
「達也君すごいよね。なのはは、何も言えなかったよ」
確かに、なのはちゃんが答えるのには難しい質問だったかもしれませんね。
「でも、なのはちゃんもきっと同じことをすると思うよ」
「そうかな?」
「うん。ちょっと違うけど、僕が思い出してたのは、出会ったばかりのなのはちゃんだったし」
僕がそういうと、なのはちゃんは少し考え込んでいましたが、すぐに答えは出たようです。
「うん、そうだよね。「独りじゃないよ」って言ってあげるよ」
きっと、なのはちゃんなら出来ると思いますよ。
「あはは……ごめんね、達也君」
久遠との話? は終わったのか、少し離れた場所にいた僕たちのところに那美さんがやってきました。少しだけ泣いたのか、目の周りが赤く腫れています。
「いえ。何か役に立てたのならよかったです」
「うん、わたしは、最後まで久遠を信じるよ」
……那美さん。
「ふぇ? さっきの久遠ちゃんの話だったの?」
「あああぁ〜……。ち、ちがうのなのはちゃん、久遠じゃなくて私の友達の友達がそうやって悩んでいるって話で……」
先ほどまでの雰囲気が一瞬でいつもの空気に戻ります。那美さんと付き合う人は相当しっかりしていないと大変そうです。
「うぅ……」
落ち込んでいる那美さんを慰めるかのように、久遠が那美さんの顔を舐めています。
「那美さん、僕達は気にして無いから……」
あ、トドメ刺しちゃったみたい。
「何か達也君の方が大人っぽい気がするよ……」
完全に落ち込んでいる那美さんですが、最初からある程度精神的には完成していたのである意味仕方ないかと思いますよ。いえるわけが無いので、何の慰めにもならないわけですが。
「達也君は特別なの。お姉ちゃんも「達也と話してると、何か年上と話してる気がする」って言ってたし」
ああ〜、そんなこともありましたね。高町家に行くようになってすぐの頃でしたっけ? もう最近は気にもして無いみたいですが。……たまに相談持ちかけられますし。
「そうなの? 美由希さん、だっったっけ? 何か友達になれそうな気がする」
「うん、那美さんならお姉ちゃんとお友達になれると思う」
なのはちゃんも言ってますが、相性はいいんじゃないですか? 美由希さんも結構おっとりとしてるところがあるし。
「じゃあ今度紹介してね」
「うん!」
恭也さんもそうだったけど、美由希さんもあんまり親しい友人はいないみたいでしたからね、友達が増えることに反対することは無いでしょう。
「……っといけない、放してたら大分遅くなっちゃったね」
本当です。いつの間にか完全に日が暮れています。まだまだ焦って帰らないといけないというほど遅いわけではないですが、余りのんびりしているとまずそうです。
「わ、ほんとだ。達也君、帰ろう?」
「そうだね。あんまり遅いと恭也さんや美由希さんだけじゃなくて、桃子さんにも心配かけちゃうし。それじゃあ那美さん、さようなら」
「那美さん、さようなら」
なのはちゃんと2人で那美さんに別れの挨拶をして、帰路につきます。
「あ、そうだ。2人とも」
神社から出て行こうとしたときに、那美さんに呼び止められます。どうかしたのかな。
「最近、お化けが出るって噂になってるから、夜中に出歩いちゃ駄目よ」
「ふえぇ!? お、お化けが出るの!?」
なのはちゃんは、随分と怖がっていますが……それにしても、お化けですか。まあこの世界のことはよく知らないので、いたとしても全く驚けないのですが。
「うん。大丈夫だとは思うけど、念のために、ね?」
夜の外出は確かによくないのですが、もっと遅くまでいたこともあります。それなのに今更注意してきたということは、那美さんはそういうのが見える人なんですかね? まあ巫女さんをやっているくらいですから、見えたとしても不思議は無いのですが。
その日のは、お化けを怖がったなのはちゃんと手をつないで帰りました。本当に怖かったのか、些細な物音にも過剰に反応していましたが……今日の夜、寝れるんでしょうか?
2話目の更新をしました。
感想で指摘を受けたので、携帯電話のくだりを微妙に改変しました。携帯電話代を出した人物が変更されただけなので、本筋には特に影響はありません。既に呼んでいる方も読み返さなくても特に問題はないです。
この話を書くにあたって、とらハ3をざっと確認しました(本当にストーリーラインを確認しただけです)が、色々と忘れているなぁと感じました。……一度しっかりやり直さないとまずいかもしれません。