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016 みんな秘密を抱えているみたいです
完全に四面楚歌でしたが、なんとか切り抜けました。
「ま、今回はこれくらいにしといてあげるわ」
……切り抜けたんです。
「で、達也。その子が久遠でいいの?」
アリサちゃんが那美さんの抱きかかえている久遠を指差します。
「うん。那美さんが飼ってて、僕となのはちゃんの友達の、久遠」
いつもなら、僕やなのはちゃんにすり寄ってくる久遠ですが、やっぱり知らない人がいるからなのか、那美さんの腕の中から動こうとしません。
「狐ってはじめてみるけど、可愛いね」
そう言えば、すずかちゃんの家には猫がたくさんいましたね。
「そう言われれば、確かにそうね」
アリサちゃんが久遠をじっと見つめていると、その視線に怯えたのか、久遠は那美さんの腕から抜け出して、なのはちゃんの後ろに隠れてしまいました。
「久遠、この子たちは大丈夫だから」
苦笑しながらそうなだめても、おそるおそる顔を出すだけでした。
「達也、この子いつもこんな感じなの?」
「いつもじゃないけど、僕たちが会った時もこんな感じだったかな」
アディリナちゃんの疑問に答えますが、久遠が初対面の人と会うのを見るのは、これで2回目なんですよね。
「ふーん……。ほら、何もしないからおいで」
アディリナちゃんは、久遠から少し離れたところにしゃがみ、手を差し伸べます。
「あら」
「ふぇー」
最初こそ身動きを取ろうともしなかった久遠ですが、しばらく経つとおそるおそるではありますがアディリナちゃんに近付いて行き、その指をなめました。
「ふふっ」
那美さんは、久遠がこんなにあっさりと懐いたことに驚いているようですが、僕はそれ以上にアディリナちゃんに驚いています。今まで、アリサちゃんに対してしか見せなかった優しい笑顔を、動物とはいえ初対面の相手に見せるとは思いませんでした。これに対しては、他の3人も同意見なのか、4人でマジマジとアディリナちゃんを見てしまいました。
「な、なによ……?」
そんな僕たちの様子に気付いたのか、アディリナちゃんは何が起きているのか分からないといった様子で聞いてきました。
「私、アディーがそんな風に笑うのはじめてみたわ……」
それは、アディリナちゃんがああやって笑うのはアリサちゃんに対してだけですからね。それも、本人に気付かれないようにしている節があるので、見えていなくてもしょうがないです。
「うん、私もはじめてみた」
「私もはじめてなの」
あれ、何回かこうやって笑ってはいますが、2人共見てないんですね。
「あー、もう! 別にいいでしょ!?」
さすがにみんなに微笑ましいものを見るかのように笑われるのは恥ずかしかったのか、アディリナちゃんも赤くなっています。
あれから多少の時間がたつことで、久遠もアリサちゃんとすずかちゃんに慣れ、逃げたり隠れたりすることはなくなりました。やっぱり、那美さんの力は大きいんですね。大分落ち着いた久遠ですが、現在はすずかちゃんの膝の上で丸まっています。
「ホント、こんなに元気なのに、何が問題だったのかしら」
ふ、と思い出したかのようにアリサちゃんが呟きますが……何と答えたものでしょう? なのはちゃん、那美さんと顔を見合せますが、やっぱり困った顔をしています。
「あ、ううん。言いづらいだろうなってのは分かってるからいいんだけど、もうこの子が危なくなることはないのよね?」
そんな僕たちの雰囲気を悟ってかアリサちゃんが慌てて付け足します。
「あ、それは大丈夫。このことに関してはもう完全……とはいえないけど、一番の問題は解決してるから」
そうなんですよね。幽霊とかの話になるからどこまで話していいのか分からないし、そもそも信じてもらえるかどうかから問題です。
などと考えていた時でした。すずかちゃんの膝の上で大人しくしていた久遠が突然飛び降りて、人型を取りました。
「「「ええー!?」」」
「久遠!?」
アディリナちゃん達の驚きも最もですが、那美さんの驚き方からすると、事前に人型にはならないように言い含めてあったのでしょう。
「他の人がいたら、狐のままじゃなきゃ駄目って言ったでしょ!?」
やっぱりそうですね。ただ、久遠は首を横に振っていますが。
「だいじょうぶ」
え?
「くーちゃん、喋れたの!?」
はじめて人の姿になった時も、その後に見せてもらった時も、久遠は動作でしかものを伝えることができなかったんですが……。
「ちょっと待ちなさい、驚くのはそこなの!?」
ミスといえばなのはちゃんのミスですが、ここまでの事態になっちゃった時点で、隠し通すのは無理かなぁ……。
「……なるほどね。黙ってたことに何も感じないわけじゃないけど、そのまま話されても信じられなかったでしょうから、納得しておいてあげるわ」
結局アリサちゃんとすずかちゃんの追求を抑えきれずに、洗いざらい話す羽目になりました。アリサちゃんがこういう反応するのは予想できていましたけど、すずかちゃんまで追求してくるとは思いませんでした。……何かあったんですかね?
「でも達也君、はじめて久遠ちゃん見たとき、怖いとか思わなかったの?」
やけに真剣な顔ですずかちゃんが再び質問してきました。
「久遠を怖いとは思わなかったかなぁ。さっきもチラッと話したけど、襲われてた僕を助けてくれたのが久遠だったしね」
それに、もしそんな危機的な状況じゃなかったとしても、久遠を怖がったとは思えません。
「でも、人間じゃないんだよ? ……それでも、怖くないの?」
やけにこだわりますね。すずかちゃんがここまで頑固になったのは、はじめてじゃないでしょうか?
「あの時、久遠は話せなかったけど、意思の疎通は出来てたしね。お互い理性的に話せるのなら、むやみに怖がる必要は無いと思っているよ?」
ここまで話して、ようやく納得してくれたのか、すずかちゃんからの質問が止みました。
「うん、あと、大丈夫だと思うけど……」
そして、すずかちゃんとはなしている間に、アリサちゃんと話していた那美さんのほうも終わったようです。
「わかってるわ。むやみに話したりはしないわよ」
さすがにこのメンバーですからね、話していいこと悪いことの区別はきちんとつけられます。
「お願いね。それで久遠、何が大丈夫なの?」
今まで説明のため置いておかれた久遠の行動に対して追求が入ります。
「ん……えと……」
久遠は難しい顔をして考え込んでいます。
「すずか……なかま」
長々と悩んだ後、そう言いました。
「えっと、すずかちゃんも友達だから大丈夫ってこと?」
那美さんの確認に、久遠は首を横に振ります。
「ともだち、なみ……なのは……たつや」
久遠の中では友達と仲間は違うみたいです。どういう違いなんですかね?
「月村……そういえば」
一瞬何を言っているの、という表情を浮かべた那美さんでしたが、何かに気付いたようです。何だろうと思ってすずかちゃんを見てみると、すずかちゃんは顔を真っ青にしていました。
「……すずかちゃん?」
僕の呼びかけに対しても、ビクリ、と肩を震わせ首を横に振るばかりで、何も言ってくれません。そればかりか、僕たちが近づこうとすると、何かを恐れるように後ずさりして離れていきます。
「……ごめんね。でも、『月村』なら何も問題ないの。わたしたちとは、友好的な関係だから」
どうしたものか、と僕たちが動けずにいると、す、と那美さんがすずかちゃんに近づき、抱きしめながら言いました。
「達也君たちは何も知らないのよね?」
すずかちゃんは、こくり、と首を縦に振ります。
「きっと、大丈夫だと思う。けど、勇気もいるよね? なら今じゃなくてもいいから、いつか4人にも話してあげて……ね?」
優しく、言い聞かせるように語る那美さんにすずかちゃんは泣き出してしまいましたが、しばらすると、ようやく立ち直ったようでした。
「ん……みんな、ごめんね」
顔を赤く染めながら、すずかちゃんが誤ります。
「いいわよ。誰にだって、誰にも知られたくないことはあるものだし。……特に、親しい人になら、ね」
アディリナちゃんが僕に目配せをしてきます。確かに、僕たちの抱えている事情は話せるものではありません。『登場人物』として、物語の中の人だ、と突きつけることになる3人には、特に。
「ありがとう、アディリナちゃん。私も、大丈夫だとは思う。思うけど、もしかしたら、って考えるとどうしても言い出せないの」
「ならいいわ。……でも、死ぬまでには話しなさいよね」
軽く、まるで大したことじゃないかのように言うアリサちゃんに、ようやくすずかちゃんも笑みをこぼします。
「ふふ……大丈夫。今日のことでちょっとだけ自信ついたから。でも、お姉ちゃんにも相談してみて……それからどうするか決めるね」
「なら、この話はここまで!」
アリサちゃんが力強く宣言することで、ようやく一区切りが着きました。
「久遠も、もう言わないでね」
神妙に、久遠もうなずきました。
「ほら、久遠、私は?」
「ありさ」
「じゃあ久遠、私は?」
「あ、あ……ありりな?」
「もう! なんで私の名前は言えないのよ!」
あの後雑談をしていましたが、久遠に名前を呼んでもらえていない2人が、現在名前を覚えてもらおうと頑張っています。アリサちゃんは比較的あっさりと覚えてもらえましたが、名前の発音が複雑なアディリナちゃんは、上手くいってません。
「アディーの名前は難しいからしょうがないわよ」
「むー、それは分からなくもないけどさ」
分からなくはないけど、一人だけ呼んでもらえないのは嫌、なんですよね?
「あでぃ?」
と思っていたら、愛称の方は何とか呼んでもらえそうです。一発でかなり近い発音になっています。
「久遠、おしい。あでぃ、じゃなくてアディー」
「あでぃー」
そうそう、と嬉しそうにはしゃぐアディリナちゃんを見て、名前を呼ぶのに苦労していた久遠も笑顔になりました。
「あ、そうだ久遠。来たときからのドタバタですっかり忘れてたけど、なのはちゃんに用事があったんだよね?」
あれ、僕たちに対する『無事終わったよ』の顔見せ以外にも何かあったんですか? そう思っていたら、久遠がなのはちゃんの前にやってきますが、どこか元気が無い様子です。
「くーちゃん?」
そんな久遠を見て、なのはちゃんも首を傾げています。
「なのは、……ごめん」
おずおずと言った様子で手を差し出しますが、そこに乗っているのは……壊れていますが、なのはちゃんにあげたヘアピン、かな? なのはちゃんが大切にしていたことが分かるのか、久遠は耳を伏せて、悲しげな顔をしました。
「ごめんね、なのはちゃん。ずっと身に付けてたんだけど、封が解けた時にやっぱり少し暴れて……その時壊しちゃったのよね」
「そんなに暴れたんですか?」
なのはちゃんと久遠が何も言えずにいるので、とりあえず気になったことを聞いておきます。
「ええ。薫ちゃんも恭也さんも何も出来ないくらい暴れて……。境内で封が解けたから、後で見にこればどれくらいすごかったのか分かると思う。でも、その時にこのヘアピンに稲妻当たって……それがショックだったみたいで、久遠が我を取り戻したんだけど。終わった後も、じっと悲しそうな目で見てたの」
そうだったのか……。でも、これが久遠が無事帰ってくるきっかけになったんだとしたら、なのはちゃんも責められないだろうなぁ。
「ううん、いいよ、くーちゃん」
なのはちゃんは微笑んで、久遠の頭をなでます。やっぱり、なのはちゃんならそんな事情があったと知ったら、許しちゃいますよね。
「だって、私がくーちゃんとした約束は「返してね」って約束だもん。……くーちゃんは、ちゃんと返してくれたもんね。だから、くーちゃん」
そこで、言葉を切ったなのはちゃんは笑顔を浮かべて。
「ありがとう」
「……なのは、ごめん…………ごめん……」
久遠は、なのはに抱きついて泣いていました。
「最近なのはが付けてないと思ったら、そんな場所にあったのね」
なのはちゃんと久遠の2人を眺めていると、アディリナちゃんが話しかけてきました。
「まあね。でも、まあ壊れちゃったし……なのはちゃんにはまたプレゼントかなぁ」
「そ、そんなの悪いからいいよ」
ポツリとこぼした僕の呟きになのはちゃんが反応しました。でも、こういう場面でなのはちゃんが遠慮するのは予想できているのですよ。
「ん、でも4人の中でなのはちゃんだけ持ってないのはみんな気になるだろうし、何よりも、もうただの「僕があげたプレゼント」じゃなくて、「久遠との思い出の品」になっちゃってるしね。それは大事にとっておいて、それとは別になのはちゃんだけのものがあったほうがいいだろうしね」
「うん……。達也君、ありがとう」
やっぱり、気にはなっていたのでしょう。申し訳そうな表情をしつつも、どこか嬉しそうななのはちゃんでした。
「でも、達也ってやっぱりなのはには甘いわよね」
「あ、それは私も気になってた」
ここで終わればいい話だったんですが……アディリナちゃん、すずかちゃん?
「それは桃子さんも思ってたなー」
……え? 何で桃子さんがいるんですか?
「ほら、おしゃべりするのもいいけど、もう大分遅い時間よ?」
そういわれて時計を確認してみると、もう7時を過ぎていました。
「もう夕食の準備しないといけないから一度戻ってきたんだけど、アディリナちゃんたちも食べる?」
桃子さんの申し出に悩んでいたようでしたが、急なことなので申し訳ない、また家の方で準備してあるかもしれない、ということで結局食べてはいかないみたいです。もちろん僕もですが。
「そういえば桃子さん、達也がなのはに甘いって何かあったんですか?」
僕たちが迎えを呼んでいると、1人手が空いていたアディリナちゃんが桃子さんと会話していました。
「あったのよ。ほら、これ」
桃子さんが差し出したのは、小さな紙切れ……多分写真だと思いますが。……写真?
「ちょ、待って!」
制止をかけようとしますが、残念ながら手遅れだったようです。おそらく朝のものだと思われる写真が、アディリナちゃんたちに差し出されました。
「「「「うわー」」」」
何故かアディリナちゃんだけでなく、アリサちゃんやすずかちゃん、挙句の果てに那美さんまで一緒になって騒いでいます。
「ふーん……。達也、私たちとはお泊りすら渋るのに、なのはには一緒の布団で寝てあげて、あまつさえ抱きしめてあげるのね」
アリサちゃん、それは誤解です。たまたま、必然に駆られて、なのはちゃんとはそうなっただけです。
「達也、やっぱり私の言った通り着々と攻略を進めてるじゃない」
アディリナちゃん、なのはちゃんは恋愛面ではまだまだ未成熟なのはわかってるでしょ? 友達として当然の行動ですよ? あと、その冷たい笑みがちょっと怖いです。
「達也君……。うん、近いうちに私の秘密も話すから、そのときは私とも一緒に寝てくれるよね?」
すずかちゃん、そんなに簡単に秘密を話すことを決めちゃっていいんですか? あと、アリサちゃんが暴れてますよ?
「達也君、大変ねー」
桃子さん、気楽そうに言ってますが、煽ったのはあなたですよ? どうにか収拾つけてくれませんか?
「……達也君、問題も一杯あるし、大変だと思うけど、私待ってるからね?」
那美さん、何を待ってるんです? いや、言わなくてもいいですけど。あと、関係ないですけど、僕が18になったら那美さんはもう26歳ですよ?
などと、4人が色々と言っていることと、あたふたしているなのはちゃんのことを考えていたのがいけないのでしょう、那美さんの行動に気がつくことができませんでした。
「「「「あー!!!」」」」
おでこに、何か暖かいものが触れました。
「それじゃあ達也君、またね」
真っ赤な顔をして駆け去っていく那美さんが見えました。なのはちゃんたちは騒いでいますが……。はぁ、どうしたらいいんだろう?
更新しましたー。
ちょっと2つほどアンケートをとってみます。もしよろしければご協力お願いします。
1つ目ですが、現状、主人公始点のみでやっていますが、原作に入るに当たって別キャラの視点を使ってもいいのかどうか、です。
もちろん、達也君が話の中心になるのは間違いないのですが、そのエッセンスとして入れてもいいのかどうか、です。
2つ目は作者もよく分かっていない原作改変ノート(仮)の詳細設定について。
1.ノートの設定のみを書いた話を投稿する。
2.番外編として、神様たちの馬鹿話の中でもう少し詳しい設定について話していく(本編とは雰囲気がかなり異なります)
3.全く明かさず作中で少しづつ明らかにしていく
4.こうした方がいいぞー、と言うのがあれば
以上2点になります。締め切りは1/28土曜日23:59に設定しますので、よろしくお願いします。
もちろん、他にも要望があれば言ってください。作者の力量が許す限り頑張りますので。