017 秘密を話すのは大変みたいです
さて……何かよく分からないうちに、アリサちゃん、すずかちゃんのみならず、那美さんからも好意を寄せられるようになった模様です。……なんでさ。特に那美さん。久遠がらみで何か色々言った事なのかなぁ、とは思いますが……。
とりあえず、知らないうちにアディリナちゃんたちと電話番号の交換をしていたらしく、翌日以降学校でからかわれる羽目になっています。正直、自分の過去の発言を大真面目に語られるのが、とても恥ずかしいことだとは学びました。これからはもっと気をつけてものを言いたいと思います。まあ、言葉しか武器が無い上に、こういうことを言っている時って勢いだけで言い放っているので、何かあったらまた言っちゃう予感がひしひしとするのですが……。平穏が続くといいなぁ。
「で、あんたは何を黄昏てるのよ」
真面目にアディリナちゃんの相手をしていると、からかわれるばかりだからですよ。
「はあ……精神年齢は高いくせに、そういう方向に対する成熟度ではなのはと大差ないわよね」
「んー……。頭では何となく理解できるけど、どうも実感として無いから、どう反応していいか分からない部分があるんだよね」
自意識がはっきりしてるだけで、知識や経験はゼロからのスタートでしたしね。体に引っ張られている部分もありますし、成長すればその内分かるんじゃないんですか?
「ま、アリサやすずかに酷いことしたりしなきゃ何も言わないわよ」
子供を見守るように微笑んでいるアディリナちゃんを見ていると、やっぱり経験は大きいんだな、と思います。
「そう言えば、アディリナちゃんは誰か好きな人はいないんですか?」
ふとアディリナちゃんは、そういった話を全くされていないことに気付いたので尋ねてみたのですが……何やらクラスの注目を集めてしまったようです。主に女子からなのは救いなのかそうじゃないのか……。
「いるわけないでしょ」
何もそんなに呆れた顔をしなくてもいいじゃないですか。
「ま、後5年したらわかんないけどね」
そんなものなんですかね? アディリナちゃんに注目してた女の子たちはがっくりしているようですが、アディリナちゃんのガードはそう簡単には破れませんよ。
「ま、それはいいんだけど……。達也、今日の放課後のこと、覚えてるでしょ」
「うん。すずかちゃん家、だよね」
珍しく、すずかちゃんが「空けて欲しい」と頼み込んできた日です。基本フリーな僕となのはちゃんは問題ありませんし、アディリナちゃんとアリサちゃんも幸い何も入っていなかったので、全員集合です。
「何の用事か……は何となく分かってるけど、何を話すのかしらね」
まあ那美さんや久遠の反応からすると、幽霊とか祟りとかそっち系の話だとは思いますけど。
「何にしても、すずかちゃんが変わりたいと思わなければ、僕たちの関係は変わらないと思うけどね」
「……ったく、何でそう恥ずかしいセリフをあっさり言えるのかしら」
え、もしかしてまたやりました? でも恥ずかしくないから、僕的にはセーフです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「今日は来てくれてありがとう」
放課後になり月村家に来ましたが、忍さんを待つ、とのことでしばらく時間を潰していました。ただ、やはり今日のことが気になるのか、全員気もそぞろな感じでした。
「ええ。月村の次期当主として私からもお礼を言うわ。……ありがとう」
すずかちゃんだけでなく、忍さんも普段のふざけた様子を見せずにいます。以前に聞きましたが、忍さんは次期当主だそうですが、実質親からその仕事を任されつつあるようです。今回のことも、忍さんが関わった方がいい、長い目で見るべき案件、ということでしょう。
「私とも面識があるから、私から話してもいいんだけど……」
忍さんはちらっとすずかちゃんを見ますが、すずかちゃんは決意を秘めた目をしながら首を横に振ります。
「すずかが、「私が話す」って言ってきかないから、私はただの立会人よ」
「分かりました。……それですずか、あんたが話したいこっとって何なの?」
アリサちゃんは肯定の返事をした後、すずかちゃんに真剣なまなざしを向けます。もちろん、僕たちもそれに合わせて姿勢を正しました。
「うん……まず、最初に言っておくね。色々、言いたいこととや信じられないこともあると思うけど、何も聞かないで最後まで聞いて欲しいの」
ふむ。つまり、よっぽど大きなことを話すんですね。もちろん、僕達は全員首を縦に振りました。
「まずね、私……私たちは普通の人間じゃないの」
いきなり、核心に触れてきました。僕たちは息を呑むばかりで、先の言葉がなくても何もいえなかったかもしれません。
「『夜の一族』……私たちは、そう呼んでるんだけどね。吸血鬼、っていうのが一番近いかな」
何か言いたげに立ち上がりかけたアリサちゃんを、アディリナちゃんが制止します。
「ひとの血液を力の源にして、いろんなことができるの。普通の人より、筋力とか、敏捷力も大分優れていて……」
そう言えば、すずかちゃんは運動神経がこの中で一番でしたね。力をセーブしてたのか、単純にまだまだ成長途中だからあれが限界なのかは分かりませんが。
「大体、こんなところかな? ……お姉ちゃん、何かまだ言うことある?」
「うん、大丈夫だと思うよ?」
頷く忍さんを確認して、すずかちゃんは続けます。
「それで、ね。一族の間の約束なんだけど、『誓い』を立てるかどうか選んで欲しいの」
……誓い? 多分、このことを受け入れるか否かの選択だとは思うけど……。
「今見たことを『忘れてすごす』か『秘密を共有する』か、選んで欲しいの」
「忘れたいのなら、ちょっとしたおまじないで忘れさせてあげる。私たちの一族には、そのための術があるから」
忍さんが補足してくれますが……確かに、わざわざ確認する以上はそのための方法があっても不思議ではないですね。
「もし……もし、秘密を共有してくれるのなら、血を分けた仲として、ずっと側にいるって誓ってもらうの」
ずっと、か。
「私は、みんなと一緒にいたいけど……もし、こんな化け物と一緒にいるのが嫌だっていうのなら……」
思いつめた様子で、僕たちに逃げ道を用意してくれるすずかちゃんですが……そんなことは、気にしなくてもいいのに。
「ふざけんじゃないわよ!!」
僕が何かを言う前に、アリサちゃんがキレたようです。すずかちゃんの言葉の途中なのにも関わらず、凄い剣幕で詰め寄っています。
「そんなつまんない事情で私たちがあんたとの関係を切るとでも思ってるの!?」
確認も取らずに「私たち」といってますが、僕も、なのはちゃんも、アディリナちゃんも文句があろうはずがありません。
「私がはじめて友達になろうとしたのはすずかで、その時にひどいこともしたけど、受け入れてくれたすずかのことが私は好きなの! それは、今までずっと友達付き合いしてきても変わらなかったし、もっと強くなっていったわ。そんな、ちょっと特別な事情があるからって、拒絶されると思ってたの!? ……心のそこから、親友だと思ってたのは、私だけじゃないでしょ?」
「ほらすずか。大丈夫だったでしょ?」
半分泣いたようになりながら叫んだ、アリサちゃんの言葉に合わせて頷く僕たちを見て、忍さんは優しくすずかちゃんの肩に手を置きます。
「……うん! ごめんね、アリサちゃん。きっと、大丈夫だとは思っていたの。でも、もしかしたらって考えたらやっぱり怖くて……」
そう、ですよね。人は簡単に他者を拒絶できます。それなりに特別な力を持っている以上、もしかしたら、という懸念は完全に拭い去れるものではないのでしょう。
「……それで、『誓う』ってどうしたらいいのよ? 何か儀式でもあるの?」
少しだけ泣いたことが恥ずかしいのか、アリサちゃんはすずかちゃんのほうを見ようとしませんが、その頬が赤く染まっているのは分かりました。すずかちゃんはすずかちゃんで嬉しそうに微笑んでいます。
「自分の言葉でいいの。ずっと、私の側にいるってことを言葉にして」
強制されるわけじゃなく、自分で側にいることを選んで……。
「そう……。なら、すずか。私にとってすずかは最初の友達だったわ。だから、これからも私の友達でいて」
きっと、それこそが、夜の一族が望んだ関係なのだろう。
「なら、私も。すずかとはアリサやなのはを介して友達になったけど……私もその友達の環の中にいてもいいよね」
特別な自分たちが、ありのままにいることを許してくれる。
「すずかちゃんは、友達だよ。大切な、大切ななのはの友達。だから、私はすずかちゃんのことを忘れないし……すずかちゃんも、なのはのことを忘れないでね」
そんな、普通だったら得ることに苦労がいらないものが欲しかったのだと思う。
「僕も誓うね。僕は1人だけ男だから、友達関係をいつまでも続けられるとは限らないと思う」
僕の言葉に、すずかちゃんが沈んだ表情を見せますが、まだ僕の言葉は終わってませんよ?
「だけど、何か辛いことや悲しいことがあったら、いつでも呼んで。何が出来るかはわからないけど、一緒に泣いたり、胸を貸したりは出来ると思うから」
「うん……うん……!」
すずかちゃんは、泣き出していますが、優しく微笑んで、すずかちゃんを抱き寄せている忍さんを見る限り、これは悲しみの涙ではなく嬉し泣きなのでしょう。
「じゃあ、これで誓いは終わりね」
言葉を発することの出来ないすずかちゃんに代わって、忍さんがこの場を締めます。
「すずか、いつまでも泣いてないで……。もう……ほら、顔を洗ってらっしゃい」
顔を覗き込んだ忍さんにそういわれ、すずかちゃんはこくり、と頷いた後部屋から出て行きました。
「そういえば忍さん、お兄ちゃんもこのこと知ってるんですか?」
すずかちゃんが出て行ってすぐに、なのはちゃんが思い出したかのように尋ねました。まあ恋人という関係になっている以上、知っているとは思いますが。
「もちろん。……ただ、そのことがすずかに色々影響を与えてたみたいだけどね」
そういえば、すずかちゃんの様子がおかしくなり出したのは、恭也さんと忍さんの仲が接近しだしてからでしたね。……忍さんと恭也さんの関係? 忍さんはもちろん、桃子さんや美由希さんからも聞きましたがどうかしました?
「そういえば、すずかの様子が変だったのってそのころだったわね」
「やっぱり気付いてた? 私が、一族のことを告げるかどうか悩んでいるって話をしちゃったから、すずかもみんなに言うかどうかで悩みだしたみたいなのよね」
なるほど、きっかけ自体は久遠でしたが、久遠の件がなくてもそう遠く無い未来に聞くことになっていたかもしれませんね。
「ま、恭也が受け入れてくれて……身近に大丈夫だった例があるって分かってからは大分落ち着いたみたいだけどね」
「そうなんですか」
まあ、実際に受け入れてくれて……しかも恋人にまでなった人がいるというのは、何よりも大きいでしょうね。
「そういえばすずかが達也のことを気にしだしたのもその時期よね」
「え、そうだったの?」
「アリサは達也に結構視線やってたしね。それに、すずかも気づかれないよう注意してたみたいだったし」
すずかちゃんが僕を気にしだしたのは知ってましたが……アリサちゃんに気付かれないようにしてたんですね。アディリナちゃんはアリサちゃんに追いかけられていますが……この状況で話したら、そうなるのは当然でしょう。
「多分、話しても大丈夫だと思った異性が達也君だけだったんじゃない?」
「お姉ちゃん!!!」
どうやらすずかちゃんが話している内容に気付いたようで、大きな音を立てドアを開け放ちます。
「別にこれくらいなら達也君も気付いてたでしょ?」
すずかちゃんから逃げながらそういう忍さんですが、本人を前にして言うことではないと思いますよ?
「そういえば達也君、『辛いこと』があったら、すずかのそばにいてくれるのよね?」
帰り際に、そう忍さんに言われましたが、何かあるんですかね? あるんだろうなぁ……にやにやとしか形容できない表情で笑ってるし。
何とか日付が変わる前に更新。
本来ならもっと後に入る予定だったイベントですが、久遠があんなことをした以上、ここに入れるしかなくなりました。
アンケートに着きましても、予想以上の方に答えていただきました。まだ続いておりますので、ご意見のある方は是非お願いします。