018 アルバイト中にも色々あるみたいです
那美さんと久遠との出会いがあったり、すずかちゃんの秘密を知ったりと、密度の高かった1学期も終了しました。
すずかちゃんは、あれから完全に元に戻りましが、唯一点違うは、月に一度、僕たちの誰かが血を渡しているくらいです。もちろん、小学生と言うことで渡している血の量はごくごく微量です。増血剤等もあるみたいですが、未成年に使うのはちょっとまずいかも、と言うことみたいです。
それから、別にどうこう言うつもりはありませんが、去年も密度が高かったから、来年こそは平穏に過ごせるといいなぁ、と思っています。思っているだけで、半分以上諦めているんですけどね……。
すずかちゃんの秘密を教えてもらった後に、例の如く原作改変ノート(仮)をチェックしてみたのですが、ある程度予想通りの動きをしていました。増えた数字としては、なのはちゃんが約100,000、すずかちゃんが約50,000、アリサちゃんが約30,000となっていました。また、忍さんも5,000ほど動いていました。明らかに今回の件では最重要人物であったすずかちゃんよりも、なのはちゃんのほうが大きかったことから、なのはちゃんが物語の中心にいるという仮説がこれで強化された形となります。また、同じ一族ということで、忍さんも大きく動くと考えていたのですが、予想以上に小さなもので終わっています。もちろん、将来すずかちゃんと対立する為に、今回の件が大きく影響しない、という可能性もありますが、やはりメインがなのはちゃんであるため、「忍さん」という人物が、物語中においては大きな役割を持っていないと考えた方が自然でしょう。
これまでは、一般常識から外れているような人物や現象は精神年齢の高さだけでしたが、ここに来て立て続けに2つ遭遇しました。アディリナちゃんと何度も話してきたのですが、この世界は割と平和な——純文学や恋愛小説のような、生命の危機に、僕たちの考える日常以上の確率で陥る可能性の低い世界だと予想していたのですが、先の2件を経験してしまっては、何が起きてもおかしく無いのではないのか、と思えます。
有効な対策を打てないのは残念ですが、それは当初から分かっていたことです。僕たちにできることはただ一つ、祈ることだけです。……まあこの状況に叩き込んだのが神様な以上、何に祈るのかが最大の問題なわけですが。
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夏休みの宿題は例の如く初日にほぼ全て片付けて、夏休みを満喫しています。が、今日一日は翠屋でアルバイト……という名のお手伝いです。春休みの時も手伝ったので、夏休みもやってもらえないかしら、という桃子さんの申し出でしたが、今回は僕からお願いしたいくらいだったので、正に渡りに船と言う感じでした。
何故か、と言うと僕が現在相手をしている人にあります。
「達也君はえらいよねー」
那美さんとデザートを食べています。仕事中なのにいいのだろうか、とも思いますが、誘ったのは那美さんです。大丈夫なのだろうか、と確認を取るために振り返ったら、桃子さんは行ってらっしゃい、とイイ笑顔でおっしゃってくれました。その際、一緒に仕事をしていた美由希さんの視線が若干……いえ、かなり怖かったので、逃げる為にも桃子さんの言葉に甘えることにしました。
「えらいも何も、普通に仕事を手伝ってるだけですよ?」
体が小さいこともあって、どこまで役に立っているかは疑問ですし。
「でも、自分の家でもないのに手伝うのは凄いと思うよ?」
「自分の家じゃないからこそお金はもらってるよ?」
まあちょっとだけなんですけどね。……ってなにやら那美さんは驚いているみたいですが、何に驚いてるんです?
「達也君、お金もらってたんだ」
あ、そこなんですね。
「うん。だって、那美さんに渡したそのかんざしのお金返さないといけないし」
日給200円ですけどね。
渡したのは高価というわけではないけれども、つくりがしっかりとしていて、狐の装飾がしてあったので、那美さんにぴったりだと思ってこれを贈りました。
「これ、お金借りてたんだ……。何もそこまでしなくても良かったのに」
「母さんから夏休みに返すって言って借りたんだ。ものは違うけど、なのはちゃんたちにも渡してあるし、それに那美さんからはこれもらったから、気にしないで」
そう言って那美さんからもらったお守りを示します。市販のものでは無いらしく、那美さんと薫さんによる珠玉の一品だとか。これをもっていれば、霊能の成長が止まるだけでなく、それなりの強度の呪いに対する防御にもなるみたいです。作るのは結構大変みたいで、1週間ほどかかったそうで、その作業の大半を那美さんがやってくれたみたいです。薫さんが楽しそうに教えてくれました。
「んー……でもいいのかな? 小学生だと大変じゃない?」
「別に、母さんにお金借りてなくても翠屋は手伝うことになったと思うから本当に気にしないでください」
なのはちゃんのヘアピン代もここで稼ぐことになりますしね。
「うーん……何か納得できないけど納得しておくね」
「なら、また何かあったときには助けてくださいね」
そこまで言うと、ようやく引き下がってくれました。
「それじゃあお店もそろそろ混んできたし、私はそろそろ出るね。……あ、そうだ達也君、夏休みの間ってまだお手伝い続けるの?」
「うん。毎日じゃないけどそれなりの頻度で翠屋には来ると思うよ。桃子さんに聞けば、いつ来るのかは分かると思います」
一応どこに入れられているのかは知らされていますが、今はさすがに覚えていないです。
「そっか、じゃあまた来るね」
那美さんが帰った後は昼食のピークがやってきて、それまで可能な限り仕事を割り振られないようにされていた僕にも仕事がまわされるようになりました。料理を運んだり、と行った事は基本的に他の店員さんがやって、僕には回ってきませんが、テーブルの片付けやお客さんの案内はそれなりの量を任されました。
「こんにちはー。達也君いますかー?」
そのピークがおわって、ようやく一息つける、というあたりですずかちゃんと忍さんがやってきました。
「あら、忍ちゃんいらっしゃい。達也君なら丁度これから休憩入ってもらうところよ」
あ、僕休憩なんですね。ある程度の人達は事前に食事をとっていたから、その人達だけでまわせそうだし、大丈夫かな?
「じゃあ一緒のテーブルに居てもらってもいいですか?」
「もちろんよ」
「だって。……すずか、よかったわね」
僕が何かを言う前に決まってしまいました。まあ、すずかちゃんと一緒なのは正直ありがたいですけどね。店員さんたちとの仲が悪いわけではないのですが、一番若くても高校生なので、同年代の、っそれも親しい人と一緒なのは嬉しいです。
「それじゃあ達也君、達也君の分はすずかちゃんたちのテーブルに持ってくるから、待っててね」
「この時間ってことは、すずかちゃんも食事?」
席にいて注文はしましたが、来るのに時間がかかるので、僕の分もそれに合わせて持ってきてもらうよう頼み、現在は雑談中です。
「うん」
「ちょっと昼食には遅いけど、何かあったの?」
すずかちゃんたちと食事をとったことは何度もありますが、ここまで遅い時間になったことは数えるほどしかなかったと思います。
「翠屋が1時過ぎるくらいまでは忙しいのは恭也から聞いてたからね」
あ、忍さんの助言だったんですね。
「でもそこまでするくらいなら、無理に翠屋でとらなくてもいいのに……」
「そうなんだけど……達也君が働いているときに来てみたかったから」
あー、なるほど。確かにそれが目的なら、この時間に来るのは悪くないですよね。
「そうすると、僕が一緒に食事するのまずかった?」
僕が働いている姿が見られるわけじゃないですしね。
「ううん、いいの。確かに働いてる姿も気になるけど、こうやって一緒にご飯食べられる方が嬉しいし」
なら、いいのかな。まあ、これ以降はお客さんも、しばらくはたくさん来ないだろうから、多少居座ってても問題ないですしね。
「そっか。……そういえば、なのはちゃんたちが誰も居ないのははじめてだよね?」
すずかちゃんと出会ってからは、5人で行動するのが基本になっていましたしね。誰かが居ない、というのはそれなりにありましたが、すずかちゃんだけというのははじめてです。
「あ、そういえば……」
すずかちゃんも今気付いたみたいです。
「ふーん……。ね、忍さんはお邪魔かな?」
「お、お姉ちゃん!?」
忍さんがからかうように言ったことで、すずかちゃんが慌てています。
「半分は冗談だけど、もう半分は本気だよ? 2人の間でしか話せないこと、とかもあると思うし」
真剣な面持ちになって、忍さんが言いました。誰にも知られないように、ということなら電話でもできますが、やっぱり直接会ってじゃないと話しづらいこともありますしね。
「……ううん、いいよ。それは自分で頼んで作ってもらうから」
「そう、ならいいわ」
まあ、本人たちが納得したのならそれでいいですが……。僕が目の前に居るのは分かってますよね?
「まあ、僕に話があるのなら、言ってくれれば時間は作るよ」
さすがに、夜の一族についての告白ほど重いものはもう無いでしょう。
「あら、達也。すずかも来てたの?」
しばらく僕の様子を見ていたり恭也さんと話したりしていたすずかちゃんたちが帰ってすぐにアディリナちゃんとアリサちゃんがやってきました。
「さっき丁度帰ったけど、もしかしてすれ違った?」
確認を取ると、2人は頷きました。それにしても、今日はよくよく知り合いが来る日ですね。
「そっか。とりあえず……席はこちらになります。ご注文が決まりましたらお呼びください」
真面目に接客をしていたら、2人が何故か頷いています。……なんですか?
「おもったより様になっているなぁ、と思ってね」
「そうね。……でも達也が子供のお手伝いみたいにやってる姿は想像できないわ」
アディリナちゃんもアリサちゃんも好き勝手言っています。
「まあ、変なことしたら、桃子さんに迷惑かかるしね」
「子供だからよっぽどのことでもなきゃ見逃してもらえるとは思うけど……」
アリサちゃん、それは確かにそうですが。
「じゃあアリサちゃんならそういうことする?」
「……しないわね」
「でしょ?」
いくら空いているとは言っても、これ以上雑談を続けるのはまずいでしょう。そう思って注文を受けて戻っていくと、桃子さんに呼ばれました。
「どうかしたんですか?」
「どうかしたってわけじゃないんだけど、アリサちゃんの相手してもらっていい?」
え? いや僕は構わないんですが、働いている身としてはそれでいいのでしょうか?
「あ、時間のこととかは気にしなくていいの。達也君は頑張ってくれてるし……本当なら、もっとお金あげないといけないんだけど」
小学生で大金持ってもしょうがないですし、これ以上はいりませんって前に言いましたよね?
「達也君が受け取らないでしょう? だから、こういうときくらい自由にしてくれていいのよ」
桃子さんは僕を見ながら苦笑していますが……せっかくの好意ですし、甘えましょうか。
「じゃあありがたく2人の所に行かせてもらいます。でも、急にどうしたんです?」
今までは、相手から誘われたので、いってらっしゃい、という形でしたが、こうやって桃子さんから薦められるのははじめてです。
「んー……那美さんもすずかちゃんも相手してもらったでしょ? アリサちゃんだけ放置って言うのは可哀相だなって」
「まあ、分からなくはないですが……」
那美さんの名前が挙がっているのに、忍さんの名前が無いのは、「僕に好意を持っている人」を挙げたからだと思います。分かっては居ますが、自分がどうすればいいのか分からないのが問題です。
「ま、達也君がしっかりしてるって言ってもまだまだ幼いんだし、焦らなくていいと思うよ?」
困った表情をしていたのか、桃子さんが諭すように言いました。
「それで、いいのかな?」
「いいのよ。那美さんもアリサちゃんもすずかちゃんもそのことは分かってると思うから、今は何も言わないんだと思うし」
優しく言う桃子さんに、こくりと頷きます。
「まあそのときには、なのはのこともよろしくね」
最後に笑いながら言いましたが、それはなのはちゃんが決めることだと思いますよ? 僕がそう言っても、桃子さんは意味深に笑っているだけでした。
「あら達也、どうかしたの?」
注文したケーキを待っているアディリナちゃんたちのところに行くと、当然の事ながら疑問に思われました。
「ん、桃子さんに行ってきたら、って言われて。まあ那美さんやすずかちゃんともこうやって駄弁ってたしね」
那美さんの名前を出したところで、アリサちゃんがぴくり、と反応しました。
「それでアリサとも、って?」
アリサちゃんの様子を見て苦笑しているアディリナちゃんに頷きます。
「ま、桃子さんには感謝よね。そのおかげで達也とこうやって話せるんだし」
「……そうね。那美さんがどうだろうと私たちには関係ないし」
やけに那美さんを気にしていますが、どうかしたんでしょうか?
「那美さんは気にしてもしょうがないでしょ。それに、焦ってるのは那美さんの方だろうし」
「どういうことよ?」
「まず年齢差が大きいでしょ。それに、達也の中じゃ多分私たちのほうが上にいると思うし」
なにやら僕をおいて話が進んでいますが……。やっぱり付き合いの長さなどを考えると、アリサちゃんたちの方が上にいるのかもしれません。
「それに、達也が理解できるまでまだかかりそうだしね。気長に待ちましょう」
アリサちゃんたちの気持ちに、何となく気付いていることは向こうも分かっているのでしょう。明確な言葉にこそしませんが、こういう話を僕がいるところでする回数が増えています。
お手伝いが終わった後は、高町家で夕食をご馳走になりました。なのはちゃんは久遠と遊んでいたみたいですが、那美さんや、すずかちゃん、アディリナちゃん、アリサちゃんが翠屋にやって来たことを知ると、「私も一緒に手伝えばよかった」と嘆いていました。アリサちゃんやすずかちゃん、那美さんを相手にしていたときと違い、必要以上に気を遣わなくていいのは楽でした。……嬉しくないわけじゃないんですけど、ね。どう接していいか分からない部分があるのが一番の問題です。
更新しました。
実験的な要素が半分と、無印開始を急ぎたいのが半分でかなり駆け足になってしまいました。理解しにくかったら申し訳ないです。
また、アンケートへのご協力ありがとうございました。
更新時点ではまだ少し時間が残っていますが、
○他者視点あり
○ノートは基本的に本編中で解明していく
になると思います。
次回からようやく原作突入予定。このためだけに無理をしました。