チラッと話に出ていた神様のお話。
ひどいネタバレなどはありませんが、本編と空気が違います。
それでもいい、という方のみどうぞ。
019 また別の世界にて(閑話)
時は達也達転生者が生まれる前にまで遡る。
これは、ヒトが生活する世界とは別の、遥か高次元に存在する世界における一幕である——。
「それにしても、今回勝利確定っていう奴がいないのは、賭けをするうえでありがたいよな。まあ敗北が決まったやつはいるが」
数人の姿——数人、といっても、彼らはヒトではなく一般に『神』と呼ばれるにふさわしい存在ではあるが——がある一室の中である男が言い放った。
「それは肯定します。……それでベル、あなたは誰が勝つと予想しているのですか?」
答えたのは紫の髪をした、眼も眩むばかりの美貌をした女神であった。
「そうだな……ティアたんとこの女の子かな? 元々世界との相性も悪くないし、希望した能力も悪くないだろ」
「ティアたんとは呼ばないでと何回も言ったはずですが。……まあ、確かに彼女は久しぶりに引いた当たりですね。ただ、私としてはエク様が連れてこられた男が気になるのですが」
ティア、と呼ばれた女神は、自身のところの者よりも他者の者が気になるらしい。
「相変わらずティアは知識無しに期待を寄せてるねぇ。あれ、そう言えば彼って何貰ったんだっけ?」
今度は別の男神が答える。こちらもまるで彫刻のように整った容姿をした偉丈夫である。と、いうよりこの部屋にいるものは方向の違いこそあれ、唯人が見れば卒倒しかねない美貌の持ち主である。
「なんだったっけ……。ティアたん覚えてる?」
「だからティアたんとは呼ばないでと言っているでしょう。その年でボケが始まったのですか? ……彼に与えたのは【サムサラの書】ですよ」
なんでもない、というようにティアが言うがそれに対する反応は劇的なものであった。
「ちょwwwテラチートwwwww」
「ありえん(笑)」
「いやいやいやいや、さすがに調整加えてるよね?」
全員が全員それはないでしょう、という反応だった。それにしてもこの反応、彼らのこの試みに対する姿勢がよく分かるものである。
「? 特に禁止事項に触れるわけでもなかったので、デフォルトのままですよ。面倒だったし」
【サムサラの書】についての詳細は分からないが、ティアがかなりの面倒くさがりだということは確実なようだ。
「ちょ、デフォルトのままとか勝利確定なんですけどwww。……まあ、設定変更が面倒というのはわかるけどさ、あれの調節は相当にめんどくさいし」
訂正。どうやら、面倒くさがりなのはこの部屋にいる全員に当てはまっているようだ。残りの面々も頷いていることだし。
「いえ、使い方の説明もなしに渡しているので、ロクに使いこなせないと思いますよ」
勝利が決まっている、ということをきっぱりと否定するティア。それを聞いた者たちは少し考え込んでいるようだ。
「ふむ……確かに説明なしでもたされた場合は、機能の大半が眠ったままだろうし、問題はない、のか? もし分かったらその時点で決まりそうなものだけど」
「そうですね、とりあえず問題はないでしょう。どの道、知識無しは元々が穴に近いので、こういう爆発要素があった方が面白いかもしれませんね」
もっともだ、とばかりに頷いている神たち。
「後は何があったっけ……。あー、そう言えば俺の担当が希望した、やたら人気のあれって誰が調整入れたんだっけ?」
「それは僕ですね。元のネタが僕の担当と同じみたいなので、一緒にやっておきました。と言ってもやたら近いものがあったので、ほぼ調整なしで発動可能にできたので、楽なものでしたよ」
答えるのは、眼鏡をかけたインテリ風の神だった。
「そうなん? そのまま突っ込めるのなら確かに楽だけど、あんまり適当すぎるとエクに怒られるで?」
どこか不安そうに言う男神。その言葉に対して、特典のために何らかの介入を行った神たちが少しだけ不安そうになる。
「ふ……問題はありませんよ。基本動力が同じ魔力、似たようなランク分け、そして困った時のレアスキル、と問題になる要素はどこにもありません」
どうだ、とばかりに胸を張る男におおー、という感嘆の声が周囲から漏れる。
「私としてはそれよりもアレイシアやトライアの方が気になりますね」
「確かに、あの二人の能力は難しそうですね」
ティアも頷いている。基本的に、特典として与えた能力を転生先で使えるように調整するのはその人物の担当が行う。同じ世界を元にした能力を希望する者が複数いた場合は、どちらか片方が行えばよいため、相談して決めているが。
「あー……私の方は正直あまりにヤバそうだったから、使用にある程度制限掛けさせてもらったわよ? そのまま付けたらオー爺のとこの子みたいになりかねなかったし」
無理に付けると、世界設定ごと塗り替えなくてはならないために、致命的なペナルティを科せられる可能性があった、ということだ。もちろん、かなり慎重にやればできなくはなかったのだろうが、それでも確実に、と言えない以上、安全と自身の手間を考えてアレイシアは制限を加えていた。
「んー、俺の方は別のところからっていっても、そんなにひどく外れてるわけじゃないしなぁ。精々解釈が曖昧だった部分を適当に決めただけだし」
二人の言葉に皆うなずいていたが、ふと思い出したように誰かが言った。
「オー爺ももう少し優しくしてやればいいのに」
「ふぉふぉふぉ。儂は奴らの願いを最大限叶えるようにしとるじゃけじゃよ。もちろん聞かれれば正直に答えるがの。ただただ教えてもらえると思っておる奴には教えてやらんわい」
「オー爺、知ることに対しては厳しい」
好々爺、といった印象を受けるが、その視線は厳しい。過去に、自身の身を削ってでも知識を求めたことのある身としては、せめて「知る」ということに対するそれなりの態度を示してほしかったのだろう。
「お前ら……わしが苦労しているというのにいい身分じゃな」
雑談を続けていたところ、突如として扉が開いた。何事かと思って全員でそちらに目を向けると、氷のような視線を携えた男神が立っていた。外見はかなりの高齢に見えるが、オー爺から受ける印象が村の長老といったものなのに対して、こちらは鍛え抜かれた老戦士といったものだった。
「あ、エク様。どうされたんですか?」
あまりにも疲れた様子を見せている男神——エクに、ティアが問いかける。
「ティアか……。いや、あまりにも未調整のまま複数の能力が突っ込まれておっての。誰が気付くのかと思って見ておったら……」
ギロリ、とそこにいた神を睨みつける。
「ウォフ、クラウの分まで設定したのはお前だったな?」
「あー、えーっと、そうです」
ウォフ、と呼ばれた唯一眼鏡をかけた神が、まさか呼ばれるとは思っていなかったのか、言い淀みながらも返事をする。
「後先考えずに突っ込むものだから、もう少しで物理法則ごと塗り替えることになっておったの」
「本当ですか? いやー、すいません」
怒られているのに、全く反省した様子が見られない。その口調はどこまでも軽く、すいませんという言葉も口先だけのものだと誰もが確信できた。
「全く……はそう難しい事ではなかったからよかったが、もう少し注意しておくんじゃぞ? 今回は確認さえしっかりしておけば起きない類のものじゃぞ?」
全員返事をするが、やはりその返事は軽く、エクは力なく首を横に振る。
「これに参加すれば少しは楽ができる、というから参加したが、普段とやっていることに大差ないの……。あいつも大概面倒なやつじゃったし……」
ぐったりと項垂れるエクであったが、知らないうちに決められていた自身の担当の特典を聞いて、また一悶着があるのは全くの余談である。
・主人公の担当は苦労人
・神様たちは適当
以上二つを言いたいだけのお話でした。
神様の名前は結構適当です。指して重要でもありませんが(予定)。