020 不思議な動物さんなの
不思議な狐さんのくーちゃんやその飼い主(?) さんの那美さんに出会った2年生も終わり、私たちは3年生になりました。今年はクラス替えがあったのですが、残念ながら達也君とアディリナちゃんとは同じクラスになれませんでした。
3年生になって少したち、今日もこれから学校に行くため、バスに乗り込みます。
「なのはちゃん」
今声をかけてきたのはが月村すずかちゃん。長い黒髪が綺麗な、1年生のときからのなのはの友達です。夜の一族っていう、血を吸っていろいろなことが出来る、吸血鬼みたいな一族の血を引いているみたいです。このことを気にしていたみたいで、たまたま私たちが知ってしまったときはとても取り乱していました。私たちにそのことを話してくれた後もどこか不安そうでしたが、達也君の「ちょっと特別な体質みたいなものでしょ?」という言葉でようやく吹っ切れたみたいです。
「なのはー、こっちこっち」
すずかちゃんの隣で手を振っているのがアリサ・バニングスちゃん。アリサちゃんも、すずかちゃんと同じで1年生からの友達です。透き通るような金色の髪をしていて、さっき名前だけ出てきたアディリナちゃんのお姉ちゃんです。2人とも特に姉や妹ということについては気にしていないみたいで、お互いに「アディー」、「アリサ」と呼び合っています。
私は、今年からこの2人と同じ塾に通っています。でも、アリサちゃんは塾に通う必要があるの? というくらいに頭がいいです。すずかちゃんも勉強はもちろん、夜の一族ということもあって、クラスでも1,2を争うくらい運動神経がいいです。私も勉強は出来ないわけではないのですがアリサちゃんはもちろん、すずかちゃんや他の2人にも勝てる気がしないので、今年から通うことを決めました。
「おはよう、なのは」
こちらはアディリナ・バニングスちゃん。アディリナちゃんは、今年も私たちとは別のクラスなのですが、双子というわけでもないのに、アリサちゃんにとてもよく似ています。勉強はアリサちゃん以上にできるみたいですが、宿題とかをギリギリまでやったりしないで先生によく怒られているみたいです。アリサちゃんやすずかちゃんも十分に大人っぽいのですが、アディリナちゃんはそれ以上にしっかりしているみたいで、何か危ないことをやろうとしていると、すぐに止めに入る、私たちみんなのお姉ちゃんみたいに感じるときがあります。
この3人にもう一人加えた4人が、私が普段一緒にいるメンバーです。
時は変わってお昼休み。現在みんなでお昼ご飯を食べています。
「将来かぁ……。みんなある程度決まってるの?」
今嘆くように言ったのが、1人残った最後の友達、清水達也君です。達也君だけは、小学校に入る前からのお友達です。私が本当に辛いときに側にいてくれて……それだけじゃなく、問題の解決までしてくれた、私の恩人です。わずかに青みがかった黒髪と同じ色の目をしている男の子です。「別に容姿は悪いわけじゃないけど、めちゃくちゃ格好いい、ってわけでもないわよね」というのがアリサちゃんの意見でした。
お母さんやお父さんとも仲がいいみたいで、長い休みの時には、お母さんとお父さんが経営する喫茶翠屋のお手伝いをしています。本人は「外堀が着々と埋められているだけ」と言っていましたが……どういうことでしょうか? お母さんに聞いてみても、意味深に笑うだけで答えてくれませんでした。
「……まあ、それはあんたの最大の問題よね」
それから、なのはにはまだよく分かりませんが、女の子に人気があるみたいで……アリサちゃんもすずかちゃんも達也君のことが好きみたいです。
「私は、お父さんもお母さんも会社経営だから、ちゃんと勉強して力になりたいなぁくらいだけど」
「私は機械系が好きだから、工学系で専門職がいいな、と思ってるけど……でも、もし私の希望通りに行ったら、専業主婦でもいいかな」
最後のほうは小さな声でしたが、みんなに聞こえたみたいで達也君に視線が集中しています。最近は、こうやってすずかちゃんがアタックすることが多いのですが、達也君はその度に困った顔をしています。
「何回もごめんね。でも、急がなくてもいいの。達也君がしっかりと分かって、それから結論を出してくれればいいから」
まだまだ早いみたいだね、とアリサちゃんと2人で苦笑しています。
「なのはは翠屋の2代目?」
「そう、かな。もう少し何かあるかも、とは思うけど、お母さんとお父さん見てるとやりがいのあるお仕事だなって感じるし」
「……何でもいいけど、小学3年生とは思えない会話よね」
あ、アディリナちゃんが呆れています。そんなにおかしいかな? 確かにみんな大人っぽいけど、将来の夢くらいみんな持ってると思うのですが……。
「確かに、普通の小学生がそこまで考えたりはしてないわよね ……でも、アディーには言われたくないと思うわ」
それは、なのはも思います。この中で一番大人っぽいし。
「わかってるわ、自覚はあるしね。でも、アリサが会社継ぐんだったら、私は何しようかなぁ……」
「アディリナちゃんも決まってないんだ」
少しだけ嬉しそうに言った達也君ですが、アディリナちゃんにジト目で見られています。
「君と一緒にしないでちょうだい。アリサの手伝いでもしようかなぁとは思ってるんだから」
「……アディーが私の下につくっていうのは何か想像もつかないんだけど」
アディリナちゃんの言葉にアリサちゃんが何とも形容しがたい目をしながら言いました。アリサちゃんはアディリナちゃんに苦手意識……というほどではありませんが、勝てなくてもしょうがないと思っているところがあるみたいです。でも、私は想像できないほどでもないと思います。
「うーん……。なんて言ったらいいのかしら? 基本的な能力なら、今はアリサとそう差は無いと思うけど、リーダーシップをとるのには向いていないから、トップはアリサのほうが向いてると思うのよ」
言われてみれば、アディリナちゃんはどこか一歩引いて物事を見ていることが多く、真っ先に決断するのはアリサちゃんの方が多かったです。アリサちゃんが示した道を、アディリナちゃんが作っていくというのは、確かにぴったりかもしれないな、と思いました。
こうしてお昼の時間は過ぎていったのですが、達也君が将来をどう考えているのか、というのは全く分かりませんでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
学校も終わり、今日は塾があるので、アリサちゃん・すずかちゃんと一緒に塾へと向かっています。近道がある、とアリサちゃんが言うので、公園の中を抜けているのですが……はじめて通るのにどこかで、この道を見たことが歩きがします。何故かそれがとても気になったので、周りを見ながら進んでいたのですが、途中で気付きました。ここ、昨日夢で見た場所……?
「どうしたの?」
「なのは?」
不意に立ち止まった私を心配して、2人が声をかけてくれました。
「あ、ううん、なんでもない。ごめんごめん」
別に夢で見た、ただそれだけの場所なので、なんともないはずなんだけど……そう思っても、同い年くらいの男の子がお化けみたいな何かと戦っているみたいだったからなのか……どうしても不安がぬぐえませんでした。
(助けて)
大丈夫だよね? そう言い聞かせながら歩いていると、助けを呼ぶ声が聞こえた気がしました。
「なのは?」
「今、何か聞こえなかった? 何か、声みたいな……」
立ち止まった理由を説明しますが、2人には聞こえなかったみたいです。周りを見てみますが、人影も何もありません。……気のせいだったのかな? そう、思ったときでした。
(助けて!!)
今度はさっきよりも強く声が響きました。やっぱり、空耳じゃなかったんだ。
「なのは!?」
「なのはちゃん!?」
思わず駆け出した私に2人が驚いていますが、かなり切羽詰った声に感じたので、2人には悪いけど、説明は後にさせてもらいました。
走り出してすぐ、道の真ん中に赤い宝石を着けた……イタチ? ううん、フェレット、かな? がいました。誰かのペットだろうけど、飼い主さんも側にいないみたいだし……そう思ってそっと抱き上げてみても、何の反応もしませんでした。かなり、弱っているみたいです。
「どうしたのよなのは、急に走り出して」
「あ……見て、動物? 怪我してるみたい」
「う、うん……どうしよう」
怪我した動物がいるなんて思ってもいなかったので、2人に聞いてみましたが、2人も混乱していたのか、少しの間あたふたと適切な対応が取れませんでした。最終的には、すずかちゃんが家に電話して獣医さんの場所を確認して、そこに連れて行くことになりました。
私たちは塾があるのでどうしようか、という話になりましたが、私が達也君に、アリサちゃんがアディリナちゃんに電話してみたところ、2人が獣医さんまで連れて行ってくれる、との事でした。鮫島さんの車で2人がやってくるのを待ってから、私たちは塾に向かいました。
達也君とアディリナちゃんのおかげで塾には間に合いましが、もし私達が病院に連れて行ったら、かなりギリギリになっていたと思うので、2人には感謝感謝、です。……塾の間も、フェレットさんのことが気になって集中できずに、アリサちゃんのフォローで何とかなったことは反省しなきゃいけませんが。
塾が終わった後に、携帯電話を確認してみると、達也君からメールが届いていました。どうやら、怪我はそんなに深くないみたいですが、衰弱しているから一晩は病院の方で様子を見てもらえるそうです。一度目覚めたみたいなので多分大丈夫だと思う、という一文を見たときは、アリサちゃんやすずかちゃんとほっと息を吐きました。とりあえず、飼い主さんが見つかるまでの間は、達也君の家で預かるそうなので、明日みんなで迎えに行くことになりました。
大丈夫だった、ということは聞きましたが、もっと詳しいことが知りたかったので、家に帰ってから達也君と電話でおしゃべりをしていました。そして、フェレットさんを診てくれた獣医さんも大丈夫だと思うって言っていた話を聞いたときでした。何かの力が、自分に向けて放たれているような、そんな感覚を覚えました。
「……あれ?」
達也君も何かを感じたようで、電話から声が聞こえました。
「ごめん、達也君。また明日!」
急になってしまうのは申し訳ないな、とも思いましたが、この感覚を逃したらいけない。そう感じたので、急いで電話を切って集中しました。
(……聞こえますか? 僕の声が、聞こえますか?)
……昨日の夢と、夕方の声と同じ声!
(聞いてください)
普通だったら、無視していたのかもしれませんが、今までに2回不思議なことを目にしてきて慣れていたのと、何よりも、その声が真剣味を帯びていたので疑問はおいておいてまずは集中することにしました。
(僕の声が聞こえる貴方。お願いです、僕に少しだけ力を貸してください)
あの子が喋ってるの……?
(お願い、僕のところへ! 時間が、危険がもう……)
そこからはもう何も聞こえませんでした。でも勘違いだ、と言うにはあまりにも切羽詰った声だったし……。間違いだったら、私が怒られるだけだよね。えっと、確かすずかちゃんに聞いた病院の場所は……。
病院の位置を思い出しながら着替えたあと、そっと家を出て、病院まで走っていきます。この後、とても大きな事件に巻き込まれ……必死に戦うことになるということを、私はまだ知りませんでした。
更新しました。
いよいよ原作突入。しばらくなのは視点で進行予定です。理由は、達也の視点に戻ったときに納得してもらえると思います。
【アンケート結果報告】
視点変更は、反対意見がなかったので、問題にならないよう気をつけながら使いたいと思います。
原作改変ノート(仮)については、基本的に作中で明らかにしていくことになりました。ただ、神様の話がみたい、という意見もありましたので、どこかで挿入する予定です。そこでは、ノートについては精々意味深なことを言う程度なので、知りたくない、という方も安心して読んでいただけると思います。